プロローグ
グニュルグニュルグニュルッ……
「……きゃぁっ! 何なのよ、あの薄気味悪いの!?」
「どうしよう、こんなのに邪魔させられちゃったら帰れそうにないよぉ……!」
「……や、やだっ! こっちに追い掛けて来ないでよ!?」
放課後になったので学校から帰ろうとした途端、とんでもない光景が視界に飛び込んでくる。
触手のような生物が、何故か校庭から生え伸びていたのだ。
うねり続ける様子を見つめているだけで、つい困惑せずにいられない……今まで見たこともない代物の正体など、決して掴めそうになかった。
下駄箱に身を潜めているうちに、触手が段々と距離を詰めてくる。
タッタッタッタッ……
(まさか、学校にまで物の怪が現れてきちゃってるなんて! このままじゃ、みんなも巻き添えになっちゃうかも……!)
生徒達の悲鳴に気づいて、苺香と言う女生徒は慌てて校庭へ向かっていく。
どうやら物の怪の類が出現してしまったようなので、すぐ退治するつもりでいたのだ。
校庭の方を振り返ると、触手の束が次々と群がってくる……まさか学校にいる間に、魔物が襲撃してくるなど思いもしなかった。
怯えている生徒達を、何としても自分の手で救い出さなければいけないのだ。
シュイイイィィィンッ。
「ご神木よ、我に加護をもたらしたまえ……綾羅木の巫女、ただいま見参!」
校庭に到着すると、苺香はすぐに変身を始める。
念じた途端に制服を瞬時に脱ぎ去って、代わりに巫女装束へと身を包んでいく。
変身を遂げた後、群がっている触手をじっと睨みつける。
自らに課せられた『綾羅木の巫女』としての役目を、しっかり果たすつもりでいたのだ。
「ふん、やっと現れおったな。綾羅木の巫女よ……今日こそ返り討ちにしてくれるから、覚悟しろ!」
ニュルニュルニュルッ。
目の前に立ちはだかってきた苺香を相手に、物の怪は平然と言葉を切り出す。
どうやら邪魔するつもりのようなので、すぐにでも苺香をたっぷり痛めつけるつもりでいたのだ。
掛け声に合わせて、触手が一斉に群がってくる。
生徒達より先に、生意気な口を叩いている相手に狙いを澄ましていく。
「そっちこそ、校庭からさっさと出ていきなさい……えいっ!」
バシンッ!
続々と群がってくる触手を、苺香はすぐに追い払う。
うねり続けている先端へと目掛けて、思いっ切り繰り出していく……脚をぶつけた途端、触手がすぐに引っ込む。
さらに別の触手が押し寄せてきたので、何度も攻撃を浴びせる。
生徒達が被害に遭わないうちに、すぐ触手を退治しなければいけなかった。
「どうやら、もうおしまいみたいね。今日こそ退治してあげるから、さっさと退散しなさい……しまった!?」
シュルシュルシュルッ、グニュッ!
触手を打ち倒した矢先、苺香はあっけなく窮地に陥ってしまう。
物の怪に止めを刺そうとした途端、地面に潜んでいた触手がいきなり伸びてきたのだ。
触手を避ける間もなく、まんまと掴まってしまった……身体に巻きついた途端、ぶよぶよとした感触が押し寄せてくる。
思わぬ拍子に反撃を喰らってしまい、つい慌てずにいられない。
「こ、このぉっ! いい加減、離れなさいよっ……!?」
ギチギチギチィッ……
触手を振り解こうとした矢先、苺香はさらに落ち着きを失ってしまう。
何とかして抜け出すつもりでいたのに、別の触手が次々と手足に纏わりついてきたのだ。
あと一息で物の怪を追い払えるはずだったのに、あっけなく身動きが取れなくなってしまった……ひたすら身を捩らせている間も、つい慌てずにいられない……
関節を集中的に締めつけてきて、どんなに頑張っても抜け出せそうになかった。
「ふふっ、生意気な口を叩いていた割りには随分とあっけないものだな……さて、今のうちにたっぷり可愛がってしまおうか?」
グニュグニュグニュッ。
もがき続けている苺香を相手に、物の怪は平然と言葉を浴びせる。
自分達を退治すると息巻いていた割りに、あまりに手応えがなかったのだ。
苦しむ姿を眺めながら、おかしな言い分を始める……二度と刃向かえないよう、制裁を与えるつもりだった。
苺香の口へと目掛けて、触手を徐々に差し向けていく。
「な、何を企んじゃってるつもりなのよ……ふぐぅっ!?」
グニィッ!
