プ ロ ロ ー グ
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 今日からまた新しい日記を書き始める。
 以前に書いた日記は葉月ちゃんを誘拐し、監禁した日々を綴った凌辱日記だった。今回の日記には葉月ちゃんと僕の間に生まれた娘の事を書いて行きたいと思う。
 思えば、最初の日記を書いた頃からは随分と時間が経ったように感じる。
 父親になったという実感がそう感じさせるのだろうか。
 娘は葉月ちゃんから一文字取って、『美月』と命名した。
 僕は葉月ちゃんに似てとても可愛らしい女の子だと思うのだが、葉月ちゃんは僕に似ていると言う。きっとどちらの言い分も正しいのだろう。僕達二人の遺伝子を半分ずつ受け継いだ子なのだから。

 娘が出来たものの、葉月ちゃんは相変わらず僕の事を『お兄ちゃん』と呼ぶ。
 それはそれで嬉しいのだが……。せっかく子供が出来たのだから時々他の呼び方で呼んで貰いたい時もある。『あなた』とか。
 楽しくも幸せな日々を送る内に胸の中に募って行く想いがある。
 僕は葉月ちゃんと――結婚したい。
 そして美月を正式に僕達の子供として認められたい。
 今の葉月ちゃんは公的には行方不明のままだし、美月に至っては存在すらしていない事になっている。
 僕の愛する二人が居ない事になっているだなんて、そんな事は断じて認められない。

 それと、もう一つ。
 葉月ちゃんはここに連れて来られてから、別荘の中と森の中しか見たことが無い。美月に至っては生まれてから一度も外に出た事が無い。
 必要な物や彼女達が欲しがる物は僕が外に行って買って来るし、ここには電気もガスも水道も繋がっている。生活には一切の不自由は無い。葉月ちゃんにはきっちりと勉強を教えてもいる。
 でもそれだけでは駄目なのだ。
 外に出る危険性を分かっている葉月ちゃんは口にこそ出さないものの、テレビや雑誌を見て時々遠い目をしている事がある。

 ――二人に外の世界を見せてあげたい。
 彼女達を遊園地に連れて行ってあげたい。
 広い空を見せてあげたい。海を見せてあげたい。
 ……いや、僕がしたいのだ。
 彼女達と色々なものを見て、色々な事をしたい。
 それが間違い無く楽しい事だと分かるから。

 彼女達を外に連れて行く為には、戸籍その他の公的な文書が必要だ。
 僕と葉月ちゃんでは見た目にも実際にも年齢が離れすぎている。連れて歩けば不審な目で見られる事は確実だ。
 かといって迂闊に役所に行って葉月ちゃんの戸籍を変更したり、美月の出生届を出す事は出来ない。
 そんな事をすればすぐに足が付いて僕達は引き離されてしまうだろう。もう二度と会う事も出来なくなる。
 もちろん、葉月ちゃんに自分が『要らない子』だと思わせた彼女を母親の元に返す気など欠片も無い。
 ならばどうするか――?
 一つだけ方法に心当たりがある。
 小さい頃に亡くなった両親に代わって僕を育ててくれた叔父。
 数年前に彼自身も亡くなってしまったものの、社会的にも成功した立派な人物で、僕にとって誇れる叔父だった。
 だが生前は影で非合法な事も行っていたらしい。叔父の遺品を整理していた時に表に出せない資料を色々と見つけてしまったのだ。
 その時は若い正義感によって失望を感じ、全て燃やしてしまおうかとも思ったのだが……思い留まっていて良かった。
 あれらの資料には今の僕に必要な事が詰まっていた。
 ――公文書を偽造する技術。
 それを僕が身に付ければ、葉月ちゃん達を外に連れ出す事も夢ではなくなる。
  当然違法行為だが、それに手を染める事で痛むような良心は持っていない。既に誘拐、監禁、強姦とそれ以上の罪を犯しているのだから。

 亡くなってからも僕を助けてくれる。やはり叔父は僕にとって偉大な誇れる人だった。

 と、始めての日記なのに長く書きすぎてしまった。内容も何だか日記というより抱負のようだ。
 今日はこれくらいにしておこう。
 明日からはもっと楽しい日々を綴っていきたいと思う。


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