Jailed Fate 2 体験版


 
「……ここは……」
 眼前に広がる異様な光景に、フェイトは息を飲んだ。
 彼女が開いたのは、自由へと繋がる外界への扉などではなかった。扉の向こうにあったのもまた、狂科学者の実験場――ある種の生態系を人工的に模した、有機的な実験フィールド。日の光に見えたものさえも、人の手による人工の光に過ぎなかったのだ。
 しかも――
(なんて、ひどい場所だ……)
 室内のあまりの惨状に、フェイトは思わず眉をしかめた。これまでの無機質な基地内とはまるで違う。整然とした研究施設にあるまじき、そこは混沌と腐敗の世界だったのだ。
 まず視界に入ったのは、一目で嫌悪を禁じ得ない肉の坩堝。壁も床も天井も、得体の知れない不気味な腐肉に覆われている。恐らくは放置された実験生命体が独自に進化を遂げて繁殖し、尋常ならざる生態系を築き上げたのだろう。肉質な粘膜が部屋中を覆い、内臓じみた大小様々の肉瘤が脈動を続けていた。生きた肉瘤がドクン、ドクンと脈を打つたび、白濁した粘液が溢れ出して床に垂れ落ちる。粘池のほとりでは植物とも動物ともつかない奇怪な蔦触手が密生し、パクパクと開閉を繰り返す口吻からは白く濁った濃密な瘴気を吐き出していた。
 密閉された空間はひどく湿度が高く、吐き出された瘴気が白い霧となって周囲を覆っている。重く濁った空気は重く粘り、肌にべっとりと染み付いてくるようだった。一歩を踏み出す度に床を覆う肉膜が潰れ、ぶちゃっ、と染み出した粘液が靴底にへばりつく。天井からはシャワーのように粘濁が降りしきり、華麗な金髪を白く汚された。
(……っ。なんて、おぞましいんだ……)
 頭頂を濡らす粘濁が糸を引いて美貌を汚し、ねっとりとした空気が肌に絡みつく。息を吸うたび甘くただれた瘴気に肺を汚され、精臭じみた独特の臭気に嗅覚を犯された。ガ
 ジェット土ローンの追撃は振り切ったものの、こんな場所では休息を取ることすらできない。それどころか、この場にいるだけでも逆に精神をすり減らされそうなほどだった。
 そんなおぞましい肉部屋の中で、しかし疲弊しきった魔導師が感じているのは、生理的な嫌悪だけではない。
「はぁ、はぁ、はぁ……っく。う、うあ……」
 べちゃっ、びちゃ、ねちゃあ……。頭上から降りしきる濃密な粘液が、糸を引きながら身体を滴っていく。密着スーツ越しに感じるヌルヌルした感触に、黒衣の美女は思わず身体を震わせた。じっとりと汗に濡れて紅潮した太ももは小さく震え、はぁっ、と漏れ出す嗚咽には艶っぽいものが隠しきれていない。
(くっ……う、疼く。この匂い……ヌルヌルした感触……っくぅ。い、忌まわしい……はずなのに……)
 長きにわたる『実験』の数々で、嫌というほど教え込まれた被辱の悦び――ドクターの生み出した陵辱用生物によって犯し抜かれ、そのたび極めさせられた汚辱の絶頂。この部屋に蔓延る怪生命も、おそらく同根のものに違いない。本来なら嫌悪しか感じないはずの肉塊を前に、開発されたフェイトの身体は、こともあろうに汚れた欲情を覚えてしまっているのだ。
「はぁ、はぁ、はぁっ……ふ、うう。く、うう……んっ!」
 一秒ごとに胸の動悸が早くなり、身体が熱くて仕方がない。足元は覺束ず、むちむちした太ももを無意識のうちに擦りあわせてしまう。吹き出す汗が止まらないのは、蒸すような温度と湿度のせいだけではなかった。
(くっ……こ、こんな。わたしの身体……こ、ここまでおかしくなってしまっているなんて……)
 金の閃光の異名を持つ魔導師の最大の強さ、それは揺るぎない強靭な意志。どんな淫辱にも快楽にも、決して折れることなく耐えてきたフェイトの精神だったが、肉体はそうではなかった。
これまで知る由もなかった背徳の肉悦をたっぷりと教え込まれ、女盛りの肉体は異形の快楽の虜に堕してしまっていたのだ。ぐちゃぐちゃと蠢く肉膜の群れや、脈動を繰り返す肉瘤を見ているだけで、期待感に下腹がじゅわぁっ、と熱くなってしまう。
「ふぅうっ……だ、ダメ! しっかりしろ……ようやくここまで来たんだ。こ、こんなものに、惑わされるなッ!」
 だが、それでもフェイトの意志力は健在だった。痛いぐらいに強く唇を噛み締め、ツインテールを揺らしてかぶりを振るう。精神を集中し、なんとか誘惑を振りきってみせる。
「……っ」
 なんとか淫疼を振り切り、意識を集中させる。欲情を煽る粘液をこれ以上浴びないように位置を取りながら、とりあえずは状況を確認すべく周囲を見渡した。
 生ける腐肉に覆われた肉部屋も、かつては狂科学の実戦場だったのだろう。有機体に侵食されきって原型を残してはいないが、室内には様々な実験機械の残骸が散見された。天井を覆い尽くす粘体の隙間からは鈍色の地金が覗き、粘液にまみれた床には動力機関としての昨日を失った廃ケーブルの跡が見え隠れしている。部屋の中心部にそびえるのは、とうに機能停止した無数の培養槽だ。苔藻に覆われたガラス管の内部には、腐敗しきって原型を留めていない生物のサンプルが、無残な亡骸を晒していた。
 どこまで見渡しても、陰鬱な風景が続くのみ。恐らくは、これ以上先に進んでも同じ景色が続くだけなのだろう。扉を開けた先にあったのは自由な世界などではなく、むしろその逆――濃密な死の気配が漂う、閉塞した行き止まりの世界。
 ここにもこの先こも、一切の希望も未来もない、ここは、打ち捨てられた閉じた墓場だった。
(失敗作の廃棄処分場……か……)
 朽ち果てたサンプルの残骸を、静かに見つめるフェイト。その瞳の奥には、憂いの色が浮かんでいる。
 無論、出口にたどり着けなかった落胆はある。だがフェイトの脳裏を占めるのは、それ以上にもっと複雑な感情――自らの出自に、少なからず思うところがあるのだ。
(わたしと、同じね……)
 消せない過去の、哀しい記憶――フェイトもまた、自然ならざる人造生命体として禁断の生を受けた検体なのだ。大魔道士プレシア・テスタロッサの亡き娘アリシアのクローンとして生み出されたフェイトだったが、実際には計画は失敗だった。アリシアとフェイトはまったくの別人格であり、実の娘の姿を持ちながら別の魂を持つフェイトは、プレシアにとっては憎悪の対象でしかなかったのだ。
 彼女がどれだけ母と慕おうと、親の愛に応えようと健気に尽くそうとも、プレシアから与えられるのは失望の眼差しと酷い虐待のみ。
 生みの親に失敗作として疎まれ、愛を注がれるどころか、ただ道具としてしか価値を認められなかった――哀しく忌まわしい記憶が、どうしようもなくここでは思い出されてしまう。
(でも……わたしは。今のわたしは……)
 だが、そんな無機質な彼女の人生は、あの時を境に変わった。
 母の名に従って降り立った異界の星、そこで偶然であったもう一人の魔法少女――高町なのは。
 最初の出会いは敵同士、けれど彼女は、自分に一人の人間として接してくれた。
 呼びかけてくれた、
話をしてくれた。
名前を呼んでくれた――はじめて、友達になってくれた。
 少女との出会いで、フェイトは変わった。変われたのだ。
(そうよ。今のわたしには、大切な人がいる。だから……!)
