『近隣の洞窟に魔物が現れた、村の人間では太刀打ちできない。どうかギルドの方々のお力を貸してほしい』
冒険者ギルドに所属する剣士グレイがその依頼を受けたのは数日前のことだった。手持ちの金に困っていたわけでもないが、持ち前の正義感から罪もない村人たちが魔物に襲われることを見過ごせなかったグレイはすぐさまその依頼を了承した。
「はぁ……思ったより遠いな……」
現在、グレイは馬車で依頼をした人物の待つ村へと向かっているところだ。グレイの拠点とする町から目的の村へはおおよそ2日といったところだろうか。馬車に揺られながらグレイは依頼書を見返す。
(リザードマン、ジャイアントスパイダー……洞窟を住処とする普遍的な魔物ばかりだな)
腕に覚えのあるグレイからすれば、辺境の洞窟に住むリザードマンなどの魔物は特に対処に困る必要もないと考えていた。またジャイアントスパイダーに関しても万が一にそなえ解毒薬を準備した。
(……ん? 他に姿が確認されたモンスターに……サキュバス?)
サキュバス――淫魔とも称される魔物は少女から妙齢の女性まで、様々な姿形をした人型の魔物だ。グレイは今まで戦ったことのない魔物だが、知識としてだけは知っている。彼女達は全員が生まれながらに美女、美少女であり、その魅惑的な肢体と言葉巧みな誘惑で人間の、主に男性を誘惑し、卓越した性技で生命エネルギーを搾り取る魔物だが、戦闘能力自体は低く、魅了の魔法さえ防ぐことができれば優位に戦えるはずだ。
(まあここに出現するのは力の弱い下級サキュバスばかりらしいし、淫魔除けの札も持ってきたし、大丈夫だろう)
淫魔除けの札は上級サキュバスや特殊な能力を持つ夢魔、香魔といった淫魔ならばその力を少し抑える程度の力しか発揮しないが、能力を持たない下級サキュバス程度ならば札を所持していることで完全に魅了の魔法を防ぐことができるし、下級サキュバス自体も装備している者に触れることはできないのだ。
(そこまで心配する必要もない、楽な依頼だな……早く片付けてしまおう)
手配書をたたみ、グレイは村までの数時間、どうしようかと悩みながら知らずのうちに眠ってしまった。
「おお! お待ちしておりました!」
村へ到着したグレイを迎えたのは痩せた人のよさそうな老人だった。案内されるまま、この村の村長だと名乗る老人の家に招かれ、グレイは詳しい依頼の話を聞くことになった。
「依頼を受けていただいて感謝の言葉もありません! えー……失礼ですがお名前は……」
「申し訳ありません、まだ名乗っていませんでしたね、冒険者ギルド所属の剣士グレイと申します」
「グレイ殿! 以前お聞きしたことがあります! 若く、美しい顔立ち、小柄な体に似合わぬ凄まじい剣技、歴代最年少でB+ランクまで駆け上がった並々ならぬ才能を持つギルドの新星だと!」
握手を求める村長に応じながらグレイは困ったような笑顔を浮かべた。
このような小さな村にまで自分の話が広まっているとは思わなかったということ、そして小柄、という密かなコンプレックスまで広まっていることは面白くなかったが、村長は、救世主が来た! と言わんばかりに瞳を輝かせており、文句を言うこともできなかった。
「いや噂に違わぬ容姿をお持ちで……」
グレイの顔を見つめながら村長は感嘆の言葉を漏らす。本人からすれば自分の実力は全く関係のないところであるため特に興味もなかったが……実際のところ、グレイは一見すれば小柄な体格も手伝って少女に間違えられるのではないか、というほど線の細い美しい顔立ちをしていた。
「村長さん、僕の話はいいですから……さっそく依頼の話をしましょうか」
「おお、申し訳ありません。初めに魔物が現れたのは……」
ようやく本題を話し始めた村長に小さくため息をつきながら、グレイは詳しい話を聞くことになった。
事の発端は2週間ほど前、村の近くで見たことのない魔物――リザードマンのことらしいが――を目撃したのが始まりらしい。それ以来、村の外に出た村人が魔物に襲われることが急激に増加した。その後、村人達はリザードマンの住処らしき村はずれの洞窟を発見、一度は村人だけで討伐隊を結成し向かおうとするも、洞窟内で様々な魔物に襲われ命からがら逃げ出したとのことだ。
「気付くのが遅かったのです。もはや、私たちだけで解決する問題ではない、と。ここはなんとか村中で金を出し合い、名高い冒険者ギルドへ依頼し解決をしていただくしかない……そう村人達で相談し決めました」
沈痛な面持ちで語り終えた村長は強く拳を握りしめていた。犠牲になった村人を想ってか、自分の無力さを噛みしめているのか……村長の言葉から強い想いを感じたグレイは頷きながら口を開く。
「なるほど……事情は把握しました。さぞ、つらい思いをなされたのでしょう……安心してください、ご依頼、正式に引き受けさせていただきます」
「おお……! ありがとうございます、ありがとうございます!!」
グレイの言葉を聞いた村長はわずかに涙を浮かべつつ、グレイの手を取り、力いっぱい握手を繰り返した。
「さて、解決は早いほうがいいでしょう、僕はこれから件の洞窟に向かいます」
「なんと……! もうすぐ夕刻、魔物が活性化する時間です。明日の朝に向かったほうが……」
「ご心配なく、おそらくリザードマン程度の魔物ならば大丈夫でしょう、洞窟の詳しい位置を教えていただいてもよろしいですか?」
「さて……」
村から1時間ほど離れた場所にその洞窟はあった。小さな林の中にある岩壁に、暗く、大きな穴が覗かせている。肩を伸ばし、体の力を抜きつつグレイは洞窟に突入する準備を整える。
「肩慣らしにもならなかったな……」
地面に転がるそれらを見つめながらグレイは小さくつぶやく。曲刀、木でできた盾らしきもの、そしてそれらの持ち主だったもの……両断され、命を落としたリザードマン達の死体だった。10体以上のリザードマンを倒しておきながら、グレイは息ひとつ上がっていない。
(この分ならこの依頼はすぐに終わるかな)
結局のところ、グレイの実力からしてリザードマン程度の魔物は相手にならなかったのだ。
そもそもこの依頼の適正ランクはC~D、グレイのギルドで定められたランクはB+だ。
この程度の依頼はそもそも受けないことが多いのだが、グレイの長所でもあり、短所でもあった強い正義感が黙っていなかったのだ。
「じゃあ……行こうかな」
傍から見れば、緊張感のなく洞窟に入っていくグレイの姿は異様に見えただろう。
しかし裏を返せばそれはグレイの自分の実力に対する自信の表れでもあった。
「シャー!!!」 ザンッ!! 「キーッ!!!」 ザンッ!!
