闇に蠢くモノ  <1> <2>
  <1>  聴く者の心を揺さぶる地鳴りと共に足元が沈んでいく。崩落。その言葉が頭をかすめると同時に、落下は始まっていた。ジャミルは咄嗟に腕を伸ばして薬草師ハーバリストの少年を捕まえようとしたが、掴んだその手はするりと抜けてしまった。  肺腑が飛び出しそうな衝撃がギィの体を打った。だが、仲間の助けで落下の速度が減じたことと、ドワーフの矮躯が幸いしたらしく、深刻な怪我を負うことはなかった。  落ちてきた穴を見上げると、心配そうな面持ちのマリンとジャミルが覗き込んでいた。 「おい、大丈夫か? ギィ」 「う、うん。平気」 「すまない。もう少し早く気が付いていれば……」 「気にしないで、ジャミル。そんなにひどい怪我はなさそうだから……いてて」  ギィは上体を起こして、腕を鉤型に曲げてみた。痛むが折れてはいない。幸いかすり傷と打ち身だけで、大きな出血も骨折も無い。湿布薬と塗り薬で処置できそうだ。痛みに関しては、オピゥムを用いれば感じなくなるだろう。 「少し休めば動けそうだけど、この高さじゃ……道具がないと登れそうにないな……っていうか、ここ、なんなの?」  自分の手当てをしながらギィは周囲の様子を確認した。広いドーム状の空間だ。上方の穴までは小柄な彼の4倍以上の高さがある。松明でぐるりを照らしても、全容は見渡せない。だが、あのおぞましい生物たちの気配もない。壁はロープと柱で支えられてはいるが、かなりずさんだ。梯子かフックがあれば登れそうだが、持ち合わせていなかった。彼らがルイン島の領主から言い渡されたのは浅層の偵察任務だったからだ。 「ちょっと待ってね、今地図を確認するから」  マリンはそう言って地図の写しを繰り広げた。ここは、元々ルイン島の金鉱だ。おおよその見取り図はある。 「えと、そこはちょうど下の坑道の横穴みたいね。遠回りになるけど行けなくはなさそう……どうする? ジャミル」 「どのくらいかかりそうだ?」 「下に降りる通路がここだから……そうね、あいつらがどれだけいるかわからないけど30分もあれば」 「引き返して道具を用意してここまで戻ってくるまで3時間ってところだな……迎えに行こう。少し待っててくれるか、ギィ」 「う、うん。ならのんびり待たせてもらうよ。せっかくの水入らずだしね」  そう言って少年は悪戯っぽい笑みを浮かべた。マリンとジャミルは幼馴染で恋仲だ。青年魔術師は照れたように頭を掻いた。 「ギィったらもう」  剣士の少女は口を尖らせたが、満更でもないことを示して頬の赤い、隠し事の出来ない性質たちなのである。 「冗談だって。でも、下の階層の調査に成功すればさ、追加の報酬がもらえるだろう? 多少時間がかかっても、情報は集めておくべきじゃない?」  彼らの偵察任務の一つにはその地図をより詳細なものにすることも含まれていた。未知の領域の探索という危険を冒すのは賢明とは言えないが、仲間を助けるついでに多少の褒美をもらえれば儲けものだ。 「念のため、松明の予備を何本かくれる? 万が一のこともあるかもしれないから」  ギィは笑って余裕を見せた。 <2>  金の算出で名高いルイン島では、大きな異変が起きていた。  金鉱が突然異界と通じたのである。原因は不明だったが被害は明白だった。地下深くで偶然開かれた“扉”から瘴気が溢れ出し、蟻の巣のように広がっていた坑道を浸蝕した。坑内に溢れかえった見たことも無い生物に鉱夫は恐れをなし、金の採掘どころではなくなってしまった。困り果てた領主ボーゲンは、合法的、あるいは非合法的に貯め込んでいた富を頼りに冒険者を集め、ダンジョン化した金鉱の探索と異界の門の封印に乗り出したのだった。  