(1)襲撃
暴動のせいで市街にはまだ煙がくすぶり、道路のあちこちをがれきが塞いでいる。
生々しい破壊の中を、百名近い軍隊が整然と足音を響かせて前進していた。
部隊の前後は大勢の歩兵達が固めている。みな、いささか緊張した面持ちで、装備した鎧兜と長槍をがちゃがちゃ鳴らしながら進んでいる。
歩兵達に挟まれた間には、黒い革布で頭からつま先まで全身を隠した魔法使いらしき小柄な男達が二十名ばかりずるずると歩く。表情は良く分からないが、黒服の下から何か邪な喜びを醸し出している。
そして部隊の中央には司令官達なのであろう、青と白の美麗な戦衣を纏った美女達七名が騎乗している。
「警戒を怠るな。『悲しみの帷』は強力な広域無力化魔法だけれど、過信は禁物よ。取り残しが無い訳ではないわ」
七人の中央の、隊長格らしき美女が凛とした声で指示を飛ばす。
緑がかった金髪は短めに整えられていて、前髪の上に簡素な浮き彫りで飾られた額当てが嵌っているものの、兜はつけていない。その下の紫色の瞳はきりりと鋭く、耳はやや尖っている。滑らかな白い頬の両側で、小さな三つ編みが揺れる。
彼女のすらりとした、それでいて程よく肉のついた長身を包むのは青く輝く軽鎧と、ぴっちりした濃い色合いのラッシュガード、レギンス。肩に騎士の短マント、腰回りを覆う白いロインクロス。帯留めからは、細身の長剣がぶら下がっている。

「了解です」
「はい、ベルローズ隊長」
六人の女性騎士達が返答する。みな、指揮官と同じような青の軽鎧と白のマントに短剣や細剣を装備し、頭には額当てやリングを着けている。
彼女達が戦場にあって総じて軽装備なのは、『天羽』と呼ばれる魔法種族の騎士だからである。『天羽』は、この世界『アンフィビウム』において体力では凡百であるものの、魔法力はそれを補って余りあるため、こうした魔法騎士も前線を指揮する兵種として有用性が高く、戦場での活躍の機会も多い。
今、六人の騎士達を率いているこの隊長ベルローズはその最たる人物であり、武勲と魔法剣の腕前からついた「緋の剣」の二つ名が王国内外で知れ渡っている。
槍を持った大勢の歩兵達や、妖しげな黒ずくめの魔法使い達を従えて、七騎の魔法騎士は荒れた街の中を進んでいく。
「それにしても……また、戦闘とも言えないような暴動鎮圧ですか……こんなことが、武勇神マヴェオンへの供物になるのでしょうか?」
騎士達のうち、一番年下に見える天羽の少女が呟いた。厳しい訓練で鍛え上げた、魔法と剣の腕を存分に振るえる任務でないのが不満なのだ。
今回の任務は、都で反乱を起こした獣人達の鎮圧である。と言っても、魔法への抵抗力を持たない叛徒達の大半は既に別部隊の展開した広域魔法によって無力化されている筈なので、さしたる危険も、同時に手柄になるような戦いも無い筈であった。
「黙りなさい。上に立つものが口にしていい言葉ではないわよ」
「も、申し訳ありません。失言でした」
隊長ベルローズがぴしゃりと窘める。隊を率いている自分達が気の緩みを見せると、部下である他種族の兵士達の士気にも悪影響がある。とはいえ、根っからの武人であるベルローズ自身も面白くはなかった。
(まあ、無理もないわね。任務と言ったって、広域魔法で気絶した叛徒達を縛り上げるだけなんだもの。この暴動も、元はといえば王国の腐敗政治への不満が原因なんだし……いい気持ちではないわ。どうせなら、噂に聞く『咒寇』と戦う……のは無理としてもどこかの戦場を思いっきり……ああ、いけない、任務に集中しなければ)
ベルローズがため息を押し殺し、気持ちを切り替えたその時だった。
ガシャンッ! ドカンッ!
「ッギャアァアアアーーッッ!!」
何かが倒れるような音とともに、悶え苦しむ獣のような絶叫が響き渡った。
「取り残した反逆獣人どもか?!」
瞳に緊張を走らせて、騎士隊長は物音のした方向を睨んだ。だが、馬上の彼女の下から、ぐつぐつと泡立つような不愉快な声がする。
「そのとおりでございます。ベルローズ様。ですが既に部下どもが無力化いたしましたので、どうぞお気になさらず」
それは黒尽くめの男達、『塩蛇』のリーダーだった。彼らは天羽支配下にある種族の一つで、天羽ほどではないが有能な魔法使いである。ただ、塩蛇達には性格上の難点があった。
「ウギャアァアアァァァーーッッ! アァアアァァーッッ!」
獣人の悲鳴が立て続けにあがる。それと同時に。
「ひゃははははっっ! 愚かな獣どもめっ! そら、今度は『メクウスの苦痛の竪琴』だ!」
「もっと苦しめ! 我らに楯突いた罰をたっぷりと味わえ!」
「ッギャヒィイィィィーーーッ!!」
悲鳴の合間から悪意まみれの嘲りが聞こえて、隊長ベルローズは苦虫を噛み潰したような顔をした。
(こいつら……また、下卑た真似を……)
「……隊長、どうしますか……」
同じく部下の天羽達も不快そうな表情である。
塩蛇は冷酷なサディストぞろいの種族だった。今も無力化済みの反逆者に対し、不必要に苦痛魔法を浴びせかけて楽しんでいるのだ。魔法に弱い獣人達は、天羽社会での被差別階級であることもあって、彼ら塩蛇にとっては格好の獲物だ。
(いかに下等な獣人の叛徒とはいえ、卑劣な楽しみのために苦しませるなど……不愉快極まりないわ)
高潔な騎士を自認する彼女達にとって、黒衣の部下達の卑しい行為は容認しがたいものだった。
