「いい加減にしなっ、くっ、あぁっ」
叫ぶつもりだった言葉は強引に中断された。光悦の指が陰核と秘所への責めを再開させたからだ。先ほどの絶頂はやりすごしたが、それでも内部にたまった快楽の炎とその熱は放出されてはいない。大波をやり過ごしただけでそれらは波のように寄せては返すようにまたやってくるのだ。
それに、光悦はさきほどまでの責めで菫子の弱点をほぼ見つけ出していた。あとは、声をあげさせながらそれをおさらいしてくだけだ。現にようやく声を出すことを許された菫子の口は再開された光悦の動きに敏感に反応している。
「良い声で啼いてくれますねえ。責め甲斐がありますよ。」
光悦の声には調子付いたものがあった。だが菫子にそれを責める余裕はもうなかった。光悦の舌と両手は見つけ出した菫子の弱点を熱心に責めつづける。脚や腰は不自然な痙攣を繰り返し始め、手は何かを耐えるようにベッドのシーツを握りしめている。背筋を流れる甘く白い電流はもはや間断なく強弱をつけて流れっぱなしだ。菫子はこの感覚が何か知っていた。夜中、自分のベッドで自慰をしたときに何度も味わったものだ。だが、今感じているものはそれとは比べものにならない。まさに自分は「イク」瞬間を迎えようとしているのだ。もちろん抵抗を感じないわけではない。むしろ菫子の理性は必死に抵抗し、プライドはしがみつくように快楽に流されまいとしている。だがそれはか細い木の幹が濁流の中にあるようなものなのだ。時間の問題であるのは誰の目にも明白だった。むしろ光悦の責めは、我慢を溜め込むほど絶頂の気持ち良さが大きいのを理解し、菫子がトばない程度に手加減しているようでもあった。
だが始まりがあれば終わりもある。ついに菫子は限界を迎えようとしていた。
「ひっ、あっ、ダメっ、まって…… はっ、ああっ、あああああぁぁっ!」
ついに、背筋を弓のように反らせ、無防備に喉を晒しながら菫子は絶頂した。全身の毛穴から汗が噴き出し、荒い息が溢れる。安堵感と幸福な疲労感がどっと押し寄せてくる。
「処女なのにイッたんですね。男として嬉しくなりますね。それとも菫子さんは敏感なんでしょうか」
光悦の嘲弄が耳に届いた。菫子の矜持はそれに反応する。たしかに生理的に絶頂を迎えたが、心は折れていないつもりだった。
「ちょ、調子に乗らないでちょうだい。イッてなんていないわ。あんたみたいなヘタクソに女の扱いが分かるものですか」
言ってやった。菫子は光悦の反応を伺う。せめて一太刀は浴びせられた。すくなくとも怒らせはしたはずだ。そのはずだった。だが光悦の言葉はまったく予想外のものだった。
「イッてない、というわけですか。私の勘違いというわけですね。それもいいでしょう。それなら、イクまで続けるだけですしね。」
あくまで冷静な声で光悦は動作を再開する。光悦の指は乳首をしごきあげ始めた。光悦のもう一本の指が尻を鷲掴みにすると、快楽と幸福の律動を送る動きを再開する。光悦の舌は陰核と陰唇を優しく責めたてるように、ナメクジのように動き始めた。菫子の腰が再び浮く。無意識のうちに男を誘うようにくねる。当然だろう、絶頂直後の敏感すぎる体に、甘く強すぎる刺激が再開されたのだ。
甘い蜜のような余韻を楽しんでいた肉体は再び敏感に反応を始めた。菫子の同級生の若い男たちが見れば即座に股間を押さえてうずくまるほどの美しい健康な肉体が跳ね始める。絶頂でじっとりと噴き出した汗はいまだ白い肌をはだけながら半ば覆っていたシャツを不快に湿らせていた。その肉体に、再び光悦の性技が襲いかかる。
「やっ、やめてっ、少し休ませてっ」
そんな言葉で男が止まるはずがなかった。光悦の技で腰を浮かせ思うがままに肉体を踊らせる姿はまさに対照さによる芸術そのものだった。健康を象徴するような引き締まった肉体が、女の声を上げながら淫らに腰をくねらせる。そのいやらしさは普段菫子が見下している同級生の男たちが見れば、少なくともしばらくは夜の自涜行為の妄想には困らないであろうほどの淫靡さだった。絶頂を迎え高ぶった体を、処女の肉体を絶頂まで押し上げた光悦の舌と指が自在にいたぶる。最初から勝負は分かっていた話だ。
「みっ、認めるからっ、イッたからっ、イキましたっ、あなたのせいで、私イッたのっ!」
ついに菫子は折れて敗北を認めてしまった。口から言葉が出た瞬間、張り詰めていた心が折れる音が聞こえた気がした。自分は、この男に負けたのだ。敗北感が胸に広がるのが分かる。
だが。光悦の手は止まらなかった。
「なっ、なんでっ! イッたのにっ、認めたのにっ!」
