ふたなり淫魔が倒せない!?





 草木の茂った緩やかな山道を、一人の小柄な男が歩んでいる。胸や肘、膝など身体を動かす際に邪魔にならない部分のみを防具で守り、右手には使い古された、鈍く輝く鉄製の剣を携えている。背中に背負った荷物袋も、大して膨らんでおらず、最低限の荷物でこの山道を歩んでいる。
 まさしく冒険者と言った見た目の彼の名は、リックと言う。あちこちの国や辺境の村を転々と移り渡り、辿り着いた場所で依頼を引き受け、その報酬で再び旅に出る事を繰り返している旅人だ。
 今まで過酷な旅を続け、危険な依頼を何度もこなして来たベテランではあるのだが、彼の悩みでもある顔のせいで、そのような熟練者とは思われないでいる。
 ――リックの顔付きは、言ってしまえば『可愛い』のだ。
 今まで様々な死線を掻い潜ってきた彼は、まるで少年のような顔立ちで、仕事を探すために入った酒場では支給のバニーガルに「可愛い!」と抱きつかれ、酒場の店主には「坊主、酒飲めるのか?」などと、何度もからかわれてきた。
 違うのだ。リックは小柄で童顔、どうみても少年にしか見えないが、これでも歳は20を越え、様々な依頼をこなして来た実力者なのだ。
 まるで愛玩動物を相手するかのように「この子持って帰ってもいいかな?」なんて言いだす支給のお姉さんを思い出しながら、ため息をつく。だが、すぐに表情を引き締め頭を二、三回振るい邪念を追い出す。
 一見平和な山道だが、今は依頼でこのあたりに住み着いた魔物を倒すために歩んでいるのだ。どこから襲われるかわかったものではないし、そろそろターゲットの魔物が姿を現す場所でもある。
 リックは空を見上げ、太陽の位置を確認する。太陽はまだ空高く居座り、輝かしい光で地上を照らし続けている。日没までにはまだまだ時間がありそうだ。
 かといって、のんびりはしていられない。リックは早くこの依頼を片付けて、次の街へと旅立ちたいのだ。

「おい! いるんだろう!? さっきからコソコソと隠れてないで出てきたらどうだ!!」

 リックは突然、大声で叫んだ。声に驚いた小鳥や虫達が一斉に木々から飛び立ち、ひとときの騒動を巻き起こす。バサバサと鳥達の羽ばたく音と鳴き声は次第に遠くなり、そして静寂が辺りを支配する。
 しん…… と静まりかえった周囲を、鍛えあげられた観察眼で注意深く見渡す。気配は感じないが、間違いなくいる。いつも、この場所で、何度も遭遇しているのだから間違いない。何度も、だ。
 息を潜めて、依頼の標的である悪魔がどこから襲ってくるか警戒しながら、鉄製の剣を両手で構える。

「ふふ、そんなに緊張しなくてもいいじゃない?」

 ふわりとその場に相応しくない、可愛らしい女の娘の声が耳元から聞こえたと同時に、リックの背中に柔らかな感触が広がった。風に乗って、甘い香りがリックの鼻をくすぐる。

「ッ! 離せ、悪魔め!!」
「あぁん! もう、暴れないでよぉ!」

 リックは大慌てで、背中に絡みつく何者かを激しく振り払う。暴れだしたリックから飛び離れ、三メートル程の距離を取ったソレを、手に持った剣を構え直して険しい表情で睨みつける。