ギィ、マリン、ジャミルの3人は領主に直接雇用された冒険者の中では一番の新米だった。だが、それ故に栄えある先遣隊に選ばれたのだった。  要するに、使い捨ての斥候だ。情報を持ち帰ってもらい、実力のある冒険者たちがよりダンジョンを攻略しやすくする。思惑はわかっていたが、それでも領主が提示した報酬は弱小クランにとっては魅力的だった。要は、無事に帰ってくればいいのである。   「遅いな……」  ぽつりと呟いたギィの声が茫漠たる暗闇に吸い込まれていく。日も登らない暗闇では時間感覚などあてにならないが、もうかれこれ2時間は経過しているだろう。  二人はどうしているんだろうか。まさか、冗談を真に受けてのんべんだらりを決め込んでいるじゃないだろうか、そう疑いかけて首を振る。ジャミルは羊飼いのように他人を守り、先導するタイプの人間だ。ああ言った以上、きっと最善を尽くしているだろう。その恋人のマリンも、少し口うるさい時もあるが、俊敏な剣の使い手だ。時々ジャミルに突っ掛かったりはするが、本気で喧嘩はしない。彼にリードされるのを好ましく思っているらしかった。 ――大丈夫だとは思うけど、少し心配だな。  ギィは静かに立ち上がった。オピゥム香が聞いたのか、痛みはすっかり引いていた。早い処置のおかげで傷口も塞がっている。辺りを調べてみることにしよう。万が一、二人がやられてしまっていた場合、一人でも帰還しなければならない。  ギィは松明に火を灯すと、周囲を警戒しつつ歩き始めた。オレンジ色の光が周囲を照らし、闇を壁際に追いやった。  何が潜んでいるかわからない闇。たった一人先に進むのは、いくらかの勇気が必要だった。無意識のうちにナイフを抜いていた。  上層部で出会った不気味な生物を思い出すとそれだけで背筋が震えた。飛び掛かってくる、長い尾をもつ奇妙な蟲。人間の乳房と性器そっくりの口を持ったナメクジ。天井から円形の口を伸ばしてくるワーム。人間の声で助けを叫ぶナニカ――。  この洞窟の闇に潜む禍々しい生物の細かな造形は、考えただけで胸がムカついてくる。このウルナが守護する大地には生育しえない、文字通り暗黒の世界から侵入してきた、名状しがたい存在だった。  斬撃や打撃、燃焼によって葬り去ることが可能なのが唯一の救いだろうか。  ギィは地面を這う小さな芋虫を小さな麻袋に追い立てると、口をきつく締めた。手に残る感触につい表情が険しくなる。異界からの流入物は、持ち帰れば研究材料としていくらかの金になる。冒険者には多少でも銭が必要だ。  上層部とは異なり、周囲の地面は緑色の苔に覆われ、内壁や岩の上には毒々しい色彩の奇形のキノコや、巨大な地衣類が生育していた。異界の門に近い分、侵蝕が進んでいるのだろう。周囲の空気は冷たいが湿気が多く、ほのかに甘い臭気が混じっている。  ギィは迷子にならないよう右手に壁が来るように闇の中を注意深く歩いて行った。そうやって二人を探す傍ら、出来るだけ小さなものを選んでキノコ類や地衣類を採取した。中には汁を吹き出すものもあり、手袋の上からでも汚染されそうだった。  念のためにパエオニャの葉と石灰石を口に含んだ。成分の染み出した唾液で口をゆすぎ、少しだけ嚥下して、残りは葉っぱと石灰とまとめて吐き捨てる。口の中が皺まみれになったように苦かったが、これでいくつかの毒に対する抵抗力が上がる。  何もなければいいけど――それは二人に対する心配であり、自分の運命に対する願いでもあった。 「ジャミル、マリン、いつまで待たせるんだよぉ……」  急に心細くなり、闇に向かって呼びかけたが、小さな声は反響することも無く、暗闇に吸い込まれていった。  怖かった。だが、不思議と少年の足は止まらなかった。  