自分の事を女将軍だと勘違いしている慰安婦 体験版

体験版 フェイズ1

カツッ、カツッ、カツッ……
「……こらっ、そこの二等兵! さっさと姿勢を正さないか!」
「は、はいっ! 失礼致しました!」

 通路を歩き回っていた矢先、一人の女性がいきなり兵士を呼び止めてくる。
 部下の服装の乱れているのを、女将軍セシリアはどうしても見過ごせそうになかった。
 セシリアの声に気づいて、兵士はすぐに立ち止まる……返事を返している間も、ひとりでに視線を逸らしてしまう。
 相手の様子をこっそり窺っている間も、つい肩を張り詰めずにいられない。

「……ちょっと待て。貴様、襟もこんなに折り曲がっているではないか……これは一体どう言うつもりなんだ? こんなだらしない格好、もし皇帝陛下がご覧になったらどんな風に思われてしまうのか、ちゃんと自覚しているのか!」
「も、申し訳ありません。セシリア様! すぐに直しますので、何卒お許しください……」
モゾモゾモゾッ……

 目の前に突っ立っている兵士を相手に、セシリアは容赦なく注意をぶつける。
 任務の最中にもかかわらず、服装が乱れているのがどうにも気になってたまらなかった。
 すぐに直すよう迫ると、兵士は慌てて襟元を正し始める。
 兵士が縮み上がっている様子を観察している間も、セシリアはじっと睨みを利かせてくるのだ。

(あちゃー……あいつ、どうやらセシリア様に目をつけられちゃったみたいだぞ?)
(さすがに災難としか言いようがないよな……大体、どうしてあんな生意気な女なんかが俺達の将軍になっちゃってるんだよ!)
(しっ、ちょっと黙ってた方がいいぞ……もしセシリア様に聞かれちゃったら、俺達までどんな目に遭わされちゃうか分かんないぞ?)

 兵士の一人がセシリアに説教させられている様子を、周囲にいる他の兵士達はこっそりと眺める。
 他愛もないことをセシリアに咎められているのが、何とも哀れでたまらない。
 自分達よりはるかに年下な小娘などが『女将軍』と名乗りながら、常に偉ぶっている振る舞いにとにかくウンザリさせられる。
 どんなに悔しくてたまらなくても、決して彼女に逆らえそうになかったのだ……

コツッ、コツッ、コツッ……
「……おや、そこの二等兵。随分と元気がないみたいだが、さっきから一体どうしたのだ? もし良かったら、我が輩が相談に乗ってやっても構わんぞ?」

 セシリアが遠ざかった後、別の人物が兵士の所へやってくる。
 ずっと落ち込んでいる様子が気になって、将軍補佐のゲオルグが様子を見にきたのだ。
 どうやらセシリアに何かを言われたのが原因のようだと気づいて、ある申し出を始める。
 相手のいないうちに相談してみるよう、さりげなく言葉を切り出す。

「あっ、ゲオルグ様! セシリア将軍には何卒、ご内密にしてもらいたいのですが……」
「なるほど、そう言うことか。さすがにセシリア殿の態度は目に余るからな……そう言うことなら、我が輩に任せておけ!」

 ゲオルグの姿に気づいて、兵士はそそくさと返事を返す。
 セシリアに出くわした途端、散々叱られてしまったと洩らしていたのだ……どれだけ嫌な思いをさせられたか、つい口走らずにいられない。
 泣きついてくる兵士をなだめながら、ゲオルグはさらに言葉を続ける。
 このままだと砦全体の士気が下がってしまいそうな雰囲気だったので、セシリアを貶める作戦を練り上げることにしたのだ……

    *     *     *     *     *     *

ガチャンッ!
「夜分に失礼するぞ、セシリア殿。早速で悪いんだが、ちょっとだけ付き合ってもらえないか?」

 夜になった途端、ゲオルグはすぐ作戦に取り掛かる。
 兵士達を引き連れて、セシリアの寝室へ忍び込む……本人が油断している隙に、セシリアを捕らえることにしたのだ。
 これから生意気な小娘がどんな顔を浮かべてしまうのか、つい期待せずにいられない。

「げ、ゲオルグ!? こんな夜遅くに、一体どう言うつもりなんだ……くっ、離せ!」
ガシッ。

 いきなり部屋に脚を踏み入れてきたゲオルグの姿に、セシリアは呆気に取られてしまう。
 これから寝ようとしていた矢先に、おかしな形で邪魔させられてしまったのだ。
 文句をぶつける間もなく、いきなり身動きを封じられる……ゲオルグの親衛隊がいきなり距離を詰めてきて、平然と両手を掴んでくる。
 まともな抵抗すらできないまま、あっけなく部屋から引っ張り出されてしまう。

カチャカチャッ、ギチギチギチィッ!
「と、突然こんな無礼な真似なんかしておいて! 只で済むとでも思ってるのか……!?」

 兵士達に絡まれるうちに、セシリアはおかしな状況へと追いやられていく。
 通路を延々と連れ回されて、地下牢に押し込められてしまったのだ。
 壁際へ追い込まれた後、磔にさせられてしまった……乱暴な手つきで取り押さえられる事態に、つい慌てずにいられない。
 文句をぶつけている間も、目の前にいるゲオルグがじっとこちらを睨みつけてくるのだ……