不思議な乗り物は、ふたたびくわの入った畑をとおりぬけ、やせたリャマを追う農夫の頭上を過ぎ、人里をはなれた洞窟のそばまで来ると、音もなくおりた。
矮躯の少年がひとり、丈の高い褐色の女を連れて、中からあらわれた。
大きい方の案内にしたがって、小さい方は、短い足をけんめいに動かし、できるかぎり音をたてないようにして岩室に近づいた。
“あっち”
なまりの強い辺境の言葉で、護衛がさし示すと、帝国の第二皇子アールは、ふところからふたつの筒をつなぎあわせたような道具をとりだした。手に持ってじっと考えこみ、やおら頭をあげて、同じ言葉でこたえる。
“ありがとうございます。あぶないから、あなたはもうかえってだいじょうぶです”
“そば、いる”
“あぶないですから”
“じゃ、いそぐ”
ためらってからアールは道具を両目にあてた。うすぐらいほらあなの奥に焦点を合わせようとする。
“みえないです…ぁっ…”
黒髪の若者が、洞窟のおくからあらわれる。腕には、一匹の雌を抱いていた。金髪に翠眼、そばかすを散らした雪のような肌は確かに、見覚えがあった。
けれど、左右の不釣合いながら、ともにたわわな乳房は、尖端が黒ずんで白いしずくをふくみ、およそありうべき光景だった。でこぼこにふくれた腹は、イモをつめたずたぶくろのようでもある。豊かに脂肪がついたふともものあいだをおおいつくすように濃い毛がびっしりと生えており、中から勃ちあがった雄の印は、はりだしたほかの部分に比べるとあまりにちっぽけだった。
何よりも目を引くのは、ほっそりした両手両脚のあるべきところに、陽色の毛並みをしたネコのような四肢が生え、ばたばたとうごめいているところだった。
「あに…うえ…」
がくぜんとつぶやく少年をよそに、半獣、半陰陽の雌は連れ合いにしなだれかかってなにごとかをささやいた。
伴侶がそっとおろしてやると、かつて第一皇子リエントだったなにかは優雅に四足で立ち、腹の重さによろめいてから、どっしりした双臀をもたげて誘うように振りたて、首をうしろにねじむけてまたなにか乞う。以前は逆境にあってたじろがず臣下を指揮したおもざしは、今はただあさましい媚びとおもねりだけを浮かべていた。
すると若者の輪郭がぼやけ、突如、鱗でよろった巨躯があらわれ、二枚の翼を広げた。たちまち風が巻き起こり、はるかにはなれたアールを揺さぶる。嗚咽をもらしそうになった唇を、うしろから焦茶の掌がふさいだ。
“だめ、みつかる、死ぬ”
“もが…むぐ…はなしてください。あにうえを、たすけなければいけません”
“むり。死ぬ。あと、めす、しあわせ”
“ぇっ?”
とげを帯びた二股の陰茎が螺旋にねじれあって、ひろがりきった菊座にめりこんでいく。寸法が違いすぎるため、とうてい入るはずはないように思えたたが、冗談のようにおさまっていく。
くしざしになった雌は泡をふき、歯がみしながら、ネコのような四肢をばたつかせ、黄金の蓬髪から汗の珠をちらして、宙でもがく。やがて産道をおしひろげて、大きな卵がひとつ、またひとつとまろびでてくる。すると待ち受けていた龍は、鱗でおおった尾を操ってあやまたずとらえ、巻き取ると、翼の影にかばう。

リエントだったなにかは、ぽっかりとひらいた秘裂を外気にさらし、こきざみに震えた。
一方で順に四つもの命の器をしまいおえた長虫は、安堵したようすで尾をくねらせてから、ふくよかな頬をなでてやった。
雌は汗ばんだ額をてからせつつ、腹を変形させるほどの雄幹をはらわたにうけいれたまま、うっとりとまぶたを閉ざすと、とぎれとぎれに台詞をつぶやく。ちょうど正面を向いているため、かすかな唇の動きを、第二皇子は遠見の道具ごしに読み取った。