(02)昼休みの行為
ミユちゃんは学校でも全く目立たない女子で、友達もいないようだった。クラスメイトと一緒にいる姿さえ目にしない。
しかし稀に、廊下を歩いているミユちゃんが見知らぬ男子生徒に呼び止められ、そのままどこかに連れていかれてしまう事があった。数分で男子生徒だけ戻ってきて、しばらく間をおいて疲れ切った様子のミユちゃんがふらふらと戻ってくる。
僕はミユちゃんとすれ違う事があっても別段声もかけない。ミユちゃんも僕に話しかけてはこない。ミユちゃんに関心のあるクラスメイトもいないようなので、影の薄いミユちゃんが誰かとどこかに姿をくらましても誰も気付かなかった。
ある日の昼休み、ミユちゃんは階段で男子生徒と遭遇していた。2年生か3年生の上級生で、なにか「たのむよ、ちょっとだけ」といった事を言われ、無口で気の小さいミユちゃんは首を小さく横に振るばかりで声も出せず、上級生は返事を待たずにミユちゃんを抱きかかえるように階段を上っていった。階段の上は屋上に通じているが、扉は施錠されており屋上に出る事は出来いない。屋上手前の踊り場は誰も来ない場所だった。
遠目に見ていた僕は見えなくなった2人の後をつけたりせず、少し離れ場場所で呆けていた。無関係の僕には関わる口実さえ無かった。
校舎の外れの階段の周囲は静かで、人も来ない。階下から来る生徒もいないし、昼休みに人が集まるような教室も無かった。校舎の外のグラウンドで遊ぶ生徒の声が微かに聞こえていた。
静かな環境音にまぎれて、階段のどこかからペチッ、ペチッという音が聞こえた。時々上履きの靴が床のタイルに擦れるキュッ、キュッという音も響いたが、気になるほどの大きな音ではなかった。
ペチッ、ペチッという音は次第にテンポが速くなっていき、パン、パン、パンと手を叩くような音に変わっていった。その音はすぐに止んだ。
3分もしないうちに上級生が階段を下りてきた。階段から少し離れた場所にいた僕に気付いて「あっ」と小さな声を上げたが、僕は気付かないふりをして目も合わせず、上級生も何事も無かったかのように階下に下りて行った。
昼休みも終わろうかという頃になってようやくミユちゃんは階段を下りてきた。手すりに掴まりながらよろよろと歩き、意識がもうろうとしているのか僕には全く気付いていないようだった。ミユちゃんはそのまま女子トイレに行った。
ミユちゃんに声をかけたい気持ちはあったが、トイレから出てくるのを待つのも変だし、特に用事があるわけでもなかったので、僕も教室に戻った。
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