ヒュウウウウ―……
生暖かい不快な風が吹き、紫掛かった暗雲が立ち込める異界。
分厚い暗雲が太陽の光をさえぎり辺りは薄く暗い。
荒れ果てた大地に草木は一本も生えておらず、朽ちたモンスターの骨が辺りに散乱している。
それが元は何の種族であったのか、今は誰も知る由は無い。
そんな異境に、巨大な建造物があった。
淫界で名高い淫魔建築士「マキナ=ベリアル」と彼女に追従する数百の性奴隷が、5年の歳月を掛けて完成させた地下へと続く建物だ。
内部は複雑に入り組んでいる上に魔法によるギミックが幾多も揃えられており、侵入者はおろか中に住んでいる者さえ全貌を把握している者は少ない。
そこは「双成(そうせい)種」という種族の淫魔が住む巨大な「地下迷宮」であった。
「双成種」とは、女性の見た目でありながらペニス――つまり男性器がある「淫魔」の古代種である。
淫魔という種族が誕生したばかりの原初の時代に繁栄したとされるが、神との戦いに敗れその姿を消したと言われていた者達だ。
それが百年ほど前に突如復活し、今では淫魔の種族の中でも一際巨大な勢力となっていた。
ザッザッ
迷宮の前に、一人の若い人間が歩いてきた。
身の丈はそれほど高い訳ではないが顔立ちは凛々しい美貌の持ち主で、背には巨大な剣を装着していた。
引き締まった肉体はもう少しくびれがあれば、女性と見間違える者も多いであろう。
程よく肉付いた身体は力強さよりも柔らかさを連想させるが、たたずむその雰囲気は歴戦の戦士そのもの。
ぴっちりと全身を覆ったタイツのようなものを着ており、意識しているのか無意識の内か、僅かではあるが臀部を誘うように左右に振りながら歩みを進める。
その全身から醸し出る謎の魅力と色気は、人間の同性をも魅了しかねない。
言うまでもなく、淫魔から見れば「極上の性的対象」に該当する青年だ。
彼の名前はランスロット。
双成種の迷宮を攻略に現れた冒険者だ。
<迷宮・1F>
ザッザッザッ
開かれた迷宮の門をくぐり、ランスロットは内部へと歩を進める。
入り口付近は大きな一本道になっている。
しばらくすると大きな集会場のような広場に入った。
中央に立派な柱と円状の座る場所がある以外は石で囲まれただけの殺風景な広場だ。
広場の壁をよく見ると、蝋燭以外にもどこかの部屋へと通じてあるドアが不規則に点在していた。
迷宮には見張りも立っていなかった。
その理由は二つ。一つは、この淫界の片隅に存在する迷宮に来る物好きな侵入者など滅多に存在しないため。
もう一つは。
「あ〜?おい、何でここに人間のオスがいんだよ」
物好きな侵入者など簡単に始末できる、強力な双成種が迷宮の入り口付近に住み着いているためだ。
「この迷宮に人間が何をしにきた?アタシらがここに住んでることを聞いて自分からヤラレに来たマゾか〜?」
「…」
ランスロットの前、広場の中央に座っていたのは「ヴァルゴ」というビースト族の血が混じった双成種。
この迷宮1Fの支配者だ。
俊敏そうな見た目どおり手足はしなやかな筋肉が発達しており、性格も戦い慣れしていて好戦的だ。
ちょっと修行を積んだ程度の冒険者なら、束になってかかってきたとしても瞬殺してしまうだろうと思わせた。
何より目に付くのは、猛獣並の大きさを誇るイボ付きの巨大なふたなりペニスだった。
脈打っているグロテスクな肉棒と、精がぎっしりと詰まっていそうな異様に大きい睾丸を誇示するようにおおっ広げにしているその様は、品性の欠片も窺(うかが)えない。
「ぅ、ぅぅ…」
「ゃめて…もぅ…入らな…」
ヴァルゴのすぐ近くには、凌辱された後であろう男たちが寝転がっていた。
一人はまんぐり返しの格好で手足を縛られ、もう一人は力無く横に倒れ拡がりきったアナルを開いていた。
どちらも共通するのは、おびただしい量の双成種の精液…奴らがふたなりミルクと呼ぶ「双精液(そうせいえき)」で体中を染め上げられていたことだった。
個体差はあるが淫魔は異性または同性を「犯す」――つまり「責める」ことを好む。
