―レッスン中―
(さすがに、まだ早いかもしれないし、もうちょっと待った方がいいわよね……?)
呪文を唱えようとした直前で、私はすぐに踏み止まる。
講師一人しかいない場で呪文を使っても、目的を対して果たせないはずだ。
無駄な努力にしかならないのに、レッスンを続けている姫の様子を遠くから見ている間もあまりにじれったくてたまらない。
すでに身体の準備だって調えているはずなのに、絶好の機会が訪れるまで当分待ち続けなければいけないのだ……
「もう、何度言ったら分かるの! 本当にカトリーヌ姫って身体が硬いのね……」
「……痛っ! お願いだから無理に引っ張らないで……!?」
思い悩んでいる私をよそに、姫は講師とともにレッスンを続けていた。
姫の姿勢をじっくりと眺めながら、すぐに講師が愚痴をこぼし始める。
今晩に社交ダンスが控えているはずなのに、未だに綺麗な開脚がこなせないのが気になってたまらないらしい。
姫も丸太のような太股を無理に持ち上げたまま、額に脂汗を浮かべながら苦しそうに表情を歪めている始末だった。
* * * * * *
「……さてと、何とかレッスンも終わったことだし。そろそろ仕立て屋に行く時間かしら?」
何度も講師に叱られるうちに、気づいたらレッスンの時間が過ぎ去っていた。
更衣室でレオタードを肌蹴た後、姫はすぐさまジャンパースカートやブラウスに袖を通していく。
これから仕立て屋に向かって、新調したドレスを取りにいくつもりでいるらしい。
よほどドレスが待ち遠しくてたまらないのか、わざわざ笑みをこぼしながら浮かれているようだ。
ギュッ……
(お願いだから、もう少しだけ持って……)
姫とともに馬車へ乗り込む間も、私はそっと片手で股間を押さえ込む。
これから仕立て屋に行かなければいけないのに、朝から我慢し続けていた尿意が段々と苦しくなってきたのだ。
座席に座っている間も、下半身の様子があまりに気懸かりでたまらない。
まだ呪文を使う機会がなかなか巡ってこない中、段々と気持ちが焦ってくる……