体験版 チュートリアル
「女勇者クェスよ、我がデザイアの国までよくぞ参られた。魔王討伐のため、どうしても受け取ってもらいたい物があってな……おい、プレイア。早速で悪いのじゃが、アレを用意してもらえんかの?」
「かしこまりました、王様……ご紹介が遅れました。私は休廷遊戯人の『プレイア』と申します。とりあえず、腕を出していただけますか?」
女勇者クェスは、冒険中に立ち寄ったお城に呼ばれていた。
王様と突然謁見することになってしまい、さすがに緊張せずにいられない。
背筋を張り詰めているクェスの様子をじっくりと見つめながら、一人の少女を呼びつける。
艶めかしい衣装を身に纏いながら、相手は宮廷遊び人のプレイアだと自己紹介をしながら、腕を差し出してほしいとクェスに頼み込む。
「こ、これで構いませんか……きゃんっ!? あ、あの。一体どうしてこんな煌びやかな腕輪などを……?」
カチャッ。
プレイアに言われたとおりに手首を差し出した途端、クェスはすぐにひるんでしまう。
いきなり手首を捕まれると、金属製の腕輪を装着させられていたのだ。
巻きつけられた腕輪を恐る恐る見つめながら、つい圧倒せずにいられない……どれほど高級な代物なのか、煌びやかな装飾からありありと思い知らされる。
一体どんな理由で自分に不釣り合いな代物を与えてきたのか、すぐに思い悩んでしまうのだ。
「ふふっ……上手くいきましたね、王様?」
「まったくじゃ。女勇者ともあろう者が、いとも簡単に『罠』に掛かってしまうなんて。とんだ間抜けじゃのう……プレイアよ、お主の悪知恵には敵わんよ?」
クェスの手首から手を遠ざけると、プレイアは不敵な笑みを浮かべる。
本人が少しも自覚していないうちに、まんまと下準備を済ませることができたのだ……未だに何の疑いすら抱いていない様子など、あまりに滑稽でたまらない。
互いに顔を合わせたまま、王様も平然とプレイアと言葉を交わす。
手首にしっかりと装着された腕輪から、少しも視線を離せそうになかった。
「あの、二人とも。さっきから、何おかしなことなんて話し合ってるんですか……?」
「いちいち口で説明しなくてもじきに分かるはずよ……それっ!」
二人のおかしな様子が気になって、クェスは恐る恐る質問を始める。
自分の知らない間に何を企んでいたのか、さすがに気になってきたのだ……薄気味悪い視線を何度も向けられて、ついうろたえずにいられない。
クェスの言葉に耳を傾けた後、プレイアがさりげなく返事を返す。
すぐにでも理由を分からせてしまおうと、携えていた黒い石版を弄り始める。
「……ひんっ!?」
シュルシュルッ。
プレイアが黒い石版を操作した途端、クェスは思い掛けない事態に襲われる。
身に着けていた衣服を一瞬のうちに脱がされて、おかしな代物を押しつけられてしまった……胸元を強調するような鎧や、下着のような衣服などを何故か着込んでいたのだ。
目の前に引き起こされた現象に、つい茫然とせずにいられない。
二人のいる目の前で、おへそや太股などをまんまと露わにさせられていたのだ。
「や、やだっ! いつの間に、どうしてこんなはしたない格好なんかに着替えちゃってるの……!?」
モジモジモジッ、ヒクヒクヒクッ。
その場に立ち尽くしたまま、クェスはすっかり落ち着きを失ってしまう。
自分でも気づかぬ間に、破廉恥な鎧を着せられてしまうなど考えられない事態だった……二人から浴びせられる視線が、あまりに気まずくてたまらない。
はしたない格好を何とかして取り繕わなければいけない中、別の事態を思い知らされる。
どんなに頑張っても、なかなか思うように身動きが取れそうになかったのだ。
