第1話 |
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「それじゃあ乃葵ちゃん、初めてのお勤めになるけど、大丈夫かしら?」 「は、はい。玲羅さん……」 モジモジモジッ…… 不意に話しかけられて、乃葵(のあ)はすぐさま緊張を走らせてしまう。 乃葵にはこれから、喫茶店『惑々館(わくわくかん)』のウェイトレスとしてのお勤めが控えていたのだ。 レトロな雰囲気に纏められた店内の様子を眺めるうちに、乃葵はひとりでに脚を震わせてしまう。 今も店の片隅に佇んだまま、乃葵は返事を返すだけで精一杯だった。 (どうしよう……私もウェイトレスとして頑張らないといけないんだ。こんな素敵なお店に、どんなお客様が入ってくるんだろう……) うぐいす色の髪をツインテールに纏めた乃葵は、色々なことが気掛かりだった……例えば、身に着けている真新しい制服も悩みの一つだった。 胸元を強調するデザインにも関わらず、控えめな乳房しか携えてない乃葵は、自らの格好にも気後れを感じずにいられない。 成人が近い年頃にも関わらず、背の小ささや童顔のせいか、本来の年齢より幼げに見られる乃葵は、色々なことに気後れを感じてしまう性格だった。 自らに課せられた役目を前に、乃葵は気持ちを落ち着かせられそうにない…… ギュッ。 (それでも私、今日からこのお店で働かないといけないんだから。他に行く場所なんてないんだし……) 居心地の悪さを感じながら、乃葵はそれでも必死に身をこわばらせる。 幾度となく働き口を探していた乃葵は、やっとの思いで今いる喫茶店『惑々館』のウェイトレスとしての仕事を貰うことが出来たのだ。 今いる喫茶店『惑々館』は会員制で、店員はみんな住み込みで働くと言う、少し特異な条件だった――それでも乃葵には好都合な条件だった。 身寄りのなかった乃葵は、どんなに激しい緊張を抱えても、この喫茶店でウェイトレスとして勤めなければいけないのだ。 まだ店開きもしていないのに、乃葵は思わず肩をこわばらせてしまう…… トントンッ。 「きゃんっ! れ、玲羅さん……」 ずっと緊張を走らせる乃葵へと向けて、傍にいる女性に肩を叩かれる。 不意に身体を触れられて、乃葵は必死の思いで返事を返しながら、おかしな反応を見せてしまう。 肩を叩いた主を見上げながら、乃葵はどうしても言葉を詰まらせずにいられない…… 「大丈夫よ、乃葵ちゃん。面接の時に聞いたけど、接客業は一度こなしたことがあるはずでしょう?」 ずっと肩を張らせていた乃葵へ、女主人の玲羅(れいら)はそっと言葉を投げかける。 まだ来客もないのに、すぐ緊張を抱え込む乃葵の様子を、玲羅はどうしても気に掛けずにいられない。 喫茶『惑々館』の女主人だった玲羅は、ウェーブ掛かったロングヘアや、落ち着いた雰囲気のある表情から、大人の女性らしさを醸し出していた。 まだ表情が固い乃葵へと向けて、玲羅は少しでも心を静めるよう促していく。 初めての環境で、新人ウェイトレスとして務めなければいけない乃葵の気持ちを、店を切り盛りする立場の玲羅が一番察していたのだ。 「そ、そうですね。そこまで経験豊富ってわけでもないんですけど……」 玲羅から慰めの言葉を掛けられて、乃葵は恐る恐る返事を返していく。 確かに乃葵は玲羅と執り行った面接の際、幾許かは飲食店で働いてた経験もある事実を打ち明けていた……それでも、今までと違う店の雰囲気に、乃葵はすぐにでも飲まれてしまいそうだった。 今いる『惑々館』が会員制の喫茶店であることから、来店する客達へのおもてなしを重視している――いわゆる『マニュアル的な接客』が通用しない事実が、乃葵には気掛かりでたまらない。 さらには玲羅の制服姿にも、乃葵は気後れを感じてしまう……見事なプロポーションを保っていた玲羅は、ブラウスのボタンが弾け跳びそうなほど、迫力満点な胸元を制服の上から見せつけていたのだ。 