「はぁ~……」
洞窟内は、リザードマン達が設置したのか壁に燭台が設置されており、それなりに明るく進みやすい。左右からとびかかかってきたリザードマンを二振りで両断しながらグレイはあくびを噛み殺す。
洞窟に入ってからというもの、リザードマン、ジャイアントスパイダー、ポイズンサーペントなど……洞窟に出現するスタンダードな魔物たちに襲われたが、すべて特に苦戦することもなく撃退していた。洞窟の大きさ自体はそれなりのようだが、横道が少なく、広い主通路を歩いているだけで最深部までたどり着けそうだ。
(それにしてもあまりにも退屈……ん?)
そのとき、グレイは前方に新たな魔物の気配を感じて立ち止まった。遠目からみた姿形はまるで人間のようだが、明らかに人間とは違う特徴がその影にはあったのだ。グレイは新たな魔物に警戒しながらゆっくりとその影に近付いていった。
「あら……♡ ぼくぅ……こんなところで何をしているのかしら?」
「……っ」
甘ったるい女性の声が、まとわりつくように耳に入り込む。その姿が鮮明になったとき、グレイはわずかに息を飲んだ。そこにいた女性は、グレイが今まで見てきたどの女性よりも美しく、可憐な顔立ちをしていたのだ。大きな瞳も、潤んだ唇も、一度見つめれば目を離すことのできないような、現実離れした美しさだ。ただ、それは芸術品のような美しさとはまた違う。夜の街で客引きをする娼婦のような、危うく、淫らな美しさだった。
そしてその顔と同様、いやそれ以上に目を惹かれるのはその肢体だった。下着のような露出の激しい黒い衣服が、胸の一部と腰を覆っているだけであり、薄暗い洞窟で輝くかのような白い肌を存分に露出していた。見たこともないほど大きな乳房も、むっちりとした大きなお尻も、すらっと長く、艶めかしい線を描く脚も……身体のどこを見ても目を惹きつけられてしまう。
(この女性……間違いない……)
さらにその女性には最大の特徴があった。それは普通の女性だったら絶対にないものだ。
長く尖った耳、髪の間から覗く赤黒い角、臀部から覗く蛇のように動く矢尻の形をした尻尾、そして背中から広がる蝙蝠のような羽。
「……サキュバスか」
「ふふっ♡ 一目見てわかるなんて……ぼうや、私たちのこと知っているのね」
グレイは初めて遭遇するサキュバスに不覚にも僅かに動揺してしまった。文献などで目にするのとは違う……実物は文字通り、人外の美しさだ。これに惑わされ、犠牲になる冒険者がいることもうなずける。
「私たちのことを知っているなら話は早いわ……ぼうやみたいな可愛い子が、こんなところにいるとぉ……美味しく食べられちゃうわよ♡」
動きを止めていたグレイにサキュバスは近付こうとする。文献に書いてあった通り、淫魔特有の甘ったるい体臭はグレイの鼻をくすぐる。舌なめずりをしたサキュバスはゆっくりと手を伸ばそうとするが……
「あら? 近づけない……?」
「……僕は淫魔除けの札を持っているから、キミのような下級サキュバスは近付くことはできないんだ」
それを聞いた瞬間、好色に笑っていたサキュバスの顔色が打って変わった。羽と魔力を使って素早く後方に飛び去り、警戒するような表情でこちらの様子を伺っている。
「淫魔除けの札ですって……? ぼうや、ただの迷い込んだ男の子じゃなさそうね……」
「僕は冒険者ギルドから依頼を受けてきた剣士だ。ここの洞窟のボスを倒しにきたんだけど……邪魔するならお前も倒す」
「そういうこと……なら邪魔なんてしないわ。私たちはここのボス……あのリザードマンに忠誠なんてないもの。そうね……もし見逃してくれるなら、ボスの部屋につながる近道を教えてあげるわ」
サキュバスの言葉を信じるか信じないか、グレイは少し考える。そしてゆっくりと剣をしまった。サキュバスの言うことをすべて信じるわけではないが、見た目がほとんど人間であるサキュバスを切り殺すのも気分が悪いし、近道の話が本当ならば時間短縮にもなる。
「……一度は見逃してあげる、ただしもう一度、僕の前に現れたら……そのときは容赦しないから。あとボスを倒したらこの洞窟からさっさ出て行ってね」
「ええ、もちろん。わかったわ。近道はこの先の通路を左に曲がった小道の奥よ。魔物を見逃すなんて、優しいのね、ぼうや」
「……僕は子供扱いされるのは嫌いなんだ。次にぼうや、って呼んだら斬るから」
「あら気に障ったかしら……ごめんなさいね。それじゃあ私はもういなくなるから。頑張ってね、ギルドの剣士様♡」
羽に魔力を込めたサキュバスは、ウィンクをすると洞窟の闇に消えていった。グレイは最後までふざけた態度をとるサキュバスにため息を吐きながら、洞窟の奥へと歩き出した。
飛び去ったサキュバスは、洞窟の天井からつながる小部屋に居た。その小部屋は彼女達がリザードマン達から隠れ住むために見つけ、整えたサキュバスの巣ともいえる場所だった。
「ふふっ……♡ まだ小さくて女の子みたいな顔をしているのに、眉間に皺を寄せて、大人ぶって可愛い子だったわ……♡」
自分よりも格上のギルドの剣士と遭遇したというのに、その表情には怯えも焦りもなく、好色そうな笑顔だけが浮かんでいる。
「私を見たときのあの反応……きっと“初めて”なんでしょう♡ 童貞のぼうやがわざわざこの洞窟を訪れてくれるなんて、私たちはツイてるわね」
「くすっ♡」「あははっ♡」「ふふっ♡」
周囲から、複数の女性の笑いが小部屋に響く。その小部屋にいるのは、グレイが遭遇したサキュバス一人ではなかった。ここはサキュバスの巣、そこには隠れ潜む幾人ものサキュバス達がいるのだ。
「若くて、綺麗で、ギルドの剣士だなんて。きっととても美味しい精を持つに違いないわ。今まで一番の獲物になりそうね……♡ みんな頑張りましょう」
今度は周囲からは歓声があふれる。ここに住む淫魔たちは皆精に飢えている。ここは一人では狩りも満足に行えない、力を持たない下級サキュバス達の住処なのだ。その中の一人がおずおずと少し心配そうに手を挙げた。
