腕に何かが触れた。見てみるとそこには小さな謎の物体が。なんと形容すればいいのだろうか。今までに見たことのない形状だ。
「見えておるではないか」
 本当にこれでいいの。
「そうじゃ」
 魔物じゃないんだよね。
「我を魔物のような下等生物と一緒にするでないっ」
 そうなんだ。でもその見た目で何ができるの。下手したら自分より役に立たなそうなんだけど。
「我にできぬことはない。お主より役に立たぬとは言いたい放題じゃな」
 だってこの見た目だし。
 指先でツンツンしてみる。ふよふよした感触が伝わってきた。
「ツンツンするでないっ。先ほど魔物を倒してやったことを忘れておるのではないのかの」
 確かに、さっき魔法使ったんだよね。
「あんなのは力を使ううちに入らんぞ」
 あのレベルで使ったうちに入らないのか。実は相当すごい魔法使いで、魔法を極めてしまったが故に人外に。
「だから人間ではないと言っておるのに」
 そうだっけ。
「うむ、我は魔物でも人間でもないぞ」
 それじゃあなんなの。
「人間の言葉で我を定義することはできまい」
 確かに神とか天使、悪魔といった感じでもないし。
「そうじゃろそうじゃろ」
 なんで得意げなの。
「さっきまで言いたい放題じゃったからの」
 ごめん。
「別に気にしてないのじゃ」
 それでこれからどうするの。
「我に聞かれても特に」
 とりあえず自分の代わりに戦ってくれるんだよね。
「それは、別に構わないのじゃ」
 どのくらい強いの。
「我に倒せぬものはこの世に存在せんと思うが」
 それじゃあ、ここから出るのも簡単だね。
「そうじゃな」
 良かった。それならなんでこんなところにいるの。
「居心地が良いのじゃ。それに一人で世界を見て回るのも飽きたからの」
 旅してたんだ。
「そうじゃ」
 それでいろんなやつと戦ったの。
「うむ、世界には強いやつと戦いたいと言う謎な生き物がたくさんおるからの」
 強さ隠せないんだ。
「強いやつは我の強さを見抜いてくるからの」
 それじゃあ、やっぱりあまり強くはないんじゃ。
「いや、別に隠す能力と強さは関係ないじゃろ」
 そうかな。
「そうじゃ、敵を倒すのに力以外何がいるのじゃ」
 これはあれか。脳筋なのか。
「我を馬鹿にしておるのか。我は脳筋ではない。先ほど魔法を見せたではないかっ」
 確かに。魔法を使える脳筋か。
「いやいやっ、ちゃんと頭も使うしっ」
 力も強いの。
「それはそうじゃ。我に力比べで勝てるやつはこの世におらんじゃろう」
 さっき似たようなセリフ聞いたんだけど。
「ただの事実じゃ」
 でもその見た目で力が強いと言われてもあんまり信用できないんだけど。
「これは仮の姿じゃ」
 そうなんだ。それじゃあ本当はどんな姿をしているの。
「それは秘密じゃ」
 えー、教えてくれないの。
「仲良くなったら教えても良いがの」
 そんな。もうすごく仲良くなったと思っていたのに。
「いつの間に我と仲良くなった気でいたのじゃ」
 あんなことやこんなことを話した仲じゃない。
「今日知り合ったばかりで大したことは話していないはずじゃが」
 さっき話したことが大したことじゃないだって。
「それとも人間のお主にはとても充実した内容じゃったか。悪いことを言ったの」
 いや別にそんなに大したことではなかったかもね。
「お主、やはり我を馬鹿にしておるな」
 そんなことはないよ。思ったことを口にしてるだけだよ。
「良い性格しておるの」
 褒めてくれてありがとう。
「褒めておらんからのっ」
 そうなの。
「お主は人間の中でもかなり変わっておるじゃろ」
 わかんない。あんまり他人と関わって生きてこなかったから。
「そうじゃろうな。その性格で他人と仲良くできるとは思わんわい」
 わかってるじゃん。それなのにこんなに楽しくお喋りできるなんて凄いとは思わないの。
「この会話で仲が良いと感じられるのならやはりお主、只者ではないな」
 やっぱり褒めてくれてるんじゃない。
「もうそれで良いわ。それでいつまでここでおしゃべりしているつもりなんじゃ」
 自分と話すのもう飽きちゃったのかな。
「我も意外と苦ではないが。このままここにおってはお主死ぬぞ」
 何それ怖い。何か危険なものが近づいてきたり。
「ここの空気は人間には有毒で、長時間いると細胞が崩壊して死ぬぞ」
 そんな危険にさらされていたなんて。でも今は特に苦しくはないんだけど。
「それは我がお主の周りの空気を浄化しておるからじゃ」
 そうなんだ。ありがとう。それじゃあそのまま空気清浄機と化してくれれば、このままずっとおしゃべりできるんだね。
「それが空気を浄化するための力が残り少なくなってきておる」
 それはまずい。どうやったら回復するの。
「ここでは無理じゃな」
 この場所から脱出すればできるようになるものなのかな。
「わからん。ここに長くいすぎて記憶が曖昧でな」
 ここにきてまさかのポンコツアピール。記憶ないって一緒だね。
「我はポンコツではない。むしろ全能じゃ。お主と一緒にするでないっ」
 それなのに回復できないんだ。
「一時的なものじゃ。我が完全体になればお主は無敵じゃぞ」
 それって寿命も超越するってこと。
「お主が望めばじゃが」
 すごい。
「ただ寿命がなくなった人間の末路は悲惨なものじゃぞ」
 過去に色々見てきたんだね。
「伊達に長くは生きておらんからの」
 それじゃあ不死の話はひとまず置いといて、ここから脱出することを考えようか。
「考えているうちに死んでも知らんぞ」
 それじゃあ進みながら考えよう。でもそのままの姿で行くの。
「不服か」
 いや美的センスに欠けると思って。それに何だか弱そうだし。
「本当に失礼なやつじゃの」
 武器とかになってくれれば良いんじゃないかな。
「お主に扱えるはずなかろう」
 でも俺戦えないよ。
「それなら防具とかでよかろう」
 代わりに戦ってくれるの。
「それはそうじゃ。お主弱そうじゃからの」
 代わりに命を頂戴とか言わないでよ。
「先ほども言ったがそんなもの今更いらんわい」
 その言い方、昔は欲しかったんだ。
「昔の話じゃな」
 一体何年くらい生きているの。
「そんなの気にしたことないわい」
 それもそうか。数える必要もないか。
「そうじゃな」
 防具だとどんなのが良いかな。ごついのかな。それともシンプルなやつかな。
「指輪とかで良いじゃろ」
 そういうとモヤモヤした不思議な生き物が手の方へと移動し、形を変え指輪になった。左手の薬指にフィットしている。
「どうじゃ、これでお主は我のものじゃ」
 そこっ。
「お主、この意味がわかるのか」
 それって結婚指輪の場所なんじゃ。
「そうじゃな」
 いつの間にそんな関係に。
「さっき我と仲良くなって嬉しいと言っておったではないか」
 確かに言ったけども。
「そんなつもりじゃなかったと、我とは遊びだったのか、悲しい」
 いや別に嫌ってわけじゃないんだけど。
「それなら良いではないか。お主は我が守ってやる。一生な」
 本当に。それだったら。
「任せるのじゃ」
 こうして謎の生物と出会ったのだった。

