綾羅木の巫女〜寄生蟲に蝕まれ肉体改造の危機〜 体験版

体験版 味覚異常

ヒクヒクヒクッ……
(やだ、一体どうしちゃったんだろう……別に喉が渇いたわけでもないのに、どうしてこんなにソワソワしちゃってるの?)

 学校で過ごしている間も、苺香はすぐに落ち着きを失ってしまう。
 朝から妙な渇望感に襲われてしまい、少しも気分が紛れそうにないのだ。
 授業中にもかかわらず、ひたすら思い悩んでしまう……教師の説明など、少しも頭から入りそうになかった。
 おかしな欲求の正体が何なのか、どんなに頑張っても掴めそうにないのだ。

「んんっ……!」
コクンッ、コクンッ、コクンッ……

 考えを巡らせているうちに、気づいたら給食の時間になっていた。
 牛乳瓶を傾けている間も、つい呻かずにいられない……給食を食べている間も、切ない気分に苛まれてしまう。
 少しでも気分を紛らわせるつもりだったのに、妙な違和感が未だにこびりついていたのだ。

(駄目だ、やっぱり牛乳なんかじゃ満足できそうにないみたい。一体どうすれば、気分が落ち着いてくれるの……?)

 牛乳を飲み込みながら、苺香はひたすら考えを巡らせる。
 どんなに給食を平らげても、妙な渇望感が少しも納まりそうになかった……どうやら何かに飢えているのは、紛れもない事実だった。
 自分が何を追い求めているのか少しも掴めないせいか、あまりに焦れったくてたまらない。
 少なくとも目の前に並べられている給食などでは、到底味わえない代物なのは間違いなかった……

    *     *     *     *     *     *

グニュルグニュルグニュルッ……
「やだ、薄気味悪いのがどんどん地面から生えてきちゃってるよ!?」
「どうしよう、このままじゃ学校から帰れなくなっちゃうじゃない……!」
「……きゃんっ! もしかしたら、私達を狙ってきちゃってるかも!?」

 ひたすら思い悩むうちに、気づいたら放課後になっていた。
 帰り支度を整えていた矢先、校庭の方が騒がしくなってくる……数日前のように、物の怪がまたしても学校に襲撃してきたのだ。
 地面から続々と生え伸びてくる触手に、生徒達もすっかり怖じ気づいてしまう。
 全体をうねらせながら、今にも襲い掛かろうとしてきたのだ。

「ご神木よ、我に加護をもたらしたまえ……綾羅木の巫女、ただいま見参!」
シュイイイィィィンッ……

 物の怪の存在に気づいて、苺香は慌てて校庭に駆けつける。
 他の生徒達が被害に遭わないうちに、すぐに退治するつもりでいたのだ。
 物陰に身を潜めると、すぐに『綾羅木の巫女』へと変身する……酷い目に遭わされたばかりなのに、またしても学校にやってくるなど思いもしなかった。
 校庭に乗り込んだ後も、すぐに肩を張り詰めてしまう。

(ただでさえ、あんな酷い目に遭わされちゃったばかりなのに……一体どうして、立て続けに現れてきちゃってるの!?)

 物の怪に立ち向かっている間も、苺香は思わずひるんでしまう。
 すぐにでも役目を果たさなければいけないはずなのに、なかなか脚を踏み込めそうになかった……触手に蟲を飲まされた思い出が、不意に脳裏をよぎってくる。
 相手の動向を探っている間も、つい緊張せずにいられない。
 もし下手をすれば、どんな目に遭わされてしまうかも分からないのだ……

「どうした、綾羅木の巫女よ……ふん、どうやら怖じ気づいちゃってるみたいだな。それなら丁度いい、さっさと片付けてしまおうか……!」
ニュルニュルニュルッ……!

