最後までやれ 彼の趣味はフィギュアで自作もするが、買ってジオラマを作成するのが好きな人である。 カテゴリとしては史実に基づく戦況などの再現がメインであった。 あまりにジオラマが好きで数が多く、専用のレンタル倉庫を借りているほどだった。 その桂さんが、少々不謹慎ではあるが「911テロ」のジオラマを作った。 世論的に不謹慎だと言うことで周囲の友人からも非難を浴びたため、 製作を途中でやめてレンタル倉庫にしまっておくことにした。 その翌週、レンタル倉庫を見に行くと、 倉庫の中がかなりめちゃくちゃになってしまっていた。 ジオラマがことごとくひっくり返されていたのだ。 盗難はなかったし、被害額も小さいと言えば小さかったが 念のために警察に届けたが、何の手がかりも得られない。 「もしかしたら閉めるときに動物でも入れてしまったのでは?」 などと言われたがそんなわけはない。 結局何もわからないまま倉庫を片付けて鍵を閉めて自宅に戻ることにした。 ところが翌週、またレンタル倉庫の中がひどく荒らされていた。 警察に届け、防犯ビデオもチェックしたが何も出てこない。 警察も今度は見回りをすることにしてくれ、片付けて帰ったが、 また翌週ぐちゃぐちゃになっている。 ところが、例の911のジオラマだけは動いていないことに彼は気がついた。 おかしい。 何かの意図を感じる。 そう思った彼は防犯ビデオを頼み込んで見せてもらうことにした。 早送りの映像の中を、警察が一時間おきに見回っている。 前日の映像もそんな感じだったが、何度目かの巡回の直後、 レンタル倉庫のドアに黒い影のようなものが張り付いてぱっと消えるのを見つけた。 もう一度見せてもらうと、どうやら黒い影はレンタル倉庫のドアを通り抜けているように見える。 そうなると警察としてはお手上げである。 それどころか「寺に行ってはどうか」などといわれる始末。 さて、この桂さん、ブログを持っている。 このレンタル倉庫のことをネタにするつもりで写真を撮ったが、 いざ写真をアップして驚いた。 その前にアップした例のジオラマの写真に真っ黒な影がさしている。 持っているデータの写真も影がさしていた。 あわててデータを削除し、ブログも閉じ、ジオラマを寺に持っていくことにした。 いざ持っていった寺で住職に見せると、こんなことを言われた。 「作り始めることで関心を寄せてもらえたからちょっと慰められたのに、 放置されて怒っちゃったんだね」 誰の何かが憑いたということではないそうだが 要は、最後まで作れと言うことだったらしい。 だが、今となってはもう完成させる気にはとてもなれない。 ジオラマはお寺に預け、他のジオラマもすべて片付けてレンタル倉庫も解約したそうだ。 それ以来、妙なことはおこってはいないそうだ。 TOP |