---中型---

 あれからコツコツと討伐系の依頼をこなしてランクがCまで上がった。これで魔物の合同討伐に参加できる。
「そんなものがあるのかの」
 そうなんだよ。
「我とお主で良くないか」
 まぁ、確かに。でもたまに他人と触れ合う事で、のーたんの凄さとありがたさを再確認できるからさ。
「そういうことなら良いのじゃ」
 良かった。
「人間は他と比べる事で価値を見出しがちじゃからな」
 まさしくそれだね。
 今回の依頼は中型魔物の合同討伐だ。相手は荒地に生息する植物型の魔物らしい。突然変異でかなりの被害が出ているみたいだ。現地集合で行ってみると既に20人ほど待機していた。3人1組になって探索し、中型を発見次第報告もしくは討伐するらしい。自分は魔法使い枠なので剣の人と盾の人と組んだ。のーたんがいるから別に誰でも良いんだけどね。
「はじめまして今日はよろしくお願いします」
 とりあえず挨拶は大事だよな。こちらから言っておこう。
「こちらこそよろしく頼む」
「お願いします」
 盾の人は結構年齢いってそうだ。ただかなりガタイがいい。歴戦の猛者って感じだ。盾に重厚感がある。特殊な魔法でもかかっているのだろうか。
「かなり良い装備じゃの」
 なんか凄そうな感じしたもん。
「我の方が凄いぞ」
 もちろんのーたんは次元が違う凄さだもんね。
「よくわかっておるではないか」
 でしょ。
 盾の人はランクはどのあたりだろう。高ランカーが下を育てるために合同討伐に来る事もあるらしい。剣の人は細いな。あれで剣が振れるのだろうか。
「おい、あれAランクの人じゃないか」
「まじかよっ、何でいるんだ」
「あの他の二人も凄いのか」
「剣士の方もどこかで見たことあるような。もう一人は全然知らない」
 何やら声が聞こえてくる。そうか盾の人Aランクなのか。頼りにさせてもらおう。
「我がおるのに」
 ふふ。冗談だよ。
「なら良い」
 のーたん可愛いな。
「ふんっ」
 3人で進んでいると魔物に遭遇した。
「我入れると4人じゃぞ」
 そうだね、指輪をなでなで。
「わかっておるならよい」
 盾の人が防いだところで横から剣の人が切り裂く。細い体からは想像できない動きだ。どこにそんな力があるのだろうか。自分の出番が全くないのだが。まあ楽をできていいか。
「回復は使えるのか」
 気づけば隣に盾の人が立っていた。
「はい」
 傷口付近に手をかざす。
 のーたんよろしく。
「まかせるのじゃ」
 傷が一瞬で治る。
「おお、凄い。助かった。なかなかやるではないか」
「ほんとですね。こんな高等回復魔法見たことありません」
 このパーティなかなか良い感じじゃないか。
 順調に倒しながら進んでいると今までとは比べ物にならない大きさの魔物が地面から出てきた。
「あ、ありえん」
「これはまずくないですか」
 地面からどんどん魔物が溢れてきて周囲を包囲されてしまった。
「囲まれてるな」
「こんな事になるなんて」
 何か焦ってるけど大丈夫だよね。
「魔法で一掃すれば余裕じゃの」
 すでに盾の人と剣の人が戦いを始め、押されている。回復するも次から次に傷を負っている。これはジリ貧だな。
 のーたんお願い。
「まかせるのじゃー」
 次の瞬間、視界に映るもの全てが氷ついた。寒いかと思ったけどそうでもない。これものーたんのおかげか。
「そうじゃな」
 ありがと。
「どういたしましてなのじゃ」
「なんだこれはっ、何が起こった。魔物が全て凍っている」
「ありえない、そして寒い」
 あっ、二人には何もしてあげないんだ。
「死なない程度にはしておるぞ」
 なるほど、流石のーたん。
「じゃろ」
 二人共驚いてあたりを見回している。今起きている現象に理解が追いついていないようだ。それはそうだよな。魔物と戦って押されていると思ったら、全部凍ってしまうなんてどういう事となるだろう。
 素材が欲しいからばらばらにするわけにはいかないよな。
「心配するでない。すでに回収しながら倒しておる。ほれ、腕を上げて魔法を放ってる感じにした方が良いのではないかの」