 今の自分は、人形なんかじゃない。
 助けなければならない仲間がいる。自分と同じく囚われの身となっている機動六課のメンバーを、絶対に助けださなければならない。
 そのためにも、いっときでも早くこの研究所を抜け出し、時空管理局の仲間たちと連絡を取らなければならない。こんなところで打ちひしがれている余裕など、僅かにもないのだ。
(待っててね、二人とも。必ず、助けに戻るから……!)
 踵を返し、腐敗した箱庭から退室しようとするフェイト。だが、その瞬間――S級魔道士の優れた感覚が、見えざる危険を察知した。
(!? 何……何か、いる……!)
 おぞましい生命活動を続ける実験生命どもの気配に紛れ、それが何かを特定する事は難しい。さらには白濁霧で濁った視界はひどく劣悪で、数メートル先を見通すことさえできなかった。だが、変身によって強化された魔導師の五感は、霧の中で蠢くその気配を感知していた。
 気配は複数。動向を伺うように包囲の輪を縮めながら、ゆっくりと距離を縮めてくる――
(すごい殺気だ。でも、まだ仕掛けくる様子はない……か)
 油断なく注意を向けながら、フェイトは思慮を巡らす。
 護衛用ドローンとの連戦で、もはや残された魔力も僅かしかない。
 こんな状況で、この行き詰まりの部屋で戦う余裕など微塵もないし、その意味もなかった。
「ここは逃げの一手……今はそれが最善の選択!」
 疾風迅雷、剛毅果断。黄金の閃光の行動は早かった。
 迫り来る気配から逃れるべく、全速力で入り口のドアに向かって疾走する。ブーツが肉瘤を踏みつぶし、べちゃっと噴き上がった白濁に太ももを濡らされても、少女は僅かにも逡巡しなかった。
「オォォオォ……オオォォオォォォ――――!」
 瞬間、おぞましい咆哮が木霊した。ヌメり光る肉膜に反響し、凄まじい音量で響き渡る魔獣の絶叫。それは部屋の深奥が出所であるようでもあり、すぐ近くから聞こえてくるようでもある。最悪の視界と相まって、相手の出方が、いや居所さえまるでわからない。
(間違いない。わたしを狙っている……来るっ!)
 ヒュッ……ヒュンッ! 極限まで集中した聴覚が捉えた僅かな飛来音。迫り来るそれを、フェイトは神速の斬撃で迎え撃つ。
「バルディッシュ! ライオットブレード!」
 細身の双剣に姿を変えたインテリジェンスデバイスは、攻撃速度において究極の到達点。風を裂いて振るわれる双剣の軌跡は、もはや目視すら不可能だ。神速の斬撃が、飛来したそれを斬り裂いた。
「グギッ、ギャアアアアッ!」
 おぞましい絶叫とともに、白濁した体液が飛散する。真っ二つに切り裂かれた飛来者の正体は、腸じみた細長い触手の群れだった。先端を切断されたそれはすぐさま引込み、白霧の中に姿を消す。
(これだけで退いた? 殺気の割には呆気なさすぎるけど……)
 交戦は一瞬だけ、触手の群れはすでに姿を消していた。だが敵の気配は未だ消えておらず、剣呑な殺気は周囲に満ちている。最悪の視界の中、どこから攻撃の手が伸びてきてもおかしくはない。
(どこだ? 敵の本体はどこにいる……?)
 感覚を研ぎ澄まし、周囲の気配を探るフェイト。だが、S級魔道士の優れた感覚でも、敵の所在はまるで掴めななかった。
 どこにいるかわからないと言うよりも、三百六十度すべてから殺意が感じられ、敵の正体が掴めないのだ。
(……妙だ。この感覚……何かが、おかしい……)
 経験に裏打ちされた直感が、危険な違和感を訴える。油断なく双剣を構え、周囲を見渡してみせる変身ヒロイン。だが部屋の中に聞こえるのは、はぁはぁと漏れる自分の吐息だけだ。
「はぁ、はぁ、はぁ……ふぅ、く……」
 吐息の中に、苦しげなものが混じる。噴きだした汗が、つつーっと頬を濡らしていく。
 AMF濃度の濃い領域でバリアジャケットを保つのは、それだけでも多大な魔力を消耗する。ただでさえ疲弊状態だった変身ヒロインにとっては、このまま時間が経過するだけでも不利なのだ。そのうえ実験室の内部は高温多湿な肉部屋で、滴る粘液の雨を全身に浴びてしまうという最悪の環境。このまま無駄に時間と体力を消耗するのは、研究施設からの脱出を目標とするフェイトにとって最低の悪手に他ならない。
(敵の目的もわからないのに動くのは危険だけど……このままじっとしてもいられない!)