ベルローズは目を眇めて、声の方角を睨む。歩兵隊列の向こう、崩れかけの建物の入り口に毛むくじゃらの獣人が倒れていて、その周りに数人の黒衣の男達が囲んでは小突き、また苦痛魔法を投射しているのが見えた。その度に獣人の大きな身体が痙攣する。
「あれね……ハッ!」
魔法騎士は気合いとともに右手を突き出して、不愉快な現場を指差す。手の甲に複雑な魔法紋様が浮かび上がったかと思うと、中指の先から小さな光の矢が迸り、倒れている巨躯に吸い込まれた。
「ウウウウッ……ウウ……ウ……」
苦痛に苛まれていた獣人は数秒のうちにぐったりと身体を弛緩させた。ベルローズの投げつけた光の矢は、神経系に作用して無傷で相手を戦闘不能にする昏睡の魔法であった。
「お前達! 女王陛下は叛徒どもは極力無傷で捕らえよ、と命令されている筈よ! 不必要な魔法の行使は、次からは審問にかける! 心しなさい!」
騎士隊長は鋭く冷たい声で黒服達を叱責する。一瞬、彼らは興ざめとでも言いたげに、苛立たしそうな視線を彼女に投げかけたが、すぐに卑屈な様子で頭を垂れるとへつらった。
「ひひひっ、申し訳ございません、ベルローズ様」
「反逆者憎しのあまり、つい手が出てしまいました、くくっ……」
天羽と塩蛇は王国社会の中では上下の関係にあるが、しかし両者の間には断絶と緊張が常に存在している。天羽は塩蛇の有用性は認めているものの、その性格と外見の醜さを見下している。その一方で、塩蛇達は天羽を威張り散らす鼻持ちならない連中と考えて、表面だけ服従しているのだった。
ベルローズは強者におもねるサディスト達の言葉を聞き流し、倒れている獣人の近くの歩兵達に指示を下した。
「歩兵、その『狗鬼』を拘束しなさい」
「はっ」
「ただちに」
中肉中背の歩兵達ががちゃがちゃと鎧を鳴らしながら、倒れている大きな獣人を鎖で縛り上げる。
この歩兵達は『地奴』という労働種族だ。魔法力は持たず、さりとて獣人達のように身体能力に優れるわけでもないが、商業の才能や手先の器用さから天羽の社会では中の下あたりのヒラエルキーを占めている。強いわけではないが人数が多く、命令にもそこそこ忠実なので兵隊としては有能な種族である。
そうして小一時間ほども経過し、作戦計画どおりに、反乱街区の深部まで一行が到達した時だった。
「?!!!」
ベルローズの視界の隅を、大きな青灰色の何かが横切った。その動きに危険な何かを感じ取った彼女がそちらに視線を向けた瞬間。
グシャッ! ドシャァアァァッ……!
複数の、鉄のひしゃげる音と何かがちぎれるような音が響き、一瞬遅れて絶叫が上がった。
「ぐあぁああぁぁぁっっ!」
「ぎゃあぁあああぁぁぁっっ!」
部隊前方で、兵士達の奇妙にねじくれた鎧姿がいくつも、真っ赤な飛沫を上げながら空中に舞い上がる。
ドゴッッ! ブシュアァアアッッ!
「ひぃいいいっっっっ……!」
「てっ敵襲っっ!」
「うろたれっあぁああぁぁぁっっ……!」
兵士達が空しく吹き飛ばされる中央に、襲撃者の大きな姿があった。濃い青灰色の毛皮に覆われて、歩兵達の倍近い上背がある。逞しい腕で長く太い鉄棍を振り回しているその獣人は、熾火のように輝く眼でベルローズ達を爛々と睨むと咆哮した。
「ゥオオォォオオオオオッッッ!!」
まだ距離が離れているにも関わらず、額当てが共鳴してびりびりと響く。雄叫びを浴びながらも、騎士隊長は怯む事無く部下達を叱咤した。
「立て直せっ! 敵は一匹よっ! 歩兵っ、陣を組んで長槍で動きを封じなさい!」
睨み返しながら、襲撃者を観察する。巨体の割に動きが早くて細部が見えないが、王都に多数住み着いている狗鬼とは身体付きが異なっているようだった。
作りの良さそうな黒い革鎧で胸と腹を覆っているし、何より武術の訓練を受けたかのような洗練された動作が、無法者ばかりのスラムの獣人達とは決定的に違っている。
その姿に、ベルローズの胸の中に、いい知れぬ不安がわだかまった。
(あれは何? 狗鬼じゃない……あんな獣人、見た事がないわ……一体何が起きようとしているの?)
しかしベルローズの危惧にも気づかずに、部下のサディスト達は喜々として騎士達の前に走り出ると魔法投射の構えをとる。
「ひぃっひひひひっ、いいぞいいぞっ、活きのいい馬鹿がまだ残っていた」
「こりゃ楽しませてくれそうじゃないか、くくくっ」
塩蛇の黒革の手袋越しに、苦痛魔法の紋様が次々と浮かび上がる。一般に獣人は身体能力は高くとも魔法に弱いため、彼らにとっては恐るに足りぬ相手なのだ。
「そらっ、『メクウスの苦棘』を喰らえっ!」
「ひゃはぁっ!」
巻き添えを恐れて歩兵達が慌てて戦列を開く。そこに突入しようとしてきた襲撃者目がけ、悪意の込められた紫の光の矢が一斉投射された。
カッ! カカッ!
寸暇を入れずに青灰色の獣人に何本もの魔法が命中し、不気味な放電がその巨躯を包み込む。
塩蛇達が好んで扱うこの魔法は、抵抗力に欠ける獣人が浴びれば一発でも悶絶して戦闘不能となり、複数が命中すれば生き地獄を味わう凶悪な苦痛の塊だ。
「当たったっ、ははっはははっ!」
「ひひひひっ……さあっ苦しめぇえっ……え?!」
サディスティックな歓喜に浸っていた塩蛇達は次の瞬間、驚愕した。襲撃者を確実に縛り上げる筈だった地獄の苦痛がふっと掻き消えたのだ。
「ば、馬鹿なっ……獣人ごときが魔法……抵抗だと……ひっ、ひぃいぃぃっっ!!」
「ヌォオオオォオオオオッッ!!」
そこに憤怒の炎を眼に燃え上がらせた獣人が飛び込んでくる。
ドシャァアアァァッッ!