-おしまい-

「勝手に終わらせるでないっ」
 んっ。
「なぜそんなに驚く。これから楽しい冒険が待っておるではないか」
 そうなんだ。これから一緒に冒険するつもりだったんだ。
「えっ、しないの」
 そんな悲しそうな声を出してどうしたの。
「い、いや」
 別にいいけど、さっき一人で世界を旅してたって言ってたじゃん。
「うむ」
 だからもう旅はこりごりなのかなって。
「それは一人だったからじゃ」
 自分と一緒だったら旅したいと思えるってこと。
「そうじゃな。お主には不思議な魅力があるのじゃ」
 そうなんだ。具体的に言ってみてよ。
「ぐぬぬ」
 うん。
「うまく言葉にはできんの」
 全能なのに。
「なんというのかの。言うのが恥ずかしいのじゃ」
 恥ずかしがり屋かよっ。
「うむ。そうかもしれん」
 需要あるのかな。
「えっ、ないの」
 いや、少なくとも俺にはあるな。
「それなら良いのじゃ」
 俺に好かれると何かいいことあるの。
「それは秘密にしておいたほうがよかろう」
 そうなんだ。
「うむ」
 まぁ、別にいいけど。
「聞いてこんのかいっ」
 聞いて欲しかったの。
「まぁ、正直どっちでもいい感はあるのじゃ」
 ふーん。
「両思いになれるなんて、これほど幸せな事はあるまい」
 ボソボソと何か聞こえた。
 何か言ったかな。
「何でもないのじゃ」

---next---