「見つけたぞ! 今日こそお前を仕留めてとっととあの村を去ってやる!!」
「ふーん、今日も私にいっぱい愛されに来た…… じゃなくてー?」

 怒りの表情を隠そうともしないリックに剣先を向けられているにもかかわらず、ソレは楽しそうにクスクスと笑いながらリックを挑発している。 
 声の主は女の娘だった。サラサラと揺れる金色のツインテールに、少し生意気そうな大きくて紅い綺麗な瞳。小柄な身体にテープの様な布を纏い、非常に露出度の高い衣装で素肌を惜しげもなく晒し、あざとく男を誘惑する、危険な色香を放っている。
 また、その小柄な身体には相応しくない、大きな果実が二つ彼女の胸元に実っていた。申し訳程度に先端を隠すかのような布のテープが立派な乳房を持ち上げ、見るからに極上の柔らかさを持った胸が目立ち、劣情を呼び起こしてしまう。
 そして、ほっそりとしたくびれ、痩せすぎず程よく肉の付いた太ももに、スラリとした足首。どこを見ても、美少女と言っても過言でもない娘が、リックの今回の標的だった。
 顔や身体だけでは、通りすがった男10人中10人が手を出してしまうような、可憐で色情的な美少女だ。だが、彼女は人間ではない。
 背中にはコウモリのような翼が生え、触ったら心地よさそうなハリの良いお尻の尾てい骨付近からは、紫色の尻尾が生えている。淫魔―― サキュバスと呼ばれる種族の魔物だった。

「こんにちは、リック君! 今日で何回目だっけ?」
「そんな事はどうでもいい! お前のせいで俺はどれほど恥をかいたと思っているんだ!」
「うーん…… そんなこと私に言われてもなぁ。そもそも、君だって最終的には私にメロメロになってたじゃない?」
「うるさい!!」

 リックが不意打ち気味に、力強く地面を蹴り淫魔へと切りかかる。あまり腕力のない小柄なリックが、最も得意とする速さを重視した切りかかりだ。
 しかし淫魔は振り下ろされた剣を、まるで流れるように簡単に避け、リックの横を通り過ぎ反対側へとすり抜ける。

「もー、危ないなぁ! そんなもの振り回してたら怪我しちゃうでしょ?」
「お前を殺す為の武器だから当然だろう!」
「あーあ、昨日はあんなにアヘ顔晒しながら、ミナ様専用の性奴隷になります宣言しちゃったのに、まだそんなこと言ってるんだ? くすっ」
「喋るなあぁぁぁ!!」

 怒りと羞恥に顔を赤く染め上げながら再び切りかかるが、単調な太刀筋に対し、ミナと言う淫魔は軽やかな動きで後ろに飛び退き、間合いを開く。
 その際に、たわわに実った二つの乳房が大きく揺れ、一瞬だけリックの視線はミナの胸元へと集中してしまう。
 当然その視線に、ミナが気づかないはずが無く、ニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべながら挑発するように、両手でそのふくらみを持ち上げ、圧倒的な存在感を存分に見せ付けてくる。

「ほぉーら、そんなこと言いながら君の目はいやらしくミナのおっぱい、じっと見てるよぉ〜?」
「み、見てなんかない!」
「こないだ、散々ミナのおっぱいを赤ちゃんみたいにちゅうちゅうしてたものね〜? よっぽど気に入っちゃったのかな? 今も血走った眼でおっぱいじっと見てるしぃ〜、今度はミルクが出るまで吸われちゃうのかなぁ?」
「ち、違う!」

 ミナはむにゅむにゅと、自らの両手で乳房を揉みしだき、いやらしい動きを見せつけながら、脳を溶かすような甘ったるい声色で誘惑してくる。
 大きく首を横に振って邪念を払おうとするリックだが、ミナの言葉でどうしても過去の恥辱が脳裏に蘇ってしまう……。
 そう、リックがミナと戦うのは初めてではない。リックはここ数日間何度もミナと戦い、敗北し、その度に陵辱され、プライドをへし折られ続けていたのだ。
 サキュバスと言う魔物は男性の天敵で、理想とする姿で男を誘惑し、精を貪り、命さえも吸い尽くすと言われている。
 リックがサキュバスと戦ったのは、別にミナが初めてと言うわけではない。それ以前にも何度か戦い、最初の方は危うく誘惑に負けそうになったこともあったが、それでも勝ち続け、最近はよほど油断しない限り負けることは無い、取るに足らない相手となっていた。
 だが、目の前にいるサキュバス、ミナは各が違った。決して油断していたわけではない。いつも通り、全力で戦ったのだが、ミナには勝てなかった。今のように、ひょいひょいと攻撃を避けられ、こっちの体力が尽きた所で押し倒されてしまい、後は彼女の思うがまま、嬲られてしまったのだ。
 一度負けてしまえば後は酷い物だ。脳裏に何度もその恥辱が浮かび上がり、屈辱感と、認めたくないが一度味わってしまった快楽を再び貪りたいと言う淡い期待が頭を埋め尽くし、戦闘に集中できなくなってしまう。
 そのまま何度も何度も敗北し、精を搾り取られては村に送り届けられた。そのたびに村人達からは、やはり頼りないだとか、童顔坊やには早いだとか、お姉さんとえっちして耐性つけちゃう? と、からかわれてしまっていた。
 リックの焦りは、ミナに陵辱され、村人からも笑われてしまっている現状から一刻も早く抜け出し、汚名返上した後にさっさと旅立ちたいと言う羞恥心からくる物だったのだ。

