体験版 エピソード01
フラフラフラッ……
(ここ、一体どこなの? こんな建物なんて見たことないし、これじゃまるで映画のセットみたいじゃない……?)
胡桃沢 智美はその場に佇んだまま、しきりに周囲を振り返ってばかりいる。
学校から帰る途中だったはずなのに、おかしな世界に迷い込んでしまったのだ。
次々と視界に飛び込んでくる景色を眺めているうちに、段々と心細くなってくる……映画でしか見たことがなかったような異世界に、いつの間にか脚を踏み入れてしまったらしい。
どうしてこんな事態に陥ってしまったのか、ひたすら思い悩んでしまう。
ゾロゾロゾロッ。
「おい、そこの小娘! さっきからそこで何をしているんだ……?」
「その奇妙な格好……さては、共和国のスパイだな!」
「一体いつの間に、帝国の領土に入ってきてしまったんだ……!」
ひたすら周囲を彷徨っているうちに、いきなり誰かが呼び止めてきた。
甲冑を身に纏った男達が現れると、平然と智美に詰め寄ってくる。
どうやら、おかしな衣装――セーラー服が気になって、智美の様子を窺ってきたらしい。
相手の返事を待っている間も、高圧的な態度ばかり取っている始末だった。
「べ、別に迷ってただけです! お願いだから、そんな物騒なものなんて向けてこないで……!?」
フルフルフルッ、ヒクヒクヒクッ……
物々しい雰囲気に気圧されて、智美はすぐに縮み上がってしまう。
ただでさえ見慣れない場所に立たされているだけでも大変なのに、いきなり数人の男達に取り囲まれてしまったのだ。
恐る恐る相手に文句をこぼしている間も、つい戸惑わずにいられない。
兵士達は依然として、こちらに睨みを利かせてくるのだ。
グイッ。
「そんな言い訳が本気で通じるとでも思っているのか! もし命が惜しいなら、いい加減おとなしくするんだ!」
「い、嫌っ! お願いだから離してってば……!?」
智美の弁解を少しも聞き入れないまま、兵士達はすぐに言葉を浴びせる。
どうやら許可もなくベグデウス帝国へ侵入してきた事実だけは確かだったので、すぐに捕獲することにしたのだ……目の前にいる不審者を、決して見過ごせそうになかった。
兵士達に両腕を掴まれて、智美はすっかり慌ててしまう。
必死に身を捩らせているはずなのに、どんなに彼らの手を振り払えそうになかったのだ……
* * * * * *
「本当に往生際の悪い小娘だな。ほら、さっさと歩かないか!」
「そ、そんなに急かさなくってもいいじゃない……はうぅっ!?」
ヨロヨロヨロッ。
兵士達に取り押さえられたまま、智美は城の中へと連れられる。
石畳の通路を延々と歩き続けるうちに、薄暗い部屋の中へ押し込められていく。
強引に部屋の奥まで突き出されて、つい悲鳴を洩らさずにいられない。
自分の言い分を少しも聞き入れてもらえないばかりか、数人掛かりで乱暴に扱われてしまったのだ。
(こんな狭い場所なんかに閉じ込めちゃうなんて。これから私をどんな目に遭わせちゃうつもりなのよ……?)
恐る恐る周囲を見渡すうちに、智美は堪え難い不安に苛まれてしまう。
窓もなく陽の光が少しも入らないせいか、なかなか思うように部屋の中を探れそうになかったのだ。
ひたすら目を凝らしているうちに、とんでもない代物が視界に飛び込んでくる……鉄製の柵などが所々に設置させられている様子から、どうやら今いる場所は地下牢のようらしい。
どうして自分がこんな場所に押し込められてしまったのか、少しも納得できそうになかった……
コツッ、コツッ、コツッ……
「……ひぃっ!? あ、あなたは一体誰なの!?」
部屋の中を探っているうちに、智美はすっかり怖じ気づいてしまう。
物静かな場所に、いきなり誰かの足音が響き渡ってきたのだ。
声の主に言葉をぶつけている間も、つい背筋をこわばらせずにいられない。
どんなに目を凝らしても、階段を下りてくる相手の姿をなかなか確かめられそうになかったのだ。
「貴様が、例の小娘だな……宮廷拷問士たるこの私が直々に可愛がってやるから、今のうちに覚悟を決めておくことだな?」
不安がっている智美をよそに、相手は平然と距離を詰めてくる。
自らを『拷問士』だと名乗った上で、とんでもない宣言を始める……帝国に侵入してきた不届き者を、これから尋問するつもりでいたのだ。
まるで舐めるように視線を向けながら、不敵な笑みまで浮かべてくる。
今まで見たこともないような異国の衣装を身に纏っている少女が、とにかく気になってたまらなかった。
「そ、それって一体どう言う意味なのよ……あうぅっ!?」
カチャカチャッ、ギチチッ!
