(01)反省と後悔


 人間と魔物、文明と魔法が混在するイニシエの世界。
 人間と魔物は互いに殺し合い、文明の発展と共に魔法は衰退していた。

 この剣と魔法の世界にも人々の営みがあり、多様な個性を持つ人々で溢れていた。

 どの時代のどの世界、どのような人々にも個性がありそれぞれの営みがある。
 魔物に襲われる危険な世界でも、人々には多様な個性があった。

 それはもちろん性癖においても同様で、この世界の人々にも同性愛者もいれば年上好み・歳下好みの者、密かに不倫や輪姦を楽しむ者など様々だった。

 しかし天才クレリックとして名の知れたホリイ・ホーネットのように「魔物に犯されたい」という欲望を持つ者は稀であり、人類の敵とも言える魔物との禁忌の姦淫を望む者は紛れも無い「変態」だった。

 魔物は人間でも動物でも無い化け物である。
 魔物を形作るものの半分は物質としての物理法則に沿ったものではない幻にも似たものだと言われている。気配も無く突然現れたりするのも、倒した魔物が塵になって消え去ったりするのも、魔物の半分が幻に似た未知のもので出来ているからではと目されている。

 半分は幻のような魔物は人間を犯す事がある。
 物質として曖昧な魔物はより強い肉体を得るために人間と交尾しているのではという説もあるが、通説では単に魔物の性欲は見境が無いだけとも言われている。
 確かな事は、人間は魔物に犯されると魔物の子を孕むという事だ。

 人間が魔物に犯されると、たとえ屈強な女戦士であっても淫らな娼婦に成り下がってしまう。魔物に犯されるくらいなら死んだほうがマシと思っても、犯されれば快楽に堕ちてしまう。

 魔物に犯されて快楽堕ちしてしまう原因は「幻液」にある。

 「幻液」は魔物の精液であり、魔物の身体を形作る幻のような何かで出来た謎の物質でもある。
 この魔物の精液には強烈な催淫作用があり、性の快楽を知らない処女でも「幻液」の臭いをかいだだけで淫らな気分になってしまうほどだ。売春宿では娼婦を仕立てるのに「幻液」を使うという噂さえある。

 魔物に犯され「幻液」を体内に注がれてしまうと、幻のような液体は身体に染み込んでしまう。
 「幻液」に犯された肉体は普通のセックスでは味わえない激しい快楽を味わえる代わりに、魔物の子を孕めるようになってしまうのだ。
 なので魔物に犯された女は人間の女としての扱いを受けられなくなる。人間の敵である魔物の子を孕めば尚更だ。人間と魔物の交尾が禁忌とされる理由でもある。魔物に犯されれば女としての人生は終了するのだ。

 しかしホリイ・ホーネットは既に2回も魔物に犯され2回処女喪失していた。

 魔物との最初の交尾はスライムが相手だった。
 油断していたホリイはスライムに襲われ、処女膜を酸で焼かれて子宮を犯され、全身を「幻液」漬けにされて悶え狂ったのだ。
 スライムの苗床にされたホリイの身体の中は養分として吸い取られ、大量のスライムの子を産み落とした。
 下等なスライムに犯されて使い捨てられたホリイは激しい快楽と引き換えに命を落とすところだった。

 2回目の処女喪失は、ワームが相手だった。
 街に大量のワームが湧き出した騒動のさなかホリイは小さなワームを拾い、魔物に犯される変態欲求を満たす為に自宅に持ち帰ったのだ。
 小さなワームにホリイは自ら処女を捧げ、ワームはホリイの子宮に住み着いた。ホリイは子宮の中から溢れ出る「幻液」の快楽に酔いしれたが、巨大に成長したワームに徹底的に犯されて捨てられた。

 魔物に犯されれば女としても人生は終了するのに、2回も魔物に犯され、2回も処女喪失した理由は、ホリイが有能なクレリックだからである。

 ホリイはクレリックとして最高位の魔法である「蘇生」の呪文を扱う事が出来た。
 「蘇生」魔法は大昔の勇者と魔王が戦っていた時代の英雄達が扱っていた呪文で、死んだ者さえ生き返らせる究極の回復魔法だ。手足を失って命を落としても復元して蘇らせるほど強力な、錬金術の効果さえ伴った回復魔法だ。いまではこの魔法を扱えるクレリックは殆どいないが、ホリイは自然と身につけていた。

