「それでは今から、このクラスの中から『恥じらい係』を決めたいと思います。」
「まずは誰か、立候補される方はいませんか?」
教室ではホームルームが始まっていました。
今日のホームルームの議題は『恥じらい係』と言う特別な係を決める議題でした。
委員長と副委員長が机の前に立って『恥じらい係』に立候補してくれる生徒を募っているのですが、
教室にいる生徒達は誰も手を挙げたがりません。
そして、女子生徒の一人である『うらら』も、静まり返る教室で手を挙げる事もせずに行方を見守り続けています。
うららの過ごしている学校では全国でも珍しいシステムを持つ全寮制の女学院でした。
保育学科では結構優秀な事で有名な学校で、うららはその保育学科に属していました。
どうして、うららの学校が優秀な保育学科なのか…それは独自の教育システムにありました。
学校の中に実際に少年少女を預かる事の出来る施設も運営していて、
生徒達も少年少女を実際にお世話しながら学ぶ事が出来るのです。
でも実際、うららが少年少女をお世話するのはもう一つ上の学年になってからです。
今回のホームルームで行われている『恥じらい係』の選出も、少年少女のお世話をする為の準備の一つなのです。
「うららちゃん。このままじゃホームルームが終わりそうに無いから『恥じらい係』引き受けてみたら?」
「えっ…私が?!」
後ろの席に座っている、うららと同じ部屋に住むルームメイトで友達の『いぶき』がコソコソと耳元で話しかけてきました。
『恥じらい係』がなかなか決まらないので、みんなずっと待ち続けている事にも飽きてしびれを切らしていました。
いぶきもきっと、なかなか終わらないホームルームが退屈になってきてしまったのでしょう。
「そんなぁ…私、いくらなんでも『恥じらい係』なんて引き受けちゃったら女の子として恥ずかしくって、たまらないよぉ。」
でも、うららは『恥じらい係』になるのを拒みました。
きっと、教室にいる他の生徒達もうららと同じような気持ちなのでしょう。
『恥じらい係』なんて本当は、みんな引き受けたくなんて無いのです。
そもそも『恥じらい係』とはどんな係なのかと言うと、うららの過ごしている保育学科で採用しているシステムの一つで、
施設で預かる少年少女の為に、保育学科の生徒の中から必ず一人選ばないといけない特別な係なのです。
『恥じらい係』の名前の通りに少年少女の前で自らの恥ずかしい姿をあらかじめ見せてあげる事で、
少年少女に恥ずかしい思いをさせない為の役割で『恥じらい係』は言わばサーカスにおける『ピエロ』みたいな存在だったのです。
『恥じらい係』と言う名前や役割は、保育学科の生徒なら誰でも知っていたのです。
その、少年少女の前で自分自身のとても恥ずかしい姿を見せないといけない、と言う役目を持つ係の為、
教室のクラスメート達は自分から引き受けようとは思わなかったのです。
しかも、うららは一度だけ見た事があったのです。
一年前に、保育学科の上級生が『恥じらい係』のトレーニングと称して、とっても女の子として恥ずかしい姿を晒している所を…
なかなかホームルームが終わらないので、教室の中でうららはある事を思い返してしまいます。
……
「ほら、早くこっちに来てよ。今日は教室の外でする約束だったでしょ?!」
「やだぁ!私、こんなにスカートビチャビチャなのに、歩きたくないよぉ!」
「こら!悪い子じゃないんだから早く歩いてよ!」
授業も全て終わって、うららが校舎の周りを歩いている時でした。
向こうから誰かの声が聞こえてきます。
(誰かが揉めてる…上級生みたいだけど、どんな事で揉めてるんだろう?)