「あの、ディアーネ様、相手はギルドの剣士です。それに淫魔除けの札を持っています……私たちだけでは……」
ディアーネと呼ばれたのはグレイの遭遇したサキュバスだった。その一人の声を受けて周囲からも不安そうな声が漏れ、瞬く間にざわざわと、どよめきはじめる。
「あなた達はなにも心配しなくていいのよ……私の言う通りに動いてくれれば、ギルドの剣士だなんて関係ない、童貞のぼうやなんて簡単に堕としてしまえるわ♡」
ディアーネは安心させるかのように周囲のサキュバス達に宣言する。あまりに自信に満ちたその声に周囲のどよめきは一瞬で静まり……
「あぁん、ディアーネ様かっこいい♡」「さすが私たちのリーダーだわ!」「一生ついていきますわ……!」
すぐに喜色に溢れた歓声へと変わっていく。その様子を見てディアーネは笑みを深めた。
「本当に近道じゃないか、あのサキュバスどういうつもりだ?」
グレイは一応、罠を警戒しつつ、サキュバスに教えられた道を試しに通ってみた。
結果、小さな抜け道になっていたそこを抜けると、開けた広間のような場所に出たのだ。そこに居たのは多数のリザードマンと、一目でボスとわかる、岩でできた玉座に座る様々な装飾品を纏った体格の大きなリザードマンだ。
「キーッ!!」
突然現れた侵入者に興奮したかのようにリザードマン達は武器を構えて襲いかかってきた。リザードマンの振りかぶる曲刀を受け流し、最初の一匹の首を落としつつ、二匹目のリザードマンが曲刀を構える前に近付いて、両断する。小柄な体格のグレイの戦術は、速さと技だ。力で敵わない以上、それを磨くしかなかった。しかしそれが功を奏したのか、グレイはメキメキと力をつけ、今ではギルドの大型ルーキーとして期待されているのだ。
「グォッッ!!」
半数ほどのリザードマンを打倒したとき、玉座に座るボスらしきリザードマンが咆哮する。
回りのリザードマンの動きが止まり、控えるように後方へ飛び去った。
「ツヨキニンゲンヨ、ワレガアイテヲシヨウ……」
拙いながらも、人語を話したリザードマンは、得物である巨大な斧を構え、こちらにむかってくる。人語を話す魔物は知識が高い傾向にある。知識があるということは技を使うということでもある。体格から力比べでは話にならないだろう。
「……少しは楽しめそうかな」
グレイは口元に笑みを浮かべ剣を構える。リザードマン達が取り囲む中、グレイとボスリザードマンとの戦いが始まった。
「……この程度か……」
愛剣の血糊を拭きながら、グレイは広間を見渡す。首を刎ねられたボスリザードマンの死体、その他、取り巻きのリザードマン達はすべて息絶えていた。
(結局このランクの任務じゃこんなものだよね)
討伐した証として、リザードマンの爪や牙、ボスリザードマンの付けていた装飾品などを回収し、グレイはため息を着きながら広間を出る。
(ボスがいなくなれば、基本的に魔物は住処を出ていく。残った魔物も強い魔物が居なくなって安全ではなくなったここにとどまることはないだろうし、あとは村にちょっと滞在して残りの魔物が襲ってこないか見張っていれば大丈夫だろう)
そんなことを考えながら小道を抜けて大きな通路を引き返す。そして行きの道でサキュバスと出会った場所付近にたどり着くと……
「あらぁ、また会ったわね”ぼうや”♡ ボスのリザードマンは倒せたかしら?」
そこに居たのはさきほど一度見逃したはずのあのサキュバスだった。羽をはためかせ、宙に浮いているサキュバスは余裕すら感じる笑みを浮かべ、グレイに手を振っている。グレイはため息をつきながら、剣をゆっくりと構えた。
「……さっき言ったことは忘れたのか? 二度目はないっていったはずだけど」
「ちゃんと覚えているわよ? ただやっぱり気が変わったの……だってギルドの剣士っていっても、ぼうやはこんなに小さくて可愛いし……私でも勝てると思ったのよ♡」
サキュバスの言葉に、グレイは退屈な戦いで溜まっていた鬱屈とした思いがグツグツと怒りになって湧き上がるのを感じた。このサキュバスは自分の実力すら図れない馬鹿なのか、それとも本当にグレイを弱いとでも思っているのか。
「それ、本気で言ってる?」
「もちろん本気よ? だって、ぼうやったら童貞でしょ? 童貞で、人間の男の子なんてサキュバスにとっては最高の獲物だもの♡ ……ぼうやだって、本当はおちんちん気持ちよくしてもらいたいんじゃないの?」
淫魔除けの札を装備しているため、サキュバスからは近寄れないことも忘れ、サキュバスのこちらを舐め切った言葉にグレイの頭に血が上っていく。サキュバスの淫らな言葉に嫌悪感すら覚え、グレイの感情は爆発した。
「さっきもいったけど、僕は子供扱いされるのが、嫌いなんだ!」
剣を抜き、グレイは凄まじいスピードでサキュバスに肉薄した。しかしサキュバスはそれを予期していたかのように天井付近まで飛び上がり、グレイの剣を躱した。
「あぶないわね……さすがギルドの剣士様……♡ やっぱり私じゃ勝てないかもしれないわ。そうね、逃げさせてもらおうかしら」
「……っ! 待て!」
サキュバスは身を翻すと宙に浮かび上がりながら逃げ出した。完全に頭に血が上っていたグレイは自慢の俊足でサキュバスを追いかけ始める。宙に浮くサキュバスには剣による攻撃が当てにくいのが余計に怒りを生む。主通路から外れ、洞窟の横道に入っていくサキュバスを追いかけ、グレイは疾走する。
「はぁ……はぁ……もう逃がさないぞ……」
横道を抜け、ついに行き止まりらしき、開けた場所に出た。天井も低くなり、サキュバスが宙に浮いたとしても十分に剣先が届くだろう。
「自分から挑んでおいて、逃げるなんて臆病者め! 今倒してやる!」
グレイは怒りにまかせ、サキュバスに向かって走り出そうとした。上に逃げ場のない部屋では下級サキュバス程度がグレイの剣を躱すことなどできない。そう確信し、真っ直ぐにサキュバスへ突撃する。
ガコンッ!
