「あ、惜しい・・・・」

隣で先生が応援してくれる。
でも、また的の上に外れてしまった。
かれこれ30分。
僕の前にはコルク弾を入れていた小皿がうず高く積まれていた。

「深呼吸をして。脇を締めて・・・そうよ」
僕の不甲斐なさに痺れを切らしたのか、
紀子先生が間近に顔を寄せて銃の照準を覗き込む。
「弾道の跳ね上がりを計算すると、これくらいかしら」
石鹸のいい香りが漂ってきてドキドキして銃がぶれてしまう。
「大丈夫。自信を持って」
深呼吸をして狙いを定める。
ここまで応援されて外すなんて出来ないよ!
集中して引き金を引く・・・・。
「あっ・・・!」
先生のちいさな悲鳴が上がる。
コルク弾がかすった的の箱はその場で一回転すると、
無情にも元の位置に戻ってしまったんだ。

「残念だったな」
店の人に慰めてもらうけれど僕は脱力する。
デートだと意気込んだ結果がこれだなんて・・・。
ポケットに手を突っ込むけれど、もう財布には帰りの電車賃くらいしか残っていない。
それでも僕は掴んだ財布を棚の上に叩きつける。
すると、店の人は奥から別の空気銃を取り出し。
「フフ、いい目をしてるな・・・これを使ってみな」
と、僕に渡してくれる。
ずっしりと重いそれはさっきまでのとは違って精巧な造りをしていた。
「弾は込められてるからボルトを引いて引き金を引きな」
言われた通りに操作すると重々しい音が銃の内部でする。
「しっかり肩で支えるんだぞ。引き金は指で引かずに握る感覚だ・・・そう、それでいい」

店の人は僕の姿勢を確認すると少し離れた場所へ移動する。
紀子先生も息を飲んで見守ってくれている。
僕は弾に願いを込めて引き金を絞った・・・。
気の抜けた空気音とは全然違う音がして銃が跳ね上がるっ。
そして、僕は的をゲットできたんだ。


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