「今日は初日だし、私達がちゃんと見てあげるから。それじゃあお客様を迎えましょうね?」 ガチャッ…… なかなか気持ちを取り戻せない乃葵を気遣いながら、玲羅はすぐ店開きの準備を始めることにした。 お洒落なドアを開けた後、これから訪れる客達のために入り口へと佇んでみせる。 すでにドアの前で待ち受けていた客達は、気軽な雰囲気で店へと脚を踏み入れながら、見慣れた制服姿へとさりげなく視線を向けていく…… 「い、いらっしゃいませ……!」 モジモジモジッ。 隣にいる玲羅に倣うようにして、乃葵は恐る恐る客達へと挨拶を交わす。 お勤めの初日から粗相をしでかさないよう、乃葵は何度も頭を下げ続けていた……それでも、隣でゆったりと頭を下げる玲羅に対して、乃葵は忙しなく頭を上下するのが精一杯だった。 続々と姿を現す客達の姿に、乃葵はますます緊張を抱えてしまい、どうしても焦らずにいられない…… (うわぁ……あのコート、かなり良い生地を使ってて高そう。それに腕時計も高級品のはずだよね?) 何度も頭を下げ続けながら、乃葵は目の前を横切る客達の姿を捉えていく。 会員制喫茶店と言う珍しい環境から、客達の雰囲気も前の店とは明らかに違っていた――客達の身なりの良さに、乃葵はすぐさま圧倒されてしまう。 初老の客から若者まで、客達の誰もが高級品を身に着けている事実に、まだ成人を迎えてない乃葵でもすぐに気づき出す。 乃葵は今でも客達の下半身を見つめながら、なかなか顔を上げられそうにない。 (玲羅さんから聞いてたけど……やっぱり来るお客様も、特別だったりするのかな?) 客達の出迎えを続けながら、乃葵は玲羅から聞かされた事実を思い返していく。 乃葵が勤めることになった喫茶『惑々館』は、何よりも客達へのおもてなしを大切していると、乃葵はあらかじめ玲羅から聞かされていたのだ。 いくら接客業の経験があった乃葵でも、今まで続けていたマニュアル対応などではなく、自分で考えて客達に触れ合うなど本当に出来るのか、乃葵は今でも不安でたまらない。 さらには顔を伏せていても分かる、客達の身なりの良さも、乃葵の抱える心配をさらに膨らませる…… 「い、いらっしゃいませっ!」 勝手にすくむ脚を抱えながら、乃葵はさらに挨拶を交わしていく。 たとえ新人でも『惑々館』のウェイトレスとして課せられた役目を、乃葵は今まで以上に噛み締めていた。 抱え込んでいる緊張を振り切るかのように、乃葵は周囲へと向けて張り切って挨拶を交わしていく。 今まで以上に声を張り上げながら、客達へと向けて深々と頭を下げてみせる。 「乃葵ちゃん、そんな肩を張らなくても大丈夫よ。今日は私も見ていてあげるから、もう少し落ち着きましょう?」 張り切っている様子の乃葵へと向けて、同じ制服姿に身を包んだ鞠花(まりか)が話しかける。 すでに喫茶『惑々館』のウェイトレスとして勤めていた鞠花は、一部を三つ編みにした薄桃色の髪や、何より柔和な顔立ちから、優しげな雰囲気を周囲に醸し出していた。 まだ乃葵が店の雰囲気に不慣れな事実も踏まえながら、先輩としての助言を鞠花は口にする。 新人の乃葵が少し力んでいる様子が、鞠花は少し気掛かりに感じていたのだ。 「す、すみません。鞠花さん……」 鞠花の言葉を耳に受けて、乃葵はすぐさま頭を下げてしまう。 不意に鞠花から投げかけられた言葉によって、空回りしている自分自身を思い知らされて、乃葵は申し訳なく感じていたのだ。 客達の出迎えを終えた後、乃葵はすぐさま鞠花へと謝り始める。 自分が張り切ったことが裏目に出て、落ち着いた店内の雰囲気を壊す事態を、新人である乃葵は何よりも恐れていたのだ。 (玲羅さんも鞠花先輩も胸が大きいから、制服姿も着こなしてて素敵だなぁ。あまり胸に自信がないから、これじゃ私だけ見劣りしちゃってるよぉ……) 落ち着いた雰囲気の鞠花を眺めながら、乃葵はすぐさま引け目を感じてしまう。 