体験版 咲希編 第2話
「あっ、お兄ちゃん。今日は部活もないから、たまには一緒に帰らない……?」
「おう、咲希か。こっちも丁度帰る所だったから構わないぞ?」
放課後になったので帰ろうとしたら、咲希が廊下で待ち構えていた。
どうやら部活も休みみたいなので、一緒に帰るつもりだったみたいだ。
咲希に返事を返すと、嬉しそうな笑みを浮かべながら一緒に廊下を歩いていく。
わざわざ教室まで待っていてくれたんだから、しっかり付き合ってやらないとさすがに可哀想なはずだろう。
「……そう言えば、咲希は陸上部だったんだよな。最近どうなんだ、部活の調子は?」
「う、うん、ちゃんと練習も頑張ってるよ……もう、お兄ちゃんてば。いきなりそんなこと聞かれちゃっても困っちゃうよぉ」
モジモジモジッ。
下駄箱から飛び出した後、ボクはある質問を始める。
咲希の活躍具合がずっと前から気になっていたので、本人に聞いてみることにしたのだ。
ボクの質問に耳を傾けると、咲希はすぐに言葉を詰まらせてしまう……よっぽど都合でも悪いのか、ずっと返事をはぐらかしてばかりいる。
別に大したことを聞いたつもりもなかったのに、一体どうしてこんなに恥ずかしがっちゃってるんだろう……?
「……あっ、そうだ。あっちの店に新しいプリクラが入ったみたいだから、一緒に撮ってみない?」
咲希の様子を気にするうちに、いきなり手首を引っ張ってきた。
ゲームセンターの方を指差しながら、一緒に入ろうと誘ってくる……どうやら、新しく出来たプリクラが目的みたいだ。
たかがプリクラ程度で、ここまで夢中になってしまうなんてさすがに思いもしなかった。
あまりに熱心にせがんできちゃうので、こっちも慌てて後を追い掛けなければいけないようだ。
「ほら、もっとこっちに寄らなきゃフレームに入んないから……はい、ポーズ」
カシャッ。
ゲームセンターに到着すると、咲希はプリクラコーナーへ向かっていく。
画面を操作した後、ボクをカメラの前に立たせる……どうやら、このまま撮影するつもりみたいだ。
咲希がピースサインをカメラに向けているうちに、シャッターが切られていく。
たかが写真程度なのに、一体何がこんなに咲希を夢中にさせているんだろうか?
「じゃあね、お兄ちゃん。また学校でね……?」
タッタッタッタッ……
撮影が終わると、咲希は出来たばかりのプリクラを差し出してくる。
咲希の可愛らしい笑顔が、小さなシールにしっかりと刻まれている……こうして見てみると、まるで恋人同士みたいだ。
どうやら用事があるみたいだったので、ここで咲希と別れることにした。
結局、陸上部のことを何も聞けず仕舞いだったのが正直言うと心残りだ……