 僅かの逡巡の後、魔導師は素早く決断した。間断なく周囲に注意を払いながら、フェイトは出口へ向かって走り出す。と――
「グゥゥゥウゥ、オオオオオオォ――!」
 その瞬間を狙いすましたかののように、無数の触手が霧の中から現れた。猛り狂う魔物の咆哮が、動き出した獲物を後方から追随する。
「やはり仕掛けてきたか。だが、この距離なら!」
 奇襲は想定の範囲内、フェイトは僅かにも動じなかった。後ろを振り返る事すらせず、さらに魔力を振り絞って出力を上げる。まるで飛ぶような速さで、フェイトはひたすらに出口のみを目指した。
 だが、獲物を狙ってくるのは、後方から追い回してくる触手の群れだけではなかった。粘液を滴らせる肉天井をブチ裂いて、吸盤付きの触手が頭上から襲いかかる。同時に足元の肉瘤が爆ぜ、粘液をまき散らしながら無数の肉虫が襲いかかってきた。
「ッ……邪魔だ!」
 後方の相手は引き離せばいいが、進行方向を妨げられてはそうはいかない。苛立たしげにつぶやくと、フェイトは再び双剣を振るう。
 斬ッ! 高速で薙ぎ払われる双剣が、上下から同時に迫る触手を粉砕する。切断面からドビュドビュと溢れる白濁粘液が金のツインテールを濡らし、噴き上がった白濁が露出した太ももに粘りつく。
「くっ……う、あぁ。はぅ、くぅう……!」
 生理的嫌悪を催すおぞましさに、思わず表情をしかめてしまうフェイト。白濁で汚された太ももを辛そうに震わせながら、無意識のうちに内股の姿勢で擦りあわせてしまう。返り血を浴びた箇所がぼぉっと熱くなり、お腹の奥にまで淫らな熱が浸透していく。
(や、やっぱり……。こいつらの体液……くぅ。媚薬成分が含まれていたんだ……)
 予想はついていた。なにせこいつらも、あの狂科学者の産物なのだ。失敗作として廃棄されたものだとしても、女を狂わせる能力を持っていても何らおかしくはない。加速度的に身体が疼きを増し、全身が燃えるように熱くなっていくのがわかる。
「っ……いけない、集中しろ! こ、こんなもの……!?」
「グウゥゥう、オッオォォオォォオ!」
 小さく頭を振り、官能を振り払おうとする変身ヒロイン。だがその瞬間、再び魔物の咆哮が響いた。追撃者たちは全速力で振り払ったはずなのに、今度の絶叫は、すぐ近くから聞こえた。
「なっ……何……ああっ!?」
 ドクン、ドクン! 肉床が大きく脈打ち、野太いワームが何十匹と突出した。肉蟲どもは互いに身体を絡ませ合って強固な防護壁を形作り、脱走者の行き先を防ぐようにして林立する。同時に天井や周囲の肉瘤からかも細い肉蛇が大量に発生し、行く手を塞いだ獲物に四方から殺到する。
(くっ……こんな時に、なんて数だ! 一体どこから湧いて……それに、この統制された動き……!)
 先ほどの奇襲といい、今回の先手をとってのブロックといい、まるで、自分の行動を把握されているかのようだった。未だ正体を掴めない相手に不気味なものを感じるフェイトだったが、深く思案している余裕もまたなかった。頭上からも左右からもそして後方からも、無数の群れが大顎を開いていっせいに襲いかかってくるのだ。
「ここは……押し通る! いくよ、バルディッシュ!」
「Yes,Sir!!」
 キッと眦を引き締め、固く武器を握り締める黒衣の魔導師。出口まで最大速度で突っ切るためには、これを回避していてはままならない。大木を思わせる巨大なワームの集合体ブチ抜くため、フェイトはさらなる攻撃力を求めた。残り少ない魔力をフルドライブさせ、バルディッシュを最強の形態へと変形させる。
「撃ちぬけ、雷迅! ジェットザンバー!!」
 二本の小型剣が合体し、巨大な一本の大剣へと変形する。超高密度に収縮された魔力の刃を、フェイトは力の限りに薙ぎ払った。
「っはああああああああああ――――!」
「グオォォオォォ――――!」
 一閃! 超高密度に収縮された魔力の刃は、絡みあう怪物の群れを一薙ぎに両断していた。切断面からドバドバと雨のように体液が噴出し、魔導師の全身を頭からべっとりと濡らしていく。
「う、ああぁ! いや、こんなにいっぱい……く、ふうぅんっ!」
 びちゃ、べちゃ、ねっちゃあああ。搾りたての精液を思わせる白濁のシャワーが、頭上から足元にまでぶちまけられる。スーツを染みて肌にまで染み込んでくるヌルヌル感に欲情を煽られ、たまらず身悶えてしまう金髪の美女。密着スーツに包まれた美乳は呼吸のたびに激しく動き、べっとりと白濁に濡れた唇からは、荒い息が止まらない。
(うあっ……だ、だめだ。媚薬効果を防御しきれない……消耗が激しすぎて、身体も疼いて……も、もう限界……!)
 ただでさえ消耗しきっていたところに、魔力を大幅に消耗する大技の連発。体力も魔力もとうに限界を超えている。腐肉の大地を踏みしめた両足は、小刻みに痙攣を続けていた。
「で、でも……くぅ! まだだ……あと、あと少しなんだ……!」
 だが、気丈な魔導師はそこで気を抜く事はしなかった。さらに意識を張り詰めると、返り血の雨が降りしきる部屋を出口へ向けて進む。
 そう。出口へと続くドアは、もう、眼と鼻の先――
「ッ!?」
 だがそこで、フェイトは初めて足を止めた。
 あるべきものが――進むべき道が、そこになかったからだ。
(なっ……ど、どうして?)
