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いや……変な格好と言うと語弊があるな。 あまり街中で見かけないという意味での変、だ。 肩に掛けてるのは……あれはヴァイオリンケースかな? まさしく全身エレガントといった雰囲気で、パッと見どこかのお嬢様みたいだ。 何と言うか、まあ……ちょっとキツそうな感じもしないでもないが、はっきり言って僕の好みではある。 「まったく……爺やがいないから」 何やらブツクサと文句を言いながら、お嬢さんは辺りをキョロキョロと見渡している。 どれ、何か困ってるようだから話し掛けてみるか。 「どうかなさいましたか?」 「……むむむぅ」 お嬢さんはジロジロとした上目遣いで僕の顔を覗き込んでいる。 まるで悪人でも見るような目付きだ……。 「な、何かお困りでも?」 「これっ!」 僕の目の前に特急券を突き出してきた……。 いきなりこれって言われてもなぁ。 ああ……そうか、分かったぞ。 きっと座席の場所が分からないって言いたいんだな。 それにしても、これが人にものを尋ねる時の態度だろうか? 一体どういう教育をしたのか、親の顔が見てみたいぞ。 「なによっ!」 ムッとしたのが態度に表に出たのか、お嬢さんはさらに敵愾心を露にして僕を睨みつけた。 ま、まあいい……僕は心が広い大人なんだ。 生意気な態度、大いに結構じゃないか。 若い内から大人の顔色を伺ってる某自動車会社のCMに出てくる子役みたいになっちゃいかん! 気を取り直し、彼女の座席番号を照らし合わせる。 「ええと、B22か……B22?」 B22って、僕の隣の席じゃないか! まいったな、よりによって隣同士だなんて。 ざっと車内を見渡してみる。 ううむ……発車五分前を切ってるというのに、この車両は僕とこの生意気なお嬢さんしかいないぞ。 いっそ僕の方から違う席に移ろうかしら。 「……むむむぅ」 何だろう、さっきからずっと僕の顔をジロジロ見てる……。 完全に僕の事を敵だと思ってるのかな? よ、よし……会話でもして打ち解けてみるか。 「あの、君は……」 「芝小路 凛っ!」 「あ、ああ……名前ね。凛ちゃんか、なかなかいい名前だね」 「……ふん」 ふう……どうにも話し辛いな、この子は。 コミュニケーション能力が欠落していると言うか……。 「凛ちゃんは、これからどこに行くのかな?」 「見て分からない? ヴァイオリンの発表会よ」 「そっ、そうだよね。そんなの見れば分かるよね、あははは」 な、何を卑屈になっとるんじゃ、僕はっ! 「いつもは爺やが車で送り迎えするんだけど、急用が入ったって」 「へえ、なるほど……」 「電車なんて数えるくらいしか乗った事ないから分かんないし」 「ねえ、ちょっと聞いていいかい?」 「なによ?」 「君の家ってさ……」 「凛っ!」 「ああ、ごめん!」 どうやらこのお嬢さんは名前で呼ぶ事しか受け付けないみたいだ。 「もしかして、凛ちゃんの家って……凄く大きくて、高級車や別荘なんかあったりする?」 「当たり前じゃない。プールだって自家用ジェットだってあるわよ」 さらりと言ったぞ、さらりと……。 こりゃ〜とんでもないセレブお嬢様だ。 「ああ、凛ちゃんの席ここだからさ。もうすぐ出発するから座りなよ」 「あれがいいっ!」 「……へっ!?」 な、何を突然言い出すかと思ったら……。 凛ちゃんが指差した方向を見てみる。 「あっ……あれのように席を向かい合わせたいの?」 すると、うんうんと無言で力強く頷いた。 しかし、たったあれだけの情報で理解してしまう僕って……。 さすがは昔から通知表に『物分りだけはいい』って書かれてきただけあるな。 「ちょっと待っててね……えい、よっと!」 |