しかしその瞬間、グレイの足元の地面が、まるで重量に反応するかのように不自然に沈み込んだ。
(ま、まずい、これはトラップ……!)
プシュッ!!
「うわっ!!」
踏み込んだ床から大量の真っ白い煙が噴き出し、グレイの全身を包んでいく。
洞窟などのダンジョンには、過去に住んでいた魔物や盗賊などが仕掛けたトラップが設置されている場所がある。トラップの種類は多種多様だが、基本的に動きを止めるための落とし穴、痺れ罠、縛り罠などが多い。しかしこの煙はそのどれにも属さないものだった。
装備外しの罠。転移魔法を応用した対象の装備品だけを文字通り外してしまうトラップであり、ダンジョンで魔物と戦っているときにこれにかかってしまうと、武器や防具を無くし一度に窮地に立たされてしまう罠だ。回りに敵がいなければただ装備を付け直せば良いだけなのだが……
「あはっ♡ 随分、良い恰好になったわね、ぼうや♡」
「くそっ……トラップに誘導したのか……卑怯な……!」
煙が晴れたとき、グレイは文字通り装備品……それどころか、衣服まですべてが外されてしまっていた。小柄ながらも鍛えられて引き締まった身体も、陰毛の一本も生えていない、先端まで包皮の被ったペニスまでもがさらけ出されてしまったのだ。
「んー……あらあら♡ ぼうやのおちんちん、可愛いお帽子を被ったままじゃない……♡ それに毛も生えてなくてつるつるのぴかぴか……♡ 想像通りの可愛いおちんちんだわ♡」
「……み、みるなっ!!」
とっさに両手でペニスを隠しながら、グレイは羞恥で顔を真っ赤にする。子供扱いされることが嫌いなグレイにとって、自分のペニスが包茎であり、陰毛もまだ生えていないことは大きなコンプレックスだったのだ。
「あら……おててで隠して……可愛い♡ さぁぼうや、装備も服も無くしちゃったけどどうやって私と戦うのかしら?」
グレイは四方に散らばってしまった武器、防具、装飾品、そして衣服を横目に見る。回収するにはあまりにも離れすぎている。それに目の前に立つサキュバスがただで逃がしてくれるとは思えない。武器や防具がなくなったところで、相手は下級サキュバス、戦闘力はほとんどないはずだ。
「舐めるな……! おまえ程度なら……素手で十分だ!」
羞恥心を完全に捨てきれず、片手はいまだにペニスを隠し続けていたが、グレイは片方の手を構えて戦闘態勢をとる。それに対してサキュバスは笑みを絶やさず、余裕の態度を崩さなかった。
「勇ましいのね……♡ 確かに私は強くないけど……でも、ぼうやにはもう淫魔除けの札はもうないのよ? つまりね……サキュバスの魅了が通じるってこと♡ ほらよく見て……私のおっぱい……♡」
むにゅんっ、と音を立てるかのようにサキュバスの両手で持ち上げられた乳房が揺れる。
両手で包んでも収まりきらない大きな質量を持った乳房に、グレイの視線は一瞬で惹きつけられてしまった。
(な、なんだ……身体がうまくうごかない……それにサキュバスの胸から目が離せない……!?)
何故だか、惹きつけられてしまった視線は釘づけになったまま逸らすことができない。さらに、体が鉛のように重く、うまく動かすことができなくなってしまっていた。
「サキュバスのおっぱいはどうかしら……♡ 大きくて、柔らかくて、気持ちよさそうでしょう? この谷間に顔を埋めてみたい……両手でむにゅむにゅっ♡ ってこねくり回したい、赤ちゃんみたいにちゅーちゅー♡ って吸い付きたい……そう思わない?」
サキュバスの甘ったるく、淫猥な言葉はグレイの耳から入り込み、グレイの脳には、言われたままの光景が浮かび上がる。身体が熱く、自然と呼吸が荒くなってしまう。
「一度顔を埋めてしまったら、気持ちよくて二度とおっぱいから出てこられないかもしれないわね♡ 両手で触って、揉んだりしてみたら、手のひらとおっぱいがくっついて離れないくらい気持ちいいわよ……?」
年若いグレイには性経験はない、しかしその行為がどれほど気持ちよいものか、サキュバスの淫らな言葉が想像させるのだ。
(くそ、なんで身体が動かないんだ! それに股間が熱くなって……変な、気分に……)
その行為を想像してしまった結果、男性であるグレイにはどうしても我慢できない生理現象が起こってしまった。片手で隠していたペニスが、徐々に硬直し、肥大化して片手では隠しきれなくなったしまったのだ。
「あはっ♡ ぼうやったら……おててから可愛いおちんちんの頭が見えてきているわよ? おっぱいに甘えたくなってきた……? ほらいいのよ……私に近付いて、好きなだけこのおっぱいを味わっても♡」
目ざとく隆起したペニスに視線を注ぎつつ、サキュバスはますます強く自らの乳房を揉みしだき、グレイに見せつける。
(むにゅむにゅって、かたちがかわって、や、わらかそう……)
グレイの視線はサキュバスの乳房に奪われたままだ。そして言われるがままに一歩、サキュバスに向けて足を踏み出してしまう。しかしそこではっとグレイは我に返った。
(だめだ!! こ、これはおそらくサキュバスの魅了魔法の力だ! 気をしっかり持て、早めに決着をつけるんだ)
グレイは頭を振って意識を冷静に保とうとする。身体が熱く、興奮してしまっているがわかる。淫魔除けの札を取られたことで、サキュバスの魅了の力がグレイに及んでいるのだろう。グレイは必死でサキュバスの乳房から目を離そうとした。
