満月が銀色に輝いて、影ができるほどに明るい夜なのに
地上は穢れという人の欲に染まり、偽物の光に惑わされながら夜に恐怖などいつからか恐れなくなったが

夜の闇は偽物の光も、月の光もあっという間に黒くしてしてまう。
そんな闇の中を翔けていく光があった。




「この辺りのはずなんだけど・・・」
月の輝く深夜に屋根を伝っていくのは白い翼を生やした一人の少女だ。
羽は月の光に照らされて銀色に輝き、まるで発光しているかのよう。

着地と屋根を蹴る際に翼の力を借りて、無重力かのように楽しそうにも見える。

「えっ・・通り過ぎちゃった?」
慌てて少女は方向転換するように、家の壁に足を付けて真後ろに回転をすると逆方向を走る。
こんな時間にまで飲んでいたか、顔をほんのりと紅く染めた若い女性が千鳥足で歩いていると目の前に白猫が現れた。




「あら~、ひっく・・カワイイわね?」
上機嫌で頭でも撫でてあげようとしたが、殺意に満ちた目に女性は一気に酔いが醒めるとその場に座りこむ。
腰が抜けてしまい動くことができないでいると真上から白い天使が舞い降りてきた。

「見つけたぞ」
長身の男が日本刀を手にすると、抜刀するような足を開いて猫を斬る。
まだ酔っているのかと疑ったが猫はもがき苦しんでいると、女性の横を小さな少女が通過すると追撃するように応戦。

「・・・・インスタに上げないと・・」
無意識に取り出したスマホで写真を撮ったが、女性の行動に少女も男も驚いた隙に猫は暗闇に紛れて消えようとしたが
男が現れ、猫掴みをして捕えた。
舌打ちをする男と、こんな時にもインスタのことを考える女性に対し少女はある意味凄いと驚いていると。

「お前は下がれ」
男が羽を取り出すと、女性の額に当てる。
目の前で見るとモデルも嫉妬するような美しい顔立ちの顔がよく見えた、これもインスタでupしなければと考えているうちに


朝になった。


「・・・・・夢落ち・・・??」
ベットに化粧も落とさずに寝ていたが携帯のアラームで目が覚めた、すぐにテレビとスマホの速報ニュースページを開くが
刃物や化け猫に関するニュースは何処も放送されなかった。

「なんだ・・本当に夢だったんだ。そうよね・・・あんなの・・」
仕事でストレスが溜まっててストレス発散のために、お酒を飲み過ぎてしまったと一人で自己嫌悪していると
二日酔いの痛みも襲ってきて、水でも飲もうとベットから降りるとふわりと羽が一枚落ちると自然と溶けるように消えた。






同時刻、とある平凡な青い屋根の一軒家にて一人の少年が中学校へ行くための身支度をしていた。
下へ降りると朝食の準備をしている母親と、出勤するところだった父親に挨拶をすると。

「おはようございます、アイチさん」
「おはよう、タイヨウ君」

一人の女子高校生の少女の挨拶をした。
席に座ると母親ができたてのスクランブルエッグを出してくれると、いただきますと手を合わせると食べ始める。

「僕の方が遅くなってしまうなんて、恥ずかしいです・・」
アイチの方がタイヨウよりも睡眠時間が短いのに規則正しく起きていられるなんてすごいと、尊敬のまなざしで見つめてくる。

「そんなことないよ、あれからすぐに彼が来てくれたから、あ・・・・そろそろ」
話が盛り上がっている間に家を出る時間になり、アイチを追いかけるようにトーストを口に押し込むとアイチに続いていく。

「それでは行ってまいります、ツキコさん」
「行ってきます、母さん」

エプロン姿のタイヨウ似の女性は手を振って見送る。
雲一つない快晴の朝日を浴びながら通学路を歩いていると、その姿を自宅の屋根に一匹の白いカラスがじっと見つめていた。

「あっ、櫂さんだ。おはようございます!!」
「・・・・ああ・・」

素っ気ない返事をしてきたのは、通学路でいつから待っているのか茶色の跳ねた毛が特徴的な櫂トシキという男。
ズボンポケットに手を入れて、第二ボタンまで外しカバンを不良っぽく左肩に背負うようにかけると二人に足並みを揃えて歩き始める。

櫂と歩いていると同じ学校の生徒も多く見かけ始めて、特に女子の視線が集中。
学校のアイドル的存在で人気男子アイドルだったと言われても、驚きはしないほどのルックスと高身長。

男子にしては背の低いタイヨウも、いつかああなりたいとイメージするだけならタダだとつい考えてしまう。
櫂がいつも行き帰りに待ち合わせをしてもいないのに待ってくれているの、きっとアイチに会いたくてのことだとタイヨウは思う。

(そうだよね・・・アイチさん、カワイイし・・・)
本人は自覚がないが、櫂が男子アイドルならアイチは女子アイドル並みの人気があるが
櫂という無敵の虫よけとなり守っているおかげでモテるなどと微塵もイメージしない、おまけに強い女子ガードもいるせいと。

