【サキュバス】
「ウフフ、おしまいね、退魔師のボウヤ?」

 淫魔の肌に触れた部分から、甘い痺れが流れ込んでくる。

 世界には精気と呼ばれる力が存在する。

 人間はそれを取り込み、一部を霊気へ変換して魂へ供給している。

 淫魔はそれを取り込み、一部を淫気へ変換して魂へ供給している。

 元が同じものだから、霊気と淫気は似ている。

 例えるなら、ヘモグロビンに対する酸素と一酸化炭素のように。

 そして人間にとって一酸化炭素が毒であるように、淫気もまた毒なのだ。

 淫気を流し込まれると身動きが取れなくなる。

 その上、まともな意志や思考も失ってしまう。

 でも、僕は――少し違う。

【冬真】
「……残念」

【サキュバス】
「――え?」

 淫魔の唇から戸惑ったような声が漏れる。

 僕は生まれつき霊気の量が多く、そのため淫気に対する抵抗力が高いのだ。

 少し触れられたくらいで、動けなくなってしまうことはない。

 直接触れられている右手にはさすがに力は入らないけど、左手は自由だ。

 腰の後ろから退魔札を抜き、霊力を込める。

【サキュバス】
「――ッ!?」

【冬真】
「僕が意志を保てている時点で予想すべきだったね」

 それを淫魔の胸に押しつけた。

【サキュバス】
「――ャアアアアアァァァァァッ……!?」

 淫魔の悲鳴が部屋に木霊する。

 淫魔にとっては霊気こそが毒。

 流し込まれれば、魂が灼け――肉体は同時に焼失する。

【冬真】
「ふぅ……」

 痺れた右手をプラプラさせる。

 普通の人間が淫気が多い淫魔界へ来たら、おそらくまともに動けなくなる。

 僕がそうでなかった以上、淫魔の接触に少しは耐性があることを推測できたはずだ。

 先入観――といったところか。

【冬真】
(ま、なんにしても……)

 


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