ふいに、ギィは森林浴でもするみたいに大きく息を吸い込んだ。無意識の動作だった。  さっきの甘い匂いをより強く感じた。果実のえたような、鼻腔に絡み付くような臭気だ。それは進む先から漂ってくるようだった。奥に――あるいは手前に?――進むにつれて、匂いは濃く明確になってきていた。香木や香草の類ではない。けれど、いい匂いだ。  足取りが覚束なくなっていたが、少年自身はまるで気に留めていなかった。壁伝いに歩くうちいつの間にか、坑道に入っていた。先は、二又に分かれていた。  ギィは何も考えず、左の道を選んだ。まるで吸い込まれるように。左側から匂いが漂ってくる。濃くなってくる。口の中が粘ついてきた。歩度を速めたわけでもないのに、少年の呼吸は荒くなっていた。息が上がっているのではない。性的な興奮が高まっていた。 「はぁ……はぁ……なんか、すっごい、ムラムラする……」   前かがみになりながら、追い立てられるように甘い匂いを追いかけていた。ズボンの中で、性器は痛いくらいに張り詰めていた。 「催淫効果だ、これ……はぁ……くぅ……」  昔、師匠の薬草師のところでこっそり試したカーマの葉と同じだ。性欲を増大させ、射精したくて、ヤりたくてたまらなくなる。パエオニャでは身体の免疫能力が強化される分、ホルモンや神経への作用は余計に酷くなる。 (今回持ってきた薬草に中和できるものは……うう……ちんちん我慢できない、射精したいよぉ……くっ、ダメだ、考えないと……鎮静効果のあるオピゥム香で酩酊すれば……でも、こんなところで動けなくなるのは致命的だ……)  パンパンになった股間を抑えながら、急き立てられるように歩いていた。性的衝動と対処法の考案で少年の頭は一杯で、どこを通ってきたのかさえ思い出せない。  もし周囲に敵対的な生物が存在していれば、今の彼は格好の獲物だっただろう。だが、それは幸運ではなく、偶然でもなかった。  やがて、坑道の先に何かが見えた。巨大な丘のような物体が、闇の中で自らぼんやりと白く光っていた。動物ではなさそうだ、キノコの仲間かもしれない。一見すれば、それはあるものに似ていた。いや、今のギィには、そうとしか見えなかった。 「なんだこれ……お尻、なわけないか……ううぅ……だめだ……」  それは、人の臀部にそっくりだった。それも、むっちりと肥った成熟した女性のお尻を極端にデフォルメしたような、肉感的でいかがわしい、魅惑的なヒップだ。  見ているだけで、そそられた。ごくりと唾をのみ込む。  光におびき寄せられる虫みたいに、迂闊に近づいていた。先ほどの甘い匂いは、いよいよ濃くなっていた。その物体の周囲では、ピンクがかった霧として視認できるほどだった。物体の下部には漏斗状の突起がいくつも並んでいた――まるでデフォルメされた乳首のような――それが、呼吸するように、ガスを吐き出しているのであった。 (こいつ、匂いで僕を……おびき寄せて……)  罠だ。鈍った頭で理解するが、強力な催淫毒は逃げる気力さえ削いでいた。ふらふらと誘き寄せられながら、濃く強烈になった臭気を深く吸い込んでいた。息をするたびに、甘ったるい匂いで鼻腔に膜ができそうになって、脳の奥がじんじんと痺れた。欲情に火照った血が、全身を駆け巡っていた。  近くで見ると、その表面は脂ぎったような艶めかしい光沢を帯びていた。尻のように盛り上がった部分の真ん中には、垂直の割れ目が走っている。それは、ガスを吐き出す動きに連動して、呼吸するように収縮していた。その度に、乳白色の外側とは裏腹な、生々しいピンク色をした内側が垣間見えた。 (これ、お、女の人の……なんてエッチなんだろう……)  巨大な尻そっくりの物体の真ん中にあるピンク色の開口部――それはもう、女性器にしか見えなかった。