『くずっ・・ひっく・・・』
『貴方、大丈夫?』
『皆が・・酷い目に』
『わかった、すぐに案内して』
『こっち』
『此処ね』
『はい、奥に』
『奥?でも誰もーーーーーー・・・・・』
「・・・・・さ・・・・・鶴さん!」
いつの間にか眠っていたのか、膝の上に乗せていた額を上げると燭台切光忠、かつて伊達政宗のところにいた同じ太刀が心配そうにしていた。
こんなところで眠るなんて、刀剣は眠らないのに。
「遠征の時間だけど、行けそう?」
「いや・・・大したことじゃない。夢見が悪かっただけだ」
「夢?刀剣男士の僕らが夢なんて見ないのに、どんな夢だった?」
「・・忘れた?」
立ち上がると落ちていた羽織りを着て、今日また主のために働く時間が始まった。
「行ってらっしゃい」
「気を付けてください!」
「いち兄、お気をつけて」
大手門の外では燭台切と秋田、平野に見送られて遠征部隊は出発していく。
最近、主はとある刀剣が鍛刀で得られる期間限定に備え第一部隊以外毎日のように遠征に出している。
この日も鶴丸、一期一振などの刀剣男士が資材獲得のために遠征へと赴くがその道中の話題といえば三日月宗近のことだ。
「あいつ、一度も外に出してもらってないよな」
「主殿の住まいである天守閣から外に出たことはありませぬが、三日月宗近殿は希少価値の高い刀剣男士ではありますからな」
一期は最近まで主の近侍を務めていたので、三日月の希少さについては嫌というほど聞かされていた。
選ばれし、審神者にのみ降りると呼ばれる天下五剣でももっとも美しく、神格も高いとされるが
これがもう飽きずにべた惚れであるが故に、他の刀剣男士はそのせいか蔑ろにされている。
しかし同派や自分の刀派以外の刀剣を気に掛けたりと、主とは違って刀剣男士の絆は強かったようで本丸では亀裂は起きてはいない。
「しかし、もっと他の者にも気を配ってやればいいんだがなぁ」
「私を近侍から外して三日月殿を当てるのですから、今暫くは難しいですが我々の本分と使命を主はお忘れではないと良いのですが・・」
守り刀とはいえ、大太刀の一振りで重傷を負う短刀達を多く弟に持つ一期は心配そうにしていた。
たった一振りに寵愛が向けられている事、短刀のレベリングも再開してほしいものだそろそろレア太刀だけでの出陣はきつすぎる。
遠征部隊が歩いている真上の大きな木の上には、人影ともう一つ小さな影が様子を伺っていた。
話に夢中になっているのか、それとも探索が元々苦手な太刀ばかりなのか察知することはなかった。
「ようやく見つけましたね」
「・・・・そうだね、・・・まだ無事だといいけど」
タンッと、木の枝を蹴ると二つの影は鶴丸達の本丸へと向かって木の枝を渡りながら移動をしていく。
遠征から戻ったが、すでに時刻は真夜中となっていたが大半の刀剣男士は出払っていて
本丸は水を打ったかのように静かだった、いつも通りに資材蔵へと運んで行き、獲得数を報告。
また遠征か、出陣か、人のように溜息を吐いて鶴丸は空を見上げた。
「つまらん・・」
瓦屋根の上に寝そべって満天の星空を眺めていると、廊下を歩く三日月と主がいた。
穏やかなそうに笑う三日月と、機嫌の良さそうな主に最近手入れを渋らないのはそのせいかと納得する。
「あいつも、次のレアがきたら飽きられるんだろうに、俺のように」
主の最初の寵愛を受けていたのは鶴丸だった、籠の中に入れられた時の事をふと思い出す。
気持ち悪い手で身体中を撫でられて、まだ夜伽に誘われないだけマシだった。
他の刀剣男士にも会えずに、主自慢のコレクションにと愛でられ自慢するために連れ回されて
刀の本分を失いかけたところで一期が来たことで解放された。
その一期は三日月が来たことで解放され、弟達と再会することができたが主のことを聞くと、あまり良い顔をしない。
妙な話だ、主に愛でられることを本能的に刀剣男士は求めるのに。
「心が先に死んでしまいそうだ・・・・・・・」
外に出られたと勘違いしていた、ただ飼育される籠が大きくなっただけのこと。
戦闘と遠征の繰り返し、主にも会えなくて寂しくても辛くもない。
このまま心が錆びついて死んでしまうのではないと。
身体を横に向け、錆びつき始めた金色の瞳を閉じようとしたが何かを捕えたのは見開いて顔を上げる。
「・・今のは」
夜目は効かないからはっきりとその姿は捕らえられなかったが、大と小の影が塀を飛び越えて侵入した。
敵の侵入を想定して、結界が貼られているのに作動していない。
「どうなっている」
手を翳すと、本体が現れる。
