淫魔界から戻ってきた人が服を着ていたケースはない。

 僕は服を脱いで、目立たない場所に隠した。

 召喚された場所に、裸でうつ伏せになる。

 保険のために退魔札を持った右手を、体の下に隠して。

【冬真】
(……30分くらいして誰も来なかったら、この部屋は諦めるか)

【冬真】
「…………」

 しばらくその状態でいると、扉が開く音が聞こえた。

【???】
「あれぇ……? アリアったらぁ教材放ったらかしてどこ行っちゃったのー?」

 続いた言葉に、僕は唾を飲み込む。

【冬真】
(――ここは外れみたいだ)

 となると、入ってきた淫魔を倒す必要がある。

【???】
「まぁいいわ、いただいてくわねぇ」

 淫気に紛れて淫魔の気配は感じられない。

 足音だけが頼り――。

 そう思って目を閉じた瞬間、背中が痺れた。

【冬真】
「う、くああっ……!?」

【冬真】
(しまった、飛んできたのかッ!?)

【???】
「あららぁ? 触っただけで反応するなんてぇ、教材化が不十分なんじゃないのー?」

 背中を撫でられ、がくんっと腰が跳ねる。

【???】
「仕方ないかぁ。あんまり得意じゃないけどぉ、あたしが――」

【冬真】
「お、お断りだッ……!」

 転がりながら、退魔札を持った右手を振るった。

【???】
「こ、これって――ひ、ひぎゃあああぁぁぁぁっ!?」

 なんとか命中してくれた。

 もうここに用はない。

 僕は手早く服を着て、部屋を出る。

 


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