「アイチちゃんっ、おはよう」
「おはようございます、ユリさん」
明るく挨拶してきたのは剣道部のエースにして主将の臼井ユリ、後ろには一つ年下のガイが丁寧に頭を下げてくる。

「今日は朝練はないんですか?」
「しばらく部活は休止なのよね。今日のテストが終わったらすぐに再開できるんだけど、身体がなまっちゃって仕方ないわ」
早くテストが終わるようにと祈りつつ、先に行くとユリはガイを引き連れて体力が余っているのか走り出してしまう。
同じ年なのに頼りがいのある姉御肌のユリにアイチは笑みを浮かべていた。



県立晴見高校と真横には中学校があり、タイヨウとアイチは真面目に勉学に励んでいたが
型にはまらない櫂は見直しなしでテストの答案を裏にすると、席を立つ。

ざわめく教室内を後目に、教師も採点しなくても満点なのだとわかった。
授業中なのか廊下は静まり帰り、外の空気でも吸いに行くかと廊下を歩いていると後ろから誰かがついてくる。

「お前なー、終わっても室内にいるべきだろうが。空気読めよ」
金髪のはねっ毛の少年が忠告をするが、櫂は無視をする。
さっき買ってきたパックコーヒーが投げられると、反射的に受け取るが。

「三和、こんな子供臭いコーヒー飲めるか」
「ミルクたっぷりのやつだろう。たまにはいいじゃねーか」
にこにこしながらわざと間違えたなと、やけくそで飲んだがイメージは裏切らずあまりの甘さに胸やけがしそうだった。

テストも無事に終わり、アイチはおそらく下駄箱辺りで待っているであろう櫂のところへ行こうと黒い鞄に教科書を詰めていく。
ユリに軽く挨拶をして靴を履き替えていると、一つ年下のピンクの髪をした可愛い後輩クミとルーナに会う。

「アイチ先輩、久しぶりですね。このあとお時間ありますか?これからルーナちゃんと下島コーヒーを飲みに行こうかなって」
新作のパフェをテストを頑張った自分へのご褒美のために、食べに行くのだと語る。
少しくらいならと考えているとスマホが鳴り出した、アイチはそれを受け取る緊迫した状況なのか次第に顔をこわばらせていく。

「ごめん、急に仕事が入っちゃったみたいなんだ・・・また今度誘って」
「いいえ、お仕事頑張ってくださいね」
ルーナは明るくまったく気にしてなさそうに笑うと、クミと一緒に同じ連絡を受けた櫂と合流をして小走りで向かう。

タイヨウは仲の良い女子達と別れた後、通学路をいつものよう下校していた。
しかし、ある違和感に気付いた・・・ありふれた道のはずなのにタイヨウ以外誰も通っていないことが。


「・・・どうして誰もいないんだろう・・」

学校の下校時間で、いつもなら老人がシルバーカーを押して散歩したりしているのに犬や猫の気配すらない。
大通りに出れば人がいるはずだと、最短の脇道に入ろうとしたが何故か行き止まり。

「逃げなきゃ!!」
走り出すタイヨウの前に名前の通りキツネの顔をした忍獣 カタリギツネが現れた。
目を光られてタイヨウを喰らえる獲物のように見つめる、持っていたカバンを投げつけて抵抗しようとするが
大して足止めにもならず、襲い掛かりカタリギツネにタイヨウはもうダメかと目を固く瞑る。



「遅くなってごめん」



間に女子高生が、アイチが入り込むと打刀・大和守安定で受け止める。
そのまま足蹴りで後ろに下げるとアイチはタイヨウを一度後ろに下がらせてから、再度前へと進む。

刃物を出してアイチを怯ませようとするがアイチは果敢に挑んでいく。
小柄な体を動かして、赤い和風紐を巧みに操つり動きを封じ追いこむ。
斬り込んでいくが切り漏らしたカタリギツネがアイチに当たりそうになったが

空から羽が勢いよく落ちてくると地面に突き刺さる。

白く細っそりとしたカラスの羽だ。
姿なき援護にカタリギツネは一瞬動揺し、その隙をアイチは見逃さずにカタリギツネを斬る。

「・・・ふう・・タイヨウ君ケガはない?」
「は・・はいっ!ありがとうございました、アイチさん!」
「僕も油断しちゃったからね、念のために今度東京支部に行こうか」


審神者協会、それは古来より《禍津》と戦うことが許可された日本刀を手にして戦う現在の侍達が所属する巨大組織の名称だ。

東京支部とは大江戸本部の直轄となっている組織で、この辺りを管轄している支部の事。
所属をし、厳しい検査や素行・人間性までもが審査対象とされ資格を得た者だけが銃刀法違反を免罪にされる《刀剣士》。


先導アイチは、その多くの刀剣士達の一人である。