ギィはそれを一度だけ過去に見たことがあった。薬草師の師と湯浴みをした時に一度だけ。どんな感触がするんだろう――無意識に指を伸ばし、そこに触れていた。 「うわっ……! な、なにこれ……指、食べられる……!?」  指先が触れた瞬間、肉孔が食らいついてきた。まるで意思をもった生命体であるかのように蠕動し、ぐじゅぐじゅと音をたてながら、皮手袋の上から指をしゃぶり、奥に引きずり込んでくる。内壁にはヒダが幾重にも刻まれており、それが指を揉み込んでくる――! 「ひわっ……」  驚いたギィは慌てて指を引き抜いた。慌て過ぎて後ろによろめいて、尻もちをついてしまった。見ると、手袋は透明な粘液で濡れていた。粘度が高く指で触ると糸を引いた。生臭い匂いがした。指にはまだ内部の触感の余韻があった。 (も、もしここに……ちんちん挿れたら……どうなるんだろう)  にゅるにゅると蠢く穴にペニスを挿入したら、ヒダだらけの柔らかな肉にしゃぶりつかれたら、きっと、いや、絶対気持ちいい――。  そう考えた瞬間、その考えが頭から離れなくなった。誰の目もないのにキョロキョロとあたりを見回し、松明を投げ捨てると、ズボンに手をかけた。  官能の匂いはさらに濃くなっていく。 「はぁ……はぁ……こんなの、エッチ過ぎるよぉ……」  そんな迂闊な行動は命取りだ。このキノコらしい物体が、なんなのかもわからないのに。そもそも、今は二人を探している途中だ。待たないといけないのに。こんなことをしてる場合じゃない。  頭の中でそう考えながら、ギィはズボンを脱いで、下半身を露出させていた。少年の肉欲に支配された心は、それが罠だと勘付きながら、快感の魅力に抗うことはできなかった。 「ううぅ……ダメな……でも、少しだけなら……」  少年の肉棒からは、もうすでに先走り汁が垂れていた。肉孔は丁度いい位置にあった。肉裂に尖端部を触れさせる。くちゅり、と音がして、柔らかな肉がゆっくりと露出する。粘液でまみれたピンク色のそれに触れた瞬間、内側と外側の中間にある、唇のような部分が亀頭を優しく包み込んできた。 「はあうぅ……あ、あ、ああぁ……」  柔らかな感触が尖端部をむにむにと甘噛みしてくる。ゾクゾクするような快感が、ペニスの芯を貫く。だが、その刺激は心地いいのに、どこかじれったい、焦燥感を募らせる種類のものだった。まるで、早く奥に入って来いと誘っているみたいだった。 「ダメ、ダメなのに……ううぅ、が、我慢できないよぉ……」  快楽にかつえたギィにその誘いをはねのけることなど不可能だった。もう、少しだけなら、保証もないのにそう期待して、腰に軽く力を込めた。 「ふあ、さきっぽ……い、いい……」  先端部を肉裂に潜り込ませた瞬間、孔がきゅっ、きゅっ、と収縮を繰り返し始めた。粘液で濡れた柔肉が張り詰めた亀頭をひっしりと包み込んだまま、うねうねと蠢動し、敏感な部分をいやらしく揉んでくる。まるで、分厚い唇で咀嚼されているみたいだった。 「ああぁ……いいよぉ、これ……ダメなのに、吸われて……」  穴は外側に近い方から順番にうねって、咥え込んだ亀頭に心地よい刺激を与えながら、奥へと引きずり込もうとしてきていた。快楽を餌に、挿入を誘っているのだ。  これ以上は絶対にダメだと感じた。だが、ギィは同時に考えてしまっていた。  この先は間違いなく気持ちいい――欲望に抗えない。止めなければと思っているのに、腰が勝手に前に出てしまう。亀頭で閉じた内壁をかき分ける、分泌液でぬるぬるになったヒダが敏感な部分をコリコリと摩擦してくる。 「ひあ、あ……おく……ああぁ、き、気持ちいい……」  腰が白い表面に密着するくらいまで奥まで突き込んだ瞬間、ギィはうっとりと息を深い息を吐いていた。  