双成種が通常の淫魔と異なる最大の点は、そのふたなりペニスで男を犯すことを好むことだ。
両性具有である故に男と女両方の性欲が常に盛んで、その解消のため男のアナルや口を調教して女のような男―双成種が「メス男」と呼ぶ存在に作り替えることを目的にしている。
淫魔の女として必要な人間のオスの精力をいただきながら、オスをメス扱いしてふたなりペニスの性欲も満たせるという奴らにとって良いこと尽くめのためだ。
当然人間の男からすれば、自分の尻穴を生のペニスで犯されるなど普通は嫌悪するべきものだ。
だが淫魔は獲物の性癖を簡単にねじ曲げてしまえる程、快感を与えることに関してエキスパートの種族だ。
少女趣味のない男をロリコンに変えることも、自称ドSのチャラチャラした男を従順なドMに調教することも得意中の得意だ。
双成種も同じように、ふたなりペニスで犯されることを至上の悦びになるように性癖を変えてしまうことが可能な、恐るべき連中なのだ。
無論、双成種にも犯す対象の好みはあるがーー
男達はつい先ほどまで、このヴァルゴ達にふたなりペニスで女のように犯され続けたのだろうということは状況だけで推察できた。
それに加えて、二人とも明らかにペニスが縮小していた。
男性器の機能が著しく低下するまで、メスの快感を叩きこまれたのだろう。
ヴァルゴとそばにいる他の双成種の股間を見ると、凶悪なふたなりペニスが半勃ちしていた。
手でシゴきながら剥き出しの太い亀頭を見せつけている様は、まだ獲物を欲しがっているようにも見える。
同情か怒りか――その光景を目にしてランスロットは一瞬だけ眉を潜めた。
「どうした。びびって声もでねぇかぁ?ケケ」
「…どけ」
「あぁ?誰に向かって口聞いてんだ?犯すぞ」
だがランスロットは微塵も焦る気配を見せない。
彼女にとって獲物に過ぎない人間ごときに「どけ」などと言われると、短気なヴァルゴには当然不愉快に映る。
ヴァルゴがゆっくりと立ち上がると、部屋から続々と他の双成種たちが現れだす。
ガチャ ギィ…
ザッザッ
ランスロットの周囲を双成種たちが囲む。全部で6体。
ヴァルゴを含めれば7体だ。
何体かは先ほどまで他の捕らえたメス男相手に行為に励んでいたのか、ふたなりペニスを勃たせたままだったり射精した形跡が残っていた。
彼女達はニヤニヤと笑みを浮かべながらランスロットを見ている。
自分達が絶対に優位な立場にあると確信しているのだ。
「人間のオスをとっ捕まえて迷宮に連れてくるのは日常茶判事だけどよ、自分からのこのこやってきたマヌケは初めてだぜ。ケケ、カクゴはできてんだろうな?」
「…」
「せっかくだから絶望的な情報を教えてやる。アタシの「戦闘レベル」は35だ。その背中の無駄にでかい剣ごときじゃアタシはおろかこいつらにも敵わないぜ、ケケケケ!」
戦闘レベルとは総合的な戦いの強さを表す数値だ。
高いほど身体能力や魔法力が強く、強力な技や魔法が使える。
一般人が1〜5程度で、並みの冒険者が5〜15、一流の冒険者でも20〜30といったところが一般的だ。
35というのは、一流の冒険者をも上回る強さだ。
物語の中盤で現れる魔王を名乗るモンスターでもこれほどの強さの者はそういない。
ヴァルゴの言うレベルが偽りの無いものであれば非常に強力な淫魔であり、事実彼女の言うことは本当だった。
実際に先ほどまで犯されていた二人の冒険者もレベル18と20という手練れだったが、ヴァルゴに手も足も出ずに敗北しこの迷宮に連れて来られたのだから。
「ケケケ!どうだビビったか?土下座して泣いて謝ってみな。今なら「一晩中集団凌辱レイプショー」から「ヴァルゴ様にケツ穴十発中出しされてアヘ顔晒す刑」程度には手加減してやってもいいぜ、ケケケケ!」
「…もう一度言う。どけ」
「ああ?状況わかってんのかてめえ?!」
ランスロットの言葉にヴァルゴが激昂する。
辺りの双成種たちも自分達への八つ当たりがくるんじゃないと危惧し、ランスロットを睨む。
既にこの場で笑みを浮かべている者は誰もいない。