 距離や方向を誤ったはずがない。つい先刻、その扉からこの実験室に入り込んだのだから。
 だが、そこにあるべき扉はどこにも見当たらなかった。代わりにあるのは、ボコボコと脈動を繰り返す小山のような肉塊だけ。それらは今なお成長・肥大化を繰り返し、何層にも折り重なってそこにあるはずの外壁を侵食し続けていた。
(どうして……こんなタイミングで!? まさか……これは……)
 やはり、方向を間違えたわけではない。部屋の壁を侵食していた肉膜が成長・肥大化し、もともとそこにあったドアを飲み込んでしまったのだ。
 まるで、侵入者を逃すまいとするかのように――まるで、部屋自体が意志を持っているかのように……。
「オオオオオ……オオオオォオォっ!」
 再び獣の咆哮が響き渡り、部屋全体が大きく脈を打った。ボコボコと足元が振動し、無数の肉蛇が現れた。さらには頭上からも細い肉虫が何匹も現れ、ドアを飲み込んだ肉瘤が破れて野太い触手が伸びだす。形状もサイズも様々な、みるもおぞましい触手獣の数々。その数はゆうに百を越える――視界を覆い尽くすほどの、圧倒的な大群だ。
「ッ! な、なんて数だ……こんなときにッ!?」
 これまでの奇襲とは段違いの、大挙しての攻勢。
 まるで、ここにくるのがわかっていたかのように――逃げ場のない相手を追い込んでからの、狙い済ましての待ち伏せだ。
(! そうか……そういう、ことか……!)
 そこで、はじめてフェイトは気づいた。
 これまで感じいていた違和感――どこまでいっても本体を見せない敵の姿、部屋中に満ちる敵意、どうしても掴めなかった気配。
 殺気がなかったわけではない――周囲すべてが殺気の塊だった、それだけの事。
(敵は、この部屋に潜んでいたわけじゃない……)
 最初から見当はずれだったのだ。
 即ち――
「この部屋自体が一つの生命体……そういう事か!」
 ドクン、ドクンッ! まるで勝ち誇るかのように、部屋全体が大きく脈動した。天井から、壁から、床からも粘液の海からも上からも下かも横からも――部屋を埋め尽くす肉塊すべてから、視界を埋め尽くすほどの量で次々と怪物どもが湧き出してくる。そのどれもが大量の粘液を滴らせ、極上の獲物を前にビクビクと打ち震えていた。
「そ、そんな……なんて数なの……!?」
 後ずさろうにも、後方からも無数の気配が迫っている。だからといって前には進めない――そこにあるべき出口はすでに潰され、代わりに大量の触手どもが先走りをこぼしながら待ち構えているのだから。
 触手の坩堝に包囲されて、もはや前に進むことも、後ろに退くこともできない――。
(最初から……罠だったのか……!)
 絶望的な結論が、心を冷やしていく。
 だが、わかったところでもう遅い。すべてはもう手遅れなのだ。
 すでに一歩を踏み込んだ時から、勝敗は決していたのだ。あの時すでに、部屋一つを取り込み融合した、巨大な怪物の胃袋に、フェイトは自ら足を踏み入れてしまったのだから。
 どこにも逃げ場はない。そして、囚われた獲物に待つものは――
「うっ……は、ああ。あ……あっ」
 脳裏をよぎる、淫辱の記憶。フェイトにはわかっていた。否、わかってしまっているのだ。これまでの監禁生活で、嫌というほど教え込まれたのだから。狂科学者にすら廃棄された怪生命体が望むのは、徹底的な蹂躙と淫虐。無限の欲望のまま、延々と身も心も弄ばれ――
「っ……ち、違う! まだだ、まだ、わたしは……!」
 白濁に濡れたツインテールを振り乱し、淫虐の未来を必死で否定するフェイト。もはや魔力も底をついた。それでもなお、彼女は諦めていなかった。
 否。正確には、諦めることなどできないのだ。
(そ、そうだ。ここで諦めたら……わたしは、も、もう……!)
 彼女自身、理解しているのだ。
 とうに限界は超えた、今こうして立っていられるだけでも奇跡に近い。張り詰めた糸は一度切れたら、もう二度とは――
「バルディッシュ、力を貸して! ここは何としても切り抜け……?」
 不安を振り払うように、インテリジェントデバイスに語りかける。だが、どんな状況でも応えてくれた歴戦の相棒は、無惨にも沈黙したままだった。
「バルディッシュ!? どうしたの……あ、ああっ!?」
 得物を見下ろし、驚愕の声を上げるフェイト。視界に映るのは、信じたくない絶望的な事実だった。
「s……orry……。my……ster……」
 ひび割れた機械音声が、ブツンッ、と途切れる。同時に魔力の刃は儚く掻き消え、大剣の形態をとっていたインテリジェントデバイスはその姿を元のペンダントへと変えていく。
 無骨ながらも実直なパートナーが、主の命令に逆らうことなどありえない。つまり――
(限界、だったんだ……。わたしも……バルディッシュも……!)
 辛うじて蓄積したギリギリの魔力での、激しい戦闘の連続。最初から無茶は承知の上だった。それでも忠実に応えてくれていたインテリジェントデバイスも、もう、完全に魔力が枯渇してしまったのだ。
「バルディッシュ……」
 最後の瞬間まで自分の無茶に付き合ってくれたパートナーに、もはや言葉は届かない。辛うじてバリアジャケットだけは維持できているが、武器も魔力サポートも得られない。今のフェイトはフェティッシュな変身コスチュームを纏っただけの、無力な女性にすぎないのだ。
 逃げ道も、抵抗する術も、そして最後の頼みの武器すら失った変身ヒロイン。肉部屋の中にただ一人だけ残された無力な獲物に、触手どもが大挙して襲いかかっていく。
「くっ! 来るならこい……わたしは、最後まで戦ってみせる!」
 状況は最悪、勝機は限りなく絶無。そんな事わかっている。だが、それでもフェイトは強気に吠えてみせた。毅然とした表情で触手どもを睨みつけ、無手のままでも格闘の構えをとってみせる。
 最後の最後まで諦めない。必死で抵抗を続けてみせる――それが、最後まで力を貸してくれたバルディッシュへの手向けだ。そんな悲壮な覚悟を決めた魔導師の姿は、痛ましくも凛々しかった。
 だが、そんな決意など、捕食生物にとってはなんら関係無いことだ。もはや獲物は追い詰めた、抵抗するすべもなく、逃げ場もない――ならば、後はゆっくりと愉しみながら喰らうのみ。捕食生命体としての本能的な喜悦に肉部屋全体が大きく脈をうち、ヨダレを垂らすように大量の粘濁を滴らせた。先走りを溢れさせた無数の触手が、いっせいにフェイトに迫る。
「くっ……こ、このっ! てああああっ!」
 大挙して迫る触手どもを必死で殴りつけ、あるいは蹴り上げて振り払う。だが、そんなか細い抵抗では触手たちの勢いを殺すことはできなかった。何十何百という群れで迫る肉蟲の前では、魔力も伴わない攻撃など何の意味もないのだ。肉蛇の一匹に突きかかった拳は同時に他の触手たちによって絡め取られ、蹴り上げた足先は地面に付くよりも早く野太いワームによって飲み込まれてしまう。抵抗むなしく、フェイトはあっけなく触手共によって四肢を拘束されてしまっていた。
「こ、このっ! 離せ……わたしはまだ戦え……う、ぐぅうっ!」
 ぬるっ……にちゅ、ぎちゅうううう! 幾重にもとぐろを巻いた触手共に、四肢をきつく締め上げられる。瞬間、迸る苦痛に、威勢だけの言葉はとぎらされた。
 魔力サポートを失った今や、魔導師の身体は生身の女性と変わらない脆さなのだ。触手の怪力を振りほどくことなどできるはずもなく、それどころかあっけなく四肢を開かれて大の字の形で空中に拘束されてしまう。
 覚悟も決意も虚しく、一瞬にしてフェイトは全身の自由を奪われ、哀れな肉贄として囚われてしまっていた。
(くぅ……こ、こんな。こんな無様な負け方なんて……少しも、抵抗出来ないなんて……!)
