また妻からだ。
携帯は鳴りやむ事なく持ち主を呼び続けている。

暫くそのままにしていたが、あまりにも鳴り続けるので
会議の席を立ち、人通りの少ない廊下へ出た。





霧崎「もしもし?いま会議中で・・・・・・」

少し苛ついた口調で電話に出る。

妻 「あなた?すみません、あの・・・深玖(みく)が・・・」

霧崎「深玖?深玖がどうした?」

妻の狼狽した声と、娘の名前に思わず語調がきつくなる。

妻 「深玖が・・・まだ帰って来ないんです・・・
   お友達の家からはもうずっと前に帰ってるって・・・・・・!」

時計に目をやるともう夜の7時も回っている。
妻の声がますます震え、湿っていく。

妻 「学校も、公園も・・・み、見にいったんですけど、
   どこにもいなくて・・・あなた、私どうしたら・・・!!」

霧崎「分かった・・・!今すぐ帰るから家で待ってくれ。
   深玖が帰ってきたらすぐ私に連絡して欲しい」

早口にそう告げると携帯を一旦切った。

深玖がこんな時間まで帰っていない・・・
嫌な緊張感で鼓動が早くなる。

何かあったのか・・・とにかく交番・・・警察?

いや、まだ何かあったと決まった訳ではない。
どこかで寄り道して遅くなっているだけかも知れない。

とにかく家に帰らなければ。
私は会議もそのままに会社を飛び出した。





家に着くと泣き腫らした妻が私に駆け寄ってきた。

霧崎「深玖は・・・!?まだ帰ってきてないのか!!?」

妻 「まだ・・・まだ帰って来ないんです・・・!!」

もう8時にもなろうとしている。

妻 「あなた、どうしたら・・・!警察?警察に・・・!!」

狼狽した妻が震える手で受話器に手を伸ばそうとする。

霧崎「待て、もう少し近所を探してくる。
   お前はここで深玖が帰ってくるのを待っててくれ」

それだけ言うと私は家を飛び出した。

警察に相談したら、思考が悪い方へ向かいそうな気がした。

ただ帰りが遅いだけであって欲しい。
いや、きっとそうに違いない。



近所の公園、河川敷、深玖の行きそうな場所を
一つ一つ思い浮かべながら探し回ったが見つからない。

霧崎「深玖・・・・・・!!」



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