ブラウスがはち切れそうなほどの玲羅ほどでなくとも、鞠花も制服からしっかりと胸元を膨らませていたのだ。 人より大きめな胸元の膨らみを主張させていて、鞠花が見事に制服を着こなしている様子に、乃葵はどうしてもうろたえずにいられない。 玲羅や鞠花と比べて、明らかに見劣りのする体型に乃葵はすぐ引け目を感じてしまう。 もしかしたら着込んでいる制服と同じように、店の雰囲気にはそぐわないかもしれない……そんな思いが乃葵の脳裏をよぎってくる。 「乃葵ちゃん。新品の制服姿、とっても似合ってるわよ?」 少し落ち込んでいる雰囲気の乃葵へと向けて、玲羅は励ましの言葉をさりげなく投げかける。 乃葵のために用意した、真新しい衣装がとても似合っていると、玲羅はそっと耳打ちを始めてきた。 今でも肩をこわばらせながら、小さい背丈に合わせた乃葵の制服姿が、まるでお人形のようで可憐だと玲羅は思い込んでいたのだ。 「れ、玲羅さん……ありがとう、ございます」 カアァッ…… 不意に玲羅から褒められて、乃葵は返事を返しながら顔を赤らめてしまう。 後ろめたい自分の気持ちを振り切るかのような玲羅の言葉に、乃葵はやっと気持ちを取り戻せたのだ。 今でも傍に寄り添ってくれる、玲羅や鞠花の笑みを眺めるだけで、乃葵も自然と肩の力を抜くことが出来る。 少しずつ緊張が解れるのを感じながら、自ら課せられたウェイトレスとしての役目に、乃葵は改めて気持ちを燃やしていく。 (どうしよう……もしかして私の考えてること、玲羅さんに気づかれちゃったのかな?) すでにテーブルに着いている客達を眺めながら、乃葵は先ほど告げられた玲羅の言葉を振り返っていく。 まるで気持ちを見透かしたような玲羅の言葉を、乃葵はどうしても意識させられる……自分が落ち込む様子が、周囲に心配を掛けるほど目立っていたのかと思うだけで、乃葵は申し訳なく感じずにいられない。 自分の気持ちを察した玲羅の素振りから、乃葵は改めて『おもてなし』の大切さを思い知らされる。 さりげなく接してくれた玲羅に気持ちを寄せながら、乃葵は一緒に客達の元へと脚を向ける…… * * * * * * 「へぇ……この子、新人さんなんだね?」 新入りのウェイトレスとして『惑々館』に迎え入れた乃葵へと向けて、客達は次々に挨拶を交わしていく。 店員も客達も見慣れた顔ぶればかりだった喫茶店の中で、新人だった乃葵の姿が新鮮に映ったのだ。 真新しい制服姿に身を包んでいた、幼さの残る乃葵の姿へと、客達は次々に注目を寄せていく。 「えぇ、丁度新しい子が欲しい頃だと思って。ほら、乃葵ちゃんもご挨拶を」 客達に視線を向けられて、また肩をこわばらせた乃葵の代わりに、玲羅がそっと言葉を交わしていく。 ずっと新しい店員が欲しかったと打ち明けながら、丁度良い頃合いに乃葵が訪れてくれた事実を、玲羅は客達の前でも喜んでみせる。 さらには背筋を震わせる乃葵へと向けて、玲羅はさりげなく耳打ちを始める……少しでも客達に顔を覚えてもらうよう、自分なりに挨拶を交わすよう乃葵へ促していく。 「は、初めまして。乃葵と申します。まだ不慣れですが、よろしくお願いします……お客様、何かご注文はございませんか?」 玲羅から誘われるまま、乃葵はそそくさと挨拶を交わしていく。 沢山の視線を向けられるまま、すぐさま緊張を抱えてしまう乃葵だけど、たとえ新人でも気後れしないよう、ウェイトレスらしく振る舞おうと乃葵は思い込んでいた。 客達の前で会釈を始めた後、乃葵はすぐに注文を待ち構える。 今でも傍に寄り添っている玲羅の姿を見上げながら、乃葵はどうしても照れくささを感じずにいられない……背の高い玲羅と並んでいる自分が、まるでオママゴトをしているような錯覚すら乃葵は陥っていたのだ。 (やっぱり、今まで働いていた店とは全然違うんだ。それでも、やっぱり素敵な雰囲気だなぁ……) 無事に自己紹介を済ませた後も、乃葵は周囲の雰囲気に飲み込まれそうな感覚を身に受けていた。 