 敗北感よりも、パートナーに対する負い目に胸が痛む。ここまで必死で頑張ってきたのに、こうまで呆気無く敗北するなんて、あまりにも不甲斐なくて情けない――
「くうぅ……ごめんなさいバルディッシュ。わ、わたし……あ、あああっ!」
 慙愧の念に打ち震えるマスターだったが、もはや彼女には懺悔する暇すら与えられなかった。縛り上げられた両腕をぐっと力任せに引っ張られ、左右に大きく開ききられる。膝下までをぐるぐる巻きにされて完全に動きを封じられた両足も、力任せに大きく開かれた。
「痛っ……ああ、やめろ! こ、こんな格好……うあああっ!」
 ミリミリ、ミシミシミシッ! 関節が軋むほどの強さで四肢を引っ張られ、凄まじい苦痛が駆け巡る。それでも気丈な言葉を吐き、必死で四肢に力を込めてみせるフェイトだったが、触手の怪力の前にはまるで無駄な抵抗だった。両腕は左右にまっすぐに開ききられ、突っ張らされた両胸がぶるんっと大きく震える。両足も大きく開かれ、コスチュームの前垂れが翻ってハイレグクロッチが曝け出された。
(くっ……こ、こんな。いやだ、こんな無様な格好なんて……!)
 完全に抵抗を封じられた屈服ポーズで拘束され、屈辱感に歯噛みするフェイト。だが気高き心をそれ以上に苛むのは、露わにされた自らの肉体の様子だった。
 部屋中に満ちた淫気と、戦闘中にたっぷりと浴びせられた催淫体液のせいで、魔導師の肉体はすでに極限の発情状態にあった。極薄の胸生地には勃起した乳首の陰影がはっきりと浮かび、きついスーツの締め付けを受けて切なげに震えている。艶やかな黒のコスチュームを濡らしているのは、激しい疲弊で流された汗だけではない。濡れたクロッチは股間にねっちょりと密着し、極薄の生地越しには陰唇の割れ目までもが透け出してしまっていた。
「はぁ、はぁ、はぁ……く、うぅう……」
(くっ……い、いやだ。認めたくない……わたしの身体……もう、こんなに……)
 刻み込まれた恥辱の証を、改めて思い知らされる。淫らに開発された肉体に忸怩し、恥ずかしげに目を伏せる高潔の美女。だが彼女が真にプライドを蝕まれるのは、淫魔どもの責めが始まってからだった。
 ぬちゃあっ……ぐちゃ、にちゃっ。空中に磔にされたフェイトの真下、ちょうど股間の真下辺りで、肉床が激しく蠢いた。不肉の塊がぐちゃぐちゃとねじれあって盛り上がり、おぞましい形状をとって隆起していく。大量の粘液を滴らせながら、それは真下から獲物の股間を狙って伸び上がっていく。
「うぁ……あ、ああっ。な、何……。こ、これって……あ、ああっ」
 ゆっくりと迫ってくるその威容に、気丈に振舞っていたフェイトも思わず怯えた声を上げてしまう。
 手足に巻き付いている触手とはまるで違う、太く長く巨大な舌状の肉塊。肉厚でありながら軟体質で、たっぷりと粘液を含んで膨らんでいる。表面には魚卵のように小さな肉粒がびっしりと生え揃い、それら秘湯一つが亀頭のように震えては白濁液を噴き出していた。
 外観だけでなく、実際にそうした機能を持った器官なのだろう。汗に濡れた太ももを先端でぬるんっ、と一舐めすると、巨大な肉舌は喜悦に狂ったように巨体を震わせた。
(うぅ……な、なんておぞましい触手なんだ。こ、こんなものに……わたしは、これから……)
 嫌悪に身震いすると同時に、ぞくり、と何かが疼くのがわかった。悪夢の研究所で開発し尽くされた女体は、こんな気持ち悪い触手に、危険な欲情を抱いてしまっているのだ。
(! な、何を考えている……ダメだ。こんなものに、流されるな……!)
 植えつけられた被虐の性を否定しようと、フェイトはきつく目を瞑り意識を集中させた。だが、僅かでも目覚めかけてしまった淫らな官能は、一度火がついてしまえばもう取り返しはつかない。ドキドキと胸が高鳴り、下腹がじゅん、っと熱くなった。紅潮した太ももから吹き出した汗の玉を、不気味な肉舌が美味そうに舐めしゃぶる。
「うっ……く。うぅ。うあ……う、動いて……ふ、ううっ……!」
 じゅる……にちゃ、ぬちゅっ。芳しい汗の匂いに口吻したのか、肉舌触手は何度も何度も身体を上下させ、太ももをねぶりあげながらじゅるじゅると汗を舐めしゃぶる。
「う……い、いやっ。舐められてる……はあぁ、い、いや。汗なんて、す、吸うな……うあ、あっあああああ!」
 にちゃ、じゅるっ、じゅるっにちゅにちゅじゅるっ! 
