---談笑---

 洞窟を離れ大きな木の下へと移動した。空洞になっていて雨を凌げそうだ。
「ここならゆっくり休めそうじゃの」
 しばらくここで休憩して大丈夫。
「そうじゃな。空気も澄んでおるし、水分も補給したし、しばらくは命を繋ぐことができるじゃろう」
 その言い方だとまだ何かありそうで怖いんだけど。
「人間の寿命は我にとってはほんの一瞬じゃからな」
 自分の人生が誤差みたいな言い方。
「間違ってはおらん」
 それはそれでなんだか悲しいな。
「我がおる間は、そう簡単に死なんから安心せい」
 指輪を見るとキラリと輝く。すると自分の体が淡く発光し、力が湧いてくる。不思議な気分だ。ただこの影響を受け続けたら精神を乗っ取られたりするんじゃないだろうか。
「ふふっ、そんなやばい代物ではないから安心せい」
 そうなの。
「操り人形にするのは簡単じゃが、それではつまらんじゃろう」
 確かに。話し相手が欲しいみたいだもんね。
「そうじゃな。ずっと一人はつまらんからの」
 少し眠ってもいいかな。疲れちゃって。
「あれだけ動いて喋ったらそれは疲れもするじゃろう」
 そうそう、ずっと喋ってたからね。
「見張りは我に任せて、安心して休むと良い」
 なんだか格好良いね。
「なんだかではなく実際に格好良いのじゃ」
 さすが。
「そうじゃ、もっと褒め称えるのじゃ」
 それじゃあ、おやすみ。
「もっと褒めてくれても良いのじゃよ」
 駄々っ子かよ。
「我は全能。何にでもなれるのじゃ」
 その属性はいるかな。
「お主にはその需要があると思ったのじゃが」
 確かに可愛い女の子とかだったらあるかもだけど。
「なにっ、お主ロリコンじゃったのか」
 いや一般的にってことだよ。
「それじゃあ、お主は違うと」
 それはよくわかんないよ。ただ駄々っ子属性の指輪ってどうよ。
「確かにそれは需要がないかもしれんの」
 でしょ。これで可愛い少女になって添い寝してくれるとかだったら考えるけど。
「やっぱりロリコンではないかっ」
 ちがっ。可愛い女性ね。
「遂に素性を表したかっ、ロリコンめっ」
 なんで敵みたいになってるの。仲良くしよーよ。
「確かに小さい女の子は可愛いものじゃからの」
 そうだよ。少女だけじゃなくて少年というか子供可愛いでしょ。
「確かに人間の子供はなんだか見ていてほんわかするの」
 でしょ。子は宝なんだよ。
「じゃが、子供はおらんのじゃろ」
 相手が見つからなくて。
「それは見つける努力をしなかったのじゃろ」
 それも一理あるかもしれない。
「いや、全てじゃな」
 そんなことわかるの。
「話せば相手がどんな人間なのかわかるのじゃ」
 で、なんの話をしてたんだっけ。
「お主の結婚相手がいないという話じゃ」
 そうだった。でももう指輪つけちゃったし。
「そうじゃった。我、お主と結婚したんじゃった」
 これってつけるだけで結婚したことになるの。
「当たり前ではないか。そんなことも知らなんだ」
 うん。知らなかった。それじゃあ末長くよろしくお願いします。
「うむ。こちらこそよろしくお願いしますのじゃ」
 こうして指輪との結婚生活がスタートしたのだった。
 -おしまい-
「だから勝手に終わらせるでないっ」
 ええっ、まだ続くの。
「そうじゃ、これから我と二人で世界を見て回ると言ったではないか」
 あっ、そうだった。よく覚えてるね。
「いやいや、さっき言ったばかりじゃて」
 そうだっけ。
「我はお主の脳みそが心配じゃよ」
 どうして。
「そのうちあなた誰でしたっけとか言いそうじゃし」
 さすがにのーたんを忘れたりはしないと思うけど。
「久しぶりの、のーたんっ」
