二章:油断

 すぐ目と鼻の先にあった魔物の口内から、大量の粘り汁が吐き出された。
「うあっっ!!? 嫌ぁぁっっ!!」
 全身に魔物の粘液を被り、カノンは思わず悲鳴を上げてしまう。
 とはいえさすがは歴戦のベテランなだけあり、一瞬は怯みながらも槍を握る手の力は緩めず、そのまま軟体種の巨体を地面に押し倒したのである。
(なんなの……、このネバネバ……!! 気持ち悪い……!!)
 顔にかかった粘り汁を白手袋で拭ったカノンは、足元に落ちていた携帯端末を拾い上げるとふらついた足取りでその場を離れてゆく。

***

 ……魔物にかけられた粘り汁がいったいなんだったのか。間もなくしてカノンの身体に現れた変化こそ、その答えだった。
「はぁ……、はぁ……、……ッ!! か、身体が……、おか、しい……」
 身体が熱い……、コスチュームが火照った身体に擦れるたび、全身が疼いて仕方がなかった。
 なんとか山のふもとまで……、そう考えていたカノンだが、戦いであれほどに華麗な動きを見せていた身体は、もはや立っているのも限界といった状態だった。
 膝はカクカクと震え、インナーの股間部分からは白濁の汁が滲み出し、いやらしい糸を引きながらトロトロと垂れ落ちている有様である。
 ……オナニーがしたくてたまらなかった。
 酷く疼くアソコに今すぐ指を突っ込み、ぐちゃぐちゃに掻き回したくてたまらなかった。
(だめ……、もう……、ガマンできない……!!)
 辺りを見回したカノンは、すぐ近くに鎮座する大きな岩を見つけると、疼く身体をひきずりながら岩の元に歩み寄る。
 足元がひどくぬかるんでいるものの、もはやカノンにそんなことを気にしている余裕などなかった。岩陰に腰を下ろすと、欲求の赴くままに股間へ指を這わせ、そして全身をエロティックに痙攣させたのである。

***

「あっ、あっ、ああッッ!!! いくっっ!! またイッちゃうッッ!! いくっ、いくっ……、イくぅぅぅッッ!!!」
 僅か数分の後、正義の美少女ヒロインは淫らな喘ぎ声を辺りに響かせながら、開放感に満ち溢れたオナニーの快楽を貪っていた。
 本当はいけないのに……、こんな場所でオナニーしちゃいけないのに……
 そう考える程に、野外でのオナニーがもたらす背徳感と開放感が、カノンの官能を激しく刺激した。
 白手袋の指先を三本も捻じ込み、べちゃべちゃと汚らしい音を響かせる豪快なオナニーで、カノンは絶頂へと昇り詰めてゆく。
「あっ、あぁうッッ!!! うあぁあぁぁッッ!!!」
 普段のオナニーで達するよりも断然に深い絶頂に、聖少女の躯体はまるで歓喜するかのように激しく打ち震えた。
 恥じらいも忘れて自慰を貪るヒロインは、己の犯した三つの『致命的な過ち』に果たして気づいているだろうか……
 ……さすがはベテランというだけあり、先の戦闘で背後を取られたカノンのリカバリーは素晴らしいものであった。カノンの隙を伺っていた二体目の魔物の奇襲に、見事に対応したのである。
 しかし問題はその後だ。魔物の媚毒体液を浴びたカノンは、体液の染み込んだコスチュームを纏ったままで森の中を移動してしまった。
 確かに、戦いの場で無暗に変身解除する行為は、隙を生むため避けたほうが良い、という考えもある。奇襲を受けたカノンにとって、また隙を突かれるかもという恐れが内心強かったのだろう。
 しかし結果として、コスチュームに染み込んだ魔物の媚毒をカノンは自ら全身に塗りたくってしまったのである。
 そして、今しがた絶頂に達した雌膣に捻じ込まれている白手袋の指先……。それは、カノンが顔にかかった体液を拭った手袋に他ならない。
 あろうことかカノンは、無意識のうちに魔物の媚毒を膣内に塗りたくっていたのだ。
 皮膚に触れただけで発情するほどの媚毒を膣内に塗りたくれば、少女の身体は果たしてどうなるか……。
「いぃいいいいッッ!!! きひぃぃぃッッ!!!」
 奇声を上げ、イッたばかりの雌膣を狂ったように穿り回す浅ましい聖少女の姿こそが、その答えである。
「いぐっっ!! いぐッッ!!! イッぐぅぅぅッッ!!!」
 激しく昇り詰めたカノンは連続アクメの悦楽に全身を震わせながら、背筋を反らして天を仰ぐ。
(気持ち……いい……ッ!!)
 脳が蕩けてしまいそうな程の心地よさに包まれながら、カノンは膣内に突っ込んだ指先をくちゅくちゅと動かし、絶頂の余韻を堪能する。
 その時だった、カノンの目の前で粘り汁が糸を引き、コスチュームの腹の辺りにベトリと垂れ落ちてきた。
(なに……、これ……)
 何気なく汁の垂れてきた頭上に視線をやるカノン。その瞳に、黒い大きな影が映る。岩の上からカノンを見下ろす、巨大な影が。
 歴戦のフェレスティアが犯した二つ目の過ち……、そう、汁を浴びたことで気が動転していたカノンは、生命力の強い軟体種にトドメを刺さないまま、その場を離れてしまったのである。
(しまっ……!!)
 カノンがその影を軟体種だと認識した時には、もう手遅れだった。
 岩の上から落ちてきた巨大な肉塊は、獲物に逃げる隙も与えずに覆いかぶさったのである……