 体液を舐め取られるといういきなりの異常な責めに羞恥するフェイトだったが、恥らっていられたのも最初の数秒だけだった。吸引が一気に強められ、激しく肉舌を押し付けられて何度も何度も太ももをコスられる。たっぷりと唾液を擦りつけられながらの摩擦責めに、思わず悲鳴を上げてしまう淫辱の美女。前後運動の度に小さな肉粒でくちゅくちゅと太ももを愛撫され、たまらない辱悦に片足を痙攣させる。
(うぁ……す、すごい。つぶつぶ一杯で……ああっ。全部動いてる……ヌルヌルされながら、わたしの汗……ずっと舐められてるぅ……)
 にちゃ、じゅちゅ、ぐちゅ、にちゅっ。ブラシのように蠕動を続ける肉粒の群れに太ももを舐め上げられ、代わりに大量の白濁を擦り付けられていく。媚薬性の体液を塗りつけられた女体はいっそう熱を増し、クロッチの奥からはたらり、と恥ずかしい蜜が流れてしまっていた。溢れ出す汗よりもなお香しい香りを放つそれを求め、貪欲な肉舌は太ももを舐め上げながらさらに上方へと進んでいく。
「ッ! だ、だめ……そこは。そ、それ以上は……っ」
 淫魔の狙いを察し、咄嗟に両足を閉じようとするフェイト。だがそれよりも早く拘束触手に力が賭けられ、逆に左右にぐっと押し開かれてしまう。露わに曝けだされた『そこ』――濡れたクロッチをぴっちりと密着させた股間部分へと、唾液まみれの肉舌が押し当てられる。
「くぅっ……う、あ……ああああっ!」
 にちゃっ……ぐちゅっ、にちゃあぁっ! 先端で穿るのではなく肉厚な触手全体を足の間に食い込まされ、そのままぐいっ、と力をかけて食い込まされた。肉厚な巨塊が股座にめり込み、無数の肉粒がコスチューム越しに陰唇へと食いこまされる。女性として一番大事で、そして弱い部分への責めに、フェイトはビクン、と頤を仰け反らせ感じいった。
 だが、触手生物の責めはまだ始まってさえいない。なにせ、まだ味覚器官を接触させただけなのだ。たっぷりと味わうのはこれから――異形の快感を味わわされるのは、まだこれからなのだ。
期待に震える肉舌は小刻みな痙攣を繰り返し――そして
「くっ……ふ、あ、あっ! うぁ、う、動いて……く、う、あああ!」
 ずちゅっ、にちゅっ、ずちゅっ! 最初は緩やかに、そしてすぐ様激しく。両足の間に挟み込まされた肉丸太が、苛烈な前後運動を開始する。そのたび空中で拘束された身体が激しく揺らされ、スーツに包まれた両巨乳がぶるんぶるんと柔らかに揺れた。
(ふぅう……う、ううっ! 動いてる……ふ、太いのが……ああっ。あそこに食い込んで……くぅぅ、つぶつぶも……き、きつい……ぃ!)
 スーツ越しとはいえ、やはり性器への直接的な愛撫は強烈だった。軟体質な肉舌で秘唇を舐め上げられる辱悦に、無数の肉粒でちゅぷちゅぷと愛撫される切ない快感。ぐいぐいと力任せに肉丸太を食いこまされる旅、ずっしりと肉厚な存在感が、飢えた子宮に甘く響く。さらにはたっぷりと塗り込められる媚薬性の唾液が、スーツを透過して性粘膜を熱く甘く蕩かしていく。
「はぅう……だ、だめ……くぅ、はぅうっ! こんな……も、もう限界だったのに……はぁう、ぬるぬるしつこい……つぶつぶ多すぎっ、はあぁ、う、動くの激しすぎ……いぃぃっ!」
 にちゃにちゃ、ぬちゅぬちゅぬちゅっ! 激しく前後する肉丸太に股間をコスられ、ぐいぐいと力をかけられて股ぐらに食い込まされる。野太い肉舌のパワフルな蠕動に加え、微細な肉粒による刺激が得も言われぬ快美感を演出する。一撃ごとに大量の媚薬が肉粒ブラシによって刷り込まれ、身体はいっそう熱く、快楽はいっそう深くなる。
(くぅぅ……だ、だめ……ああっ! こんな……か、身体が熱いっ。媚薬も効きすぎて……くぅ、魔力が足りない、解毒も出来ない……!)
 インテリジェントデバイスのサポートを失ったバリアジャケットは、もはやただの薄布でしかなかった。肉粒愛撫の刺激を防ぐことも、媚薬粘液の毒効を弾くことも出来はしない。濃厚な白濁がコスチュームを透過して陰唇全体に染み渡り、粘膜どころか下腹までが熱くたぎり、どうしようもなく発情させられていく。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……ああっ! あ、熱い……くぅぅ……ふ。だめ、か、身体が……うあ……あ、ああ……んんんっ!」
 制御できない官能の波に翻弄され、いやいやと頭を振って身悶える金髪の執務官。おぞましい生態を築き続けたきた魔導生物の媚薬効果は、これまでの『実験』で味わわされたどの魔薬よりも強烈だった。
単純な媚薬成分だけでなく、恐らくは魔法的な効果も加わっているのだろう。悪夢の薬効は信じられない速度で全身に伝播し、身体中が蕩けそうなほどに熱く甘く燃え盛る。気丈だった表情は切なげに蕩け、全身からは匂い立つ汗珠が噴きだして止まらない。四肢を拘束していた触手たちが激しくざわめき、滴る汗をぬちゃぬちゃと舐めとっていく。
「うあぁ、す、吸われてる……ふあ、あ、ああっ! いやっ、ま、またこんな……いやだ、や、やめろ……くぅぅうんっ!」
 触手共に汗を啜られ、巨大な肉舌に愛蜜を舐め取られて味わわれる――変態的な欲望の餌食とされ、たまらない恥辱にプライドが軋む。必死で拒絶の声をあげるフェイトだったが、しかし彼女にできる抵抗はそれだけだ。むしろ羞恥心が危険な官能にいっそう火をつけてしまい、ゾクゾクとマゾヒスティックな快感が沸き上がって止まらない。
ひくつく陰唇はクロッチを変色させるぐらいに大量の愛液を噴きこぼし、肉舌触手の貪欲をいっそうそそりたててしまっていた。
 コスチュームの中で甘く蒸れた愛液をもっと貪ろうと、野太い肉舌は激しく前後運動を繰り返していた。無数の肉粒を薄生地に食い込ませ、何度も何度も粘膜口を抉りまくって吸いまくる。
 にちゃっ、ずっちゃずっちゃずっちゃ……にちゃ、ぐちゃぐちゃ!
