体験版 咲希編 第3話
コツッ、コツッ、コツッ……
(もし先生に見つかっちゃったら面倒だし、気をつけなくっちゃ……咲希、ちゃんと誰にも見つからずに済んでるかな?)
午前中の授業が終わると、ボクは屋上へ向かっていく。
本当は校則違反なんだけど、どうしても屋上へ来て欲しいと咲希と約束させられていたのだ。
階段を踏み込んでいる間も周囲を振り返りながら、つい背筋を張り詰めずにいられない。
もし屋上へ行こうとしているのを誰かに見つかってしまえば、面倒なことになってしまうのは確実だった……
ガチャッ。
「お兄ちゃん、ちゃんと来てくれたんだね? 早くこっちにおいでよ……」
屋上に到着すると、咲希がいきなり話し掛けてくる。
どうやらボクより先に、もう屋上へ来ていたみたいだ。
咲希に手を引かれるまま、屋上の真ん中へ向かっていく。
見晴らしがいい場所なおかげか、何より風が気持ち良くてたまらない。
「……そう言えば咲希、昔は高い所とか苦手じゃなかったっけ? 公園で遊んだ時とか、一人で降りられなくて泣いてたじゃん」
「もう、お兄ちゃんってば。いきなり恥ずかしいことなんて思い出さないでよ……」
二人っきりで過ごしている間に、ボクはそっと質問を始める。
どうして咲希がわざわざ屋上まで誘い出してきたのか、授業中もずっと気になっていたのだ……小さな頃なんて、高い場所をあんなに怖がっていたはずだって言うのに?
ボクの質問に耳を傾けた後、咲希はすぐに文句をこぼしてくる。
小さな頃の出来事なんか突然思い出しちゃったもんだから、きっと照れくさくなっちゃったんだろう。
キーンコーンカーンコーン……
「もう、こんな時間になっちゃったのか……そろそろ戻らなくちゃ、先生に見つかっちゃうかもしれないぞ?」
ずっとお喋りしているうちに、チャイムが鳴り響いてくる。
自分達の気づかない間に、もうお昼休みが終わってしまったみたいだ。
すぐ教室まで戻ろうと言いながら、咲希がドアの方へ向かっていく。
もし屋上にいるのを誰かに見られても大変だったので、さっさと退散しちゃった方がいいだろう。
「あ、あのね。お兄ちゃん……やっぱり、何でもないや。じゃあね、お兄ちゃん」
タッタッタッタッ……
教室に引き返そうとした矢先、咲希は別れ際に言葉を切り出す。
あれだけ夢中になってお喋りしたばかりなのに、まだ何か言い足りなかったみたいだ。
何かを訴えようとしたはずなのに、何故か途中で誤魔化してしまう。
咲希の背中を見送っている間も、つい頭を捻らずにいられない……