【冬真】 「くっ……!」
僕は床を転がり、声の主から距離を取った。
跳ね起きて、振り返る。
そこには予想通りの存在――長い耳と翼と吸精に使う尾を有する女悪魔、淫魔がいた。
瞳は赤で――それは男の精を餌とするサキュバスであることを示している。
【サキュバス】 「あら。キミ動けるの?」
淫魔は少し驚いたような表情を浮かべている。
確かに一般人なら、ここに――淫魔界に入った時点で、淫気に毒され動けなくなっていてもおかしくない。
耐性のある僕でさえ、ちょっとでも気を抜けば危ういくらいなんだから。
【サキュバス】 「フフフ、キミ、イイ教材になれるわよ。上級淫魔の相手もできるんじゃないかしらね?」
淫魔は余裕の足取りで近づいてくる。
【冬真】 「…………」
反撃手段がないと考えて油断しているのか、それとも――。
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