 また魔物の「幻液」の効果は、クレリックの基礎的な魔法である「解毒」の呪文で消し去る事が出来た。
 犯されて処女を失っても、ホリイの強力な魔法の効果なら「回復」の呪文で処女膜さえ復元出来てしまう。

 ホリイの持つクレリックのスキルは、魔物に犯された時の対処にはうってつけだった。
 そしてホリイは魔物に犯される事を望む変態少女だった。


「……もう危ない事はしないほうがいいんだろうけど……」

 ホリイは自宅である薬屋の地下室で溜め息をついた。

 クレリックとして冒険者に雇われる仕事の他、冒険に出ない時には薬屋として回復薬や解毒薬を売っていた。若い少女ながら一軒家で薬屋を営んでいるのは、この街を治める領主がホリイの能力を高く評価している事と、ホリイが他の国に移り住めば他国の戦力として脅威になりかねないからだ。しかしホリイはそういった世情には興味は無く、商人上がりの領主もただ念の為に時々ホリイの様子を伺っているに過ぎない感じだった。

 ホリイが誰にも秘密にしている魔物に犯されたいという欲求は、既に2回も徹底的に犯されたいまとなっても消え去ってはいなかった。
 魔物に犯されて命を落としかけたのに、まだ満足できない気分を強く感じていた。

 魔物に犯され「幻液」漬けにされる快楽は、ホリイの拙いオナニーで感じられる快楽とは全く違う強烈で甘美で徹底的な快楽だ。ホリイの肉体で感じられる快楽の限界を超えた気持ち良さが「幻液」で味わえるのだ。

 しかしその強烈な快楽も解毒魔法で「幻液」の効果を消し去ってしまうと、まるで夢での出来事のように実感の無いものになってしまう。

 スライムに苗床にされた経験も、ワームに全身を性器扱いされた経験も、「幻液」の効果を消し去り回復魔法で処女の身体に戻ったホリイには実感のわかない記憶となっていた。
 スライムの酸で溶かされ養分として吸い取られた性器も腹の中に復元されているし、食事をしてもワームに犯された感触は思い出せなかった。身体には魔物に犯された痕跡は残っていないし、「幻液」の強烈な催淫効果も解毒してしまうと酔いから醒めたように実感のわかないものとなった。

「やっぱり魔物とエッチして赤ちゃんの産めない身体になっちゃったら、この街で暮らしていけないだろうし……」

 魔物に犯された女は禁忌の罪を犯した女であり、魔物と快楽を貪った女は人間扱いされなくなる。
 魔物に犯され魔物の虜となった女は普通の男とのセックスでは満足できない淫乱女になると噂されている。魔物の子を孕んだ子宮で人間の赤ちゃんを妊娠する事も禁忌とされている。

 ホリイは回復魔法で魔物に犯された痕跡は身体のどこにも残っていなかったが、それでも魔物との姦淫は命の危険を伴う。実際にスライムとワームのどちらでもホリイは命を落としかけた。死んでしまったら回復魔法を唱える事も出来ない。

 若い少女のホリイもそろそろ将来の事を考えて魔物との危険な姦淫をやめなければいけないように思えた。
 男性恐怖症も少しずつ直して異性に慣れ、将来的には普通に結婚して普通に赤ちゃんを妊娠する事が正しいように思えた。その為には魔物との淫行の記憶に実感のないいまが止め時なのかもしれない。

 しかし、若い少女の性衝動は理性だけで抑えられるものではなかった。
 もっと激しく魔物に犯されたい。
 臭く汚い「幻液」に酔いしれたい。
 夢のようにおぼろげではない経験を身体の芯まで徹底的に刻み込まれたい。
 もっと、トリカエシノツカナイコトヲシタイ。

 その欲求は自己破壊にも似た被虐的なものだった。
 世間的には清楚で有能なクレリックとして知られるホリイにとって、魔物に犯されて落ちぶれる被虐の興奮は誰よりも強いものだった。
 そして強力なクレリックとしての能力があれば隠し通す事が出来る……筈だった。