グレイは知らなかったが、魅了魔法は自分よりも格上の相手にはあまり効果がない。ただしグレイ自身に性経験がないため、下級サキュバスの魅了魔法といってもそれなりに効果があったのだ。
「う、うぉぉっ!!」
しかしいくら効果があるといっても元々の力の差があるため、グレイの意思の力が強ければいくらでも跳ねのけることはできたのだ。大きく気合の声を上げるとグレイの身体に自由が戻り、意識も鮮明になっていく。
「さすがにぼうやと私じゃ力の差があるのかしら……1対1だとやっぱり私の魅了もあんまり効かないみたいね?」
「……小細工を……! 覚悟しろ、サキュバスめっ!」
グレイは大きく息を吐き、理性を取り戻した瞳でサキュバスに素手で立ち向かおうとした。しかし、その時……サキュバスが不敵に笑った。
「そう、1体1……ならね♡」
その瞬間、グレイの両腕が何者かに羽交い締めにされた。同時に両足にも何者かがしがみ付き、その場から動けなくなってしまった。
「ぐぅっ! あ、新手かっ!」
「はーい、ぼく♡ 動かないでねー♡」「ディアーネ様、やりましたっ!」「お、おとなしくしてくださいね……」
目の前に立つサキュバスとは別の、複数の女の声が聞こえる。背後から羽交い締めをするのが1人、両足にそれぞれ絡みつくように抱き着くのが2人の計3人の声のようだ。柔らかな身体がぎゅうぎゅうとグレイに押し付けられ、淫魔特有の甘ったるい香りが強くなる。おそらくこの3人もサキュバスなのだ。
「くそっ、卑怯だぞ!!」
「あら、さすがに私もギルドの剣士様に1対1で勝てるとは最初から思っていないわ。だけど装備もなくして、魅了に無防備になったぼうやと私たち4人なら……どうかしらね?」
ディアーネと呼ばれたサキュバスは動きを封じられたグレイを見て笑みを深める。下級サキュバスといえども、成人女性程度の力はあるだろう。3人の力で抑え込まれれば、小柄なグレイには分が悪かった。鍛えているといっても体格や体重の差は簡単に埋められるものではない。
「私たちはもともと強いサキュバスじゃないもの。一人で敵わないなら二人で、二人でも敵わないなら三人で、三人で敵わないなら、みんなで……人間だってとっても強い魔物と戦うときは集団で挑むでしょ?」
(くそっ、敵は目の前の、1体のサキュバスだけだと油断した! 普段ならこんなミスは絶対にしないのに……!)
普段のグレイならば、この距離まで接近される、ましてや素手で抑え込まれるなんてことは絶対にあり得なかった。先ほどまで戦っていたサキュバス……ディアーネの魅了の力に惑わされた結果、グレイは周囲への警戒を怠り、今の不利な状況を作ってしまったのだ。
「ふふっ♡ ぼうやが思った以上におっぱい夢中になってくれたおかげで、上手くいったわね。おっぱい好きだなんて、ますます子供っぽくて可愛いわ♡」
「はなせっ!! この……っ!」
グレイはまとわりつく3人のサキュバスを引き離そうと全力で力を込める。グレイの力に根負けし始めたのか、徐々に羽交い締めをしているサキュバスの手が緩み始めた。
「やだっ、この子、こんなに小さいのに力が強いよ~!」
羽交い締めをしているサキュバスが耐えられないかのように驚きの声を上げる。もう少しで抜けられる、そう確信したグレイは全力で力を込めようとして――
「ひっ! あぁぁぁぁぁっ♡」
突然、股間から感じたことのない感覚がグレイの全身を駆け抜けた。拘束から逃れようと躍起になっていたグレイは、不覚にもディアーネと呼ばれたサキュバスが目の前まで迫っていることに気付いていなかったのだ。そしてディアーネは片手でグレイのペニスを握り込み、絶妙な力加減で揉みしだいていた。
「ん~♡ つるつるで、良い触り心地……♡ 完全に勃起しちゃっているのに、おちんちんの頭は皮を被ったままの赤ちゃんおちんちん……♡ それでも必死に硬くなってオトナになろうとしている頑張り屋さんね……♡」
「うぁっ♡ こ、このっ! どこを触ってる! あぁっ♡ くぅ♡ ……やめろっ!」
ぐにゅぐにゅとディアーネの手がペニスを揉みこんだ瞬間に手足から力が抜け、自分でも予想のつかない情けない声を漏らしてしまった。さらにグレイの抵抗が弱まった瞬間、羽交い締めをしていたサキュバスが力を入れなおし、再び動きを封じられてしまう。
「やめろ、なんて口では言ってけど……おちんちんは気持ちいいよ~♡ って喜んでびくんびくん跳ねちゃっているじゃない♡ ほーら今度は優しくおちんちんを握って……上下にしこしこ~♡」
「あっ、あっ、あぁぁっ♡」
ディアーネは片手でペニスの先端を握り込むと、包皮だけをゆっくりと上下に動かしはじめる。包皮と亀頭が擦れ、じんじんと痺れるような、くすぐったいような……とにかく耐えがたい感覚にグレイはたまらず腰を引いて逃げようとした。しかし背後と両足でグレイを拘束するサキュバスがそれを許さなかった。
「あはっ♡ ぼく、腰が引けちゃってる~♡ でも逃げちゃだめ~♡」
「私たちも、気持ちよくしてあげるからね♡ ちゅ……れろっ♡」「んっ……れろ……れろぉ♡」
羽交い締めをしていたサキュバスはグレイの首筋に顔を近づけてその舌を這わせる。両足にしがみ付くサキュバス達は腰を引こうとするグレイを抑え、自らの胸を押し付けつつ、グレイの下腿から大腿までを舐め始めた。
(ち、ちからが、はいらない……っ!)
