(4)アンフィビウムの神々
この世界では、神々は姿は見えなくとも、確かに存在している。
神々は例外なく人間達を愛しており、人間達をそれぞれの定義するところの幸福へと導こうとして様々な影響(愛)を及ぼす。しかし、神々の考える幸福は一方的なものであるため、必ずしも人間にとって良いものとは限らない。
たとえば、太陽神『至高のグロウディナス』は人間を高みを目指し続ける強き求道者として愛するが故に、湧き出る力や強い意思力を与えてくれる。一方、闇の女神『奈落のラーナベルディ』は人間をか弱く愚かな存在として愛しており、その寵愛は底なしの快楽と泥沼のごとき安寧である。
月の女神『常若のサルーリア』は人体の若さや美しさを愛するがゆえに不老長寿を、医術神『清めのモリア』は健康を愛するがゆえに治癒や病からの回復を与えてくれるが、死神『枯骨のケフェド』は人間は苦しみ続けるばかりの哀れな生き物であると考えていて、その恩寵は逃れようのない死である。
全ての人間に分け隔てなく愛を与えようとする神も居れば、契約した者のみに愛を与える神もいる。大半の神は人間が望む場合のみ愛を与えるが、勝手に愛を押しつけてくる神も少数ながら存在する。『ラーナベルディ』は全ての人間に分け隔てなく、そして勝手に愛を押しつける神である。神話の時代、その危険性故に多大な犠牲の末に彼女は封印されたものの、未だにその愛は地上に漏れ出し続けており、あまたの文明や国家を破滅させ続けている。
『至高のグロウディナス』
天羽達の独占する神々の一柱である。序列6位。太陽神とされ、人間の幸福とは前向きに向上し自他に勝利し続けることだと考えている。
士気や意欲を向上させる精神魔法のほか、強力な物理破壊をもたらす攻撃魔法がある。天羽の建前上の主神でもある。
『常若のサルーリア』
天羽達の独占する神々の一柱。月の女神とされる。序列8位。若さや美しさが人間の幸福であると考えており、不老長寿をもたらす。
天羽達にとってグロウディナスと同等かそれ以上に重要な神。
『清めのモリア』
天羽達の独占する神々の一柱。健康な肉体が人間の幸福だと定義する医療神。
この世界の有能な医者は全て天羽であり、他の種族は大金を積んで高度な治療魔法を受けるか、非独占の他の神の魔法で代替するか、魔法以外の手段で何とかするか、諦めるしかない。
『声高きシノーン』
天羽達の独占する神々の一柱。歌や詩によって人間を幸福にしようとする歌神。音響の操作だけでなく通信魔法などもあり、地味に有用な神。
『夜のネーレフェ』
天羽達の独占する神々の一柱。美と性愛を幸福と定義する神。ラーナベルディと役割が重複するようにも見えるが、こちらは社会的には特に問題ないとされる。避妊術などもこの神の魔法。
『血まみれマヴェオン』
戦いの高揚と名誉こそが人間の幸福と考える武勇神。肉体の強化などを得意とする。天羽に独占されていない神であるが、他の魔法種族も肉弾戦に不向きな者ばかりのため使い道が少なく、一方で肉体派の獣人種族にとっては魔法そのものが難しすぎるため、出番の少ない神である。
『苦痛のメクウス』
苦痛にこそ人生の真実があると考える拷問神。天羽に独占されていない神の一柱であり、塩蛇達が特に崇拝する神である。
『枯骨のケフェド』
人間は苦しみもがくだけの哀れな生き物であり、死のみが救いであると定義する死神。天羽に独占されていない神の一柱。序列7位。魔法を使った瞬間に必ず術者が死ぬため、魔法研究が進んでいない。
『太ましきルデルロ』
勤勉に働いて収穫の喜びを感じることが幸福であると考える健全な神。天羽に独占されていない神で、豊穣の神とされる。農民のための疲労回復や軽い傷病の治療などの魔法もある。魔法の難度が低いため、魔法能力の弱い地奴、地婢にも扱える者がいる。
『奈落のラーナベルディ』
人間をか弱く愚かな赤子と見なしてひたすら愛し、快楽と安寧を与えては破滅させてしまう狂気の大地母神。序列は4位で、現在活動している神々の中で最高位。これは、神代の末の戦いで、彼女を封印する際に多数の上位神が力尽きたためである。唯一、人間を憎悪しない神でもある。
『オードの螺旋』
転生神とされる。生きている人間に影響を及ぼすことがなく、転生の明白な証拠もないため、この世界において存在を疑われている唯一の神である。獣人達に信仰されるが、この神の魔法は存在しない。