内部の感触は想像していた以上に素晴らしかった。粘液に塗れたヌルヌルの質感がペニス全体に密着し、蠕動による甘い締め付けを与えてくるのである。  肉洞がうねうねと蠢く度に、複雑に入り組んだヒダが竿に絡み付いてくる。  最奥の構造は特に絶妙だった。ドーム状の柔肉が亀頭をすっぽりと包み込み、そこに並んだいくつものイボ状突起が、肉壁の動きに伴って亀頭に押し寄せ、カリ首や鈴口まで丹念に刺激してくるのである。 「ふああぁ……すごい、これ……」  たちまち腰砕けになっていた。うっとりとした表情を浮かべ、抱き着くようにキノコに覆いかぶさった。マシュマロみたいにふかふかした白い表面に、少年の小さな体が緩やかに沈んでいく。程よい冷たさが、火照った体には丁度良かった。
「あああぁ……ああ、あ、あ、ああぁ……」  完全に脱力し、正体不明のキノコに身を委ねながら、ギィは内部の感触に没頭した。催淫効果で感覚が過敏になっているのか、淫らな構造や蠢動がつぶさに感じられる。そこは、まさに快楽の坩堝だった。挿入しているだけで、少しも動かしていないのに、肉ヒダやイボがいいところを刺激し、快感が毒のようにペニスを浸蝕していく。そればかりか、周囲に漂う淫らなガスが、鼻腔から官能を刺激してくるのである。女生との経験すら無い少年が、キノコの与えてくれる快楽の虜になってしまったのは仕方のないことだった。 「う、はぁ……こ、これ、気持ちよすぎて、もう、もう……」  下半身が甘く痺れるような射精感に支配され、熱い欲望の塊がこみ上げてきたと思った時にはもう放出が始まっていた。 「ダメ、イく……もってかれちゃ――あ、あ、ああああぁ~~……」  巴旦杏はたんきょうのような少年の尻がビクビクと痙攣する。無意識に腰を押し付けていた。絶頂感が背筋を駆け上り、心地よく脳内に充溢する。肉穴の奥に精液が迸る。するとどうしたことか、あたかも放出を歓迎するかのように肉壁が収縮し始めた。 「ひああぁ……吸われて…… こんなの、しらな……ひいぃ……」  射精中のペニスが根元から先端に向かって締め付けられ、亀頭部に断続的なバキューム刺激が加えられる。それは、明らかに精液を搾り取るための運動だった。 「ひいいぃ……ちんちん、変になりそうだよぉ……」  睾丸から直接精液を吸われているようだった。過敏な瞬間への貪欲な追い打ちに、ギィは鼻にかかった声をあげ、腰をくねらせ続け、その苛烈で甘美な搾精が休止した頃にはすっかり息も絶え絶えになっていた。 「はぁ……はぁ……き、気持ちよかった……」  荒く息を吐き、キノコにぐったりと身を預けるギィ。性欲の潮が引き、幾分か冷静になった頭には、こんなことしている場合じゃない、という考えが入り込む余地があった。 「二人を、探さなきゃ――ひあああっ!」  ギィは思わず悲鳴を上げていた。半分くらいまでペニスを引き抜いたところ、突如として肉穴が今までにない激しさでペニスに吸い付いてきたのである。卑猥な吸引音ともに肉壁が蠢動し、射精直後の敏感な粘膜に容赦の無い刺激を与えてくる。 「あ、あああぁ……なにこれ、なにこれ……!? ひあっ、ああっ」  腰に力が入らなくなる種類の強烈な快感。引き抜きかけていたペニスが、再び強引に奥まで引き込まれてしまう。 「ひあ、くうぅ……こいつ、僕を逃がさないつもりなのか……!?」  肉穴は奥まで挿入された少年のモノを緩やかに締めつけ、充血した亀頭をイボまみれの肉壁が押し包み、マッサージするような刺激を与えてきた。  そのもどかしい快感は強制的に獲物の性欲を引き出すための甘い罠。周囲には濃厚な催淫ガスが漂っている。熟れた果実に似た匂いが鼻腔からじわじわと脳を冒し、粘りつくような性欲を掻き立ててくる。 