001 「海小屋での体験 01」


 もう10年以上前の話です。

 両親に厳しく躾けられて育ったからか、恋愛などには興味の無い学生生活を送り、それを当たり前なのだと考えていました。
 当時はいまほど活発ではないのでしょうがクラスメイトには男女交際をしている人もいましたし、ワイドショーなどで援助交際などの過激な話題も出てきた頃でもありました。他のクラスには援助交際をしている人もいるらしいと噂がありましたが、私には恋愛も援助交際も別の世界の話のように思っていました。

 学校を卒業して厳しい親元を離れ、事務系の会社に就職した私は、一人暮らしの日々を持て余しました。仕事場は御年配ばかりで、何事も起きない平和な日々がただ流れていくだけの毎日でした。ますます恋愛などから遠のいた日々を過ごしていると、それまでは興味の無かった映画や小説のような出会いに憧れる気持ちが高まっていきました。

 私は休日には見知らぬ街に出かける事が増えました。最初はお洒落な街のカフェで時間を潰す感じでしたが、たまに貧相な工業地帯のような土地に迷い込むと、妙な魅力を感じるようになりました。真面目に生きてきた私とは縁遠い世界に迷い込んだ気分になりました。当時はバブル崩壊で中小企業が次々と倒産していた頃で、建物は並んでいるのに誰もいないという景色が、異世界に迷い込んだような興奮を感じさせたのでしょう。





 とある週末、そんな田舎町のとある砂浜に一人で小説を読みふけっていると、いつのまにか中年男がそばにいて、私に話しかけてきました。人の気配など無い浜辺だったので声も出ないほど驚きました。  その中年男…いま思えばそれほど中年でもなく30代の半ばか40代だったと思いますが、私に話しかけてきました。
 「何をしているの?」「どうしてここに来たの?」といった他愛も無い話が尽きると、「彼氏はいるの?」「すごく可愛いね」「デートしない?」などと私をナンパしてきました。小汚い中年にナンパされている事が残念でもあり、自分よりずっと大人の男性に口説かれている事が嬉しくもありました。

 自分から話す事も出来ず、うまく返事できないでいると、男は私が手に持っていた文庫本を取り上げ、「ふうん、こういう小説が好きなんだ」と言い、そのまま「返して欲しかったら、ちょっとこっちにおいで」と海の家のような朽ちた小屋に行ってしまいました。
 あまりに唐突な行動、強引な態度に驚き、たかが文庫本1冊の為に男の後を追って、私は閉鎖し朽ちた海の家のような小屋の中に足を踏み入れました。



 小屋の中は雑然としていて、海開きのシーズンになれば綺麗にして営業するのかもしれませんが、その時の小屋の中は色々な荷物で廃墟のように雑然としていました。

 薄暗さに目を慣らしながら小屋に入ると、いきなり男が抱きついてきました。
 男は私をあっさりと押し倒して馬乗りになり、私の身体を触り始めました。
 「いやらしい身体つきをしてるなぁ、可愛い顔してすましているが、ヤる事ヤってるんだろう?」
 男の言葉に、私は声が出ませんでした。  男に下心があった事は薄々感じていましたし、少しは刺激的な事を期待してもいました。ですが私が期待していたのは口説かれるとかと言った程度の事で、まさかいきなり身体に執着してくるとは思ってもいませんでした。

 男は私が無抵抗で声も出せないでいる事をいい事に、私の身体を触り始めました。乳房や尻をさわり、乳房をもみしだき、私の反応を伺うように強く握り締めました。男の興奮した様子が恐ろしく思え、その痛みに耐えるしか出来ませんでした。
 成すがままに身体を触られた後、男はおもむろにズポンを脱ぎ始めました。よれて薄汚れた白いブリーフを脱ぐと、肉の棒が勢い良く反り返りました。ゆっくりと押し倒され馬乗りの格好で男根を露出され、私は目の前に反り返る初めて見る勃起した男根に驚き、思わず手で目を覆い隠しました。それは肉の塊で出来た棒のようで、濃厚な異臭を放っていました。

 堅く反り返った赤黒い男根を目にして、私は罪悪感に苛まれました。厳しく躾けられた影響なのか、私のような初心な女が彼氏のものでもない赤の他人の男根を見てしまった事が、とても悪い事をしている気分にさせたのです。なのでこんな事を人に知られたくなく、悲鳴をあげる事も出来ませんでした。
 ……それに、好奇心が無かったといえば嘘になります。



 それは浮気心に似たようなものだと思います。真面目に生きる事で得られたものは平和で退屈な日々で、世間では私よりも若い子が真面目さとは真逆の援助交際をやっている事がワイドショーで取り沙汰されている現実に、見知らぬ世界への魅力を感じていたのかもしれません。
 それに真面目に大人しく生きてきた私はこれまでろくに大声を出した事も無く、抵抗する事も反抗する事もできませんでした。そんな事は一度たりともした事が無かったからです。何度も「やめてください」と懇願しましたが、興奮した男の耳には声が届いていないようでした。

 いいように見知らぬ男に身体を触られ、服を脱がされ、遂には手を縄で縛られてしまい、逃げ出せなくなってしまいました。



 私は恐怖を堪え、抵抗する事を止めました。
 この小屋に入って押し倒された時から、幾ら抵抗しても敵わない事はわかっていました。下手に抵抗して怪我をするより、黙って従うほうが無事でいられる、援助交際で金で身体を売るよりもましだ、怖いけれど我慢するしかないんだ……そう自分に言い聞かせようとしました。

 男は私に覆いかぶさり、強引に私の唇を奪いました。男の酒臭い口臭に息を止めて耐えましたが、長いキスが終わって息を吸おうと口を開けた瞬間、男は舌をねじ込んでディープキスをしてきました。
 「うう〜っ! 嫌ぁー!」と思わず叫ぶと、男は思い切り私を平手打ちしました。ファーストキスを奪われた直後に張り倒され、思わず涙が出ました。
 「あまり騒ぐと、もう一度ビンタすっぞ」と、男は低い声で言いました。
 私はこの時、初めて誰かに叩かれた事に気付きました。昔から誰もが優しく接してくれたし、私も叩かれるような悪い事はした事がありません。叩かれる恐怖より、痛みと耳鳴りに新鮮な驚きを感じてきょとんとしていました。

 再びディープキスされ、男の臭いが私の口の中に浸み込んでくるような感覚に、犯され支配されているのだという事を感じてしまったのです……。