制服のリボンの色から、保育科の上級生達が数人で揉めている姿が見えたので、どんな理由で揉めているのかが気になってしまったので、
うららも恐る恐る近づいて、上級生達の様子を伺います。
「うぅ…ヒック。」
ピチャピチャ…ポタポタッ。
(やだ…あの上級生、もしかしてオシッコオモラシしちゃってるの?!すっごいスカートがビチャビチャになってる…)
うららは数人に囲まれている上級生の姿を見て、驚いてしまいました。
上級生の女の子はなんと、オシッコをオモラシしてしまっていたのです。
制服のスカートの上からも分かる程にオシッコのシミが広がっていて、スカートの中からはオシッコの雫がポチャポチャと垂れ続け、
上級生の女の子の足を濡らし続けて、さらに足元のアスファルトの上にもオシッコの水溜まりを次々と広げ続けています。
オシッコをオモラシしてしまって恥ずかしいせいなのか、上級生の女の子はずっと泣き続けていました。
「ほら、下級生があなたの姿を見てるわよ?」
「いやぁ…お願いだから、私の姿、見ないでよぉ。」
うららは、上級生達に見つかってしまった事でビックリしていました。
もしかしたら自分は今、とんでもない所を見てしまったのではないか…と焦ってしまったのですが、
上級生達は別に慌てる事もなく、さらにこう続けました。
「もう、下級生に見られたくらいでそんなに泣かないでよぉ。これも『恥じらい係』としてのトレーニングなんだからね。」
「あなたもちゃーんと、見ておいた方がいいわ?先輩としての助言よ。」
「あなたも保育学科の子だよね?この『恥じらい係』あなた達の学年でも行うんだから。」
「それにしてもこの子ったら、段々と泣き虫になってきたね。最初はどんなに恥ずかしい事をやっても、
全然泣かなかったのに。そんなにオモラシ姿を見られるのがイヤなのかしら?」
「やだぁ…もう私、こんなみっともないカッコのままで歩きたくないよぉ。」
うららは、上級生達の行為をただ、その場に立ち尽くしながら、状況を見守る事しかできませんでした。
自分達のクラスの子がオシッコをオモラシして、泣き続けている…にも関わらず、
上級生達はオモラシした子が恥ずかしがっているはずなのに、
それを無視しながら私の前に披露してしまうなんて…と、
うららは目の前で繰り広げられている状況にどうして良いか分からずに戸惑っていました。
「ワガママ言わないの。とりあえずこの格好のままで校舎の周りを一周するまでは頑張ってね。」
「きっと、他の生徒達の注目の的ね。普通学科の生徒達にも今の恥ずかしい姿、たっぷりと見てもらおうね?」
「その後はたっぷりと、私達がお尻とかキレイにしてあげるからね?ほらっ、早く歩くのよ?」
「ううっ…」
ポタポタッ…ポタタッ。
そう言うと、上級生達はオモラシした女の子の手を引っ張って、歩き続けていきました。
これから本当に、オシッコをオモラシした女の子を引き連れて校舎を一周するみたいです。
(ウソ…『恥じらい係』って、何なの?上級生があんなにオシッコをオモラシして、
すっごい可哀想なのに、なんで保健室とかトイレとか、連れて行かないで校舎の周りを一周とか、歩かせるんだろ…)
うららは上級生達の集団をずっとその場に立ち続けながら、見送っていました。
女の子が通り過ぎた後にしっかりと残っているオシッコの跡が、今でもすごく印象に残っているくらいです。
「うららちゃんったら今まで知らなかったの?『恥じらい係』の存在。」
「恥じらい…係?」
「そうだよ。『恥じらい係』だからその上級生、オシッコをオモラシさせられてたんだよ。」
うららは上級生達の姿が気になったので、寮の中でいぶきに相談してみました。
どうやら、いぶきは『恥じらい係』の正体を知っているので、色々と聞いてみる事にしました。
「いぶきちゃん、そもそも『恥じらい係』ってどんな係なの?」
「しょうがないなぁ。全く知らないつぼみちゃんに一から教えてあげるけど、
私達って保育学科だから、来年は実習の授業が始まるでしょ?」
「うん…確か、私達が学校で預かっている少年少女達のお世話をするんだよね?」
「それでね、お世話をする時に毎年一人か二人くらい、オシモが弱くってオモラシしちゃう子もいるじゃない?」
「うん…」
「それで、もしみんなの前でオモラシなんてしちゃったら、きっと他の子にいじめられちゃって大変でしょ?」
「うん…確かにオシッコをオモラシなんてしちゃったら恥ずかしくって、みっともないよね?」
「そこで私達のクラスの中から一人だけ『恥じらい係』と言う係を一人だけ選んで、
最初にお世話をする子の前で恥ずかしいオモラシ姿を見せちゃうらしいのよ。」
いぶきにそう言われて、うららは目を見開いて驚いてしまいました。
まさか、自分達のいる保育学科で、誰かの前でオシッコをオモラシすると言う恥ずかしい姿を晒す係が存在していただなんて…
しかもうららは『恥じらい係』が実際にトレーニングを受けている上級生達の姿を見たばかりです。
今までそんな大事な事を知らなかったうららは、驚きの表情を隠せません。
「うそ…そんなオモラシ姿なんて恥ずかしい事を、しかも誰かの前で見せないといけないの?」
「だって『恥じらい係』がいれば例えウチで預かる子の誰かがオモラシしちゃっても、
もっとみっともない『恥じらい係』がいるおかげで、みんなからいじめられなくて済むでしょ?」
「それはそうだけど…でもあの上級生なんて校舎でオシッコをオモラシしながら歩かされてたんだよ?他の上級生達に引っ張られながら。」
「…きっと『恥じらい係』になる為のトレーニングなんだよ。
いきなり急に『恥じらい係』に任命されても、学校で預かる子の前ですぐにオモラシ姿なんて見せられないでしょ?