濃青の嵐に巻き込まれ、黒尽くめの魔法使いが十人以上、一瞬のうちに吹き飛ばされた。防具を着けていない塩蛇達の身体は奇妙にねじくれて弾け飛び、悲鳴すら上げずに全員即死した。
「くっ、怯むなっ! 側面歩兵っ、前へっ!」
ベルローズの指示どおり勇敢な歩兵達が前に飛び出し、標準装備の長槍で槍襖を組んで恐るべき攻撃者をベルローズ達の目前でなんとか食い止める。
(獣人なのに、魔法が効かないなんて……いや、まさかあれは、あの角は……『錐虎』?!)
残り数メートルにまで詰め寄られて、彼女は獣人の額に太く短い一本の角が突き出していることに気づいた。それは王都に住んでいるどの獣人種族にも見られない特徴だが、以前読んだ文献を思い出したのだ。
「お、おのれおのれおのれっ獣人風情がっ……今度は本当の地獄を喰らわせてやるっっ……ぬうぅぅっっ!」
敵の正体を見定めんとする騎士の足下で、どろどろと怒りに塗れた声がわき起こった。今しがたの攻撃の範囲外にいた塩蛇達だった。彼らは予想外の展開に逆上して、今度は最高出力の苦痛魔法を喰らわせてやろうとして、ぎらぎら輝く紋様をその掌の上に浮かび上がらせる。
「ま、待てっ、歩兵を巻き込むような魔法を使うなっ……」
ベルローズが無謀な魔法攻撃を止めようとした瞬間。
ヴゥンン……!
視界の外、戦場と化した通りを囲む建物の屋根から赤黒い炎が迸って、鞭のようにしなり塩蛇達を打った。途端に、彼らの掌の上で形作られつつあった多数の苦痛魔法の球体が、オレンジ色の閃光とともに次々と爆発する。
「ぬあぁっ!?……あ……ぁぎはあぁああぁぁぁあぁぁああぁぁぁぁっっっ〜〜!!」
「げひっ……ぎひぃっひひひひぃいひひひひぃいぃぃぃぃっっっ〜〜っっ!!」
黒服達は奇妙な断末魔ととも泡を吹きながら、もんどりうって路上に崩れ落ちた。ねじくれた彼らの身体は、オレンジ色の稲妻をまとわりつかせたまま数秒間痙攣し、それから動かなくなった。
「し、死んだ……?! 魔法の暴発……? いや、違う……これは苦痛魔法の効果じゃない……!」
両性具有の騎士達は、死体達の大きく盛り上がった股間から戦場に相応しからぬ臭気が立ち上っているのを感じ取った。血や内臓とは異なる、精液の生臭さだった。塩蛇達は想像すら出来ぬ程強烈な快感を浴びせかけられ、それに耐えられずに死んだのだ。
苦痛魔法が暴発した筈なのに、極限の快楽に悶絶死する様を目の当たりにして、ベルローズは敵の正体に思い至った。見れば、死体達の手には異様な形状に歪んだ魔法紋様がまたたいている。
「やはりこれは……呪詛……! 騎士隊、抜刀っ! 『咒寇』の襲撃よ!」
「えっ……!」
「じゅ、咒寇……?!」
騎士の部下達が緊張し、腰の剣を引き抜いた。
『咒寇』。
その種族こそは魔法とは原理を異にする忌まわしい力、『呪詛』を操り、散発的にではあるが、王国に破壊と略奪を仕掛けてくる、天羽にとって不倶戴天の宿敵なのだ。
「見なさい、連中は魔法発動プロセスに干渉してくる。不用意に魔法を使わないで。こういうふうに異常発動させられるわ!」
咄嗟に部下達に注意を呼びかける。うかつに魔法を使えば、足下に転がる屍達の二の舞になるおそれが大きかった。
「ま、魔法封止ですか……はいっ!」
「くっ……了解っ……魔法無しだって、やってやるっ!」
良い状況ではなかった。騎士とは言っても天羽は魔法種族であって、肉体的に優れているわけではないから、戦闘は強化魔法や攻撃魔法の併用が前提である。王国最強の騎士とうたわれるベルローズでさえ、武技よりも魔法のほうがずっと得意なのだ。目の前で荒れ狂う獣人に、彼女達が魔法なしで対抗するのは困難が予想された。
「皆、咒寇を探しなさい! 歩兵があの獣人を食い止めている間に、呪詛を排除する!」
この状況を打開するには、呪詛を操って魔法暴発を引き起こしている咒寇を倒す必要があると思われた。焦りに頬を強張らせて、騎士達は周囲を見渡す。だが。
「なあに、探すまでもねえさ」
「!?」
……ドスンッ!
粗野な口調の甲高い声とともに、ベルローズ達の目の前に、青黒い塊がどこからともなく飛び降りてきた。兵士達が戦っているのと同種の、大柄な獣人だった。そして、第二の獣人の太い首筋に腕を絡ませるようにして、一人の少女が肩に腰を掛けている。
小柄な肢体はすらりと引き締まっていて、わずかな黒革の装身具だけをまとい、やや褐色がかった肌のほとんどを曝け出している。腰に吊るされている武器は鞭だ。
少女の黒々とした蓬髪には僅かにウェーブがかかってたなびき、そこに小さな軍帽を斜めに乗せている。地獄の炎のように赤い瞳は鋭く輝き、不敵に微笑む唇は黒死の色に塗られている。
「アタシは咒寇の頭、ゼーア。くくくっっ……アンタ達、どんな呪詛が味わいたいかい?」
ゼーアと名乗る少女は、魔法騎士達に向けて軽く顎をしゃくって挑発した。伸ばした前髪がばさりと揺れる。その間から覗いた左の額にだけ、長さ十センチ程の一本角が生えていて、それこそは天羽の宿敵である咒寇の特徴だった。
それだけではなかった。
ドスンッ!
ドスドスッ!