会員制の喫茶店と言う、自分でも脚を踏み入れたことのない独特の雰囲気に、乃葵はそわそわした気持ちを抱え込んでしまう。 様々な客達が訪れては賑わっていた前の店と比べて、乃葵の勤めている『惑々館』は和やかな空気に包まれていたのだ。 今まで働いていた店内とは明らかに違う空気を意識しながら、乃葵は少しずつ気持ちを乗せていく…… コトンッ。 「お待たせいたしました。ご注文のミルクティーとカフェオレでございます」 客達から受けた注文を、乃葵は小さな身体で運んでみせる。 お盆の上に乗せたミルクティーとカフェオレを、乃葵は手馴れた様子で客達へと振る舞っていく。 まだ店内の雰囲気には慣れてないとしても、経験のあったウェイトレスの役目を乃葵は難なくこなしていた。 たとえ今までと環境が変わっても、課せられた役目自体は変わりないはず……乃葵は何度もそう自分に言い聞かせていく。 「ありがとう、乃葵ちゃん。新人さんなのに、結構しっかりしてるじゃない?」 乃葵から差し出されたカップを手に取りながら、客達はすぐ挨拶を交わしていく。 背丈が小さいにも関わらず、乃葵自身も緊張が解れたのか、見事にウェイトレスの役目を果たしている事実に、客達は思わず関心を抱いていたのだ。 ツインテールに結えた髪を揺らしながら、小さな身体に合わせた制服姿の乃葵へと向けて、客達は続々と視線を向けていく。 「あ、ありがとうございます……」 客達から投げかけられた言葉に、乃葵は少しずつ返事を返していく。 ただ課せられた役目どおりに注文を取って、テーブルにメニューを差し出すだけで客達から褒めてもらえるなど、乃葵には今までにない経験だった。 今でも向けられる視線に照れくささを感じながら、乃葵はそっと笑みを浮かべてみせる。 まだ勤めて間もないのに、客達へのおもてなしを無事にこなせている自分自身に、乃葵はやっと気持ちを静められるのだ。 (やっと、気持ちも落ち着いたかな……お客様の注文を取る感じ、少しは思い出せたかな?) 開店する前に抱え込んでいた緊張が和らぐ感触に、乃葵は少しずつ身を委ねていく。 ほんの十数分前まで、客達の前で挨拶を交わすだけで精一杯だったのに、今では客達に会釈を返せるほど、乃葵の中で余裕が生まれたのだ。 前に勤めていた時の感覚を思い出したおかげで、抱えていた緊張も解れたかもしれない……そう乃葵は振り返りながら、店内で着々と注文を取っていく。 まだ不慣れな環境で、乃葵は自分なりのおもてなしをお披露目したかったのだ…… * * * * * * 「ふぅっ……」 店内でのお勤めを続けていた乃葵は、玲羅に促されるまま休憩を取ることにした。 控え室の椅子に腰掛けながら、乃葵は自分だけの場所で思わず息を洩らしてしまう……まだ初日とは言え、久々の接客で乃葵は疲れを感じていたのだ。 新人の身なのに、真っ先に休憩を挟んでいる事実に引け目を感じながら、ほんの僅かなひとときを乃葵は過ごしていく。 ガチャッ。 「お疲れ、乃葵ちゃん。初めてのお勤めは順調かしら?」 控え室で過ごしていた乃葵の元へ、玲羅が不意に姿を現してきた。 接客業の経験があるとは言え、初日のお勤めで乃葵が疲れを感じていないか、玲羅はどうしても気掛かりだったのだ。 今でも椅子に腰掛ける乃葵へと向けて、玲羅はさりげなく言葉を投げかける。 「玲羅さん、先に休憩をいただいてありがとうございます。やっと昔の感覚を取り戻せたみたいで……あっ」 コトンッ。 玲羅から尋ねられた質問に、乃葵は恐る恐る返事を返していく。 自分だけが一早く休憩を取ることに引け目を感じながら、玲羅からの気遣いを乃葵は嬉しく感じていた。 接客をする感覚に少しずつ慣れてきたと乃葵が返す間、玲羅は手に持ったカップを差し向ける。 新人ながらもお勤めを張り切っている乃葵のために、何と玲羅は差し入れを用意していたのだ。 「これ、差し入れよ。