「サキュバスの唾液には強い催淫効果があるの。舐められたら身体が敏感になって、少し触られただけでも感じちゃうようになっちゃうのよ♡ ほら、どんどん舐められているところから気持ちよくなって、力が抜けていくでしょう?」
ディアーネの言葉通り、逃げようと力を込めようとしても、首筋や股間、両脚から伝わる快楽がグレイの手足から力を奪う。その間にディアーネはペニスをゆっくりと扱きあげながら、その異様なまでに美しい顔をグレイに近づける。
「いくらギルドの剣士様といっても、抑え込まれれば小柄なぼうやじゃどうにもならないでしょう。今からぼうやは、下級サキュバスである私たちの”餌”になるの……♡ ぼうやが屈服するまで、淫魔の快楽を身体に刻み付けて、何度でも精液を搾り取ってアゲル……♡ 最後には自分からおちんちんを差し出すようになるまでね♡」
「ふざけるなっ! ……ぼくは、おまえらみたいな、下等な、魔物に、屈することは、ない!」
「……強い意思を持った素敵な目……♡ その目が、凛々しい顔が、ぼうやの言う下等な魔物に犯されて、快楽に歪んで、だらしなく蕩けてしまうのが今から楽しみだわ♡」
ディアーネの口がゆっくりと開かれ、妖しく粘液の絡みつく肉色の舌と口腔内が露わになる。
サキュバス特有の甘ったるい香りが強くなり、吐息がかかるほどの至近距離までディアーネが近付いてくる。
「さっきも言ったけど、サキュバスの唾液はとっても強い淫毒なの。それを今からぼうやの身体に直接注ぎ込んでアゲル……♡ いくら私たちの魅了の力が弱いと言っても、体内から直接魅了してしまえば話は別よ……♡」
「な、なにをするつもりだ! 魔物め、顔を近づけるな、やめ……」
意図を察したグレイは必死に逃げようとする。しかしディアーネは他のサキュバスに命令しグレイの身体を強く固定した上で、ペニスを扱く手と逆の手でグレイの顎を掴み、勢いよくその唇を重ねた。
「んっ! ぐっ……」
蛇のようににゅるにゅると動きまわるディアーネの舌が唇の隙間をこじ開けようとする。本能的に危機を察知したグレイは必死で口を閉じ、ディアーネの口づけを拒もうとした。
「ん……れろぉ……だめよ……口を開けなさい♡」
「んんっ♡ あっ♡ あぁぁっ♡」
しかし同時にディアーネがペニスの先端、包皮の隙間から指を挿し込み、直接亀頭をクリクリと責め立てた。包皮に包まれた亀頭を触れることなどほとんどなかったため、その刺激はグレイにとってあまりにも強烈であり、思わず口を開いて声を漏らしてしまう。
「んふっ♡ いい子ね♡ あむっ♡ れろぉ……じゅる、じゅるるっ♡」
嬌声を上げ、開いたグレイの口にディアーネはその舌を素早く侵入させる。淫魔の唾液をたっぷりと絡めた長い舌がグレイの舌を絡めとり、ぐちゅぐちゅと音を立て貪るようにグレイの口腔内を犯し始めた。
「んーっ♡ んっ♡ あ、むぐっ、んんーー!」
女性とのキスの経験のないグレイにとって、それはキスと呼んでよいのかもわからない、あまりに淫らで、下品な行為だった。グレイの身体はビクビクと痙攣し、全身から力が抜けていく。息をすることすらままならない、互いの唾液が混ざりあい、口の中が溶けてしまいそうな錯覚すら覚える。
「ん……じゅぷっ、れろ、れろぉ♡ ほら、たっぷり飲み込んで……私とぼうやの唾液が混ざり合った特製のジュースよぉ……♡ じゅる、じゅるるっ……♡」
「んんっ♡ ……うっ、あっ、あ……♡ ごくっ……」
ディアーネの口から注ぎ込まれる唾液が自分の唾液と混ざり合い、喉まで溢れ、体内に侵入していく。灼けるような熱い感覚が咽喉から滑り落ち、そしてドクン、と心臓が跳ねた。
(お、おかしくなる……ぼくの、身体が……っ!)
心臓の拍動が耳に響くほど早まり、明らかに異常と分かるほど身体が熱い。洞窟に吹くわずかな風が肌に触れる感触ですら敏感に感じ取ってしまい、びくりと震えてしまう。
「んむっ……はぁ♡ 全身が敏感になって、何も考えられなくなってきたかしら? ……あらあら、おちんちんビクビクさせて先っぽから涎まで垂らして……♡ そんなに弄ってほしかったのね♡」
「や、やめろぉ♡ いま、そこ触ったら、おかしくな――うぁぁっ♡」
動きを止めていたディアーネの手がふたたびグレイのペニスを扱き始める。その瞬間にグレイの口からは甲高く蕩けた嬌声が漏れてしまった。先ほどまでの感覚と明らかに違う、一擦り事にグレイの頭の中で火花が散るかのような強烈な衝撃が走り、ペニスの先端から透明な汁が噴き出していく。
「はなせ、はなせよぉ♡ てを、とめ……うぁ、ああああぁっ♡」
「あはっ♡ 可愛い声……♡ 男の子が快楽に悶える声ってほんと最高……おちんちんしこしこ気持ちいいでしょ? もっと気持ちよくしてあげるわ……♡ ちゅっ♡ んむっ……♡」
ディアーネの手が上下に動くたび、くちゅくちゅと先走りが皮と亀頭の間で音を立て、それと同時にグレイの口からは余裕のない甘い声が漏れる。それを楽しむかのように笑いながらディアーネは再びグレイの口を塞ぐ。
「んんっ♡ あっ♡ じゅる……あっ♡ あぁぁぁ♡」
ディアーネのキスに思考回路を溶かされ、ペニスから伝わる快楽に完全に脱力してしまったグレイは立っていることすら精いっぱいだった。それどころか、すでにペニスは我慢の限界を迎えつつあった。
「んっ♡ はぁっ♡ だめぇ、なにか、なにか、でちゃう!!」
「はぁ……♡ ふふっ……もう限界みたいね……あぁ、そうだわ。ぼうやは子供扱いされるのが嫌いって言っていたから……射精しちゃう前に大人のおちんちんにしてあげる♡」
ディアーネはペニスを握る手に先ほどよりも強く力を込める。先端から根元へ、先走りが絡んで滑りのよくなった包皮をゆっくりとずり下ろしていった。
「ひっ♡ あっ♡ むいちゃだめっ、だめだめだめっ♡」
「あぁん♡ ビクビクって跳ねちゃって……ほんとに剥きなれてないのね、だめよぉちゃんとむきむきしないと、立派な大人おちんちんになれないんだから……ほら、可愛いピンクの頭が見えてきたわ♡ ……もうちょっと、せーのっ♡」
「あっ♡ あぁぁぁぁぁぁぁぁっ♡♡」
むきっ♡ どぴゅっ♡ どぴゅううううっ♡
包皮が一気に根元まで剥かれた瞬間、グレイのペニスから決壊したかのように精液が飛び出した。身体をのけ反らせながら、全身を痙攣させてグレイは精液を飛び散らせる。
「あぁぁんっ♡ 剥かれただけなのに射精しちゃったっ♡ むきむきされたおちんちんから、たくさんお漏らししちゃってる♡ あぁ、でも、この匂い……♡ 若くて、濃厚な、童貞ぼうやの精液の匂い!! 最高、最高だわぁ♡♡」
精液が飛び出した瞬間、ディアーネの顔色が豹変する。先ほどまで余裕すら感じる笑みを浮かべていたディアーネは、興奮した様子でだらしなく顔を蕩かして、ペニスから飛び出す精液を片手で受け止めた。
「ディアーネ様ぁ♡ 私たちも我慢できません!!」「精液っ♡ 精液をくださいっ♡」「ディアーネさまぁ、お願いしますぅ♡」
