<ゲボッ、ガバッ、ブハッ!> 「はぁはぁはぁ・・・はぁはぁはぁはぁ・・・」 <グボッ、ゴバッ、ガフッッ!> 「ぜぇぜぇぜぇ・・・ぜぇぜぇぜぇぜぇ・・・」 鼻から口から耳から目から水が入って痛い。 ほんの5メートルくらい進んだ代わりに僕は何リットルも水を飲み込んでいた。 近くのコースでビート板を手にバタ足をしているおばさんが僕を胡散臭そうに見ている。 そんなに泳げないならここにに来るなと言いたげな視線に見えて、 僕は逃げるようにもう一度水に潜った。 <ガバッ、ゴブッ、バシャン!> おばさんへの反発で泳げるようになったら儲けものだよ。 ちゃんとしたスイミングスクールに通えばいいのだけど、 きっとそこには元から泳げる人たちが集まっていて コーチとかにお荷物扱いされてしまうに違いないんだ。 だからこうして人の少ない午前中の公営プールでこっそり練習してるのに・・・。 それに大体、母さんと大して歳の違わないおばさんに注目されたって嬉しいはずないだろ。 同じ哀れみの目で見られるのなら、絶対あの人の方がいいに決まってる。 荒い息をしながら歩いてスタート地点へ戻った僕は隣のコースに視線を送る。 50メートルプールの向こう側で小さく水飛沫が上がり、あの人がターンをしたのが分かった。 そしてすごく穏やかな波紋を水面になびかせながら僕のいる側に向かってクロールしてくる。 全然無駄がなくてすごく優雅で、だけどとっても速い。 泳ぎが苦手な僕みたいな人も選手級レベルのプール監視員も、今その泳ぎに注目してるに違いない。 そして泳ぎ終えた彼女に、僕たち男はさらに魅了されてしまうんだ。 |