「気が変わったぜ。てめぇは七日七晩犯し尽くしてその後はアタシらの公衆肉便器にしてやる。オマエらヤれ!」
「ケケケケケ!」
ダッ
ヴァルゴの号令で、一斉に双成種たちがランスロットに襲い掛かる。
彼女達も全員戦闘レベル20を上回る強敵揃いだ。
一流の冒険者が4人揃ったパーティでも苦戦はおろか全滅もありえるほどに危うい。
だがーー
ブンッ
「う、うわぁぁぁ?!」
ランスロットの目にも留まらぬ一振りで、一瞬で双成種の1体が昇天する。
「な、なにィ?!」
ズバァ
「ぎゃぁぁぁ!」
「あぁぁぁぁぁ」
もう一振りすると、今度は2体まとめて斬り伏せた。
よっぽど強大なダメージを受けたのか、どちらも白目になって体中を痙攣させながら泡を噴いていた。
双成種との戦いで補足するが、彼女たちは「あらゆるダメージを快感に変換する」特性を持っている。
せっかくの獲物を殺してしまって使い物にならなくなるのを防ぐためと、万が一の場合は自らの命を守るために種族全体が得た特性だ。
双成種との戦闘によってどちらかのHPが0になると死ぬ代わりに絶頂するルールとなる。
双成種に絶頂させられた人間は「淫呪」という呪縛を掛けられ自らの意思では一切の身動きが取れなくなり、双成種にしてみても絶頂すれば特性上行動不能となる。
戦闘のダメージで血を見ることはなくなるが、互いに命がけであることに変わりはないのだ。
閑話休題、ヴァルゴたちはランスロットの想像を超えた強さに驚愕する。
なぜこんなに強い人間がいるのか?
自分たちでこの人間に勝てるのか?
逃げたほうがいいのではないか?
残った双成種たちはそう考え一瞬だが動きを止める。
その隙をランスロットは見逃さない。
ブンブンズバァ
「あぁぁぁぁ」
「ぎゃぁぁぁぁぁ」
「ひゃぁぁぁぁ!」
残る3体もあっという間にHPを0に、すなわち絶頂させられ床に倒れこむ。
残ったのは、狼狽するヴァルゴのみとなった。
「な、何者だよオマエ!こんなに強い人間なんて知らねえゾ!」
「…俺の名はランスロット。この迷宮の奥にいるヤツに用があってきた。戦闘レベルは…51だ」
「ご、51だと?!」
ヴァルゴは目を見開いて驚愕する。
レベル40を超えれば達人と呼ばれ自分の流派を起こせるほどの強さになる。
それを更に上回る50代など、伝説上の英雄クラスの強さだ。
「戦闘レベル51だと…!「ファティマ」様よりも上じゃねえか!」
「…そのファティマだ。俺はそのファティマを倒しにここに来た」
「な、なんだとぉ?!」
双成種ファティマ。
それはこの迷宮の主であり、双成種の中でも上位に存在する「高等淫魔」だ。
双成種が衰退する以前の遠い昔には淫界で大いに名を轟かせていたこともある、ヴァルゴの崇拝する主君であった。
人間がなぜ主君であるファティマ様のことを知っているのか、そしてなぜファティマ様を倒そうと企てているのか。
ヴァルゴの頭では理解ができなかった。
ヴァルゴに理解できたのは、この人間を倒さないとやがてファティマの元にたどり着かれてしまうという危惧だった。
シャキン
ビースト種との混血であるヴァルゴが、自身の武器であるツメを取り出す。
しかしランスロットの強さを目の当たりにし、本能が力の差を感じ取ったのか体はカタカタと震えていた。
「お前に用などない。失せろ」
ランスロットは邪魔な動物をあしらうように言う。
いままで多くの敵を葬ってきたヴァルゴにとって耐え難い屈辱だった。
「ナメんなよ、人間!」
頭で考えるより先にヴァルゴはランスロットに飛び掛る。
主君を守るためという大義名分に駆られての行為だったが、それは勇気ではなく蛮勇であった。
ズバー
「ウギャァァァァァ」
ランスロットの大剣がヴァルゴの右腕を斬り裂く。
ダメージを快楽に変えていなければ間違いなく腕を失っていた。
片膝を立てて苦しそうに全身を紅潮させ、痙攣する右腕を抑える。
誰が見ても実力の差は明白であった。
「クソォ……」
わずか一太刀でヴァルゴのHPは大幅に減少した。
ランスロットがその気になれば、いとも容易くとどめを刺しておけるだろう。
ランスロットは……