「はいどうも~! 今週もくすぐりバラエティのお時間がやって参りました!!」

土曜日の17時。
学校の教室程度の広さのスタジオに、過剰なほど元気のいい声が響き渡る。
声の主はこの番組の進行役である楠 胡桃(くすのき くるみ)。
年齢は非公開だが、高く見積もっても20代の前半だろう。

カメラマンなどの極僅かな者を除けば、この室内にいるのは彼女だけ。
なお、番組スタッフは全て女性だ。
胡桃はキングサイズのベッドに腰を下ろし、メインのカメラに向かって手を振っている。

茶髪のセミロングに、大きな瞳。
身長は155cm。体重は非公開。

格好はTシャツに短パンだ。
靴や靴下は履いておらず、裸足である。
「番組」と銘打たれたコンテンツに出演する格好としてはだいぶシンプルではあるが、
愛嬌のある顔立ちや豊満な胸によって地味な印象は全くない。
どこからどう見ても男性受けする外見であるが、贅沢なことにこの空間の主役は彼女ではない。

「今日の挑戦者も、ほんっと~に可愛い子ですからね。期待していいですよ」

週一でネットを通じて生放送されるこの番組には、毎回多数の応募者の中から厳選された美少女が1人「挑戦者」として出演している。
何に挑戦するのかというと――

「私はもう写真見てるんですけど、あんな子をくすぐれると思うと指が疼きますね」

細長い指をくねらせる胡桃。

そう。番組名の通りだ。
このショーは端的に説明すれば「挑戦者が胡桃(とスタッフ)に1時間くすぐられる番組」である。
一般的な感性で判断すれば馬鹿げているかもしれない。

そもそも、挑戦者側は何のメリットがあって出演するのか?
それはこの上なくシンプルに――金だ。
自らのあられもない姿が晒しものになる代償として、通常ではそうそう手に入らないような大金が与えられる。
番組を取り仕切る通称「ボス」が資産に物を言わせた採算度外視の企画だ。

更に言えば、挑戦者といっても何かクリアする課題があるわけでもない。
途中で逃げ出しでもしない限りは、参加できた時点で賞金の獲得が確定しているのだ。
(応募者の中からほぼ外見のみで選出されるため、それこそが難しいのだが)
金持ちの道楽と言い切ってしまっていいだろう。

「それでは早速登場していただきましょう。本日の挑戦者は~、この子だっ!!」

胡桃がバッと部屋の入口を指差すと、扉が内側に開いた。

 

次へ