車両はゆっくりと動き出し、スムーズに加速していく。
乗り心地の良さと静寂さはバッチグーで、さすがは特急列車と言った所か。
おっと、おばさんの死語がうつってしまった。
さてと……新聞でも読むか。
買ってきた新聞を広げて目を通す。
一面はアメリカとの基地移設問題、事件欄は……。
事件欄は先日、新幹線内で起こったレ○プ事件が綴ってあった。
刑務所から服役したばかりの男が新幹線内の女性を脅し、トイレでレ○プした。
その時、多くの乗車客が目撃したらしいが、恐怖で皆知らぬ顔だったという。
「可哀相に……」
被害者の女性を同情しつつも、そのレ○プの様子を少し想像してしまった。
健全な男ならば、誰しも痴漢願望はあると思う。
僕だって通勤ラッシュ中に綺麗な女性に引っ付かれ、誘惑に負けそうになった事は何度もある。
でも……やらない。
いや、出来ないと言った方が正しいか。
なぜなら、一時の欲望に身を任せて人生を棒に振ってしまうのが怖いからだ。
もしかしたら痴漢した女性が殊の外エッチだったり、 何をされても押し黙ってしまう大人しい女性かも知れない。
そうだったら本当にラッキーだ。
きっと僕は味を占め、何度も再犯を繰り返すに違いない。
だがそれと同時に、『この人痴漢ですっ!』と、お尻を触っていた手をこれ見よがしに挙げてしまう気の強い
女性かも知れない。
そうなったら最後、僕の人生は一巻の終わりだ。
警察に突き出された後、会社からは解雇され、再就職出来ずに路頭に迷い、行く行くは公園で野垂れ死に、
と力士が坂道を転がるような転落人生が待ち構えている。
その何パーセントの確立に賭けるほど、僕はギャンブラーではない。
っていうか……それ以前に、元々賭け事自体があまり好きじゃないし。
大学の頃にパチンコを何回かやった事があるが、『これは最終的にパチンコ屋が儲かる仕組みになっている』
とすぐに分かり、バカらしくなって止めた。
とどのつまり、僕はそうやって真面目に、堅実に、実直に生きてきたんだ。
「あっ、そうだ」
ビールのツマミにと買っておいたスナック菓子を思い出した。
「こんな庶民的なお菓子が凛ちゃんの口に合うかどうか分からないけど……よかったらどうぞ」
僕はスナック菓子の封を切って彼女に差し出した。
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