払い下げ品


大学時代の友人にミリタリーオタクの殿村という男がいた。
出身は四国の方で、大学に行くために一人暮らしをしている男だったが
長期休暇は必ず沖縄や横須賀へいって住み込みの長期のアルバイトをしていた。
目的は米軍の払い下げ品。
バイト先も払い下げ品を仕入れるショップや倉庫管理という徹底振り。
帰ってくるときには戦利品を安価で大量に仕入れて戻ってくるというわけだ。

そんな殿村が、二年の夏休み明けからハンドグレネードポーチを腰につけてくるようになった。
携帯とタバコが別々に入って、それまで使ってたマガジンポーチよりも使い勝手がいいのだという。
なんでも、ボスニア・ヘルツェゴニア紛争で使われたといういわくつきのものらしい。

ちなみに、ハンドグレネードポーチとはベルトに装備するもので手榴弾を二つ携帯するためのもの。
マガジンポーチは銃の弾倉(マガジン)の補充分を入れてベルトに装備するためのものである。
殿村は、そう言った払い下げ品を日常的に使っていた。

ところが、十日ほどして殿村に会った時、ハンドグレネードポーチは以前のマガジンポーチに逆戻りしていた。
わけを聞いた私に、殿村はなんでもないことのようにこう言ったのだった。

「たまに、ガラスの欠片が入っててさ、手を切るんだよね」

「壊れ物でも入れてたの?」

「別に。でも、出しても出しても入ってるからさ、飾っとくことにした」

驚く私に、殿村はさらりと言ってのけた。

「よくあることだよ。去年買ったレインパーカーなんか、
洗っても洗っても血が滴ってたからとうとうオークションに出したんだ。
ソマリアに行ったやつなのにもったいないことしたよ」

実戦で使われた軍の払い下ろし品はこんな逸話が多い。
それを見つけるのも楽しいんだと笑った殿村のTシャツの裾の破れにも、うっすらと焦げ目が残っていた。





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