グレイを拘束しながら、射精の瞬間を見つめていた3人のサキュバスが我慢の限界のように拘束を解き、ディアーネに詰め寄った。3人共に一様に、極度に興奮し、理性を失ってしまったかのような様子で、ディアーネの手にかかった精液を舐めとろうと舌を伸ばす。
「はぁ……はぁ……♡ くっ……」
その時、わずかに残ったグレイの理性が千載一遇のチャンスに働いた。脱力する身体になんとか力を入れて、サキュバス達から遠ざかったのだ。しかし逃げたグレイなど目に入っていないように、ディアーネと3人のサキュバス達はディアーネの手に飛び散った精液を舐め、恍惚の表情を浮かべながら、全身を震わせていた。
「あぁん♡ この精液、新鮮で、とっても濃くて、すごいのぉ♡」「もっと、もっと、もっと欲しい♡」「んんっ♡ 舐めているだけで、イっちゃいそう……ですっ♡」
特にディアーネ以外の3人は舌でわずかな量を舐めとっただけで、異常なほど興奮していた。
しかしディアーネは他の3人同様、舐めとった瞬間はビクビクと身体を震わせ、恍惚の表情を浮かべたが、すぐに己を取り戻し、逃げたグレイを見据えていた。
「はぁ……♡ んっ……ふぅ……私が、ぼうやの精液に魅了されちゃうところだったわ……♡ 精液に夢中になっている間に逃げられちゃうなんて、失敗しちゃったわね」
「はぁ……はぁ……くっ、よくも、やってくれたな!」
サキュバス達から離れたグレイは理性を取り戻し始めていた。屈辱を味わわされたことによる怒りの感情が魅了の力を上回ったのだろうか。身体はまだ熱く敏感で、包皮を剥かれたペニスはジンジンと疼き、油断すれば腰砕けになってしまいそうだが……頭は冷静になってきている。
「精液もっと……あっ♡ あの、あのおちんちん、から出るのね♡ もっと欲しいのぉ♡」
その時、3人のサキュバスのうちの1人、羽交い締めをしていた身長の高い長髪のサキュバスが理性を失った虚ろの瞳でグレイのペニスを見つけ、すぐさま飛びかかろうとしていた。冷静さを取り戻していたグレイは、向かえ打とうと拳を構える。
「だめよ。ぼうやの姿を見なさい。まだ完全に魅了できていないみたい。真正面から挑んだら殺されちゃうわよ」
「で、でも、精液が……わ、わかりました……」
しかしディアーネが目の前に手を広げ静止させた。諦めきれない様子だった長髪のサキュバスもディアーネに逆らえないようで押し黙ってしまう。
(やはり、あのディアーネと呼ばれたサキュバス……僕を罠に嵌めたことと言い、的確に状況を判断する能力といい……知能が高く、冷静で狡猾なリーダーだ)
今、飛びかかってくれば確実にサキュバスを一匹仕留めることができた。ディアーネはグレイが冷静に待ち構えていたことを見抜いて長髪のサキュバスを静止させたのだ。
(ただ、敵が動きを止めている。このチャンスを活かさない手はない!)
グレイはサキュバスが静止したとみると、鉛のように重い身体に鞭を打って、捨てられた愛剣を拾う。拳なら敵を仕留めるのに時間がかかってしまい、複数の敵を相手取るには不利になってしまう可能性もある。
「はぁ……はぁ……もう不覚は取らないぞ。覚悟しろ、サキュバスめ……!」
今、剣を取り戻せたのは大きい。基本的にサキュバスの戦闘力は低いはずだ。さきほどは思わぬ伏兵によって不覚を取ったが、二度目はない。今度こそ……。
「たおし……て……や、あっ……あぁぁ……♡」
しかし、剣を取り戻し、サキュバス達を再び睨み付けたグレイは、動きを止めてしまった。怒りに満ちた表情は、途端に蕩けた情けない表情へと変わり、サキュバス達のある一点に完全に目を奪われていた。
「だから、こうして、ぼうやのだぁいすきなおっぱいで、ちゃんと誘惑して、魅了して頭の中とろとろにしてあげてから、たくさん精液を搾り取ってあげましょうね♡」
「「「はーい♡」」」
サキュバス達は、一様に乳房を覆っていた薄布をまくり上げ、その乳房を惜しげもなく露出していた。サキュバス達の一挙手一投足に合わせて揺れる真っ白い大きな淫肉、そして中心に張った薄いピンク色の突起。それを見た瞬間、ドクンッとグレイの心臓が跳ねる。
「あはっ♡ ぼうやがおっぱい大好きなのはもうわかっているのよ♡ 性癖が分かっていれば魅了の効果も抜群……それも今度はサキュバスの唾液を飲まされて、一度イかされて魅了への耐性も弱まってるところに、私1人じゃなくて、4人分のおっぱいを見せ付けられているんだもの♡」
「やぁんっ♡ すごいすごい♡ ぼくったらおっぱいガン見して情けない顔してるー♡」「あっ♡ 見て見てっ、おちんちんがむくむくって大きくなってきてる♡」「ほ、ほんとにおっぱい好きなんですね……可愛い♡」
サキュバス達の言葉通り、横に並んだそれぞれの淫らな乳房に完全に目を奪われたグレイの股間は反りかえるように膨らんでいた。
「ぼうやみたいな、若くて童貞の子はね? 性への理解も経験もほとんどないから、こうしておっぱいを見せてあげるだけで簡単に興奮しちゃうのよ。女性らしく、母性の象徴でもあり、小さなころにたくさん甘えたおっぱいが大好きなの」
グレイ本人すら認識していなかった、心の奥に潜む性癖をディアーネは簡単に暴いていく。理性を保てていれば、勝手なことを決めつけるディアーネに怒りの声を上げたかもしれない。
しかし、いまのグレイは乳房を魅せ付けられただけなのに深い魅了状態になってしまった。それはディアーネの言葉が正しいという証拠でもあった。
他のサキュバス達はディアーネの言葉を聞いて、くすくすと笑いながらも自らの乳房を持ち上げ、揉みこみながらグレイに見せつける。たったそれだけのことなのに、グレイの頭の中は溶けたように何も考えられなくなってしまう。
「ほぉらぼうや、見ているだけでいいの? はやくこっちにいらっしゃい……♡ 私たちのおっぱいで、ぼうやを包んで、甘やかして、蕩かしてあげる」
(あたまが、ぐるぐるして、だめなのに、おっぱいのことしか、考えられないぃ♡)
剣を持った手が震える。いますぐにでもサキュバス達のもとへ飛び込んで、柔らかな8つの乳房に溺れていきたい、そんな欲望にグレイは瞬く間に支配されていった。
「ほぉらぼくぅ♡ おっぱいでちゅよ~♡」「こっちにきて、いっぱいちゅーちゅーしましょ♡」
「はぁ……はぁ……♡」
乳房を揺らしながら手招きをするサキュバスのもとへ、欲望に支配されたグレイは蕩けた顔のまま一歩ずつ足を進めていく。近付けば近づくほど、グレイの目にはサキュバス達の乳房がより鮮明に、より美しく、より淫らに映る。その感触と、匂い、味を想像しながらグレイはだらしなく笑みを浮かべた。
(あぁ、おっぱい、柔らかくて、気持ちよさそう♡ はやく、おっぱいのところにっ♡)
サキュバス達との距離はもう遠く離れていない、今すぐにでも飛び込みたいくらいなのに何故か身体がとてつもなく重いのだ。そうまるで何かに抵抗しているような……
(なんで、おっぱいに、はやく、甘えたいのにっ! なんでぼくの身体は動かないんだ!)