「ひっ……あ、ああっ! は、激しいっ……だめぇっ、う、動くの激しすぎ……はあぁぁっツブツブもしつこいっ、こんな、び、媚薬のせいで敏感すぎるのに……だめぇ、こ、こんなの……も、もう……!」
 ゾクゾクと駆け巡る、破滅の予感。往復の度に魔法媚薬を塗り込められ、怖いぐらいに感度を増した発情媚肉を肉粒ブラシでゴシゴシと嬲られまくる。蕩けきった陰唇に喰い込むほどの勢いで野太い肉舌をぐっと押し込まれた瞬間、意識が消えそうなほどの快感が駆け巡った。
「く……ふ、あ、ああ! イ、イクっ……だめ、わたし、も、もう……もう……っ!」
 淫虐の研究所で何十何百何千と強いられてきた、そして一度も耐えられなかった敗北の極み――マゾヒスティックなアクメの波が、ゾクゾクと全身を駆け巡る。だが――
(くうぅ……だ、ダメ! 耐えるんだ……た、耐えないとダメだ! ここまで頑張ってきたんだ……ここで負けたら、バルディッシュは何のために……!)
 フェイトは、流されなかった。涙に濡れた視界に、打ち捨てられたデバイスの残骸が映る。最後まで忠信を尽くしてくれたパートナーのためにも、ここで不様に負けることは許されない――気高き金の閃光はぎゅっと唇を噛み締め、金髪を振り乱して最後まで抵抗する。
「ック……ふぅ、はぁ、はぁ、はぁっ! ま、負けない……こ、こんなものっ。わたしは、ま、まだ……っ!」
 辛そうに四肢を痙攣させ、荒く息を吐きながらも、必死で気丈を保ってみせる囚われの魔導師。辛うじて第一波こそは防いだものの、しかし彼女自身理解していた――一度でも流されてしまえば、そこで自分は終わりなのだと。
(そ、そうだ……流されるな! こんな状態で一度でも流されれば……わたしの身体……くうう。も、もう……二度とは……!)
 暴きだされた自分の性癖は、痛いほど覚悟している。淫惨な研究で開発されたせいとはいえ、自分の身体だ。恥ずかしいし悔しいけれど、どうなっているのかは痛いほど理解しているのだ。
 研究所での陵辱実験が始まってからというもの、味わわされたアクメの数々は、そのほぼすべてが何度にも渡る連続絶頂だった。最初の『実験』でドクターはその素養を見出していたらしく、それからの陵辱を通して忌むべき性癖をたっぷりと引き出された。どれだけ耐えようとしても、一度達してしまうと余計に快楽に弱くなってしまい、官能の波に攫われるようにして何度も何度も飛ばされてしまう。
 スカリエッティ曰く「最初からキミにはマゾヒストの素質がある」との言だったが――事の真相はともかく、監禁生活を通して、今のフェイトの肉体は一度乱れ出したら止まらない、淫乱極まる代物に成り下がってしまっているのだ。
「ィ、イカない……くぅ、うっ! こんなもの……ああっツブツブすごい……はあぁ、で、でも……耐えるの、耐えてみせる……んんぅ!」
 いやいやと首を振りたくり、ツインテールを振り乱して叫ぶ淫辱の虜囚。血が滲むぐらいに強く唇を噛み締め、ゾクゾクと駆けめぐる絶頂の波を必死で否定する。快楽に飲まれかけながらもなんとか正気を保とうと耐え続ける、その表情は凛々しくも被虐的な淫辱美に満ち満ちていた。
 だが、彼女がどれだけ必死に耐えようと、陵辱者にはまるで関係のない話だった。獲物が快感を覚えようが絶頂しようが、あるいはそうでなかろうが、廃棄生物にとっては無意味な事なのだ。打ち捨てられた廃棄場でずっと獲物を待ち続けていた融合生物にとっては、上質な食事さえ取れればそれでいい――そしてその一点において、フェイトはこれ以上ないほどの適材だった。
 鍛えあげられた瑞々しい筋肉に、柔らかく熟れた理想の媚肉。分泌される汗も愛液もたまらないほど美味で、どれだけしゃぶっても飽くことはない。それに何より、彼女は貴重なSランク魔導師――その高純度な魔力は、飢えた魔法生物にとって、最高の餌なのだ。
「くうぅ、し、しつこい……はぁ、くぅ、くぅうぅっ! で、でも無駄よ……そ、そんなことばかり何度したって……あ、うあ……あ!?」
 いつ果てるともなく続く前後運動と肉粒愛撫、そして貪欲な淫蜜吸引。絶え間なく駆け巡る被辱の悦びと押し上がる絶頂感を、それでも必死で拒絶しようとするフェイトだったが、その時違和感に気づいた。
「あ、ああっ!? な、何……だ。ち、力が抜け……は、ああ……!」
 快楽に意識が塗りつぶされるのとはまた違う、全身から力が抜けていくような虚脱感。大魔法を行使した後のような疲労感がどっと押し寄せ、体力だけでなく魔力までもがすり減っていく。同時に、動悸を起こしたようにズキズキと胸の奥が苦しくなった。魔法使いなら誰もが有する魔力の発生源、リンカーコアが悲鳴を上げているのだ。
「はぁ、はぁ、はぁ……う、あああ。こ、これは……くぅう! ま、魔力が……はあぁっ。魔力まで、す、吸われ……く、ふぅう!」
 ゾクゾクと駆け巡る、危険な虚脱感。身体中の魔力回路が軋みをあげ、残り少なかった魔法エネルギーが根こそぎに吸い出されている。
(こ、こいつ……ただわたしの分泌物を舐めてただけじゃなく……ま、魔力まで吸っていたんだ。こいつ、魔力吸収生物だったんだ……!)