お客様の味を確かめるのも、ウェイトレスとして立派なお仕事の一つなんだから」 乃葵の前にカップを置いた後、玲羅はそっと言葉を投げかける。 差し入れだと踏まえながら、玲羅はさりげなく乃葵へとコーヒーを薦めてきたのだ。 まだ店の雰囲気に慣れてない乃葵のために、客達に振る舞っているコーヒーの味に慣れることも仕事の内だと踏まえながら、コーヒーの味見を玲羅は促していく。 だいぶ解れてきた乃葵の気持ちを、さらに落ち着かせようと玲羅は考えていたのだ。 「玲羅さん、ありがとうございます。それじゃあ、いただきます……」 コクッ、コクッ、コクッ…… 玲羅から差し向けられたコーヒーに、乃葵はすぐさま口をつけることにした。 用意されたコーヒーをスペシャルブレンドだと、玲羅から教えてもらいながら、乃葵自身も味を確かめていく。 カップから漂う香ばしい香りに、乃葵の気持ちが自然と引き寄せられる。 (うわぁ……すっごく香ばしいコーヒーの味。砂糖も全然入れてないのに、こんなに飲みやすいなんて……) 玲羅から用意してもらったコーヒーの味に、乃葵はすぐさま関心を寄せていく。 あまりコーヒーを飲んだことのない乃葵でも、口にしている味や香りの良さをありありと思い知らされる。 自販機で買うコーヒーとは断然違う、濃厚で自然な香りや味わいが感じられる。 傍にいる玲羅が笑みを浮かべる中、乃葵は恐る恐るカップを傾けるうちに、客達も口にする味わいを何度も噛み締めていく。 * * * * * * 「もう休憩時間も終わっちゃったし。早くお店に戻らなくっちゃ……うぅっ」 フルフルフルッ。 玲羅からの差し入れを飲み干すうちに、乃葵の休憩時間はあっと言う間に過ぎていた。 時計の針が過ぎる前に、そそくさとラウンジへと向かう乃葵だけど、客達の前に姿を現した途端、またしても脚を震わせてしまう。 すでに休憩を取って、再び接客を始めなければいけない乃葵は、思いもしない窮地に見舞われていたのだ。 店内で立ち尽くす間も、乃葵はひとりでに脚を震わせてしまう…… (どうしよう……急にオシッコがしたくなってきちゃった。休憩の時は全然平気だったのに……) 控え室から立ち去った矢先に、乃葵は何と尿意を催し始めていたのだ。 休憩を取る間は少しも感じなかった下半身の感覚に、乃葵はすぐさま気持ちを焦らせてしまう。 まさか、玲羅から与えられたコーヒーが引き金になってしまったのか……そう頭の中で振り返りながらも、乃葵は下半身に押し迫る欲求を堪えなければいけないのだ。 本来なら休憩の間に向かうべきだったトイレに、乃葵はどうしても気持ちが引き寄せられてしまう……それでも客達の前へと姿を現した以上、今さら控え室に引き返すことも出来そうにない。 どんなに気持ちを紛らわせようとしても、着々と訪れる下半身の欲求に気持ちがあっけなく揺さぶられる…… 「乃葵ちゃん、注文いいかな?」 抱え込んでしまった事情も構わず、客達はすぐさま乃葵を呼び始める。 控え室に引っ込んでしまった乃葵が、再び店内へと姿を現したのを、客達はどうしても見逃せずにいたのだ。 すぐにでも自分達の客達の注文を取って欲しいと、客達はわざわざ乃葵へと告げてくるのだ。 「か、かしこまりました。お客様……くうぅっ!」 モジモジモジッ…… 客達に急かされるまま、乃葵は恐る恐るテーブルへと赴いていく。 ひとりでに震え出す脚を堪えながら、それでもウェイトレスの役目を抱えていた乃葵は、客達に呼び出されるまま注文を取るしかなかった。 下半身に着々と訪れる感覚に気持ちを奪われながら、それでも乃葵は注文を取り始めるけど、気づいたら客達の前で呻き声を発してしまう。 視線を向ける客達の様子に気まずさを感じながら、乃葵は普段どおりの素振りを取れそうにないのだ…… (どうしよう、もう休憩時間も終わっちゃったし……それでも、初日から仕事中におトイレなんて、借りられないんだから) 客達の前で注文を取る間も、乃葵は下半身の欲求に苦しめられていたのだ。 