 苺香の様子をじっくりと眺めながら、物の怪は平然と言葉をぶつける。
 戦闘を始めたばかりなのに、どうやら何かを思い悩んでいるらしいのだ……相手がひるんでいる隙など、決して見過ごせそうになかった。
 合図を送りながら、触手を次々と繰り出していく。
 数日前と同じように、すぐにでも苺香を追い詰めるつもりでいたのだ。

「ちょ、ちょっと待ってってば……ひうぅっ!?」
シュルシュルシュルッ、ギュムッ!

 いきなり距離を詰めてくる触手に、苺香は思わずひるんでしまう。
 まだ気持ちの準備も整っていないのに、いきなり相手が襲い掛かってきたのだ。
 とっさに避けようとした途端、すぐに悲鳴を洩らしてしまう……別の場所から触手が迫ってきて、あっけなく身動きを封じられてしまった。
 弾力性のある表面が足首に巻きついてきて、ついうろたえずにいられない。

「お、お願いだから! いい加減離れなさいっ……!?」
モゾモゾモゾッ、ピクピクピクッ。

 しつこく絡みつく触手に、苺香はすっかり慌ててしまう。
 戦闘を始めたばかりなのに、あっと言う間に窮地に追いやられてしまったのだ。
 何とかして触手を追い払わなければいけない中、つい戸惑わずにいられない……触手の束が迫ってきて、さらに手足へ纏わりついてくるのだ。
 どんなに身を捩らせても、なかなか思うように抜け出せそうになかった。

モワッ……
(やだ、何なのよこのおかしな臭い。すっごく臭くてたまらないはずなのに、ちょっと嗅いだだけで何でこんなにドキドキしてきちゃってるんだろう……?)

 身動きを封じられるうちに、苺香は別のことに気を取られてしまう。
 触手の先端を目の前に向けられた途端、おかしな臭いが漂ってきたのだ……不愉快な代物のはずなのに、段々と気持ちを惹かれていく。
 うねり続ける様子を見つめているうちに、つい胸を弾ませずにいられない。
 気づいたら触手に顔を預けたまま、自分から身を乗り出してしまうのだ……

「綾羅木の巫女よ、今日は随分と手応えがないみたいだな……分かったぞ、そんなにこいつが気になってるなら、これからいいものをたっぷりくれてやるから覚悟しろ?」

 苺香のおかしな素振りに気づいて、物の怪はさりげなく言葉を切り出す。
 戦闘の最中にもかかわらず、どうやら触手が気になってたまらないらしい……頬を赤くしている様子に、つい注目せずにいられない。
 うっとりした表情から、何を追い求めているのか手に取るように伝わってくる。
 ついには触手を操りながら、おとなしくしているよう平然と言い放つ。

「い、嫌っ! 何を企んじゃってるつもりなの……きゃんっ!?」
ビクビクビュクンッ……ブチューッ、ビチビチビチィッ!

 物の怪に文句をぶつける間もなく、苺香はすぐに悲鳴を撒き散らしてしまう。
 目の前で揺れ動く触手がみるみるうちに膨らんできて、先端から一気に液体が飛び出してきたのだ。
 とっさに顔を逸らしたまま、つい縮み上がらずにいられない……どんなに身を捩らせても、おかしな代物を少しも避けられそうになかった。
 触手が怪しく蠢きながら、粘ついた液体を次々と噴き出してくる。

ヌロヌロヌロッ、ポタポタポタッ。
(やだ、顔中がおかしなもので一杯になっちゃってる! もう息をしてるだけで臭くってたまんない……!?)

 触手から仕向けられた行為に、苺香は言葉を失ってしまう。
 分泌液を顔中に浴びせられた途端、言い表しようのない感情が湧き上がってくる……猛烈な臭いを嗅いでいるだけで、つい胸を弾ませずにいられない。
 鼻先や頬に纏わりついたまま、頬を伝って顎から胸元へ垂れ落ちてくる。
 周囲に立ち込める異臭や粘ついた感触を受け止めるうちに、悶々とした気分に苛まれてしまうのだ……