さらに三体の有角獣人がベルローズ達を取り囲むように飛び降りてきた。いずれもその肩には、ゼーアと同じような装束で額に一本角の生えた女達がまとわりついている。
「四体も……!?」
突然の状況変化に、ベルローズの掌が脂汗でじっとりと濡れた。一体でも手こずる強力な敵に取り囲まれた上、補助の役割を果たす筈の塩蛇は全滅し、生き残った歩兵達は最初の獣人の相手で手一杯のままである。
「おい、いい加減降りろゼーア。暴れるのに邪魔だ」
その声はゼーアと同時に出現した獣人だった。大きな手を伸ばし、自分の肩の上からゼーアをつまみ上げて下に降ろそうとしていた。
「ちょ、何すんだガーシュカ! あいつら馬乗ってるじゃんかよ! 徒歩じゃ不利なんだよ!」
頭領ゼーアは自分が乗っている獣人に慌てて抗議する。
「ああ? 俺を馬扱いする気か? チッ、しょうがねえな……この貸しはあとでたっぷり返してもらうからな、ゼーア」
ガーシュカと呼ばれた獣人は、渋々といった仕草で少女を肩に戻した。他の獣人達もいささか不満げな様子で乗り手を肩の上に残す。
「そ、それでいいんだよ……よし、それじゃ作戦開始だ!」
少女頭領は獣人の首に片手を回すと、もう片方の腕で鞭を空中で鳴らして叫んだ。
「くっ……ふざけてるの?」
敵の余裕ありげな様子にベルローズは歯噛みしながらも剣を握り直す。有角獣人達は乗り手の咒寇に反抗的であるようにも見えたが、しかし相手の失点待ちは愚策であろう。あの獣人は一体でも恐るべき相手なのだ。
ベルローズは部下達を鼓舞するべく、刃で敵を指し示して、凛とした声を張り上げた。
「騎士隊は二騎一組で敵に当たれ! 私は正面の奴をやる! 行くぞ!」
†

天羽の騎士達が刃をきらめかせて突進する。
魔法を封じられはしたものの、精鋭達は果敢に立ち向かう。
そこへ、咒寇達が炎をまとわりつかせた鞭で狙い撃つ。
彼女達を乗せた巨大な獣人も、丸太のような腕で殴り掛かり、あるいは攻撃をいなす。
今のところ双方とも戦闘不能者は出ていないが、戦況は咒寇側が一方的に押していた。
「くくくっ……いいねアンタ、なかなかやるじゃん。名前は?」
唇から牙を覗かせて、目の下の隈取りを歪ませながらでゼーアが笑う。彼女が乗っている獣人ガーシュカは冷静一徹の表情だ。
開戦前のドタバタした印象とは違って、戦いでは咒寇と錐虎のコンビはまさに一心同体ともいうべき動きを見せていた。乗り手に力ずくで服従させられているといった様子は全く感じられない。
敵ながら、信頼し合って、意思を通じて積極的に動いているように思えた。
一方、馬上のベルローズは肉体的なダメージは無いものの、早くも疲労が色濃い。この隙に少しでも息を整える時間を稼ごうと、一歩下がってから名乗る。
「…… はっ、はあっ……ベルローズ。『緋の剣』ベルローズよ」
二つ名のとおり、彼女は魔法剣を得意としているのだが、しかし今は暴発させられるため使えず、握っているのは強化なしの剣だ。
本来、天羽は肉体的には優れたところはないのだが、彼女たちは騎士として武術の修練も重ねてきたこと、ならびに日頃から肉体鍛錬のための魔法を掛け続けてきたおかげで、通常の武器だけでも何とか防戦出来ている状況だった。
「ふふん、ベルローズか。よし」
名乗りを聞いて、咒寇の少女がにやりと笑った。
(……ここまでなんとか応戦できた……マヴェオンの鍛錬魔法に感謝を……でも、まずいわ……体力が尽きる前に手を打たないと……なんとか、状況を打開しなければ)
手の中の剣は羽銀と呼ばれる軽くて頑丈な金属で出来ているものの、屈強な獣人を相手にしているせいで、重く冷たい疲労がじんわりと身体に染み込みつつあった。鉄の柱のような獣腕と打ち合うたびに、強烈な衝撃が骨まで軋ませてくるのだ。
震えそうな腕を、力を込めて無理矢理押さえ込む。暴発の危険がある以上、魔法で体力回復を計るわけにもいかなかった。
疲労を悟られまいと、騎士隊長は鋭い目つきで目の前の敵ペアを睨みつける。しかし、彼女が相手をしているゼーアとガーシュカ、そして背後の部下達と戦っている咒寇と獣人達もほとんど疲弊していない様子だった。
(だけど、呪詛については分かった事もあるわ……そこを突けば……)
さして長くもない戦闘だったが、ベルローズは呪詛についていくつか知見を得ていた。
(一つ、呪詛も魔法と同じように、発動のためのモーションなり前触れなりがある。一つ、放たれた攻撃型の呪詛は上位の神の魔法なら相殺できる。後出しになっても、魔法を放てばある程度呪詛を妨害できる。一つ、その逆もまた真……)
彼女の身体には、これらの教訓を得るまでに相殺し損ねた呪詛の残骸がいくつか絡み付き、不気味な放電を繰り返している。
(こんな短時間で分かることが、なぜ王国軍の教本にないのかは分からないけど、でも……)
と、その時、目前の獣人が一歩間合いを取る。肩の上の少女が軽く掌を泳がせ、攻撃目標に焦点を合わせようとして目つきが鋭くなる。魔法と同様の、呪詛の最初の兆しだった。
(!……来るっ!)
その瞬間、ベルローズも魔法の発動に移っていた。
「至高のグロウディナスよ! 我に勝利の雷を!」
ここが最後の勝機だと直感した彼女は、突き出した指先に全身全霊を込めて、正確かつ高速に魔力をかき集める。
ズシュゥゥッ!