「……んぅッッ!! ………ッッ!!!」
『歩帯』と呼ばれる無数の触手に埋め尽くされた軟体種の腹が、カノンの身体に覆いかぶさり、神聖なコスチュームをドロドロに汚してゆく。
 いくらコスチュームが汚れる事を嫌うカノンと言えど、この状況でそんな悠長な事を考えてる余裕はなかった。
 圧し掛かる巨体の柔軟な肉質が顔面に密着しているせいで、満足に呼吸することすら叶わない。
 視界もない中、手探りで槍を探す。軟体種の体当たりを食らった弾みで唯一の武器を手放してしまったのだ。
 ……必死に辺りを探るも、数メートル程離れた茂みの中まで飛ばされた槍が、カノンの手に触れることはなかった。
「………ッッ!! ………ア゙ア゙ッッ!!!」
 苦しさに耐えかねパクパクと開かれる口に、軟体種の歩帯がなだれ込んでくる。
 重圧と窒息による苦しさと焦り、そしてなによりオナニーで絶頂を極めた直後で魔力の乱れが生じているせいで、新たな槍を精製することができない……
 歴戦のフェレスティアは半ば半狂乱に陥り、槍を掴むことを諦めたかと思うと軟体種の胴体をがむしゃらに殴りつけはじめた。
 ……当然、この手の魔物に生半可な打撃攻撃など全く意味をなさない。
 それでも、窮地のヒロインは最後の気力を振り絞り、藁を掴むかのようには手足の魔力を活性化させる。増幅した筋力でなんとかこの窮地を脱しようとしたのだろう。
 しかし、いくら踏んばろうとしてもぬかるみで足が滑り、鮮やかなオーラを纏うロングブーツは虚しく泥を撒き散らすばかりだった。
 どうやら軟体種の胴体を掴もうとしているようにも見えるが、ただでさえ凹凸のない体表は分泌される体液でコーティングまでされており、掴むこともままならない。
 尤も、たとえ掴んだところで、ゆうに百キロを超えるこの巨体を圧し掛かられた状態から押しのける事など、フェレスティアの力をもってしても不可能だろう。
 無意味な抵抗が続き、やがて手足の動きは鈍くなってゆく。
 ぬかるみの中で足掻き続けすっかり泥まみれになったロングブーツは、足先までピンと張り詰めた状態で硬直し、やがてビクビクと痙攣を催す。
 魔力を垂れ流すばかりとなった白手袋は、槍のかわりに一握りの泥を手のひらに握り締めた。
 万策尽き果て、窒息の苦しみになすがまま苛まれる聖少女カノン……
 彼女に唯一残された道は、意識を奈落の底に落とし、無様に失禁を垂れ流す……、無様な敗北の末路だけであった……








<<前 次>>