「江沢、真治・・・です」
でもちゃんと自己紹介出来たのは、それから数分も経ってからだった。
「真治君ね。いつも頑張ってるから気になっていたのよ」
田辺紀子と名乗ってくれたその人は、同じ県内の私立中学の教師だったんだ。
僕はクラスメイトの目が気になって自宅から離れたこのプールに
電車で通っていたから知らなかったけれど、
きっとここの学区内では誰もが知ってる美人の先生なんだと思う。

「ううん、違うの。担当は体育じゃないわ。
 水泳は学生の頃はやってたけど、今は趣味と言うよりエクササイズ代わりね」
僕は相槌は打てたけど先生の眼を見てちゃんと返事出来なかった。
だからかな? 先生は僕の練習を邪魔してると思ったみたいで。
「ごめんね、色々聞いちゃって。練習、どうぞ続けてちょうだい」
せっかくの機会が切り上げられそうになって僕は慌てた。
「いえ、あのっ。本当はっ・・・練習はっ・・・」
「先生の泳ぎ、見て学んでいたのね?」

怒られると思った。
実は何度もターンして遠ざかっていく先生の後姿を
水中からゴーグル越しに盗み見ていたんだ。
最初は純粋な気持ちだったんだよ。
あんなに上手く泳げたら・・・と思って見続けているうちに、
やっぱりその、男として見入ってしまってた。
プールサイドで競泳用水着からこぼれ落ちそうな胸や太腿に
視線を送るスケベな男たちと同様に、
僕もすぐに彼女を成熟した魅力的な女性として見ていたんだ。

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