動かない自分の身体に苛つきながら、グレイは大きく腕を振って前に進もうとする。しかしそこで、グレイは強く右手で握り込んでいた剣に気付いた。
(剣……? こんなもの、邪魔なだけ……)
捨ててしまおう、指を離して地面に落としてしまえばいいだけだ。だが、グレイの身体は絶対にその命令を聞こうとはしなかった。剣に刻まれた見覚えのある紋章を見た瞬間、グレイの頭の中で何かが弾ける。
(僕は、ギル、ドの剣士……? サキュバスの、おっぱい、大事で、違う、僕は何を……!)
「……そうだ」
グレイの口から、小さく一言言葉が漏れた。先ほどまでの蕩けた表情とは違う、その瞳には明らかに理性の光が宿っていた。
(ぼくは……僕はギルドの剣士グレイ、このサキュバスを打ち倒すんだ!)
グレイは魅了によって動きの鈍った身体を震い起こし、サキュバス達に向かって歩き始める。あの乳房を見てはいけない、精神力を振り絞って視線をそらしつつ、魅了にかかったふりをしてグレイは必殺の距離まで近付こうとした。
「ほーらおっぱいまであとちょっとだよ♡ あんよがじょーず♡ あんよがじょーず♡」
サキュバス達はグレイが理性を取り戻したことに気付いていないようだ。チャンスは今しかない、剣を使えば、サキュバス達を殺してしまうのは一瞬だ。
もう少しだ、もう少しで――
「……あぁ、“やっぱり”さすがギルドの剣士様ね……♡」
その時、ディアーネはくすりと笑ってそう呟いた。
(バレている!!)
「……はぁぁぁぁぁぁっ!!」
それを聞いた瞬間、グレイはばっと顔を上げ、全力で目の前に立つ3人のサキュバスに向かって剣を振りかぶった。
「きゃんっ♡」「あっぶなーい♡」「ディアーネ様の言った通りでしたね」
しかし、その剣は誰にも当たることなく、むなしく宙を斬った。サキュバス達は予想していたかのように後ろに跳んでグレイの剣を簡単に避けてしまう。
グレイは驚愕に顔を歪めた。魅了により身体が鈍っていたのもあるが、スピードが自慢の自分の剣がまさかこの距離で避けられるなんて――
「ある程度、予想できていたのよ。私たち4人がかりでも、一度イかせて、淫魔の唾液まで飲ませたボウヤを完全に魅了できない……それだけの力の差が私たちとぼうやにはあるもの。ほんとに自分たちの弱さが、サキュバスとしての能力の低さが嫌になるわ」
僅かに自嘲するかのように、ディアーネは話し始める。その意図が分からず、再び魅了されないように視線を外しながら様子を伺うグレイだったが、その時、バサバサと蝙蝠の大群でも飛び立ったかのような風を打つ音が聞こえてきた。それはグレイが入ってきた、この開けた場所の入口や、天井付近に開いた複数の穴から聞こえてくるようで……
「だからね、4人がかりでダメなら、”みんな”でかかるしかないわよねぇ♡」
「な、なんだ……と、あ、あぁぁぁっ……」
洞窟の入口、横穴、天井付近……様々な場所から現れたのは容姿こそ違えど同様の特徴のある女性たち、可愛らしい少女から、妖艶な色香に包まれた熟女まで……美しくも可愛らしい美女ばかり。蝙蝠の羽、頭から覗く角、先端が矢尻のようになった尻尾、そして肉欲的で、淫らな男を誘う肉体を持つ彼女達は紛れもなく――
「サ、サキュバス……! こんな、数っ……!!」
その特徴は紛れもなくディアーネ達と同じ――サキュバスだ。
「あははっ♡」「くすっ♡」「ディアーネ様ぁ♡」
サキュバスたちは、次々とグレイとディアーネ達を取り囲むように降り立っていく。1人、2人、3人、4人……瞬く間にグレイはサキュバスの集団に囲まれてしまう。そして最後の1人らしきサキュバスが現れ、洞窟に響いていた翼の音が止んだ。
(こ、の数は、まずい。囲まれて、逃げ場もない……!!)
正確に数えることはできなかったが確実にその数は30を超えているだろう。グレイはこの数以上の魔物と一人で戦ったこともある。実際、洞窟ではリザードマン達を数多く葬ったのだ。しかし、そのグレイは今の状況では一切の余裕がなかった。焦りと同時に、堪えようのない絶望感を感じる。それもそのはずだった。4人のサキュバスに我を忘れ、魅了されそうになった自分が、この数のサキュバス相手に正気を保つことができるのだろうか。