物の怪が仕向けてきた行為に、苺香はすぐにひるんでしまう。
ただでさえ身動きを封じられて困っているのに、また何かを迫ってくるつもりらしいのだ。
徐々に迫ってくる触手の先端に、つい困惑せずにいられない……すぐにでもここから逃げ出したいのに、どんなに頑張っても触手を振り解けそうにない。
気づいたら触手によって口を強引にこじ開けられて、まんまと塞がれてしまったのだ。
「さすがに、そんな格好じゃ何も喋れそうにないだろう……折角の機会だから、いいものをたっぷりご馳走してやろう?」
戸惑ってばかりいる苺香を相手に、物の怪はさらに言葉を続ける。
二度と自分達の邪魔が出来ないよう、苺香の身体にあるものを押しつけるつもりでいたのだ。
触手の先端を頬張ったまま呻き苦しんでいる様子に、つい興味をそそられずにいられない。
決して本人が吐き出さないよう、さらに触手を喉の奥へ潜り込ませていく。
「お、おごぉっ……むぐぅっ!?」
ブニュブニュブニュッ、ゴポゴポゴポッ。
触手を少しも追い出せないまま、苺香は呻き声を洩らしてしまう。
表面がコブのように膨らんできて、先端から何かが飛び出してきたのだ。
口内に続々と潜り込んでくる異物の存在に、つい驚かずにいられない……どうやら芋虫のような代物を、触手に無理矢理飲まされているらしい。
弾力性のある異物が何度も蠢く様子を、嫌と言うほど思い知らされる。
(や、やだっ! どうして、こんな気持ち悪い蟲なんかを勝手に口の中に入れてきちゃってるのよ……!?)
思い掛けない物の怪の仕打ちに、苺香はすっかり困り果ててしまう。
ただでさえ身動きを取れなくて大変なのに、まさか蟲などを飲まされてしまうなど思いもしなかった。
喉の奥底も押し寄せてきて、つい餌付かずにいられない……すぐにでも吐き出さなければいけないと頭では分かっているはずなのに、太い触手によってまんまと邪魔させられてしまったのだ。
身震いを続けるうちに、おぞましい代物が徐々に喉の奥まで潜り込んでくる……
「う、うぐぅっ……ひんっ!?」
モゾモゾモゾッ。
必死の思いでもがき続けるうちに、苺香はやっとの思いで触手を振り払うことが出来た。
しつこく巻きついていた触手が緩んだ隙に、そそくさと抜け出していく。
体勢を立て直している間も、すぐに呻き声を洩らしてしまう……口の中に、まだ蟲が残っていたのだ。
口の中でおぞましい何かが蠢いてきて、とにかく気持ち悪くてたまらない。
「か、かはぁっ……ゲ、ゲホッ!」
ボトボトボトォッ……
その場に立ち尽くしたまま、苺香は何度も咳き込む。
体内に侵入してきた蟲を、すぐにでも吐き出さなければいけなかった。
餌付いた途端、口から次々と芋虫のような代物が飛び出してくる……ずっと体内を這いずり回っていた異物の正体に、つい戸惑わずにいられない。
喉の奥底まで詰め込まれていたものが、際限なく口から零れ落ちてくるのだ。
ヌロヌロヌロォッ、モゾモゾモゾッ。
(やだ、このままじゃ身体がおかしくなっちゃいそうなのに。まだ蟲が身体に残っちゃってるの……!?)
蟲を吐き出した後も、苺香はひたすら思い悩んでしまう。
何度も餌付いているはずなのに、なかなか思うように蟲を追い出せそうになかったのだ。
その場に崩れ落ちている間も、言い表しようのない不安に苛まれてしまう……身体の内側で何かが蠢いてくる様子から、どうやら蟲が体内に残っているらしい。
堪え難い居心地の悪さを思い知らされるあまり、少しも気分を切り替えられそうになかった……
「綾羅木の巫女よ、今日はこれくらいで勘弁してやろう……これだけたっぷり飲ませてやったんだ。二度と我らに刃向かえなくなるだろうな……?」
ひるんでいる苺香の様子をじっくりと観察しながら、物の怪は平然と言葉を浴びせる。
予定どおりに蟲を飲ませることが出来たようなので、さっさと退散することにしたのだ。
蟲がじきに身体へ馴染むはずだと言い残しながら、校庭から消え失せていく。
ずっと苦しがっている苺香の姿に、つい興味を惹かれずにいられない。
「ま、待ちなさい! 一体どう言うつもりで、こんな酷い真似なんてしてきたのよ……!?」
ヒクヒクヒクッ、フルフルフルッ……
物の怪がいなくなった後も、苺香はすぐに弱音を洩らしてしまう。
触手に掴まった挙げ句、まんまと返り討ちに遭ってしまったのだ……大事な役目を果たせなかったのが、あまりに嘆かわしくてたまらない。
とっさに相手を引き留めようとした矢先、すぐに言葉を詰まらせてしまう。
体内に残っている蟲がいつどんな形で身体を蝕んでくるのか、どんなに想像しても掴めそうになかった……