一瞬のうちに、騎士の右手に太陽神の紋様が描かれたかと思うと、金色に輝く光の矢が生まれ、獣人達目がけて放たれた。
ベルローズの奥の手、高速発動だった。通常よりもはるかに早く魔法を発動できる代わりに効率が悪く、一撃で魔力をほとんど消費しつくしてしまう諸刃の剣である。
「……チィッ! 『憎悪の蝕環』っ!」
攻撃の直前の虚を突かれ、ゼーアは反応が僅かに遅れる。慌てて呪詛の標的をベルローズから魔法の矢へと切り替えて発動した。
ヴァアァッッ……! カカッ!
「くうぅっ!!」
金色の魔法の矢と赤黒い呪詛のリングは、少女頭領の眼と鼻の先で接触し、相殺し合って目映い光となって炸裂した。至近距離での目つぶしに、さしもの強敵達も動きが止まる。
「今だっ!」
その時には既に、ベルローズは乗馬の腹を蹴って白い閃光のただ中へと突撃していた。
「グウウッ、おのれっ!」
ごぅんっ!
視力を失って闇雲に振り回される獣の豪腕を紙一重で躱す。
「くらえっ……?!」
そして構えた羽銀の剣の切っ先で、敵の喉元に狙いを定めた瞬間だった。
……ドォッ……!
ベルローズは何が起きたのか分からなかった。気づいた時には、目の前には敵の姿はなく、彼女の身体はぐるぐると回転する世界の中で空中に浮かんでいた。
どさっ……!
一秒後、激しい衝撃とともに地面に仰向けに叩き付けられる。
「ぐはっ!」
呼吸はできないが苦痛もまだ来ない。
彼女の目の前から火花が消えると、逆さまの視界にはどんよりした灰色の空と古ぼけた石の街並、そして屋根の上に立っている一人の女の姿が見えた。ゼーアと同じような露出過剰の装備を身につけ、右額の一本角の下で獄炎色の赤瞳が悪意を湛えて笑っている。
「ふ、伏兵……っ」
突撃の一瞬、無防備になっていた背後にこの敵から攻撃を受けたのだ。
倒れた石畳の上で呪詛に縛り付けられたベルローズは、遠のく意識の中、五人目の咒寇がひらりと屋根から飛び降りて近づいて来るのを見た。
その女はゼーアよりも背が高く、髪も長く、胸や腰も成熟しているが、顔つきはどこか似ているようにも思える。青黒く塗られた唇が開き、白い牙が剥き出しになる。
「ふふっ、悪いわね、騎士様。お邪魔しちゃって。ま、生命までは取らないから安心してお眠りなさいな。私の名はククーア。頭領ゼーアの姉よ♪ ……ってまだ聞こえてるかな?」
(2)虜囚の辱め
「うう……ここは……?」
意識を取り戻したベルローズは、薄暗い部屋の中で、椅子の上に拘束されていた。耳を澄ましても物音はせず、空気にもほとんど臭いがついていないところを見ると、随分昔に放棄された廃墟かなにかなのだろうか。
「そうだった……奴らに、咒寇に……痛っ……」
屈辱的な敗北を思い出し、眉を顰める。それから自分の身体を見回して、状況を確認しようとした。見下ろすと、白いロインクロスの短い裾から見慣れた自分の太腿が伸びているのが見える。何故かレギンスだけ脱がされているようだった
着衣や装身具のたぐいはそのままだが、腰の剣や両手の魔法装備は取り上げられている。両手は椅子の背中にがっちり固定されていて、抜けることは無理そうだ。それ以外の両脚や首は自由なのだが、椅子自体が床に固定されていて移動は不可能だ。
背中と後頭部がずきずきと痛むが、それ以外は支障はなさそうだ。どれだけの時間が経過したのだろうか、戦闘中の疲労も多少は回復している。
「……くっ、不覚を取ったわね……緋の剣ともあろうものが、捕虜の辱めを受けるなんて……ああ、みんな、無事だといいけど……」
意識を失う直前の戦闘の様子を思い出して呟く。友軍はかなり不利な状況だった筈だ。
「あら、部下のことが気になるのかしら?」
「!」
不意に低い女の声がして、ベルローズはぎょっとした。そちらに顔を向けると、薄闇の中からにじみ出るようにして、二人の咒寇が姿を現した。グラマラスなククーアと、やや小柄でほっそりした体つきの頭領ゼーアの姉妹だ。
「あの後はアタシらソッコーで引き上げたさ。お前を捕獲するのが作戦目的だったからな。お前の手下の天羽どもは適当にブチのめしといたけど、まあ死んじゃないだろ。治療魔法が間に合えばだけどな」
「な、何、どういうこと?! 私を拉致するのが目的……? そんなことのために私の部隊を攻撃したの?」
天羽の騎士はともかく、塩蛇や地奴の部下達が大勢死んだのだ。その死が自分一人のためだと聞かされ、ベルローズは思わず憤った。
と同時に首をひねった。彼女は魔法騎士として名を馳せてはいるものの、王国にとってはそれほどの重要な人物ではない。手間暇かけてまで攫ったとしても人質にする価値はないし、国家の機密情報にも縁はない。
理不尽と不合理に眉を怒らせる彼女に、妖しく微笑んで姉ククーアが説明しようとする。
「私たちが欲しいのは王国の秘密でも人質でもないわ。優秀な天羽の血筋よ。これは私たち咒寇の力と関係するのだけれど……」
しかし、姉の言葉をゼーアが遮った。
「チッ、話なんて面倒なことは止せククーア。さっさとおっぱじめようぜ」
「んもう、ゼーアはせっかちなんだから……まあいっか」
グラマラスな姉は肩を竦めると、ぬめぬめと青黒い唇をにっと歪めた。そして。
「? えっ……な、何を……っ?!」