敗北を認めたのに、無条件降伏をしたのに、攻撃がやまないなどあっていいはずがない。菫子は自分が敗者であり、勝者の寛容さを求める立場の屈辱を噛み締めながら抗議する。しかし。
「——————————ッ!」
光悦の手で、菫子の口がふさがれた。菫子は悟った。この光悦は、許す気などないのだ。浮いた腰が卑猥なダンスを踊るように再びガクガクと震え始める。二度目の絶頂が近いのだ。
「————ッ ——————ッ!」
声にならない声をあげながら、菫子は再び、2度目の絶頂を迎えた。思考が白く塗りつぶされ視界が白く濁り始める。だが、それでも光悦の攻めはやまなかった。膣内の浅い場所にある、ざらざらとした場所に舌が届く。こすり、とんとんと叩き、そして舌でコリコリと刺激を加える。再び絶頂。
「————ッ ——————ッ! ——————ッ!」
声が獣のような低さを含み、思考は何度も白く漂白され、そしてまぶたの裏で火花が白く飛び散る。
また絶頂。3度目、あまりにも感覚が短すぎ、あまりにも強すぎる絶頂。菫子は自分がこのまま絶頂から降りてこられないのではないかと不安に思い始めた。
そしてようやく光悦の手が口から離される。菫子はそのとき、絶頂の中で自分の突き出された舌が光悦の掌に押し当てられていたことを自覚した。気管へと新鮮な酸素が流れ込んでいく。酸素が肺腑を満たし、思考がようやく戻って来る。自分の下半身が壊れた機械仕掛けのようにビクビクと踊り、何かの病に侵されたようになっていることが分かる。秘所からは噴水のように愛液は噴き出している。小便を漏らしているかのような奇妙な解放感。間違いなくその無様な姿は男の目に晒されている。とてもだが今はそんなことは気にしていられない。
菫子は強すぎた刺激の渦にいまだに飲まれている。足をだらしなくガニ股に開き、秘所から噴き出すように溢れる生暖かい愛液の感触を楽しみながら、絶頂の余韻に浸っている。
痛みや屈辱、嫌悪と敗北感。それらを押し流す圧倒的な快楽奔流。連続絶頂の法外な白い濁流にすら菫子の強靭な精神は抵抗した、そのつもりだった。だが、抵抗する中でどくどくと流し込まれた快楽は屈辱と化学反応を起こし、被虐の悦びへと変わる。意図せずして、菫子は甘すぎる絶頂と被虐快楽の味を知ってしまった。
菫子は連続絶頂の余韻の中で被虐快楽の甘さに酔っていた。
呼吸が整い、視界の霞が晴れ、頭が回り始める。そして同時に光悦がいまだ自分の体を組み敷いていることが分かる。自分の敏感な場所や脇腹、太もも、へそ、腋に光悦の手や口による愛撫が再開される。そして思い知らされた。絶頂のたびに、絶頂を重ねるごとに自分の感覚は敏感になっていく。そして、光悦の巧みな技術は自分を先ほども軽々と絶頂へと押し上げた。この男に抵抗しても無駄なのだ。どうあがいても、自分の中のメスの部分を突きつけられ、肉欲を曝け出させられ、そしてあっけなく絶頂してしまう。もう抵抗しても無駄なのではないだろうか。無駄であるなら、いっそ素直に受け入れてしまっても、そんな考えが頭をよぎった。
この男によって思うがままに狂わされ、絶頂を迎えさせられた。そしてその行為の中で強くなっていく思いがある。この男に犯してほしいというメスの本能の欲求だ。ここまでしたのだから、最後までしてほしい。子宮が疼くのが分かる。本来であれば、処女の菫子が抱くはずのない思いであっただろう。だが、光悦の磨き上げられた技巧は菫子の官能を呼び覚まし、快楽本能に訴えかけ、ついに子宮に飢餓感を感じさせることにすら成功させた。それでも光悦は待つことを知っているようだ。再び菫子の肉体が跳ね、愛液が噴き出しシーツの上に恥ずかしいシミを作り出す。菫子は、ビクビクと震える脚が自由に動いているのを感じ、光悦がもはや自分を押さえつけていない、その必要すら感じていないことにようやく気付いた。いつごろそれを止めたのか、見当すらつかなかった。
光悦はさらに菫子を責め立てた。部屋には菫子の嬌声が響き続けた。最後の方は叫ぶような声であった。それをさらにじっくりと、食材を熟練の料理人が下ごしらえするように、丹念に念入りに手抜きなどせずに時間をかけて行為は続けられる。しばらくの時間が流れた。
何度も絶頂を重ね、気だるささえ感じる。愛液で大きなシミを作ったシーツに横たえた菫子は荒い息をつきながら汗だくの肉体を横たえる。もうこの体は完全に光悦に躾けられてしまった。何度も絶頂を味あわせられ、惚けながら菫子はなかば直感的にそう思った。だから、光悦が菫子の脚の間に体を割り込ませてもなんとも思わなかった。