 確かに。腕をあげる。すると魔法が炸裂して魔物がどんどん倒れていった。なかなか綺麗な光景だ。のーたんの魔法は洗練されていて美しい。
「今日は褒める日なのじゃな」
 いつも褒めてるよ。
「そうかの」
 うん。そんなに美味しくない素材は二人にあげようか。
「主は優しいの」
 のーたんに全部やってもらってるのにいいのかな。
「主がそれで良いなら我は何も言うまい」
 ありがと。
「恩を売っておくのも悪くないじゃろ」
 のーたん。
「ん、どうかしたかの」
 ううん、何でもないよ。
「ふむ」
 敵を殲滅した後、戦利品を分配する。
「わしは生きているのか」
「ほんとです。何が起こったのか全然わからなくて。あんな凄い魔法が存在するなんて。初めて見ました」
 二人ともオロオロしている。のーたんの凄さはやっぱりこういう事で再確認できて楽しいね。
「それは良かったのじゃ」
「あの、これ少ないですけど魔物の素材です」
 さてと二人に素材をあげて帰るとしよう。
「良いのか」
「あなたは神ですか」
 二人の視線が集まる。何だか恥ずかしいぞ。そんな目で見られると。
「我に対する視線じゃぞ」
 もちろんわかってるよ。
「なら良い」
「もちろんです。もらってください」
 と盾の人に伝え、
「そんな事あるわけないじゃないですか」
 と剣の人に伝えた。
 合流地点に戻ると冒険者達が撤退の準備をしていた。こちらの姿を確認すると幽霊を見たかのような表情で固まっている。
「どうしたんですか」
「お前たち生きていたのか」
「ぁっ、はい」
「あんなのと戦って生き延びるなんて」
「どうやって逃げて来たんだ」
「早く街に帰って報告と応援を」
「えっ、倒しましたよ」
「えっ」
「冗談だろっ、こんな時に冗談言ってる場合じゃないぞっ」
 何をそんなに慌てているのだろう。
「ほんとだ、わしが見ていた」
 ざわざわと動揺が広がる。やっぱり盾の人は有名人みたいだ。
「私も見ました、彼の神に等しい魔法を」
 そこまでのレベルなのか。大袈裟過ぎないか。みんなの視線がこちらに集まる。
「そんな大した事してないですよ」
「あ、あれが大した事ないだと、全てが氷り、次の瞬間には全ての敵が消滅していたというのに、大した事ないだとっ」
「やはりあなたは神か」
 面白いくらい驚いている。のーたん凄いねぇ。
「じゃろ」
 のーたんと二人きりで過ごすとやはり価値観が麻痺するな。
「別に良いのではないか」
 確かに困るわけじゃないもんね。こうしてたまに、みんながのーたん凄いって言うの聞いてて楽しいし。
 それから同じような問答を繰り返しながら街へと帰った。みんな興奮状態で見ていて面白かった。今回の討伐でランクはBに上がった。それでも盾の人より下か。別にいいんだけど。ギルドの人は自分の目で見ていないから何をそんなに大袈裟にと思ったのかもしれない。
 のーたん、ありがとう感謝してるよ。
「そんなに褒めても何も出んぞ」
 いや、別に何かが欲しくて言っているわけじゃないよ。
「主はそうであろうな」

-ギルドの受付にて-

「ランクが上がると何かいい事あるんですかね」
 ふとランクを上げるメリットが気になり受付嬢に聞いてみる事にした。
「それはですね」
「はい」
「様々な特典があります」
「なるほど」
「例えばランク専用のアイテムとか買えます」
「みんなに売らないんですか」
「使い方次第では危険性がありますので、高ランクの人だけ使う事ができるのです」
「なるほど、ほかには」
「様々なお店で割引を受けられます」
「なるほど、ほかには」
「えっと、難しい依頼を受けられます」
「それって特典なんだろうか」
「あんまりじゃの」
「そうだよね」
 頑張ってランク上げる必要ないかも。
「じゃな」
「ありがとうございました」
「はい、またのお越しをお待ちしています」

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