狂うのを待つくらいなら――玉砕覚悟で打って出てやる。
萎えていた闘志に活を入れ、退魔札を手にする。
時間が経っていない今ならまだ、扉の外にいるのはあの淫魔だけのはず。
何より、こちらの生け捕りを狙ってくる以上つけいる隙はある!
僕は霊気を込めた二枚の退魔札を構えながらドアを開けた。
ドアの外には、上に続く階段。
幅は二メートルほど、部屋と同じように薄暗いものの視界が効かないほどじゃない。
【冬真】 (いない……か)
部屋の中から見られる範囲には――淫魔の姿はない。
――ということは、おそらく。
覚悟を決めて、僕は部屋を飛び出した。
一段抜かしで階段を駆け上がる。
けれども、三歩目。
【サキュバス】 「つーかまえたぁっ」
【冬真】 「うっ……!?」
背後から伸びてきた腕に囚われた。
淫魔は空を飛べるのだ。
死角で待機し、襲いかかってきたに違いない。
【サキュバス】 「うふー、すごくいい匂い……おいしそぉ。ん……んちゅぅ……」
ねっとりとした声が鼓膜を蝕む。首筋を粘体が這う。
一瞬で股間が熱くなり、相手に身を委ねたくなる――でも。
【冬真】 「ぐっ……うぅぁぁぁぁっ!!」
強烈な快美感と虚脱感に逆らい、手を動かす。
退魔札を持っている僕の手は、肘を曲げるだけで、僕を掻き抱く淫魔の手に――攻撃できる。
【サキュバス】 「――づぁああああぁぁっ!?」
淫魔の腕が灼け落ち、拘束が解ける。
【冬真】 (トドメを――)
振り返って左手を振りかぶるも、その時点で体に力が入らなくなっていた。
膝が折れ――でも、淫魔に寄りかかるように倒れることになったため、退魔札が淫魔の胸に命中してくれた。
体の下から断末魔が響き、肉感的な淫魔の体が消滅する。
【冬真】 「はあぁっ……はぁっ……はぁっ……!」
喘ぎながら額を床に打ちつけ、痛みで薄れた体の感覚を取り戻す。
休んではいられない。
部屋の中とは違い、今の声は建物に響いた可能性がある。
|