序章 : [大きな穴をまっさかさま]


-はじまりはじまり-

空色の風が駆け抜ける大草原。
そのまんまんなかに、2人の姉妹が気持ちよさそうに寝ていました。

背丈の小さな子、、、アリスの蒼いひとみがうっすら開くと、鼻先にまっしろい羽のチョウチョがとまっていました。
まるで息をするように白い羽が閉じたりひらいたり。
チョウチョの針金のような足が鼻先をつっつくので、かゆくてかゆくて、たまりません。
でも、こんなに近くでチョウチョを見られることは、この先ずっとないと思ったアリスは一生懸命にそれをガマンします。

小さな宝石を集めたようなキラキラしたお目目、クルクルとうずを巻く口のストロー。
お空の光とリンプンで光かがやく大きな羽。
しかし我慢しようと思うほどにムズムズが大きくなって、、、

「くしゅんっ」

できるだけ静かにしたのですが、白い羽はお空にかがやく太陽にむかって飛んでいってしまいました。

「あ〜あ、せっかくがまんしたのに。。。けど、チョウチョさんってあれだけキレイな羽なのに、近くで見ると顔はすごい怖いのね!」

新しい発見に興奮するアリスは、横になっていた草のじゅうたんから体を起こします。

「あら、おねえさままで寝ちゃったのね」

アリスのおねえさんも、このあたたかいお日様と気持ちの良い風に誘われて、草のベッドで横になっていました。

「とっても気持ちよさそうなお顔だわ」

ガサガサ、トテトテトテ。

その時、背の高い草の陰から、一匹の真っ白いウサギが懐中時計を持ちながら「いそがないと、いそがないと!」と呟きながら横切ってゆくのが見えました。

好奇心でいっぱいの アリスは、さっそくスカートの端を持ち上げると、急いでウサギをおいかけました。
動物が喋ったことや、2本の足で走っていたのが不思議だと思ったのは後のこと。
今はただ、ウサギの真っ赤な目がアリスを見つめたような気がして、あとに続いたのでした。

不思議なことに、白いウサギはいくら追いかけても追いつくことはありませんでしたが、アリスはがんばって追いかけたので、見うしなうこともありませんでした。
そして一本の木の根元に入っていくのを見て、アリスもその根っこトンネルに転がるように飛び込みました。

「きゃっ」

ゴロゴロゴロゴロ

どんどん転がり落ちるアリスですが、怖い気持ちはありませんでした。
そのぶん、白ウサギに近付くと思ったからです。
トンネルはだんだん急になって、広がり、やがてどこまでも続く巨大な井戸の中をアリスはまっさかさま。。。