「さすがに貴方も驚いてしまってるようね、女勇者クェス……でも『操りの腕輪』を腕に巻きつけちゃった以上、もはや手遅れなのよ?」
困り果てているクェスを相手に、プレイアは平然と言葉をぶつける。
未だに状況を飲み込めてないようなので、とりあえず説明することにしたのだ……手首に装着している腕輪が『操りの腕輪』だと、平然とクェスに言い放つ。
一度手首に嵌めてしまった以上、自分達の操り人形になってしまうような代物だったのだ。
みるみるうちに顔を真っ赤にする様子など、あまりに滑稽でたまらない。
「世間知らずな勇者のために、いいことを教えてあげるわね。このデザイアの国は、もう魔王様の支配下に堕ちてしまってるの。当然、魔王様に逆らおうなんて不届き者なんて野放しにしておくわけにもいかないし……これから王様の『慰み者』として余生を過ごしてもらうわよ?」
縮み上がっているクェスへと向けて、プレイアはさらに言葉を切り出す。
すでに街全体が魔の手に堕ちている事実を、自慢げにクェスへと明かしていく……王様だけでなく街の住人まで、すべて魔王の手下に成り下がっていたのだ。
表情を曇らせているクェスを哀れみながら、とんでもない言いつけを始める。
これから王様の慰み者になるため、操り人形になるよう言い張っていく。
「そ、そんな。まさか魔王の手先が、こんな場所にも潜んでいただなんて……あうぅっ!?」
ヨロヨロヨロッ。
プレイアからぶつけられた言葉に、クェスは思わず耳を疑ってしまう。
おかしな腕輪を装着した程度で、まさか身体を操られてしまうなどあまりに予想外だった。
手首に巻きついた代物を外そうとした拍子に、すぐに身を捩らせてしまう……プレイアが石版を操作した途端、あっけなく手足を持ち上げられていたのだ。
見えない力に全身を引っ張られてしまい、どんなに頑張っても振り解けそうになかった。
「無駄よ、クェス。勝手な行動なんて絶対に許さないんだから……いつまでも同じ場所に立ってるだけでも退屈だから、とりあえずお散歩しましょ?」
もがき続けているクェスの様子をじっくりと見据えながら、プレイアはさりげなく忠告を始める。
どんなに抗おうとしても、本人だけでは決して操りの腕輪を外せないよう仕組んでいると言い放つ。
苦悶の表情を面白半分に覗き込んだまま、黒い石版に指を這わせていく。
腕輪の効果を、無理にでも本人に分からせる魂胆でいたのだ。
フラフラフラッ。
(こんな、破廉恥な格好なんて誰にも見せられっこにないのに……どうして、身体が少しも言うことを聞いてくれそうにないのよ!?)
プレイアに全身を操作させられるまま、クェスはあっけなく謁見の間から追い出されていく。
自分の意志とは無関係に、勝手に脚を持ち上げられてしまったのだ。
たどたどしい足取りで通路を歩き続けている間も、つい背後を振り返らずにいられない……プレイアがわざわざ後ろをついてきて、石版を何度もなぞってくる。
異様な薄気味悪さに翻弄させられるうちに、気づいたら城外へと追いやられてしまった。
コツッ、コツッ、コツッ……
「ふふっ。なかなか似合ってるみたいだから、そんなに恥ずかしがらなくってもいいじゃない……さてと。街の中を歩き回ってるのも退屈だし、今度はクェスをどんな目に遭わせてしまおうかしら?」
クェスを引き連れながら、プレイアは街中を歩き回っていく。
胸元などの必要最低限な部分を覆い隠している以外は下着のような代物だけしか身に着けていない、はしたない格好を見せびらかすつもりでいたのだ。
しきりに周囲を振り返っている姿に、つい興味をそそられずにいられない。
どうやら本人もだいぶ焦っているようなので、次の悪戯を仕掛けるつもりでいたのだ……