声から離れるように動こうとして――気づく。

 僕がいるのは二メートルの塀の上で、しかも前方に地面はない。

【冬真】
(まずっ……!?)

 そう思ったときには、僕はもうバランスを崩していた。

 10センチ程度の幅しかない、足場の上で。

 視界が反転する。

【冬真】
「……あ……」

 宙を掻く手は何も掴めず。落下がゆっくりと始まった。

【冬真】
(落ち――)

 避けられない死に僕は目を閉じ――衝撃は思いの外、早かった。

【???】
「――もー、あっぶないなぁ」

【冬真】
「……う、ぁ?」

 目を開けると、青い瞳と――インキュバスと目が合った。

【インキュバス】
「キミ、おいしそうだねー」

【冬真】
(やば……い……体、動かな……)

 全身が淫気にあてられて、金縛り状態だ。

【???】
「ちょっとエナー、だいじょーぶー?」

【インキュバス】
「へーきへーきーっ!」

 僕を抱えたインキュバスはゆっくりと浮上していく。

 塀を越えて校舎の上――屋上にまで。

 そこにはもう一人、インキュバスがいた。

【インキュバスB】
「アハハッ、やっぱ人間だったんだねー」

【冬真】
「う、ぐ……」

【インキュバスA】
「しかも、教材になってない素の人間みたいだよ」

【インキュバスA】
「どーする? 男だけど、あたしたちで楽しんじゃう?」

【インキュバスB】
「もっちろん。このコ、スッゴクおいしそうだもん」

【インキュバスB】
「せっかくだしさ、ペットにしちゃおうよ」

【インキュバスA】
「賛成ー。男なんて滅多に回ってこないしねっ」

 


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