ベルローズは戸惑った。咒寇の姉妹がかがみ込み、椅子に拘束された彼女の腿にしなだれかかってきたのだ。黒革の僅かな装束から溢れる、ほとんど剥き出しに近い乳房がそっと触れる。邪悪な術を使う者とは思えぬ、暖かく柔らかな刺激がさざ波となって体中に広がっていく。
「光栄に思えよ? 咒寇を束ねるアタシ達姉妹が、二人掛かりで気持ちイイことしてやるんだからな」
姉妹の二十本の指が繊細な楽器でも奏でるかのように腿の上をつつっと動き回る。触れた部分から肌が泡立つような疼きがじんじんと広がる。
「んくっ、ふあぁああっっ……な、何するっ……」
微妙な愉悦に思わず背筋を強張らせてしまうベルローズ。だが指達はじわじわと遡上して、腰まわりを覆う短いロインクロスの裾をゆっくりと掻き分けていった。
「んふふ……天羽最強の騎士様はどんなのをお持ちなのかしらね♪」
期待に満ちた淫らな視線で見上げてきた。二人の頬に刻まれた青黒い隈取りが、赤くぬらめく瞳の妖艶さをかき立てる。
虜囚騎士の滑らかだが鍛えられた太腿を守る裾はうごめく指によってざわざわとめくれ上げられ、1センチ、また1センチと奥地に向かって露になっていく。すると魔法騎士の皮膚の内側で、屈辱感や不安だけでなく、制御しがたいもどかしい衝動がうずうずと掻き立てられていく。
(一体、何をする気……? そ、そこっ……ううっ……こんな奴らの前で、恥を晒すなんてっ……! うう、静まれ、静まって……っ)
ベルローズのプライドに反して、彼女の両脚の間では、刺激に呼応して熱い血潮が終結しはじめていた。やがて、彼女の下腹部を覆う小さな薄布まで侵攻は到達した。白いショーツの前はすでに両性具有の器官によって盛り上がり始めている。
「お、もう膨らんでるぞ。くくっ、結構デカいんじゃないのか、お前?」
「ふうん、天羽の下着は紐止めなのね。なんだか窮屈そう」
指が腰の脇に回り込み、細い爪先が器用に動き回ってショーツを止めている両サイドの結び目をほどいてしまった。それから姉ククーアはにやりと笑うと、唇をショーツのサイドの隙間に寄せて。
「んふふふ……ふーーっっ!」
息を中に吹き込んだ。
「あひぁっ……あはあぁあぁぁあっっ……!!」
甘く暖かい吐息に包まれて、遂に騎士の両性器官は意思の制御を完全に逸脱してしまった。
びょんんっっ……!
ほどかれたショーツを一気に跳ね跳ばして、天羽の証が堂々と屹立した。周囲に何かの花のような甘く、それでいてどこか生々しい匂いが立ちこめる。
「うわっ」
ゼーアが驚きにびくんと背筋を震わせ、目を丸くする。
「凄ぉいっ……こんなだなんて……♪」
ククーアが思わず賛嘆の声を漏らす。
ベルローズの勃起ペニスは、それは見事としか言い様がなかった。剣の柄のように両手で握ってもまだ余るほどの長大な幹は色こそ色白なものの、浮かんだ血管に節くれ立って弓なりに反り返っている。そしてその上で、濃紅色の大きく開いた肉傘はその山腹を臍の上あたりにぶつけている。
(くっ……宝殿を勃起させられるなんて……しかも、敵にっ……! こんな辱め……許さないっ……!)
主が恥辱に身体を震わせると、巨根もぴくぴくと脈動する。
「普通の身体なのに、チンポだけはウチのガーシュカといい勝負だぞ、コイツ」
「んもう、こんな見事なシロモノだったら、恥ずかしがらずに堂々としていればいいじゃない。ふふ、楽しみだわ」
魔法騎士の太腿に顔を寄せている咒寇姉妹は、驚愕と好色な視線でそそり立つ亀頭を見上げる。それから。

ちゅっ
ちゅるっ
二人は毒々しい色に塗り立てられた唇をすぼめると、虜囚の巨樹をついばみ始めた。柔らかい唇が触れた場所から、愉悦が剛直の中にびりびりと響いてくる。
「なっ、何を貴様らっ……あっ、ふぁっ、あぁあっあっ……」
たちまちのうちに、海綿体の中に生じた甘い疼きが足腰へと広がって、血管の中をじんじんと伝い廻り始める。無意識のうちに太腿の筋肉がぴくつき、背筋が緊張する。
「んちゅ、んん、んちゅ……ああ、堅くて、熱くて、素敵だわ……ふうぅううっっ……」
「ちゅうぅうううっ、ちゅっ、ちゅうっ……んっ、こんなの入れたら、一体っ……んちゅ、ちゅ、ちゅっ……」
「はっ、くううっ……こ、こんなことで気持ち良くなんかっっ……んあっ、あううっ……!」
太幹の血管を、裏筋を柔らかな唇が這い伝い、亀頭冠のくびれをざらめく舌がなぞる。時折甘い吐息が吹きかけられる。流し込まれる快楽によってベルローズの鼓動は速まり、血液がどんどん加熱されていく。
ぬるぬるっ、つつつっ、ちろちろちろっ……
ちゅっ、ちゅっ、ちゅうっ、カリっ……
「ひあぁあっ……! かっ噛まないでっそんなっ、あぁっ、あぁあぁっ……はっ、はあっ、あっ! だ、だからっそれっっ……! ふぁうぅっ……!」
硬直した海綿体に鋭い犬歯が軽く突き立てられて、痛みと快感のインパルスが電流のように神経の中を迸る。ベルローズの息はもはや荒く熱く、白い皮膚はじっとりと汗に濡れ、巨大な完全勃起は紅潮し、鈴口に透明な粘液の滴を浮かべていた。
「こ、こんなことで、この私が……っううっ……くっ……」
姉妹の口唇奉仕により、ベルローズの快楽は嫌が応にも高まっていった。下腹の奥で、解放を切望する塊が膨れ上がってきて、彼女はそれを静めようと必死で目をつぶり、呼吸と鼓動を整えようとする。と、その時。
「んんっ、ふぅ……そろそろいいんじゃないか?」