いきなり近づいてきた相手の姿に戸惑う間もなく、智美はさらなる窮地に陥ってしまう。
手首を強引に掴まれて、ものの見事に身体を引き上げられていたのだ。
相手の動向を探っていた矢先、すぐに言葉を詰まらせてしまう……鎖に繋がれた拘束具が、不意に視界へ飛び込んでくる。
少しも手を振り解けないうちに、堅い器具に両手首を括りつけられていく。
「や、やだっ! お願いだから、すぐ下ろしてってば……!?」
ミシミシミシィッ。
思わぬ拍子に陥ってしまった事態によって、智美はますます落ち着きを失ってしまう。
目の前にいる男に絡まれるうちに、あっと言う間に身動きを封じられてしまったのだ。
ひたすらもがき続けている間も、つい困惑せずにいられない……頑丈な枷が手首に食い込んできて、少しも外れる気配がなかった。
相手に文句をぶつけながら、何度も身を捩らせてしまう。
(こんな物騒なものなんて並べちゃって……もしかして、これから私を酷い目に遭わせちゃうつもりなの!?)
相手の様子を窺っている間も、智美はますます落ち着きを失ってしまう。
拷問室に並べられているおぞましい器具が、次々と視界に飛び込んでくるのだ。
これからどんな扱いを強いられてしまうのか考えているうちに、嫌な予感が脳裏をよぎってくる……どうやら目の前にいる男は、これから自分を拷問する目的でやってきたらしい。
両手を吊り上げられた後、どんなに頑張ってもここから抜け出せそうになかったのだ……
「さて、準備はこんなもので十分か……そうだ、小娘。折角だから、名前でも聞かせてもらえないか?」
脅え切っている智美を相手に、拷問士はすぐに言葉を切り出す。
しっかりと拘束した後、智美の素性を平然と尋ねてくる。
相手の返事を待っている間も、当分は視線を離せそうになかった。
丈の短いスカートから伸びている太股に、つい注目せずにいられない。
「もう、いい加減にしてよ! こんな乱暴な目になんて遭わせておいて、一体何様のつもりなの……きゃんっ!?」
バシィッ!
おかしな質問をぶつけてくる拷問士に、智美はすぐ文句をぶつける。
いきなり身体を取り押さえられるような事態など、どうしても受け入れられそうになかった。
ひたすら訴えていた矢先、あっけなく言葉を詰まらせてしまう……目の前にいる相手が何かを振り回してきて、猛烈な痛みが肌の表面を駆け巡ってくる。
とっさに身を捩らせた後も、肌を引き裂くような刺激がなかなか引きそうになかった。
「小娘、どうやら自分の立場をまだ理解できてないみたいだな……もし次も口答えするつもりなら、たっぷりと鞭の味を叩き込んでやる!」
縮み上がってばかりいる智美を相手に、拷問士はさらに言葉を続ける。
もし刃向かうつもりなら自慢の鞭でたっぷり躾けるつもりだと、わざとらしく脅してきたのだ。
尋問の最中に口答えするような態度など、決して見過ごせそうになかった……たった一発浴びせただけでひるんでしまう様子に、つい興味をそそられずにいられない。
さっきまで生意気だったはずの小娘が、あっと言う間にしおらしくなっていくのがとにかく爽快だった。
「……智美。胡桃沢 智美。ちゃんと名前だって言ったんだから、お願いだから勘弁してってばぁ!?」
ヒクヒクヒクッ、フルフルフルッ。
顔を逸らしたまま、智美は恐る恐る返事を返す。
ほんのちょっと口答えしただけなのに、いきなり鞭を浴びせられてしまうなど思いもしなかった。
相手の様子を窺っている間も、つい戸惑わずにいられない……鞭を片手に握り締めたまま、鋭い視線をこっちに向けてくるのだ。
あまりに理不尽な扱いを強いられてしまった後、少しも気持ちを立て直せそうになかった。
「その調子だぞ、小娘。ちゃんと名前を名乗れたみたいだが、まだ上の者に対する礼儀がなってないみたいだな。これからたっぷり躾けてやらないといけないみたいだから、ちゃんと言うことを聞いた方が身のためだぞ……?」
智美の言葉に耳を傾けながら、拷問士はおかしな言い分を切り出す。
まだ自分の立場を理解できてないようなので、生意気な態度を改めさせる必要があるはずだと口走っていく。
よほど身体を痛めつけられたくないのか、目の前にいる少女はずっと視線を泳がせてばかりいる。
これからどんな拷問を仕掛けてしまおうか、考えを巡らせているだけで興奮せずにいられない……