プ ロ ロ ー グ
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風紀委員ジャッジメントですの」
「なっ……!?」
 男子トイレから出て来た僕の前に、緑色の腕章を付けた一人の少女が僕の前に立ち塞がった。驚き戸惑う僕を冷ややかな目で見つめて来る。
 お嬢様学校である常盤台中学の制服を着た、長い髪をツインテールにしている可愛い少女だ。
 だが、その見た目に惑わされて、たかが女の子一人と侮る事は出来ない。
 風紀委員ジャッジメント――多数の能力者が暮らす学園都市において、生徒達によって構成される警察的組織の一つだ。
 粗暴な不良生徒や能力を悪用する生徒を取り押さえる事も多い風紀委員ジャッジメントには、戦闘に特化した能力を持った生徒が多数在籍しているらしい。
 男の僕の前に一人で現われるくらいなのだから、相当な戦闘能力を持っていると思って間違い無いだろう。
「私が来た理由、お分かりですわよね?」
「なっ、なんの事だい……?」
 とぼけてみたものの、少女は目を細めて更に僕の目を睨んで来た。
「おとぼけなさっても無駄ですわ。証拠は挙がっていましてよ? 盗撮犯さん」
「……!」
 バレた……!?
 激しく動揺した僕は、思わず鞄を両手で抱き締めてしまった。
 それを見て少女は笑みを浮かべる。
「その鞄の中にありますのね? 盗撮に使っているカメラが。現行犯ですわね」
「なっ……!」
 きっと証拠など無かったのだろう。カマを掛けられたのだ。
「無駄な抵抗などなさらず、大人しくお縄になって下さいませ」
「くそっ……!」
 僕は鞄を強く抱き締めたまま、少女を押し退けて逃げようと体当たりを仕掛けた。
 ――だが、体当たりを仕掛けたその場所に、少女の身体は既に無かった・・・・・・・・・・・・
 体捌きで体当たりを避けたわけではない。文字通り少女が消えていたのだ。
「抵抗は無駄だと言いましたでしょう?」
 少女の声が僕のすぐ真後ろから聞こえた。
 少女の手が僕の肩に触れた瞬間、僕の身体は上下反転していた。
「ぐぇっ……!?」
 自由落下で地面に叩き付けられた僕は、受けた衝撃で蛙が潰れたような声を漏らした。
 瞬間移動テレポート――!
 彼女は僕の後ろに移動した後、僕をその場で上下逆さに移動させたのだ。
 こんな大能力者レベル4を相手にして、異能力者レベル2の僕が逃げ切れるわけがない……。
 諦めによって、僕の全身から力が抜ける。
「逃走は無駄だと分かって下さいましたようですわね」
 少女はポケットから取り出した手錠を僕の両手にはめる。
「……全く余計な事をしてくれましたわね。私がお姉様に疑われてしまったではありませんの。まぁ、もちろん私の仕掛けたカメラは見つかっておりませ……あぁ、いえ、何でもありませんわ」
 僕を連行しながら少女が何かブツブツと呟いていたが、僕の耳には届かなかった。

 男子トイレから出て来たが、僕に男が用を足している姿を撮るような趣味は無い。
 決して高いレベルではないが、僕にも能力がある。物質透過ペネトレイトという能力だ。
 その名の通り、自分の身体や触れた物を物質に透過する事が出来る。
 高レベルになれば壁抜けをしたり、敵の攻撃をそのまま通り抜けさせたりも出来るようになる。
 僕は男子トイレ側からカメラを持った手を壁に透過させて、女子トイレの中を盗撮していたのだ。
 女子トイレ側にはカメラのレンズしか出していないし、盗撮者である僕自身は男子トイレに居るのだから見つかるはずは無いと思っていたのに……。
 僕を捕まえた少女に、何故見つかったのかと聞くと――
風紀委員ジャッジメントには超一流のハッカーがおりますの」
 と言って不敵に笑うだけだった。
 退学にはならずに済んだものの、僕は停学一ヶ月を受けた。
 そして停学が開けて学校に戻った僕を待っていたのは、変態というレッテルだった。

 家に引き籠もるようになった僕は、風紀委員ジャッジメントのハッカーについて調べ、それが初春飾利という少女である事を突き止めた。
 僕は、初春飾利の事を強く恨んだ。

――――――――――――――――――――

「どうして俺じゃ駄目なんだよ!」
「あっ、あの……気を落とさないで下さい」
 激昂して声を荒げる俺を、頭に花が咲いた少女が宥めてくる。
 キッと睨み付けてやると彼女は首をすくめて後退る。
 今日、風紀委員ジャッジメントの適性試験結果発表があった。俺はその試験に不合格の烙印を押されてしまったのだ。
 憤まんやるかたない俺に対して、その場に居たもう一人の少女が冷ややかな視線を俺に向け、言い放った。
「能力不足ですわ」
 その一言に俺の怒りは一気に頂点を超えた。
「能力だと!? こいつなんて低能力者レベル1じゃねえか! なんでこいつが良くて、異能力者レベル2の俺が駄目なんだよっ!」
 低能力者レベル1と言われた少女、初春飾利はビクリと身体を震わせたが気丈にも俺を見つめ返して来る。
 睨み合う俺達の間に、もう一人の少女が割り込む。
「お止めなさいませ。初春には能力の他に優れた技能スキルがございますの」
 割り込んで来た少女は冷たい視線で俺を睨んだまま言葉を続ける。
「――それに。そうやって人を見下すような人格では風紀委員ジャッジメントは務まりませんわ」

 俺は風紀委員ジャッジメントに志願したものの、能力・技能がいずれもが規定値に達していなかったとして弾かれてしまった。
 それ以来、風紀委員ジャッジメントを見る度、心の中に鬱積した物が溜まって行った。
 そんなある日、風紀委員ジャッジメントの腕章をはめた初春飾利が白井黒子と共に事件を解決する現場を目撃して、俺はその眩しさに激しく嫉妬した。

――――――――――――――――――――

 二人は出会うべくして出会った。
 親友となった二人は方向性こそ違うものの、お互いの変態性をも知る所となり、より絆を深めて行く。
 そして、お互いが胸に秘めていた風紀委員ジャッジメントへの、初春飾利への恨みと妬みを知る所となる。
 二人が初春を拉致して凌辱する計画を立てるまでそう時間は掛からなかった。
 初春をどうやって拉致するか、拉致したらどんな事をするかを二人は欲望をさらけ出して語り合った。
 ……だが、計画を実行する程の自信も能力も彼らは持ち合わせていなかった。
 そんなある日、都市伝説だとばかり思っていた幻想御手レベルアッパーが実在する事を二人は知る。
 二人はお互いの貯金を出し合って、ついに幻想御手レベルアッパーを手に入れた。
 大能力者レベル4となった二人は自分達の力に酔い、過剰な程の自信を手に入れてしまった。
 そして二人は――初春飾利の拉致監禁計画を実行に移してしまうのだった。


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