体験版 フェイズ1
「さて、準備もしっかり整ったことだし……我々はそろそろ退散しようではないか?」
ガチャンッ!
セシリアの姿をじっくりと見下ろしながら、ゲオルグはすぐに立ち去っていく。
地下室へ幽閉することが出来たので、しばらく放置させることにしたのだ。
兵士達を引き連れている間も、つい後ろを振り返らずにいられない……まだ状況が飲み込めていないのか、じっとこちらを睨みつけてばかりいる。
身の程を分からせるため、惨めな姿を一晩中観察するつもりでいたのだ。
ガチャガチャガチャッ、ギチギチギチィッ!
「くっ……ゲオルグめ、何て姑息な真似を! だ、誰か! 私をここから出してもらえないか……!」
ゲオルグが目の前からいなくなった後も、セシリアは落ち着きを取り戻せそうになかった。
何も理由が分からないまま地下牢に押し込められて、あっけなく磔にさせられてしまったのだ……あまりに理不尽なゲオルグの振る舞いに、つい戸惑わずにいられない。
ひたすらもがき続けている間も、拘束具が手首に食い込んでくる。
自分だけでは外せそうになかったので、誰かに助けを求めるしかなかった。
(こんな場所に閉じ込めておいて、ゲオルグの奴ってば一体どう言うつもりなのよ! ……それにしても、どうして誰も助けに来てくれないの!?)
そっと耳を澄ましているうちに、セシリアは言い表しようのない不安に苛まれてしまう。
何度も助けを追い求めているはずなのに、誰も手を貸そうとしないのだ。
周囲が静まりかえっている様子に、ついうろたえずにいられない。
狭い密室に閉じ込められているせいか、言い表しようのない心細さが襲い掛かってくるのだ……
『……本当にセシリア殿はやかましくてたまらんな。一体どうしてこんな目に遭わされているのか、少しは自分で考えてみたらどうなのかね?』
セシリアの叫び声に気づいて、ゲオルグはスピーカー越しに話し掛けてくる。
どうして地下牢に閉じ込められる羽目になったのか、まだ本人が気づいてないようだったので理由を説明することにしたのだ……傲慢な態度ばかり取っているせいで、兵士達の士気が下がってしまっているとためらいもなく言い放つ。
日々の行いをしっかり反省するよう、改めてセシリアに言い聞かせていく。
どれだけ本人に人望がないのか、無理にでも分からせてやる魂胆でいたのだ。
「わ、私を誰だと思っているの! 皇帝の命を受けて、この砦を任されている身なのに……くうぅっ!?」
モジモジモジッ、ヒクヒクヒクッ……
ゲオルグの声に気づいて、セシリアはすぐに文句を洩らす。
職務を果たしているだけなのに、あまりに理不尽な扱いを強いられているのがどうしても納得出来そうになかった……しきりに周囲を振り返りながら、スピーカー越しに反論をぶつける。
ひたむきに弁解を続けていた矢先、つい言葉を詰まらせずにいられない。
とっさに背筋をこわばらせた後、ひとりでに身震いを引き起こしてしまうのだ。
ゾクゾクゾクッ、ブルブルブルッ……
(ただでさえ、こんな狭い場所なんかに閉じ込められて大変だって言うのに……一体どうして、こんな時にオシッコまでしたくなってきちゃうのよ!?)
身体の内側から押し寄せてくる感覚に、セシリアはすぐに気を取られてしまう。
狭い場所にずっと閉じ籠もっていたせいか、気づかぬうちに尿意を催してしまったのだ。
両脚をしっかり重ね合わせたまま、つい思い悩まずにいられない。
どんなにやり過ごそうとしても、下半身の欲求はますます勢いを増してくる始末だった……
『……んぬっ、一体どうしたのだセシリア殿。さっきから随分と震えているみたいだが?』
セシリアのおかしな仕草に気づいて、ゲオルグはさりげなく質問をぶつける。
忙しなく腰をくねらせる様子が、監視カメラを通してしっかり映し出されていたのだ。
スピーカー越しに呼びかけている間も、つい興味をそそられずにいられない。
どうやら、相当弱り果てているのは間違いないようだった。
ギュムッ……
「そ、それは……くうぅっ! も、もうお願いだから。すぐトイレに連れて行ってもらえないかしら……あうぅっ!?」
ゲオルグの声に気づいて、セシリアはおかしな頼みごとを始める。
すぐにでも用を足させて欲しいと、仕方なくゲオルグに訴えていたのだ。
下半身の事情を開かした後、すぐに俯いてしまう……いくら切羽詰まった状況だとしても、はしたない事実をまんまと知られてしまったのがあまりに悔しくてたまらない。
刻一刻と尿意が勢いを増してくる中、腰を引っ込めるだけで精一杯だった……