 名前気に入ってるじゃん。
「語呂が良いからの」
 お気に入りだね。
「そうじゃ、お気に入りじゃ。悪いかの」
 悪くないよ。そろそろ眠ってもいいかな。
「えーこのタイミングで寝るのかの、我を一人残して」
 だってさっき寝ようかなって言ったの覚えてる。
「確かにそんなこと言っておったな」
 でしょ。それからどのくらい話したと思ってるの。
「我とのお喋りがつまらないと申すか」
 いや、そんなことはないけど。
「それだったらもっとお話しするのじゃー」
 可愛く言ってくるー。まぁ、別にいいけど。
「やったぁ」
 急に子供みたいにはしゃぐんだね。
「のーたん子供バージョンじゃ」
 のーたん自分で言い出しちゃったよ。
「ダメかの」
 ダメじゃないよ。
「うむ」
 それでどんなお話をしたいの。
「なんでも良いのじゃ」
 それはなかなか難しいってわかって言ってるのかな。
「どうじゃろな」
 俺を試しているのか。ここでどんな話題を選ぶかで性格を推し量る的な。
「そんなことせずともお主のことはわかっておるから安心せい」
 そうだった。全部お見通しか。
「そうじゃ。お見通しなのじゃ」
 ちょっと待って。それじゃあ会話する意味ないじゃん。
「ん」
 なんて答えるか全部わかってるってこと。わかってて会話を続けてるってこと。
「そういうわけではないの」
 どういうことだってばよ。
「人間には不確定要素がたくさんあっての」
 つまり。
「例えば人間は感情に任せて人を殺したりするじゃろ」
 まぁ、そういうこともあるかもね。
「それを抑えることもできる人間もいるじゃろ」
 そうだね。
「殺すパターンと殺さないパターン何が違うと思う」
 さぁ、状況によって変わるんじゃない。
「つまりはそういう事じゃ」
 いろんなことが積み重なって未来が変わるってこと。
「そうじゃ、人間は思考する」
 そうだね。人間は考えることができるもんね。
「考えることによって自分の未来を変えることができるのじゃ」
 ほうほう。未来を自分の望み通りにするにはどうすればいいか考えて行動すれば、その通りになるって事かな。
「程度にはよるが間違ってはおらん」
 明日女になるとかも。
「いやそれは無理じゃな」
 のーたんでも。
「我にかかれば無理ではないが、人間単体では無理という事じゃ」
 なるほど。なんの話をしててこうなったんだっけ。
「お主に結婚相手がいないじゃな」
 ああー、確かにそんな話してたね。それでのーたんがいるからって話になって。
「そうじゃな」
 ちょっと休憩する。
「いやしない」
 まじで、疲れないの。
「お主とはフィーリングが合ってる気がしての」
 疲れないと。
「そうじゃな」
 それは凄いや。自分は少し疲れて眠くなってきたよ。
「お主は人間じゃからの」
 そうなんだよ。人間は寝ないといけないんだよ。
「不便じゃの」
 確かに寝なくていいんだったら寝ないんだけど。
「じゃが必要なんじゃろ」
 寝てる間に細胞を作り替えたり、思考を整理したりするらしいからね。
「そんな機能があるのじゃな」
 もちろん知ってたんだよね。話し合わせてくれたんだよね。
「も、もちろんじゃ」
 さっすがぁ、のーたんは凄いなぁ。
「じゃ、じゃろ」
 まぶた重たくなってきた。
「ダメじゃ、今寝たら死ぬ」
 えっ、本当に。
「いや、嘘じゃ」
 そうなの。
「そうじゃ、まだ眠って欲しくないから駄々こねてるだけじゃ」
 ここでまさかの駄々っ子アピール。ごめん、眠いわ。
「しょうがないのぉ、寝ることを許そう」
 わーい。

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