「そうね。無駄撃ちさせても仕方ないし……それじゃ騎士様、お仕事してもらおうかな♪」
「はっ、はあっ……?」
不意に二人の唇が血管浮かぶ怒張から離れた。やるせなく疼く欲望の塊をその中に残して、姉妹は立ち上がると拘束状態の魔法騎士を再び見下ろす。
「……し、仕事? どういうこと? ……いや、何だろうと協力などするものですか、お前達になど……!」
頬を赤らめ、息を荒げながらも意地で睨み返すベルローズ。すると姉ククーアが、地獄色の瞳と毒色の唇でにんまりと笑った。
「ふふっ、威勢がいいのね。でも、こんなギンギンにしてる騎士様には、今更拒否なんて出来ないわよ。だって、してもらうことは、私たちへの」
いっぺん口を止めると、一言ずつ区切ってねっとりと発音する。
「た・ね・つ・け、なんだから♪」
「ま、せいぜい楽しませてくれよな」
ぱちんっ、ぱらっ……
言葉と同時に、姉妹の身体を僅かに覆っていた黒革が外れ落ち、下腹部が露わになった。
そこにはベルローズ程ではないが、勃起したペニスが赤黒い亀頭を高ぶらせている。咒寇は天羽と同じ両性具有種族なので、雄根の下側には淫蜜滴る雌花が隠れている筈だ。
「なっ……?!」
呆気に取られたベルローズの目前を、ゼーアの小柄な褐色の裸体が塞ぐ。脚を開き、彼女の膝の上に乗っかってきたのだ。
腰の真上、いきり立った巨根の射線上に剥き出しの雌器官が来るよう、のしかかる位置を調整する。額に甘く暖かい吐息が吹きかかり、まだ防具を付けたままの肩を黒革の手袋が掴む。
熱くぬるつく粘液が一滴、ベルローズの先端に落ちてきた。
「あら大丈夫なの、ゼーア? 先に私が馴らしてあげたほうがいいんじゃない?」
「フンっ。いいか、こういうのはまず、頭領のアタシからだ! ……それにしても、うう……デカいな……」
少女頭領は頬を火照らせながらも、華奢な肢体に突きつけられた巨大な凶器を案じてか、眉を躊躇いがちに寄せる。それから覚悟を決めてぎゅっと眼を瞑ると一気に腰を落としてきた。
にゅぐっ……
「……ふぅっ……」
巨樹は、先端が肉腔に嵌った状態で、括約筋に一旦侵入を阻まれる。しかしゼーアはそのまま腰に力を込めて、一思いに押し込んできた。
ごりゅっ……みりみりみりっ……
沈み込むのにつれて、ゼーアの体内の肉輪が軋みながらじわじわと広がっていく。滾り切った亀頭を包む熱くぬかるむ圧力が徐々に滑り降りてくる。その刺激が、ベルローズの怒張の中を身震いするような愉悦となって駆け下りてくる。
「ふっ……くぅうっっ……!」
張り出した亀頭冠がぎりぎりまで開き切った括約筋を通過すると、大怒張は幹の半ばまで一気にその奥の熱粘膜に突き進んだ。
ずぬるるっっ……
「ぅああぁあぁぁっっっ……! は、入ったぁあぁぁっっ……!!」
侵入を許した後も、少女咒寇の肉隧道は巨根にとってひどく狭隘だった。手狭な肉襞を強引に掻き分けながら、天羽騎士の凶器は胎内を進む。
ごぐんっ!
淫肉の奥底で、先端が堅く弾力に富んだ関門にぶつかる。それをさらに押し込んでようやく侵攻は止まった。
「んふぅんんっ……! んうぅううっっ……!」
「っくぁ……ぁあ……あぁああぁぁっっ……」
全身を走り抜ける熱い喜悦に、二人は震え声で呻いた。

「まあ、偉いわゼーア、ちゃんと全部呑み込めたのね♪ あら、お腹が出っ張っちゃってる」
「し、初心者扱いすんなっ……う、うぅうっ……」
ククーアが二人の結合部を覗き込む。
ゼーアの牝肉は、ベルローズの長大な勃起をなんとかほぼ全て収め終えていた。流石に苦しいのか、少女は眼をつぶってぶるぶると身体を震わせたままだ。呼吸を整えようとしてか、軽く背を反らせて、褐色の控えめな乳房を前に突き出して喘ぐ。
しかし静止した状態にも関わらず、彼女の肉腔は、呑み込んだ牡を消化しようとでもいうかのようにぐねぐねと蠢き締めつけて来た。肉幹を強く弱く締め上げるように愛撫されながら、鋭敏な亀頭全面をぬめぬめと舐め擦られる。
絶え間なく浴びせかけられるその刺激は、これまで天羽同士の交わりでは味わったことのない鮮烈な体験だった。全身の血液が熱く沸き立っては、脳髄を煮溶かし、内臓を茹で上げ、そしてペニスに流れ込んでは勃起海綿体を更に大きく膨張させる。
「うぁっ、こっこれっ、狭いっっんあんんっっ……! い、一体、どういう積もりなのっ……?」
虜囚騎士は快楽に流されまいと抗いながら、横で覗き込んでいるククーアを睨みつけた。
「ふふ、言ったでしょ、種付けしてもらうって……ああ、種付けの理由? それはね、魔法が欲しいのよ♪」
「ま、魔法……? あっ……んうぅっ……!」
邪に微笑む黒唇から言葉が紡がれる。
「私たち咒寇は呪詛は得意だけど、でも魔法は使えないわけじゃない? 魔法と呪詛の両方使えたら、陸上の貴方達の国を征服するのも簡単になるかなって思ったのよ。だから、天羽の中でも特に魔法の得意な強い血筋の人に種付けしてもらって、両方を使える咒寇の仔を作ろうって計画よ♪ ま、ちょっと気長だけど、でもシンプルな話でしょ?」
「なっ……何だとっ……! くっ……うううっっ……」
ここに至って、ベルローズは咒寇達の恐るべき陰謀を理解した。このまま快楽に敗北し、相手の胎内に精液を漏らしてしまったなら、それはやがて祖国に対する深刻な脅威となるかも知れないのだ。