不意に見舞われた尿意は、着々と乃葵の気持ちを奪い去ってくる……時間とともに強まる尿意を、乃葵は一刻も早く解き放ってしまいたかった。 今でも必死の思いで両膝を重ねて、身をこわばらせながら股間を閉ざしていた乃葵は、すぐトイレへと向かいたい気持ちに駆られてしまう。 それでも休憩を取ってしまった後、乃葵は今さら控え室に引き返すことも許されないのだ…… キュウゥンッ (でも、ダメぇっ……! このままじゃ私、お店の中でガマン出来なくなっちゃうよぉっ!) 客達の前で佇んだまま、ひたすら我慢を続けていた乃葵は、思わず表情を曇らせてしまう。 テーブルの前で立ち尽くすのも苦しいほど、抱え込んでいた尿意が乃葵を苦しめていたのだ。 両脚を閉ざし続けた格好を続けながら、客達の前でぎこちない素振りが止められない……はしたない状況を申し訳なく感じながら、下半身の欲求に乃葵の気持ちは着々と追い詰められる。 ウェイトレスとして勤めてから初日にも関わらず、乃葵はとんでもない窮地に見舞われていたのだ…… 「あ、あの……玲羅さん、ちょっと代わりを頼んでも、構いませんか……?」 ワナワナワナッ…… 何とか無事に注文を取ることが出来た乃葵は、傍にいた玲羅へと言葉を投げかける。 ひとりでに震えた声のまま、乃葵はトイレに向かいたいと恐る恐る訴えていく。 抱え込んだ尿意が強まるうちに、我慢の限界を乃葵は不安がらずにいられない。 このまま用を足せなければ、店内であられもない失態をしでかしてしまう……そんな予感にすら乃葵は苛まれていたのだ。 「困ったわねぇ……でもあのお客さん、乃葵ちゃんをわざわざ指名しているみたいだから。せめてコーヒーを運ぶまでは堪えられそう?」 焦りの表情を浮かべる乃葵へと向けて、玲羅もそっと返事を返していく。 スカートから伸びる脚を震わせながら、あまり長い時間は持ち堪えられない乃葵の事実を知りながら、それでも玲羅は別のことも気に掛けないといけないのだ。 店内にいる客達が、新入りの乃葵にずっと注目を寄せている事実も無視するわけにはいかなかった。 苦しげな表情を向ける乃葵に気が引けながら、玲羅は恐る恐る頼みごとを始める。 トイレに向かいたい状況に苛まれても、注文を受けたコーヒーを届けるまでの間、少しだけ堪えられないかと玲羅は尋ねていく。 「れ、玲羅さん……分かりました。何とか頑張ってみます」 フルフルフルッ…… 玲羅に告げられた言葉に、乃葵の気持ちは思わず震え上がってしまう。 本来ならすぐトイレに向かわないといけないほど、乃葵の下半身は激しい尿意に見舞われていて、いつ我慢が効くかも分からないのだ。 それでも乃葵は玲羅の前で頷きながら、震える脚で恐る恐るテーブルへと向かうしかなかった。 たとえ苦しい状況に見舞われても、新人の身である乃葵は、店内でのお勤めを放り出せそうにないのだ…… カタカタカタッ…… 「お、お待たせしました。ご注文の、ウィンナーコーヒーでございます……」 用意したカップを差し出す際も、すぐに乃葵は手元を震わせてしまう。 肌の震えが少しも収まらないほど、乃葵はすでに激しい尿意を抱え込んでいたのだ。 それでも玲羅に頼まれるまま、客達の前でコーヒーを振る舞うことになった乃葵は、今でもなるべく平静を取り戻そうと努めていた。 指先の震えを必死に堪えながら、乃葵は少しずつ上半身を傾けていく…… カクンッ。 (う、うそ……勝手に脚が震えてきて、止まらないよぉっ……!) 客達へとカップを差し出そうと、恐る恐る体勢を変えていた乃葵は、不意な感覚に見舞われてしまう。 ほんの少し上半身を傾けた矢先に、不意に下半身が解き放たれる感覚を乃葵は身に受けていた。 大量のオシッコを蓄えながら、苦しげに膨らんでいたはずの膀胱が、体内で段々としぼんでいく感覚を、乃葵は確かに感づいていく。 自分の身にどんな事態が訪れたのか、乃葵は恐る恐る下半身の様子を振り返る…… 「だ、ダメぇっ……あうぅんっ!」 