 気づいたときには、もう遅かった。高エネルギー体である魔力を主食とする生物は、多次元宇宙では何種も発見されている。狂科学者が産み出したこの実験兵器も、同様に魔力吸収能力を備えた、魔導師にとって天敵と呼ぶべき生物だったのだ。
 激しく前後運動を続ける太肉舌、その表面にびっしりと生え揃った肉粒は、そのひと粒ひと粒が魔力吸引能力を備えた捕食器官だ。肉突起がうぞうぞと蠢くたび、リンカーコアから無理矢理に魔力が引きずり出され、容赦無く貪り食われていく――
「くふぅ……はぁ、あっ! す、吸うな……はぁ、く、うううんっ! ああ、そ、そんなに吸われたら……力、抜け……くふぅぅうん!」
 ずるずるずる、じゅちゅる、じゅちゅるるるるっ! 無数の肉粒が一斉にざわめき、スーツ越しに股間部分をまさぐりまくる。摩擦運動と同時に貪欲に魔力を吸引され、摩擦の快感と力を喪う虚脱感とが同時に去来する。
(ああっ……ダ、ダメ……ダメだ! も、もう限界だったのに……魔力まで奪われたら……ああっ。も、もう……持たない……ぃ!)
 胸の奥で、ミシミシとリンカーコアが悲鳴を上げる。魔法使いにとって魔力とは活力源であり、強靭な精神力を支える源でもある。そのエネルギーを根元から奪い取られてしまっては、身体も心も今以上に脆くなってしまう――快楽への耐性を、いっそう失ってしまう!
「ダ、ダメ……ダメぇ! 吸うな……も、もう吸うなぁ! こ、これ以上は……はああぁぁっだめぇ、吸うの……は、激し……いぃぃ〜!」
 にちゃっ、ずちゃっにっちゃにっちゃにっちゃにっちゃ! 肉舌全体が激しく前後運動を繰り返し、ビッシリと生え揃った肉粒で何度も何度も股間をブラッシングされる。迸る嬌声に、拒絶の声もすぐにかき消された。せめて刺激を弱めるべく腰を浮かせようともしても、もはや四肢には殆ど力も込めらない。むしろぐったりと脱力したせいで腰が落ちてしまい、肉丸太がいっそう股間に深く食い込んでしまう。
「ふぅっ……く、はあぁぁっ! ふとぉ……く、食い込み……んくぅぅっ! いやぁ、ツ、ツブツブがめり込んでぇ……ふああぁっ揺らさないで、ツブツブいっぱい……あはあぁ、す、吸われる……うぅ〜!」
 無数の肉粒で愛撫される物理的な肉悦と、エネルギーを吸われていく魔的な辱悦。二種類の魔悦が混じり合い、得も言われぬ快楽として昇華される。理解不可能な異形の快感に、フェイトはツインテールを振り乱して悶絶した。
(だ、だめ……だめぇ! ツブツブいっぱいすぎて……す、すごいっ。こんな……魔力吸われて……くぅ、か、感じてしまうなんて……ぇ!)
 すでに尽きかけた魔力を、無理矢理に引き出されて吸いまくられる。限度を超えた魔力の発露に、リンカーコアがミシミシと軋む。だがそんな破滅的な行為がもたらすのは、苦痛ではなかった。
「はあぁ……あ、ああっ! ど、どうして……ひ、く、うぅうっ! 気持ちいい……魔力吸われるの……ああぁ、す、すごい……いぃ〜!」
 気丈を保っていた表情を甘くとろかせ、ついに悦びの声をあげてしまうS級魔導師。
 これも、異形の魔法生物が備えている能力だった。獲物からより効率的に魔力を搾り取るため、魔法的な媚薬を塗りこめて獲物の肉体構造を作り変える――感度を何十倍にも高め快楽への耐性を奪い取る媚薬体液もそうだが、フェイトは愛撫の間に、さらに恐ろしい毒を塗り込められていたのだ。
 それは魔力を放出すると同時に、魔力回路すべてを快楽回路として誤動作させ、絶頂にも似た快感をもたらすという悪辣な魔法薬。魔法の行使は愚か、こうして魔力を強制的に吸引される際にも発動し、虚脱感と同時に甘く切ない悦びを対象に叩きこむ。リンカーコアに貯めこまれた魔力エネルギーを吐き出すたび、解放感と虚脱感とが快感へと変換され、射精にも似た悦びが駆け巡る。体の奥底から魔力を搾られる快感は深く長く、けれどいつ果てるともなく延々と続く絶頂悦は、辛く切ないのにまるで終わってくれなくて――
(う、ああっ! すごい……こ、こんなの知らない。魔力吸われるのがこんなに気持ちいいなんて……ダメよ、これは、これ以上は……!)
 ゾクゾクと駆け巡る、たまらない快感。
 子宮を犯される女の悦びとはまた違う、魔力源を溶かされていく破滅的な快感。リンカーコアが熱く蕩けて、甘くて切なくてたまらない。
 初めて味わうこの魔悦――あまりにも甘美すぎて、あまりにも破滅的すぎて、あまりに深くて長すぎて。ただでさえ限界なのに、こんなものをこれ以上味わわされたら、もう、もう――!
「だ、だめ……だめぇっ! こ、これ以上吸わないで……ああ、あはあぁっ! ま、魔力吸われるの気持良すぎて……こ、こんなのおかしくなっちゃう、魔力吸われるの……ク、クセになっちゃう……うぅ!」
 これまでの触手愛撫なら、何とか耐えることもできただろう。ただ肉粒ブラシで陰唇を可愛がられるだけなら、必死になれば耐えられたはずだ。何度も何度も味わわされた虐悦だ、どうすれば耐えられるかは、理解していたからだ。
 だが、これはダメだ――人生で初めて味わう、魔力を貪られる異形の快感。快楽神経だけではなく魔力回路をも狂わされ、子宮だけではなくリンカーコアまでもが快楽一色で塗りつぶされる。
 こんなの、どうすれば耐えられるかわからない。
 耐えられる、わけがない……!
(ダ、ダメ……ダメ、ダメぇぇ! 抵抗出来ないっ……ご、ごめんバルディッシュ、キャロ、エリオ! わたし、もう、もう……!)
 金の閃光を支えていたものが、無惨にも折れていく。
 未曽有の快楽の波に、決意と信念も虚しく流されて――
「イ、イクッ……んはあぁ、あ、ああっ! ダメッ、も、もう耐えられない……ま、魔力吸われるの気持良すぎて……ヌルヌルされながらツブツブに魔力吸われてっ、わたし、イ、イっちゃう……うぅ〜〜!」
 







 



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