「違う、ねぇ…… クスッ、そうだったね? 君が好きなミルクは、別のミルクだもんね?」
「ッ!?」

 ミナは意味深な笑みを浮かべながら、そっと自らの右手を乳房から降下させ、柔らかなお腹、可愛らしい臍、そして小さな布に包まれた鼠蹊部を、そっと撫でる。
 細い指の、色っぽい動きに思わず息を呑んでしまう。ミナの指先から眼が離せない。色っぽく、精細に薄布に包まれた股間部分を何度も上下に這わせている。

「ふふ、素直になれば〜? また沢山ミナの濃厚ミルク飲ませてあげるよ? 美味しくって、気持ちよすぎて、頭が馬鹿になっちゃうほど何度も何度も注いであげるよ?」
「う…… あぁ…… ッ!!」

 ミナの言葉で、身体に刻まれた陵辱の痕が疼きだす。このままではマズいと、右手の剣を力強く握り締めて再び切りかかるが、やはり簡単にかわされてしまい、再び後ろから抱きつかれてしまう。
 
「ねぇ、何をそんなにムキに否定してるの? 素直になれば気持ちよくなれるのに?」
「だ、黙れ化け物め……!」

 耳元で甘く囁くミナを、震える声で必死に振り払おうともがく。
 力を振り絞って抵抗しようにも、背中に密着された豊満な乳房がむにむにと押し付けられ、自在に形が崩れるその感触が身体中の力を奪ってしまう。柔らかい、気持ちいい、両手でメチャクチャに揉みしだきたい。欲情が膨れ上がってしまう。
 そのまま股の間に足を滑り込まされ、左足をミナの両足で挟まれてしまい、小さな手がリックの胸板、腹部と降下していき目的の場所…… 股間部分を優しく撫で始める。
 背中に押し付けられる乳房の柔らかな感触で、既に一物は硬くなってしまっていた。大きく膨張したソレを、まるで宝物を扱うかのような丁寧な手つきで、衣服の上から何度も撫で回される。

「ほら、君のおちんちんもうカッチカチだよ? 一緒に気持ちよく、なろ?」

 耳元で悪魔が囁きながら、息を吹きかけてくる。甘い息は鼓膜をくすぐり、ふにゃふにゃになってしまっている身体から更に力を奪っていく。そんなリックに甘えるよう、ミナは一層身体全身を絡ませて密着してくる。
 その柔らかく甘い感触に溺れてかけていると、臀部に何やら硬い感触を覚えた。布越しからでもわかる、硬く熱い感触に、ゾクリとした何かが背中を駆け抜けた。

