ネクロ☆ロマンティック

〔IV´II〕 贖い

ハロルドは彼女の目的を察した。

如何なる事情があるにせよ、このような手段で目的を遂げようなどとは、明らかに常軌を逸している。

「待ってくれ」

咄嗟に出た言葉が、それだった。

少女は手を止め、目は閉じたまま、ハロルドに耳を傾けた。

‥‥‥

しかし、ハロルドの口からそれ以上の言葉は出てこなかった。

言うまでもなく、彼女に〈莫迦な真似〉をして欲しくないと思ったのだ。だが、それを伝える言葉が、自ら命を絶つという行為を否定する理由が、出てこないのだ。

ハロルドは必死に言葉を探した。しかし、一秒また一秒と時が経つにつれ、焦りが募るばかりであった。

少女は諦めたようにため息をつくと、上げた手の指に、その小枝のような細い指の先に、くい、と力を込めた。


金属が擦れ合う音と、さらに鈍い轟音とが地下室に鳴り響き、ハロルドの耳をつんざいた。

ごとん、と何かが床に落ちる音がした。


ハロルドは声にならない声を上げながら、無意識に床に転がったものの方へ駆け寄り、それを拾い上げた。

流れるような長い髪を持つ、小さな頭部。

それは、胴体と、完全に切り離されてしまっていた。


もう、元には戻らない。


ただ、失われゆくまでの刹那。


それでも、何かを言いたくて、話を聞きたくて、少女と向かい合った。

切断面から溢れ出る生暖かい体液が、ハロルドの膝を濡らした。

肌は血色を失い、目は虚ろに開いていたが、その瞳は確かに、ハロルドを見つめていた。その直後、僅かに口角が上がったようにも。

ハロルドの目から、堰を切ったように何かが溢れてきた。

結局、彼女が何者であるかもわからないまま、彼女に対する如何なる思いが僕にそれを流させるのか。助けることができなかったという自責の念もあるだろう。


──ただ、確信があった。

彼女が失われると同時に、僕は、何かを失ってしまったのだ。


そう、余りにも大切な何かを、失ってしまったのだ。


それは、もう、永遠に戻ってくることはない──



† DEAD END †


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