責めに屈して射精することは、国や女王を裏切るということになる。忠誠なる騎士の筈の彼女にとって、それは絶対に許し難い未来だった。
「……ク、ククーア、おしゃべりは止めろ……気、散るだろっ……んはっ、んはぁっ……そろそろ、動くからなっ……」
「あら、ゼーアが辛そうだから、気を紛らわせてあげようと思ったのに。ま、そんなわけだから、頑張って私たちに強い仔を孕ませてね、騎士様♪」
全裸の咒寇姉がウインクすると、頭領の妹がおそるおそる腰を動かし始めた。ベルローズの忠誠を押し流さんとばかりに、強烈な愉悦が次々と擦り込まれてくる。
ぐぐっ、ぬちゅっ、ぎゅううううっっ……
ゼーアが細腰を持ち上げていくと、無理に嵌り合っていた鋭敏な充血器官同士が逆向きに擦れ合って、火花のような快感が飛び散る。熱く柔らかな肉襞に並んだ無数の顆粒状の突起が鋭敏な亀頭粘膜に擦れて、びりびりと痺れるような快楽を迸らせる。
「こ、こんなことっっ、許すものかっっ……あうぅっ、ううううっっ……!」
「んくっ、んんっ、くぅうぅぅっっっ……!」
ずるずると内臓を引きずられるような肉悦に二人は呻き、背中を震わせる。
やがて長大なペニスのほとんどが抜き出された。節くれ立った幹は多量の粘液にぬらぬらと濡れ、少女咒寇のピンク色の淫唇は内側からめくれ上がっている。
「はあっ、はあっ……んうんんっっ」
ぬりゅっめりゅっ……みりっ……みりみりっっ……にぬぬぬぬっ……
ゼーアはしばしの間肩で息をしていたものの、すぐに腰を沈めて再び呑み込み始める。
「んあぁぁっ……くっ、くうっ……屈……するものかっっ……私は騎士だ……天羽の、アルーカヤ王国に、陛下に忠誠を誓った騎士なんだ……うぅうっっ……!」
熱く締めつける器官にペニスが埋もれてていくにつれて、長軸に沿って高圧電流のような激しい刺激が流れ込む。快楽が内臓にまで響き、子宮や直腸がぐねぐねと身悶えを始める。
摩擦と圧迫のもたらす淫楽の嵐を、ベルローズは歯ぎしりして堪えた。
みぢっ、ぎゅちゅっ……ぬぶぶぶぶっ……ぶぽっ……
ぎちゅっ、ぎちぎちぎちっ……みりみりみりっっ……
「はくっ、んんっ……くうぅううっっんっ! ど、どうだアタシの中っ……イイだろっ……はぁっ……さっさとイっちまえよ、ホラっ……ぅううぅぅっ……」
苦悶にも似たうめき声を漏らしながらも、ゼーアの腰使いは止まらず、鮮烈な快楽を生み出し続ける。摩擦と刺激のせいで、ベルローズの海綿体を勃起させている血液全てが熱く煮えたぎっている。体中の皮膚を熱くぬらつく汗がじっとりと濡らす。
(ううっ、くうぅうっっ……なっ、何て快楽なのっ……こんなっ狭くて、熱くてっ……! あっああっ、ぎゅっ……ぎゅってっ……! くううっ……ま、負けるものかっ……! 侵略に手を貸してなど……なるものかっ……!! この私が……フロレット陛下に叙任された、この私がっ……っ!)
「そんなに頑張らないでよ、騎士様。ゼーアが可哀想じゃない♪ ほら、外から分かるくらいお腹が膨らんじゃってる……ね、早く種付けしてあげて?」
底意地の悪そうな微笑みを浮かべ、咒寇姉が囁く。すると妹頭領は快楽に悶えながらも眉根をつり上げて言い返し、反抗するかのように腰使いを加速した。
「はうっ、うっ、うるさいっククーアっ……こ、こんなの位っ何ともないっっ! くっ、んあっ……あ、あぁああぁぁぁっ!」
ぬぶっ……ぎゅぶぶぶぶぶっっ……ぎゅちゅっ……みぢみぢみぢっ……
褐色の細く締まった美尻が、リズミカルに上下する。
ぬりゅっ……めりゅっめりっめりっ……ぬにゅっ……ごぶぶぶぶっ……
薔薇色の媚粘膜の中から滴る粘液とともに極柱が引きずり出されては、浅ましい水音を立てて再び呑み込まれる。上下する度に弾性に富んだ肉襞が張り出した笠と擦れ合い、節くれ立った幹を括約筋が締めつける。
熱く狭い肉腔にもみくちゃにされて、ベルローズの射精衝動はあっという間に危険水位まで膨れ上がった。下腹部の奥で熱く疼く高圧の塊が、内側から彼女を屈服させようと責め苛んでくる。
快楽の波状攻撃を浴びながらも、ベルローズは朦朧とする頭で打開の算段を考える。
(つ、辛いっ……射精っ我慢っ……! いいえっ、駄目っ、射精しては駄目っっ……! 耐えなくてはっっ……ううっ、くうぅううっっ……こいつが、この咒寇が先に果てればっ、きっとっ……!)
先にゼーアを絶頂させれば、なんとか隙を突いて膣外射精することも可能かもしれない、と苦悶の中で希望を見いだそうとする。そんな彼女の耳元に、ククーアは甘く邪悪な息を吹きかける。
「んもう……素直になってくれたなら、騎士様をそのうち、どこか征服した国の支配者にしてあげたっていいのよ? 咒寇になるための洗礼は受けてもらうけど」
「ふ、ふざけるなっ……! はぁっ、あぁっ、はぁあぁぁっ……だ、誰が国を売るものかっ! んんっ、んはっ、んんんんっっっ……」
荒い息の下で、途切れ途切れに言い返すベルローズ。ゼーアも姉に反論する。
「折角捕まえたイイ捕虜なんだぞ、ククーアっ、ああぁぁっっ……咒寇以外は死ぬだろうがっ……憎悪の洗礼っ受けたらっ……」
「そうだったかしら? それはともかく、妹想いのアタシとしては、騎士様に早いところイって欲しいんだけどな。私の番もあるし。あ、そうだ……あの手でいこうっと♪」
<つづく>