「あら、気がついちゃった? そう、私も興奮して硬くなっちゃってるんだよ?」

 隠すつもりはないのか、そのままぐいぐいと腰を押し付け、あってはならないソレをより感じろと言わんばかりに押し付けてくる。
 ミナはそのまま身体を滑らせ、リックの正面から抱き合う。胸当てに豊満な乳房が押しつぶされ、形を変えてリックを誘う。熱く滾った一物には、ミナの股間に存在する硬い何かが押し付けられている。
 そのままミナの手が、リックの顔に伸びて向きを合わせられる。目の前には憎たらしく、可憐で、劣情を駆り立ててしまうミナの顔がある。彼女の紅い瞳は、リックの心の奥底の願望を覗き込むかのように、ずっと見つめ続ける。瑞々しい唇からは色を含んだ吐息が漏れ続け、今すぐ貪りたい衝動に駆られてしまう。
 これ以上この悪魔の顔を見続けるのは危険だ。と、頭では判断できているはずなのだが、身体はまったく動かない。魅入られたかのように、ずっと紅い瞳の奥を覗き込んでしまう。駄目だ、危険なんだ。
 カランと鉄の音が鳴る。見なくてもわかる。自分の右手から愛用の剣が零れた音だ。硬い鉄を握り締めていた右手は、気がつけば柔らかく、心地よい肌触りをしたミナのお尻を鷲づかみにしていた。
 右手だけではない。左手も無意識の内にミナの肩を抱き寄せ、自らこの悪魔を抱きかかえてしまっている。口からはハァアァと荒い息が溢れ出し、腰は盛った動物のように、ミナの身体へと擦り付けてしまう。

「――ねぇ」

 悪魔の声が聞こえる。

「――いつもみたいにキスしてくれたら、もっと気持ちよくなれるよ?」

 キス。このぷるんと潤い、甘そうな香りを放つ唇を貪る。だが、それを味わったが最後。完全に骨抜きにされ、ミナの思うがまま蹂躙されてしまう。今までが、ずっとそうだったのだ。口づけは敗北を意味する。
 ……わかってはいるのだが、身体は思うように動かない。いや、何も思ってはいない。ただ蜜に誘われる蟲のように、ふらふらと吸い寄せらる。
 三センチ…… 二センチ…… 一センチ…… 唇同士の距離はあっという間に縮まってしまう。
 五ミリ…… 四ミリ…… 三ミリ…… まだ間に合う。今すぐ離れて剣を拾えばまだ巻き返せるかもしれない。
 二ミリ…… 触れるか触れないかの距離。両腕は抱きかかえたミナを逃さないとでも言うように、力強く抱きしめる。
 一ミリ―― 
 
「ん…… じゅる…… んん……」

 くぐもった甘い声が聞こえる。口内ではミナの舌が、極上の食材を味わうかのようにして満遍なく貪り尽くしている。歯茎、歯裏、天井、そして舌同士が絡み合い、淫らな水音を響かせる。
 ミナの両手がリックの頭を抱え、リックの両腕は痛いぐらいにミナの身体を力強く抱きしめ、より深く絡み合う。
 自らも舌を伸ばし、ミナの舌にまとわり付いた唾液を味わう。それは、今まで飲んできたどの飲み物よりも、甘美で、危険な味わいだった。
 脳が痺れる。身体の力は全て抜かれてしまった。すがるようにミナの身体へ倒れこんでしまう。
 唇が離れ、二人の間に銀色の橋が架かる。太陽に照らされたそれは、光り輝きながら途切れ、それと同時にリックの身体も、地面に膝をついてしまう。

「ん、ご馳走さま。……ふふ、今日もたくさん、可愛がってあげるからね♪」

 上機嫌なミナは、股間を覆い隠す小さなショーツに手をかけて、焦らすようにゆっくりと下ろしてく。少しずつ露わになる恥丘に、眼を話すことができない。いつも気持ちよくしてくれるソレの全体部を拝みたいと、待ちきれないでいる。

「そんなにじっと見てちゃ、恥ずかしいよぉ、もう……」

 わざとらしくからかうミナ。恥ずかしがる割には、より見せつけるよう腰を突き出し、ショーツを脱ぎ去る。観客は自分だけの、貸切のストリップショーに、視線を釘付けにされてしまう。

「それじゃあ、二人で気持ちよくなろっか? うふふ♪」

 ――露わになったミナの股間部分には、硬く反りかえった剛直が獲物を前にしてちきれないと言わんばかりにビクついていた。







2015/サークル『月夜六十』