羽織が何処からか肩にかかり、袖を入れれば戦装束を着た姿に。
正体を確かめてからでも遅くはない、鶴丸は足音をなるべく殺してまずは大きな影を追う。
近づくにつれて鶴丸は妙な感覚が大きくなってきた、心がざわめいている。
こんなのは初めてだ、緊張とは違う。
あの影を見た時から心臓などあるはずないのに、激しく脈打っている。
侵入者だぞ、主を殺しにきたのに。
隠しきれないこの高揚感、まだ泳がせておくべきなのに血迷った鶴丸は。
「な、何者だ」
声をかけてしまった。
足を止めた影、こちらに顔を向けるのかわかるが顔が見えない。
男か、女かも。
その時だった。
タイミング良く、厚い雲に覆われていた月が風に流されて雲の間から光を照らす。
月の光に照らされて現れたのは。
メイド、と呼ばれる異国の服を着た焦げ茶色の髪は肩に乗っていて黒いフード付きポンチョを着ている、歳は二十歳過ぎの若い女。
主に連れまわされた時にメイドというものに会ったが、主に召使はいないはず。
侵入者のはずなのに、メイドの服を着たふざけた格好も別の意味で驚きだが一番は瞳だ。
月の光に照らされてキラキラ輝いている。
刀剣男士の中でも美しいと褒め称えられている鶴丸も、圧倒させる造形された美しさ。
「な・・・何者だ」
「・・・・・・・・・・・」
相手はこちらから目をそらさずに見つめている、何だか恥ずかしくなって目を反らしそうになる。
別に本丸に客を招いて見せびらかされた時だって穴が開くほど見られていたのに、どうしてこん変な気持ちになるのだと
敵相手に両者硬直状態であったが、ガチャリという金属音が気持ちを切り替えさせる。
「危ない!!」
メイド目掛けて、妙な物体が背後から襲い掛かってきた。
ひらりと蝶のように交わすが、引き連れてきたというわけではないのはメイドを襲ったのが何より証拠。
「下がっていて」
初めてメイドの声を聞いて、酷く感動した気がしたが浮かれまくっている自分の頬を叩いて喝を入れたがメイドには驚かれた。
「貴方・・どうしたの?」
「きっ、気にするな!!・・・それよりもあれは・・・」
太刀はやはり夜目が効かない、目を細めてもはっきり形が分からないがブリキの音かどうか耳が痛くなる金属音をしながら動いていた。
「鶴丸国永、夜の戦いは不利でしょ?私の後ろに下がっていて」
「えっ、君なんで俺の事」
「それだけ白ければ、わかるわよっ!!!!」
ズドンッ!!と敵を思いっきり踏みつぶした。
ぅわぁメイドっよい。飛び掛かる敵も蹴り飛ばして近くの壁に叩き付けたり
足っぽいもの掴んで放り投げたり、人間技じゃないし刀剣男士もびっくりおったまげた。
口を開けっぱなしにし、驚きが落ち着ない間に戦いは終了。
メイドの完全勝利である。
「怪我は?」
「きっ・・君のおかげだ。それにしても強いな君」
「あんなのは雑魚だよ・・・もっと強いのは本丸の中心部にいるようだし、でもこれではっきりと」
「おいどういうことだ、本丸の中心に敵がいるって・・・・・・・なんだこれは」
地面に動かなくなって近づいてみれば、破壊された蜘蛛の絡繰りが破壊されて床に沈んでいる。
これが襲い掛かって倒していたのか、それにしてもこんなものが内部に侵入していたのなら誰かしら気付くべきなのにどうして誰も気づかない。
「安心して、私もコレも歴史修正主義者の手の者じゃないから」
「だったらなんだ!・・・・ならこれは俺達の主のものか・・」
「・・・・・知りたくないのなら、このまま部屋に帰った方がいいよ」
此処から先は、好奇心で聞くべき内容ではない。
現実から目を背けるのならそうするべきだが、知らなければいけない気がしメイドと向かい合う。
「教えてくれ、まずは君の名前を。俺は鶴丸国永、・・名前は知っていたから問題ないか」
「・・・私の名はレナ」
「れな?異国の者かやはり」
「そんなところよ、・・でもここじゃまずい」
誰かが近づいてくる。
鶴丸にはわからないが、このメイドは短刀並みに偵察力に優れているようだ。
「知りたいのならついてきて、安全圏に行ってから話をするわ」
「は、待て待て待て!!!」
鶴丸を横抱き、お姫様抱っこして高くジャンプする。
成人男性を平気で横抱きに、初のお姫様だっこがメイドの美女だなんて刃生初。
「夜は不利でしょ?辺りを警戒しながら移動なんてすぐに見つかるわ。私に捕まっててね、すぐに着くから」
柔らかなレースの感触が気持ちいい。
顔を上げれば美しい娘の顔があり、また心臓が大きく鼓動した。
自然と頬も赤くなってそれを隠すようにレースに顔を埋めた。