それに『恥じらい係』のトレーニングをしてあげる事で、
その先輩達自身もいざオシッコをオモラシしちゃった子のお世話だって出来るようになるわけだし。」
うららは、いぶきから聞かされる話を聞いているだけでも恥ずかしくて、ドキドキしてしまいます。
オモラシ姿を見せてしまった上級生の姿を思い返して、うららが『恥じらい係』と言う係には
絶対に自分はなりたくないなぁ、と思っていた時の事でした。
「それと『恥じらい係』なんだけど、来年も私達のクラスから一人だけ選出されるらしいよ?」
「そ、そうなの?私達のクラスの中から、あんなに恥ずかしいトレーニングを受ける子を出さないといけないんだ。
なんか信じられないなぁ。もし『恥じらい係』を引き受けてくださいっていわれてもイヤだよ。ただ恥ずかしいだけだし。」
「でもうららちゃん、『恥じらい係』には特権もあるのよ?」
「特権って、どんな?」
「『恥じらい係』にさえなれば、保育学科の成績優秀者扱いになるから理事長からの推薦が貰えるらしいよ。
だから保母さんになるのにとっても有利になるんだって。」
「そうなんだ…でもそれだけ『恥じらい係』って大変なんだね。」
いぶきの口から『保母さん』と言う単語が出たので、うららは自分の将来の事を振り返り始めます。
「あーあ、上級生になるのも大変なんだな…『恥じらい係』も誰かが引き受けないといけないし、
学校を卒業したら保母さんにならないといけないし…上級生になんてなりたくないよぉ。」
「うららちゃんったら…あと一年で私達もその上級生達と同じ役目を果たすことになるんだからね?」
「私、ずっとこのままがいいのになぁ…」
……
寮の自分達の部屋で、そんな話をしていた事をつぼみは振り返っていました。
今ではうららがその上級生なのです。そして目の前では『恥じらい係』を今まさに決めようとしている最中だったのです。
「でも、うららちゃんって今回のテストの成績、あまり良くなかったんじゃないの?」
「…確かに今回のテスト、あんまり成績は自信がないけどだからと言って『恥じらい係』をやってまで…」
「でもうららちゃん、あまり授業に付いていくのが大変になってきたって言ってたじゃない。」
「う…」
うららの席の後ろで、いぶきがさらにこう続けていきました。
いぶきが言っていた通りに、うららは最近の授業のスピードになかなか付いていけなくなっているのを感じていたのです。
最近テストも行ったのですが、うららなりに勉強をやったつもりにも関わらずあまり点数も良い点数では無かったのです。
(確かに、いぶきちゃんの言う通りだ…最近、授業のペースが早くなった気がするし…
もしかしたら私、このままじゃ落ちこぼれちゃうかもしれない。)
テストの点数が良くなかったのが、最近のつぼみにとってかなりの悩み事になっていました。
頑張って勉強してもテストの結果がついていかない、もしかしたらこのままでは保母さんになるどころか、
成績も落ち続けて学校にいられなくなってしまうかも…と言う不安がうららの脳裏をよぎってしまいます。
「ほら、誰も手を上げる人とかいないみたいだし『恥じらい係』になれば補習もする必要なくなるみたいだよ?どうする?うららちゃん…」
「そんな…私は…」
そしてうららはホームルームが行われているなかでずっと考え続けていました。
相変わらず教室では委員長と副委員長が『恥じらい係』に立候補してくれる生徒を募るために呼びかけているのですが、
誰一人として手を挙げる様子は無いみたいです…
「それでは『恥じらい係』は、うららちゃんに決まりました。」
「おめでとう!うららちゃん!」
パチパチパチ…
ホームルームが終わる2、3分くらいの事です。
いぶきのすすめもあって、うららはついに手を挙げて『恥じらい係』に立候補してしまったのです。
やっとホームルームが終わる安堵感から、クラスのみんながホッとしながらうららに向かって拍手を続けます。
思わず、うららはその場に立ち続けながら照れてしまいます。
「やだ、みんなったら恥ずかしいよぉ…」
「それじゃ、つぼみちゃん。明日から『恥じらい係』よろしくね。みんなでたっぷりとトレーニング、手伝ってあげるからね。」
「う、うん…」
(どうしよう…私、ついに『恥じらい係』になっちゃったよぉ…)
うららは明日から晴れて『恥じらい係』になる事が出来ました。
でもこれからがうららにとって『恥じらい係』がどんな係なのかを思い知らされる日々の始まりだったのです…
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