「ここで、逃げなきゃ……逃げなきゃ……ああ、くうぅ……あはぁ……」  吐き出したばかりなのに、ムラムラとした欲望がぶり返してくる。こいつは、まだ精液という餌を求めている。そのために性欲を掻き立て、快楽を与え獲物を引き留めているのだ。  ギィはゆっくりと腰を引いて――。 「逃げなきゃ、いけないのに……気持ちよすぎて……ああぁ……これ、いいぃ……」  そうして、自ら奥につき込んだ。白いふかふかのカサに抱き着いたまま、背を波打たせ、ぎこちなくヘコヘコと腰をぶつけていく。 「止まらないよぉ……ひいぃ……ああぁ、これ、いいよぉ……」  包まれているだけで射精してしまうほどの肉穴だ。動きが加わるとさらに気持ちいいのは理の当然だった。挿入すれば巧妙に配置された肉ヒダやイボ状突起が亀頭や竿を摩擦し、心地よく男の器官を歓迎する。引き抜く際には、その凶悪な構造がカリ首や裏筋に名残惜しそうに絡み付き、纏わりついてくるのである。しかも、肉洞全体がピストン運動に合わせるように、蠕動し張り詰めた茎を揉み込んでくるのだから堪らない。 「んひいいぃ……ああぁ……きもちい、うひいぃ……あぁ、いいぃ……」  男から精を搾り出すためにデザインされたとしか思えない淫靡な生物がもたらす凶悪なまでの快楽刺激にあっという間に絶頂させられていた。  痺れるような快感が脳を突き抜ける。放出を察知した肉穴は吸引運動を始め、脈動する肉棒をしゃぶり上げ、啜り立て、精液を貪欲に貪ってくる。甘美な心地の中でペニスが溶けてしまいそうなくらい気持ちいい。 「あひいいぃ……いいよぉ……もっと、もっとしゃぶって……気持ちいいのしてぇ……」  イきたての粘膜を刺激するときの腰が抜けそうな快感に全身をがくがくと震わせながらも、ギィは抽送を繰り返した。止まらなかった。催淫ガスで完全にキマって、性的欲求は際限なく高まって、睾丸は次々と精液を生産し、ペニスが脈動しそれを放出する。 「おほおっ……でてりゅうぅ……あああぁ……んぎもぢいいよぉ……」  トロンとした瞳。開いた口から喘ぎ声と涎。狂喜的な表情を浮かべ、結合部からぐじゅぐじゅと卑猥な音が漏れるくらいに激しく出し入れし、かき混ぜて、貪った。快楽を求めて、機械のように律動し続ける。全ての動きが、全ての刺激が、快感に結びついていた。 「おほっ……ひっ、くああぁ……ちんちんがぁ……ちんちん、溶けちゃうよぉ……」  絶頂が止まらない。キノコに抱き着いたまま腰を打ち付け、肉穴の奥に精液を吐き出していく。気持ちいい感覚が間断なく脳に押し寄せて、射精が終わったらまた射精が始まる。あまりにも短い間隔で、液体状の快楽が睾丸の奥から強制的に引きずり出されていく。  自分がこのまま精を吐き出し続ければどうなるか。  もし、仲間にこんな醜態を見られたら。  他の生物がやってきたら。  普段なら考えうる危惧は少年の頭には一切なかった。  押し付けた腕や太ももが、その白い表面にずぶずぶと沈んでいることさえ気にならなかった。全てはどうでもいいことだった。 「おあっ、あっ、気持ちいい……あひ、また、でりゅ……とまりゃにゃい……いひぃ」  そこにいたのはもはや冒険者ではなかった。不気味な異界の搾精キノコの罠に嵌り、その淫らな肉孔がもたらすこの世の物とは思えない快楽に溺れ、命と精を自ら提供する生きた哀れな餌食でしかなかった。  やがて、地面に転がった松明の火が消えた。甘い匂いの立ち込める闇の中にぼんやりと白い輪郭が浮かび上がった。湿潤で淫らな音色と蕩け切った嬌声はいつか聞こえなくなるだろう。

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