カクカクカクッ、プシャアアアァァァ……! 気づいたら両脚が震え上がるまま、乃葵はずっと恐れていた瞬間を迎えてしまった。 目の前に客達がいる前にも関わらず、ついに乃葵は失禁行為をしでかしていたのだ。 少し体勢を変えたのをきっかけに、閉ざしていた股間があっけなく緩んで、体内に溜まっていたオシッコが続々と湧き上がってくる。 股間からひとりでに噴き出した、生温かいオシッコがショーツ内を駆け巡るうちに、下腹部やお尻の方にも濡れた感触が徐々に拡がっていく。 股間の辺りで踊り続けるオシッコが、ショーツから漏れ出すのも時間の問題だった。 しでかした粗相を思い知らされるまま、乃葵は小さな悲鳴を洩らしてしまう…… ショワショワショワッ、ヒタヒタヒタッ……! (どうしよう、ついに私ったらお客様の前で……オシッコを漏らしちゃったんだ!) すぐにでも失禁行為を収めたかった乃葵だけど、抱え込んでいた尿意に従うまま、客の前で延々とオシッコを垂れ流していた。 ショーツ内を延々と駆け巡っていたオシッコは、乃葵の股間やお尻全体を浸して、ついには裾部分から漏れ出したり、薄い生地を突き抜けたりを繰り返しながら、太股から徐々に伝い始めてくる。 今でもテーブルの前に立ち尽くしたまま、必死に身を取り繕うとしていた乃葵は、思わずスカート越しに股間を押さえ始めるけど、一度湧き上がった水流をすでに止められなくなっていた。 下半身に抱えていた感覚から解き放たれるのと引き換えに、はしたない液体で次々と濡れる下半身に、乃葵はどうしても引け目を感じずにいられない…… 「あれ、乃葵ちゃん。いきなり震えちゃって。一体どうしたのかな?」 乃葵が目の前で引き起こす現象に、客達はすぐ関心を寄せていく。 今でもテーブルの前に佇んでいた乃葵が、小さな呻き声を洩らした直後、スカートの内側から小気味良い水音を響かせているのだ。 興味が惹かれるまま、乃葵の様子をさらに覗き込むと、真新しいスカートやニーソックスに液体が滲み出し、さらに染みが広がっていく様子に、客達はすっかり気持ちを奪われていた。 新人ウェイトレスだった乃葵が、あられもない失禁行為を繰り広げている……店内でしでかした失態に、客達はどうしても注目を寄せずにいられない。 テーブルから身を乗り出しながら、客達は乃葵へ続々と心配を向けていく。 「も、申し訳ありません。お客様……あうぅんっ!」 ポチャポチャポチャッ、グシュグシュグシュッ…… 客達から次々に向けられる視線に、乃葵の気持ちはあっけなく揺さぶられてしまう。 股間から溢れ出たオシッコが太股にも到達した時点で、店内でしでかした失禁行為は明らかだった。 どんなに股間を押さえ込んでも、大事な部分が表面を震わせるまま、乃葵は少しも失禁行為を止められずにいたのだ。 恥ずかしい行為を人前で、さらには客達がいる前にも関わらずしでかした事実を、乃葵はどうしても嘆かずにいられない。 目の前で心配を寄せる客達が、どんな気持ちを抱え込んでいるのか……様々な考えを巡らせるうちに、乃葵は気づいたら涙まで滲ませてしまう。 成人が近い身にも関わらず冒した失禁行為を、乃葵は嫌と言うほど思い知らされながら、股間から溢れるオシッコを今でも止められないのだ…… (どうしよう、今日は初めてのお勤めなのに。どうして恥ずかしい失敗を二度もしでかしちゃったの……?!) 自らしでかした失禁行為を嘆くうちに、乃葵は心の奥底に仕舞い込んだ事実を振り返ってしまう。 今のように客達の前に立ち尽くしながら、襲い来る尿意に逆らえないまま、はしたなくオシッコを垂れ流した経験を、乃葵はすでに抱え込んでいたのだ。 続々と湧き上がる過去の思い出に、乃葵の気持ちはますます沈み込んでしまう…… |
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